地獄に続く洞窟
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■ショートシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月02日〜03月07日
リプレイ公開日:2006年03月10日
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●オープニング
そこには、洞窟があった。
村の裏山。木々が生い茂るそこに、洞窟はあった。
洞窟には鳥居が立てられ、神社として祭られていた。洞窟の奥には小さな祠があり、かつてはそこで祭や神事が行われていた。
村人達は親しみを込め、「洞穴様」とそこを呼んだ。
やがて、村の方に神社が建てられ、こちらの洞窟は次第に忘れられつつあった。道が狭く、上り坂は年寄りにはきつく、辿り着くまでが少々骨であった。
そして、村のほとんどの祭りごとは村の神社にて行われ、洞穴様は忘れらされていった。
さて、近年。
村の猟師や山菜取り、芝刈りの老人などは、注意を払いつつ山へと入っていた。なんでもここ最近、数匹の野犬が棲み付いたとのもっぱらの噂だったのだ。実際、麓で遊んでいた村の子供が、野犬に襲われかけた事件も起こっていた。
その様な状況で、弓を携えた猟師は久々の獲物である猪を追っていた。
矢を数本受けた猪は、洞穴様の中へと逃げ込んでいた。
あの中は行き止まり。追い詰め、とどめをさしてやろう。猟師はそう考えて、即席の松明を作り中へと入っていった。
果たして、猪は追い詰められていた。猪は矢傷のせいで、瀕死の状態に陥っていた。
猟師は用心のために矢を射かけ、さらに近付き、山刀で止めをさした。
「これで、おっかあと子供たちに飯を食わせてやれるぞ」
安堵した猟師だが、ふと彼は残された祠へと目をやった。
祠には、何もない。が、祠の後ろの崩れたところに、なにか穴が開いているのが見えたのだ。穴へと松明をやると、それはかなり深そうであった。
猪を持ち帰った猟師は、村長にこの話をした。そして、村の若者数人を連れて、後日に改めて調べる事となった。
当日。村人たちの手によって、洞窟の奥には空間がある事がわかった。どうやら昔、その場所が埋もれてしまいふさがったのだろうと。そしてそこに祠を作り、神殿として祭った、というわけだ。
それを聞きつけた、江戸の学者。
おそらく、古代に作られた神殿か遺跡の類だろう。そう確信した彼は、弟子を数人と雑用を数人、用心棒を引き連れて村へと来た。
案内役の村人に連れられ、学者達は洞窟の奥へと進んでいった。
そして、その日の夕刻。
ひどく血みどろになった学者がひとり、村へと戻ってきた。
「あの中には‥‥恐ろしい、恐ろしい者たちが‥‥刀が折れた‥‥鉄の塊で、殴ってやらないと‥‥でないと、あいつらには‥‥」
錯乱しているのか、瀕死の状態で学者はつぶやいていた。
「いったい何があったんです? そのお怪我は、洞窟にいた何かに襲われたんですか?」
村人の一人が尋ねるが、学者はかぶりをふった。
「違う‥‥これは、逃げる時に野犬に‥‥‥‥あいつら、放っておくと危険‥‥危険だ‥‥‥‥」
そこまで言うと、学者は事切れた。
「‥‥と、こういうわけなんです」
村長の地蔵河原権蔵は、ギルドにて恐ろしげな口調で事情を口にしていた。
「今、村の皆は恐ろしがって誰も山に入り込もうともしてないです。わしも、子供の頃に洞穴様にお参りに行きましたが、まさかそんなものがあったとは聞いた事がありませんでした。野犬もそうですが、洞穴様の中にある何かが恐ろしいものだというのは、わしにもわかります。おそらく、学者先生や他の皆さんはそれを見たのでしょう」
では、それは何か。
「いえ、それが分からないのです。神社の神主さんも兼ねているお医者が、学者先生の身体を診たのですが。それによると、確かに胸や首の傷は、犬の咬み傷でした。が、頭に石か何かで殴られた傷があったそうで。慌てて逃げるとき、転んで頭を石にぶつけたかしたのだろうとも思うのですが‥‥」
しかし、その傷はかなり大きい。まるで、誰かに石の塊を持って、殴られたかのように。
「死ぬ原因になった傷は、野犬の咬み傷である事はまちがいありません。おそらく学者先生は、洞穴様の奥で何かを見て、大慌てで逃げ出し、そして野犬に鉢合わせてしまったのでしょう。問題は、逃げ出すほどの何かです。
冒険者様の皆様方に、洞穴様の奥にあった何か。恐ろしい何かを退治してもらえぬかと思い、こうやってお願いに来た次第です」
今、洞穴はどうなっているか? その質問に、村長は答えた。
「いえ、それが分からないのです。みな、『学者先生様を殺したほどの野犬が、洞穴様の近くに出ている』と怖がり、誰も山に近付こうともしないのです」
村長からの依頼は、二つの恐ろしい怪物を退治して欲しい、という事だ。数匹の野犬と、洞穴の中の遺跡に潜む、謎の存在とを。
「野犬の方は、おそらく簡単に誘き出せるでしょう。あやつらは集団では襲ってきませんが、2〜3人で山道を歩いていたら、絶好の獲物とばかりに必ず襲ってくるそうですし。ですが、洞穴様の中の怪物は、どういうものかはわかりません。学者先生が最後に『あいつら』と言ってましたから、こちらも一匹以上はいるでしょうが。
こいつらを、退治してもらえぬものでしょうか? よろしくお願いします」
●リプレイ本文
「洞穴様は、元は墓だったと?」
老人の言葉を聞き、夜久野鈴音(eb2573)は自分の耳を疑った。神社で洞穴を奉ることは少なくはない。が、元は墓だったというのは聞いた事が無かった。
老人は、村長の祖父であり、村外れの屋敷にて生活していた。医師である彼はこの村に伝わる伝説や伝承、昔話などには詳しく、それらの資料も豊富にそろえていた。
「ええ。学者先生がたにもお教えしましたが、あすこは昔、このあたりを治めていた領主のお墓だったそうです。民を守ってはくれましたが、乱暴で残酷な長でして、ある時謀殺されました。その亡骸が、あそこには納められているそうです」
「成る程ね〜。で、昔の領主が化けて出ないように、守り神と崇めていたと」
老人の言葉を聞きつつ、室川風太(eb3283)は相槌をうった。
「つまり‥‥洞穴の奥に遺体を納め、洞穴の入り口を塞ぎ、そして祭壇を作り神殿とした。で、それがそのまま忘れられ、猟師がイノシシ追ってて見つけた‥‥と言う事か」と、稲神恵太郎(eb3866)。
「そうです。ですが、この伝承も正確なのかどうかわかりません。ここを昔治めた領主というのも、実在したのかすら分からないですから。見ての通り、手持ちの文献には当時の領主の名前など記されてませんし」
老人は巻物や文献を広げて見せた。見たところ、確かに名前は記されていない。
「宝物をかくすための、偽装なのかもしれないですね。あるいは、領主がとんでもない怪物で、それを封印していた‥‥って事も考えられるかも」
「もしくは、領主の遺体を守るために、使い魔のたぐいを墓守に置いていた‥‥って事も考えられるな」
夜久野と稲神が見解を述べるも、それは現状においての推測にしかなかった。
同じ頃、山の中腹では畜生と冒険者達との戦いが行われていた。
野犬を誘き出した者たちが、その獣達に対して攻撃を繰り出していたのだ。
クリステル・シャルダン(eb3862)が場所を選び、群雲龍之介(ea0988)が仕掛けた罠に、野犬は見事に引っかかった。
そこに、ケント・ローレル(eb3501)と音無鬼灯(eb3757)がでてきて、武器で殴りつける。
単純ではあるが堅実なその行動と攻撃に、野犬は不意をつかれ、そして確実にダメージをもらっていた。その体中には傷痕が走るのを、ヴァルトルート・ドール(eb3891)は見逃さなかった。
傷だらけの、さながらほとんど怪物めいた野犬の動きが徐々に鈍くなっていく。群雲の六角棒、ケントのクルスソード、音無の金棒の重い一撃が放たれる。
「噛み付くのは金棒で充分だ、吹っ飛びな」
音無の、ジャイアント族の女傑の金棒が振るわれ、犬たちは引導を渡された。
「へっ! あっけないじゃあねえか! 所詮は犬コロ、俺たちの敵じゃあねえぜ!」
最後の野犬を倒し、ケントは神聖騎士らしかぬ事を得意げに言った。
「いいえ、ケントさん。これはまだ前哨戦。私たちの本当の敵は、洞窟の中の存在です。それを忘れてはいけませんよ」
「ああ、お前のその勢い。もうちょっと取っといてくれ」
クリステルと群雲の言葉に、さらに得意げになったケントは豪快に請合った。
「万事この俺にまかせろ! ドーケツだかドーナツだかの中にいるモンスターも、この俺が同様にボコってギトギトにしてやるぜ!」
かくして一行は、十分に武装を整えて洞穴様への潜入を開始した。
洞窟内部は不気味な静寂に彩られ、墓場と呼ばれてもおかしくないような場所。さすがにケントも、その口数を減らさざるを得なかった。彼は今、クルスソードを槌へと持ち替えていた。
クリステルが、全員に「グッドラック」をかけている。これで不意打ちを喰らっても、幸運が味方してくれるだろう。そして「ホーリーライト」の呪文も同時に唱え、彼女は闇の中の視界も確保した。
ヴァルトルートは、クリステルから借りたロザリオを握り締めた。相手が命無き存在だとしたら、これが自分に勇気とチャンスを与えてくれるはず。
手の灯りが、周囲の暗黒を切り開いていった。
洞窟内部は、結構な広さをもっている。偶然にも、灯りをかざしても影ができて、何かが潜んでいたとしてもすぐには分からないような構造になっていたのだ。
全員が、武器を携えるか、呪文を心得ていた。夜久野は錫杖を、稲神は武器を槌に持ち替えている。室川とヴァルトルート、クリステルは素手だが、素手であっても三人は呪文を心得ていた。
「‥‥! 今、何か踏みました!」
ふいに、ヴァルトルートは歩みを止めた。足に、何かの嫌な感触が伝わってきたのだ。
「‥‥遺体だ。見てみろよ、まだ新しいぜ」
室川が指摘したように、それは遺体だった。まだ新しく、頭を砕かれている。件の、遺跡調査の連中、ないしはその一人に間違い無さそうだ。
そして、遺体の後ろの方には、また別の通路が伸びていた。見落としそうな場所に新たな影があり、そこに新たな下り階段が伸びている。
「おそらく、一撃を喰らったものの、何とかここまでは逃げてきたんだろうね。で、ここで力尽きてしまったんだろうな」
音無の言葉を聞いて、クリステルは思わず祈った。
下り階段を下ると、そこは広い円形の部屋。中央には石棺が納められ、その周りには十数人分の遺体が、まるでぶちまけたかのように、散らばった様子で倒れている。
「神よ!」
思わず叫んだクリステルは、手近の一人に駆け寄った。やはり死んでいる。死因はやはり、撲殺だ。血が固まっている傷口を見て、その容疑は確信へとかわった。
「!‥‥みなさん、用心して!」
ヴァルトルートが、周囲へと視線を向けた。そしてその先には、この状況を作り出したそもそもの元凶が、闇の中から徐々に姿を現しつつあった。
「なっ、なんだ、こいつら!」
室川が、思わず叫ぶ。それらは巨大な人型、人の形を模した、命無き石の塊だった。
ジャパンの古代戦士のそれを模倣している事から、まず間違いだろう。ヴァルトルートは、自分のあてずっぽうな推測が、的を射ていた事にその時気づいた。
「埴輪!」
乾いた血痕が、拳にこびりついている。それは侵入者に対して、今一度それを振るい、撲殺しようと迫ってきた。
「きやがれ!」
ケントの声とともに、武器を携えた冒険者たちは埴輪へと突撃した。
群雲の鉄製六角棒、ケントと稲神の槌、音無の金棒が、埴輪へと向かう。埴輪は、両手の拳でそれを迎え撃った。
「犬コロ同様、石コロも叩き潰してやるぜ!」
重い槌を振り回し、ケントは一体の埴輪を一撃でぶち割った。
「はーっ!」
音無の金棒も、埴輪の頭部を捕える。頭を砕かれた埴輪は崩れ落ち、ただの石塊と化した。
群雲が六角棒を縦に凪ぎ、横に払うと、石の拳がそれを受け止め、叩き潰そうとせまる。
が、群雲を叩き潰す寸前、稲神の槌によって埴輪の一体は粉々に砕かれた。
しかし、それを見て戦略を変えたのか、またはただ効率をよくしようと想っただけなのか。埴輪は二体がかりでつかみかかった。ケントに組み付き、槌につかみかかる。
「のわっ! 畜生、てめえら、ただで済むと思うな!」
音無の金棒が一体を破壊するが、それでもおっつかない。
「わが言葉、枷となりて其を縛れ!『コアギュレイト』!」
音無の後ろから、両拳を合わせて振りかぶっていた埴輪に対し、クリステルが呪文を唱えた。
「クリステル、すまない!」
途端に、彫像よろしくその場に固まる埴輪の一体。仲間が稼いでくれた時間を用い、音無はケントに組み付いた一体を叩き割った。
「ありがとよ! これで埴輪の糞を見なくて済むぜ。オラっ!」
もう一体から身体をもぎ放し、ケントは槌を振り下ろした。
「滅びの力よ、その力を解き放て! 『ディストロイ』!」
室川が、背後から迫っていた埴輪へと呪文を唱え、放つ。呪文は効果を発し、埴輪はばらばらになった。
「これで、終わりだ!」
最後に残った埴輪へ、群雲は六角棒の一撃を放った。
「調べてみたけど、どうやらここは言われていたように墓場だったようだね。天然の洞窟に手を加えたもので、奥の方に遺体を安置し、そこに墓守として、埴輪を置いておいたんだろう」
室川が、村人達に事後報告をしていた。
埴輪を全て倒した後、冒険者達は内部を捜索した。が、値打ちものらしきものは見当たらず、危険と思われるものも見つからなかった。
唯一、白骨化した遺体‥‥おそらくは、件の領主のもの‥‥が石棺の中に見つかったが、それだけだった。
「調査に来た人たちは、埴輪の襲撃を受けた。そして、それをなんとか逃れ、助けを求めた先生は、外に出たものの、野犬に止めをさされた‥‥って事だね」
「ですが、埴輪は全て倒しました。あの洞窟には、何も危険なものはありません。少なくとも、我々が調べた限りではね」
室川の言葉に、夜久野が付け加えた。
「‥‥主よ、かの者たちに安らかなる眠りを」
遺体を運び出し、安置した場所で。クリステルは犠牲者たちの遺体に対し、祈りを捧げていた。
その後、洞穴様は丁重に地鎮祭が行われ、閉鎖された。遺跡の中に安置されていた白骨は、村の神社で保管されている。
今はもう、洞穴様に近付く者は誰一人としていない。