鬼の小判

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月18日〜03月23日

リプレイ公開日:2006年03月24日

●オープニング

『鬼の大将、お宝奪い、小判をいっぱい手に入れた。
 けれども鬼には、息子が六人、こいつら分け前欲しがった。
 大将困った、けれども妙案、こうすりゃ文句もないだろう。

 上から五番の息子にゃ五枚、下から四番の息子にゃ九枚。
 一番上の息子にゃもっと、十と三枚小判をやった。
 残りの息子にゃ、何枚やった? 全部で小判は、何枚やった?
 全部の小判の枚数足して、出てきた数を、言ってみな』


「これが、『鬼の小判』ってもんです。うちの親戚が残した、実にくだらない謎かけでして‥‥」
 その若い女性は、ため息交じりにつぶやいた。
「でも、ま、この謎かけが私たちを救う手がかりになるかもしれないんです。ってわけで、皆さんに協力してもらえませんかね?」

 彼女の名前は、裏辻淑乃。裏辻屋という、よろず品物を扱う店の女主人。
 主人の裏辻一次郎は、戯作者を目指し、店を放置し創作へ。金にもならない、愚かなことに、打ち込んだという愚か者。しかし愚かは愚かでも、書いて貯めたる作品は、心が躍る夢物語。悪くはないが良くもなく、売れるものとは言えない代物。
 しかしそれでもこの甲斐性なし、両親の意向を全く汲まない。創作こそがわが命と、有り余る金を無駄に使う。
貧乏生活なんのその、「いい参考」とばかりに貧乏暮らし。飢え死に寸前凍死寸前、死にかけたことも数多あり。
 なもんだから、この両親。ほとほと困り果てた頃、いい縁談をと、紹介される。
 その女性、中堅どころの宿屋に生まれ、しっかり者の次女として、姉に劣らぬ商才を持つ、まさに商店の救い主。
 見合いは当初、うまくはいかず、喧嘩別れに終わると思えば、これが中々似合いの夫婦に。夫は執筆、嫁は店、かわいい子宝恵まれて、店も家族も軌道に乗りて、順風満風、めでたしめでたし‥‥。

 いやいやそれで、終わりません。そうは問屋が卸さない。それほど甘い結末は、まだまだ用意はされません。
 一次郎が叔父、裏辻狂三郎(螢三郎が本名だが、誰もそう呼ばない)。奇人変人でちょっとは有名な彼の男、独身で山奥に屋敷を構え、そこで悠々自適の生活を。
 根は良い男だが、この狂三郎。奇書や怪書を事の他好み、集めた数は蔵いっぱい(いや、既に二つ目の蔵もいっぱいだ)。そも一次郎が物書きを目指す原因は、この男の蔵書を目にした事から。
 皮肉な結果はここから始まる。なんともはや、叔父は死に、その遺産は一次郎へと。
 しかし一番のお宝は、件の謎かけ「鬼の小判」。
 その謎解けば、お宝見つかる。謎が解けずば、そのままに。

 さてさてここで、困ったことに。
 奇書や怪書は非常に高価。困った叔父は、借金こさえ、気付けばそれは、青天井。
 お金を貸した、その相手。一つの条件、出しました。
「聞くところによりゃ、『鬼の小判』。かなりの値打ちがあると聞く。そいつを俺に、差出しな。そうすりゃ借金、帳消しだ」

「‥‥とまあ、そういうわけでして」
 淑乃はため息混じりに、事情を説明した。
「つまりは、借金帳消しにするには、『鬼の小判』の謎かけを解いて、隠されたお宝をよこせというわけです。それと、蔵の奇書・怪書のたぐい全て。ええ、こちらとしてはあんなヘンな本が無くなるため、願ったりかなったりなんですけどね。
 でも、もしも『鬼の小判』の謎かけが解けないのなら、うちの店は借金取りに全て取られてしまうんです」
 つまり、最初に提示された謎を解ければ、解決するという事だ。
「『鬼の小判』は、叔父様が所有していた山の、荒れ寺‥‥ないしはその石段に隠されてるそうです。あそこには1000段ある石段があって、その階段の何段目かに隠してるとか。で、『鬼の小判』の謎かけを解き、その数を10倍した数だけ登った石段に、『鬼の小判』という値打ちものの奇書を隠してあるとか」
 行ってみたのかとたずねられると、恐ろしげにかぶりを振った。
「いや、それがここ最近になって、あの荒れ寺の周辺に山鬼が住み着いたそうなんですよ。うちの店の若いのにちょっと行ってもらったんですけど、命からがら逃げ帰ってきました。つまりは、みなさんに謎を解いていただき、その山鬼どもをやっつけて、奇書『鬼の小判』を取ってきていただきたいわけです」
 彼女は、ため息を付いた。
「まったく、男って馬鹿ばっかりですよね。こんなくだらないことに血道をあげて。ま、そこがまた、うちの亭主のカワイイとこでもあるんですが。ともかく、これ以上面倒が起こる前に、この『鬼の小判』の謎かけを解いて、とっとと終わらせたいわけですよ。
 支払いはたっぷりはずみます。みなさん、どうかこのやっかいな問題を解決してくださいな」

●今回の参加者

 ea7222 ティアラ・フォーリスト(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2400 ルゥ・ラ・ヤーマ(23歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 eb4640 星崎 研(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「はー、メイドさんの萌え萌えな物語なんですかー」
「どんなもんですかな。最近はこういう書き物も始めましてね。『萌え萌え腰元危機いっぱ〜つ☆』という続きものなんですが、その内容は‥‥」
「はいはい、そこまでにしなさい」
 星崎研(eb4640)の通訳で、裏辻一次郎の書き物、ないしはその内容を知ったティアラ・フォーリスト(ea7222)は、ちょっとだけ驚いていた。
「ともかく、みなさん。今日は御足労いただき感謝します。まったく、うちの亭主ときたらいまだに『奇書を手放したくない』などと言ってましてね。いつまでたっても子供なんですから」
「まぁ、所詮他人事だからどうでもいいが‥‥傍迷惑な旦那だな」
 鳴神破邪斗(eb0641)は、依頼を受けた時に抱いた感想を改めてつぶやいた。
「しかしだね。奇書や怪書といったものは歴史の闇に葬り去られ、二度と日の目を見ない、ある意味重要にして貴重なものなんだよ? 価値のない要らない子扱いされて、そのまま消え去ってしまうものに対して、ちょっとは惜しいとか読みたいとか、そういう感情を抱いて当然だろう? 当然に違いない! ないったらない! ね? ね?」
「ね?‥‥じゃあなーい! あんた! お客さんの前で恥ずかしい事をしない!」
 淑乃にどかーんと豪快にぶん殴られ吹っ飛んだ一次郎を見て、苦笑するしかないウェンディ・ナイツ(eb1133)であった。
「な、仲がおよろしいんですね‥‥」
「まあ、謎かけの宝探しが楽しそうだって事は、否定しないけどね」と、マリス・メア・シュタイン(eb0888)。
「でも惜しむらくは、何か形のあるものが欲しいとこだけど‥‥この経済状況じゃあ、それを要求するのはちょっと酷かしらね」
 冒険者達は現在、裏辻屋にて集合していた。が、裏辻屋は商品や家具、家財道具のほとんどが無かったのだ。
「申し訳ありません、マリス様。なにせ借金返済のために、売れるものはとことん売りさばいてしまおうって事になりましてね。ともかく、商品と家財道具のほとんどは換金し、あとは『鬼の小判』でなんとか返済できるまでにはなったんですよ」
「では、あと少しやね」と、ルゥ・ラ・ヤーマ(eb2400)。
「ええ。後は下らない本を換金してしまえば、また再び店を経営していけるってものです。そのためには、皆さんの知恵とお力がどうしても必要なわけでして」
「下らなくないぞ! いいかね、そもそも奇書や怪書というものはだな、人生の深淵を覗かせてくれる上に、生き様を考えさせてくれる高尚な芸術が、書物という形をもって現われた存在! 内容が小難しいだのワケがわからないだの何の役にも立たないなどというけしからん評は、凡人の発想であり貧しい知識と感性の結果出てくる言葉に他ならない! 昨今の人間社会において、人としての質的向上と精神的地位の改革が必要である事を自覚して、然る後に‥‥」
 一次郎は更に何かを口にしたようだが、淑乃の鉄拳制裁によってそれは言葉として発することなく終わった。
「あんた、いいかげんにする。でないと夕食抜くよ?」

「‥‥愉快というか、なかなかにぶっとんだ性格の旦那さんって感じでしたね」
 件の荒れ寺へと向かいつつ、星崎がつぶやいた。
「ま、それはともかく。荒れ寺の周辺はちょっと色んな獣が出て、危険と聞きました」
 星崎の言葉通り、最初に向かった店の若い衆たちに話を聞いたところ、あの寺の周辺にはろくなものが集まらない、との事だった。
 ならず者は集まる、それを狙い小鬼や犬鬼が寄ってくる。それらを襲った熊鬼が住み着き、熊鬼が熊の集団に襲われたら、今度は熊同士で殺し合い。で、最後の一頭も死んだ後、今度は死人憑きがうろつき、それらをぶっとばした山鬼が住み着き‥‥といった調子。
 偶然なのか、何か理由か因縁があるのか。ともかくあの寺は、そういう感じで何かが居ついてしまう事が多いらしい。
 もっとも、寺には何も無く、人家や街道からも遠く離れているため、近くに行かない限りは何も問題は起こらないし、起こりようもない。
それを熟知した周辺の住民たちは、皆近付く事なく生活している。
 だからこそ裏辻の叔父は、そこを奇書の隠し場所にしたのだろうが。
「少なくとも、山鬼は一体以上は居た‥‥と言ってましたよね? 直接見たのが一体で、足音や気配で、暗がりから棍棒を投げつけ、襲ってきたのが一体と」
 少なくとも、二体は居るはず。若衆たちの話を聞いた限りでは、そう判断せざるをえなかった。
 が、若衆たちにとってだけでなく、冒険者たちにとっても山鬼は脅威であった。誇張が入っているだろうが、投げつけられた棍棒は、人間が二人がかりでなければ抱えあげられないほどの巨大なものだった、というのだ。
 間一髪それをかわしたため、若衆たちは逃げてこられた。
 が、冒険者達は逃げるわけにはいかない。必要ならばそれを身体で受け、そして山鬼を倒さねばならないのだ。
「後の問題は、謎かけの答えだけど‥‥小判は、48枚で本当に正解なのかなあ?」
「ティアラ、俺も48だと思うぜ。
 整理すると、長男:13枚、次男:不明、下から四番(三男):9枚、四男:不明、上から五番(五男):5枚、六男:不明‥‥だろ?」
 鳴神の言葉を、マリスが引き継ぐ。
「そうそう。で、間を2で分けたら奇数枚に分けられるわね。だから長男から数えて、13・11・9・7・5・3」
「それの合計ですから、小判の枚数は48枚になりますね」ウェンディが締めくくった。
「それの10倍だから、480段目に奇書は隠されている‥‥っていうけど、本当にそこなんでしょうか? ひょっとしたら、48枚に鬼の息子6人を割った数を10倍した、80段目に隠されているって事は‥‥」
 星崎が疑問を口にする。
「いや、それはないんやないかと思うよ? 『合計数の10倍』とだけしか言われてへんし、合計数を息子の数で割る、なんてのは無いと思うんやけど」
 ルゥが星崎の意見に返答したところで、遠目に石段が見えてきた。あの石段のどこかに、奇書が隠されている。
 それを思い、皆は心を新たにした。

 正午。石段を目前に臨むが、山鬼らしきものの姿は見えない。
 石段はその段差が非常に大きく、人間の膝よりも若干高いくらいだ。そのために、一段登るだけでも一苦労であった。
 両側面は、丈の低い木や丈の高い草花が生い茂り、人はもちろん獣ですら通り抜けできるような通路は無かった。そしてそれらの奥には、丈の高い木々が威嚇するようにそびえている。あまりに無秩序かつ混沌とした木々の繁茂の様子は、森林の持つ生命力を尊いと思う以前に、植物が動物に対して排他的な態度を取っていると錯覚してしまうほどであった。実際、狼の死体を養分にして、植物の芽が禍々しく芽吹いている。
 このあたりに人が近付かないのも当然だろう。腐臭にも近い堆肥のような臭いが漂い、鼻をついた。
「まったく、こんなの登っていられないわよ。私は空から行かせてもらうわ」
 手にしたほうきにまたがり、マリスは空中に浮かび上がった。
「鳴神さん、私は先に行くわね。空中だったら、山鬼もおいそれと攻撃できないでしょうし」
「頼む。空から見て、怪しいのが見えたらすぐに合図してくれ。じゃ、みんな。行くぜ?」

「‥‥おい、見てみろ」
 石段を390段ほど登ったところで、鳴神が指差した。
 洞窟のように、側面の木々が薙ぎ払われ、通路になっている。
「ここからじゃ、何も見えないわ。木々がびっしり覆ってて。そっちで何か見えない?」
「森の木が日光をさえぎってて、こちらも何も見えないです。でも、何か‥‥」
 空中のマリスに返答しかけたティアラだが、途中で言葉を止めた。その奥の方から、何かの獣臭が漂ってくるのを感じたのだ。
「マリスさん、ブレスセンサーの呪文をお願いします。ひょっとしたら、目的に近付いたかもしれません」
 ウェンディが、その言葉を引き継いだ。

 全身に力を蓄え、「棍棒」は森の中で息を潜めていた。
「棍棒」とは、少し前に自分が餌食にした獲物の人間が叫んだ言葉だ。自分の手に握っている物の事らしいが、どうでもいい。
 二人いる相棒、巨大な拳から「拳骨」、口元から乱杭歯が突き出た「牙面」と人間が呼んでいた二人は、すでに森から飛び出し、石段を登ってきた獲物どもに襲い掛かっている。
 この前、後ろの方から手のこれを投げつけてやったら、あとちょっとで仕留められそうだった。今度はうまくやってやる。
 が、投げつけたが、やつらは自分の棍棒が投げつけられる事を最初から知っているかのように動いていた。当然、外れだ。
 それだけでなく、仲間の一人にぶち当たる。
「牙面」は怒り、その怒りを目の前の獲物にぶつけんと、手にしていた木の幹を捨て、素手でつかみかかった。
 獲物の一人、鳴神という名の忍者は、その粗雑な動きを簡単に見切り、石段の下へと逃げて行った。
 鳴神が逃げていく先には、何人かの人間の姿が見えた。おそらく仲間のいる場所へと戻るつもりなのだろうと「棍棒」は思った。
 仲間とともに、自分の姿を獲物の前に晒す。落ちていた棍棒を拾いなおすと、いつもやっているように「棍棒」は咆哮した。これを行うと、獲物は恐れ、時には動かなくなる。
 が、忌々しい事に目前の獲物たちは動じなかった。それどころか、挑みかかるような表情をしている。黒い服を着た男が二人、さらに女がもう三人見えた。四人は細長い金属(刀)を持っているが、銀色の髪の毛をした女の一人はなにやらぶつぶつとつぶやいているだけだ。
 見たところ、そいつは獲物の中では弱々しい。自分たちにとって脅威にはならないし、素手でも一撃でひねり潰せそうだ。
 咆哮し、「棍棒」は自分の武器で叩き潰そうと足を踏み出した、その時。
「棍棒」は、自分と仲間達が、空中からの攻撃を受けた事を知った。そいつはホウキにまたがり、空に浮いていたのだ。
 が、問題はそいつの手から放たれた火球。紅蓮に猛る赤き熱の塊が、天罰のごとく空中から飛来し襲撃したのだ。
 それを避けようとしたが、既に別の攻撃が自分たちに放たれた事を、「棍棒」たちは知る由も無かった。
「見えぬ重き力よ、不可視の枷となりて我が敵を撃たん!『グラビティーキャノン』」
 重力により、押さえつけられ転倒した山鬼。うち二匹は脚を踏み外し、石段の下へと転がり落ちていった。石段の両脇に避けた冒険者達を通り過ぎ、さらに下方へと転がり落ちていく。
 ただ一匹、「拳骨」だけは踏みとどまったが、そいつはマリスの放った「ファイヤーボム」の直撃を受け、黒焦げになった。
 石段の途中でなんとか持ち直した「棍棒」と「牙面」は、こしゃくな人間どもを叩き潰そうと石段を駆け上がる。逃げるつもりはなかった。体の中の破壊衝動と食欲には逆らえないし、逆らうつもりも無い。
 それを迎え撃たんと、冒険者達の刃がきらめいた。
 両拳を握り締めた「牙面」が、ウェンディ・ナイツに殴りかかる。が、山鬼は彼女の刃とその技量の恐ろしさに、最後まで気づく事は無かった。
「はっ!」
 打ち掛かる拳を回避し、ウェンディの剣と短剣が「牙面」に食い込む。刃は深く、「牙面」の心臓に達し、その鼓動を止めた。
「棍棒」もまた、ルゥに殴りかかる。が、そいつはたくみに動き、思いもしない方向へと逃れては剣で切りつける。
「ルゥさん! 後は自分に!」
 星崎の言葉とともに、仲間達が後退した。その忍者はたった一人で、自分に立ち向かうつもりらしい。
 すばやくつかみかかれば、こいつも逃げられまい。「棍棒」は思惑とともに襲い掛かったが、それが最後の攻撃となった。
「忍法『火遁の術』!」
 忍者の手から放たれた炎が、「棍棒」の顔を直撃したのだ。
ただでさえ呪文と転倒で痛手を受けていた「棍棒」だが、それが最後だった。炎の舌が、自分の頭を存分に舐め回す。
山鬼の頭は赤い燃える髑髏と化した。棍棒を取り落としてのたうちまわり、そのまま石段の下へ転がり落ちていく様を、冒険者たちは見届けていた。

「ありました! 本です!」
480段目の石段を探り、一行はその下に『鬼の小判』が納められた木箱を発見した。
箱の中には、湿気取りの油紙で丁寧にくるまれた古書が十数冊、納められている。
「でも、どんな本なんでしょう? ちょっと中を読んでみてもらえます?」
 ティアラの通訳として、星崎が開いた項の中身を読んでいく。いくが‥‥。
「‥‥『もし。この「もし」という単語がこの文章の二番目の単語だという読者は、その判断は正しいとは言えないといいがたくも無いとは言えない。そうでないのならば、その考えは間違っていない事もなくはないという虚言に騙されてしまっていない可能性は無い。ただし、その「もし」がこの文章の最初の文字の四番目の単語と確信した読者は、それが虚言である事の判断を思いつく事に関して誤りではない事を確信しつつ間違いではなくも無いという事を確信してもいい。しかし鳥は飛べない動物だと思わなくも無い人間は空を自由に飛べないという虚言を誤りだと思わなくても構わないという間違いを否定しなくてもいいが、ここまでの文章を意味があると考えて真面目に読んで考察した読者諸君に対しては「暇なことをやるものだ、もっとまともな行動をしたまえ」と心配しないわけではなくも無い‥‥』」
「‥‥なあ。俺は今、依頼人に深く深く同情したぜ」
 しばし言葉を失った後、鳴神は奇書を燃やし尽くしたい衝動を必死に抑えつつつぶやいた。

 ともあれ、この奇書は回収され、借金は完済された。されたが‥‥。
「こうなったら、自分も物書きの端くれ。『鬼の小判』以上の奇書を我が手で書いてやる! 題名は‥‥そう、『鬼の娘☆ば〜ん!』」
 などと、一次郎はヘンな創作意欲のもとに、現在作品を執筆している。
「‥‥店が傾かない様、多少は旦那の手綱は握っておくんだな」
「ええ、心得ています。お騒がせしました、皆様」
 鳴神の言葉に、引きつりながら返答する淑乃であった。