豚鬼の武器を奪え

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月21日〜03月26日

リプレイ公開日:2006年03月30日

●オープニング

「あの豚鬼どもから、大切な武器をとりもどして欲しいのです」
 上品な仕草の女性が、ギルドを訪ねてきた。
「わたくしは、詩乃。龍宮詩乃と申します。あれは、わたくしの両親のものに相違ありません。どうか、豚鬼どもから武器を壊すことなく、奪い取っていただきたいのです」

 彼女は、龍宮家の跡継ぎの女性である。が、龍宮家は過去に二つの武家の抗争に巻き込まれ、それが元で両親は分かれることとなってしまった。
 誌乃の母親は、龍宮家の抗争相手の武家の娘であった。それゆえ、仕方なく母親は実家に戻らざるを得ず、幼い頃の詩乃は寂しい思いをした。
 そして、彼女が成人する頃。抗争相手の武家は流行り病と抗争での負傷が元で全員が死亡、龍宮家もまた抗争が元で衰退してしまっていた。
 誌乃は父親を失ったものの、龍宮家は平穏を手に入れた。病に侵された身体ではあっても、詩乃の母親も龍宮家に戻った。ここから心機一転、新たな未来を切り開こうと気持ちを新たにする矢先、抗争により膨れ上がった多額の借金がその決意を揺るがした。
このままでは借金が払えない、龍宮家も衰退し滅びるしかないのだろうか。

そう思った矢先、一つの可能性が見出された。
龍宮家は、先祖が多くの武器を蒐集しており、それらのうちいくつかはかなりの値打ち物もあったのだ。
特に二本一組の夫婦刀「黄昏丸」「曙丸」は、武器としても優れたものだが、美術品としても非常に素晴らしい逸品であり、換金すれば借金返済できるものと思われた。
が、それらは母親が実家に戻る際に、父親が守り刀として持たせていたのだ。
しかし母親は、かぶりを振った。実家にて、武具を納めた蔵に盗賊たちが入り込み、値打ち物と思われた武器を奪ってしまっていたのだ。もちろん、件の夫婦剣も含め。
人を雇い、盗賊の根城を突き止めたものの、そこには死体と化した件の盗賊たちの姿があった。件の刀も、根こそぎ奪われた後。
唯一、息がある盗賊が死の間際につぶやいた言葉は「片目の豚鬼が、刀を奪った」。
彼の手には、夫婦剣の雌刀、曙丸のみが握られていた。

そして現在。
龍宮家の領地内に、豚鬼に襲撃される農民や旅人、商人が多くなった。街道を歩いていたら、森の中からいきなり現われるとの事だ。
そして、豚鬼の盗賊、ないしはその首領格は、立派な刀を持つ、片目の豚鬼との事。

「ここまでお話したら、お分かりになるでしょう。その豚鬼どもが、刀を奪った豚鬼に相違ありません。聞くところによると、片目の豚鬼が雄刀である黄昏丸を用い、略奪や殺戮を行っているとの事。
 止めたくとも、私たちにはそれを止めるだけの人材もなく、ギルドのみなさんにおすがりするしかないのです」
 彼女は、深々と頭を下げた。
「黄昏丸と曙丸は、二本一対。それぞれ片方のみでは、著しく価値が下がります。ですが一そろいになれば、なんとか借金を返済できるとの事。どうかみなさま、豚鬼を倒し、黄昏丸を奪い返してはいただけないでしょうか? よろしくお願いします」

●今回の参加者

 eb1533 ロニー・ステュアート(30歳・♂・ファイター・シフール・イギリス王国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3757 音無 鬼灯(31歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb3867 アシュレイ・カーティス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb4634 鎖堂 一(56歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「黄昏丸の事、ですか?」
「ええ。どのような外見なのか、そして何か特別な力‥‥たとえば、魔力を有してはいないかなどを教えてもらいたい」
 龍宮家の屋敷にて。詩乃の前に通された六人の冒険者。
 そのうちの一人、エルフのウィザード、ローガン・カーティス(eb3087)が、詩乃に問いかけた。
「それでは、こちらをご覧下さい」
 詩乃は人を呼び、そして何かを持ってこさせた。細長いそれは、布に包まれた刀。刻まれたる銘は「曙丸」
「これが、夫婦剣の片方、雌刀の曙丸です。二極一対の業物として作られたものでして、黄昏丸はこの刀とほぼ同じ外観です」
 柄も、そして抜き身の刃も、それは見事なつくりであった。刀身は水晶がきらめくかのような鋭さ。優美にして可憐さをも漂わせるそれは、夫婦刀の雌刀と呼ぶにふさわしく思える。
「雄刀である黄昏丸は、刀身を含めて全てがこれよりも太く長い刀です。武器として分類するならば、小太刀の曙丸に対し、黄昏丸は両手持ちの野太刀と言えましょう。『夫が死という黄昏を敵に与え、妻はその背中で曙の光が溢れる家を守る』故に、この二振り一組の刀は、黄昏丸・曙丸と命名されたのです」
「で、魔力などは帯びてはいないんだね? 業物だけど、普通の刀であると」ジャイアント族の忍者、音無鬼灯(eb3757)が問いただした。
「ええ。魔法はありません。ですが、その威力は恐るべきものと心得てください」
「じゃあ次に、その刀を奪った豚鬼について聞いておきたいな」
 にこやかに問いかけたのは、シフールのロニー・ステュアート(eb1533)。しかし、彼の質問に対する答えは、皆にとってあまり助けにならないものではあった。
「襲ってきた豚鬼の数は、よくは分かりません。なにぶん襲われたのが夕刻の黄昏時から夜が多いので、正確な数を確かめるのが困難という事もあります。ですが、少なくとも四・五匹以上はいるはず。襲われた場所も、脈絡がないのが事実です。とはいうものの‥‥」
 今度取り出したのは、絵図面。街道の様子を描いたと思われるそれは、所々に×印が書き込まれている。それが襲撃された場所の印である事は尋ねるまでもない。
「今までの出現地点をこのように書き記したところ、森を突っ切るこの街道の、このあたりに多く出る事がわかりました。この周辺で待ち伏せれば、現われるやもしれません。ただ‥‥」
「ただ?」
「こちらは、大木が多く繁り、豚鬼は木の上からいきなり襲い掛かる事も多々あるのです。それで、豚鬼撃退に雇った数名の素浪人が負傷しました。もしも旅人を装い待ち伏せをするのであれば、十分に注意してください」

「ふうむ、成る程ね。詩乃さんに聞いたとおりだな」
 仕込み杖を手にした浪人、鎖堂一(eb4634)は、仲間たちと得た情報をやり取りしていた。
「また昨日も、旅の酒屋が運んでいた酒を、樽ごと盗まれた、か。いやな渡世だねぇ‥‥」
「ああ。あとは、我々が立てた作戦に、豚鬼が引っかかってくれればいいが」
長身のファイター、アシュレイ・カーティス(eb3867)が、荷車を用意しつつつぶやいた。
旅の一行を装い、現われた豚鬼の群れを撃退するという作戦。それが、冒険者達が考案した策であった。詩乃に頼み、荷車やそれを引く馬、偽装するための各種道具を用意してもらった。当初は、冒険者達のペットに荷車を引いてもらうつもりだったが、依頼人より馬も提供してもらったのだ。ペットたちは、詩乃の屋敷で仕事が終わるまで保護してもらう事に。
ともかく後は、作戦を実行し、うまく行くことを祈るのみ。
「大丈夫、うまくいくよっ。始める前から落ち込んでたらだめだめ! 元気出していきましょっ☆」
 銀髪碧眼の美少女、イシュルーナ・エステルハージ(eb3483)の明るい声がこだました。ハーフエルフの神聖騎士は、自らの元気を仲間達に分け与えるかのように、明るく微笑んでいる。
「ま、そうだね。それじゃ、作戦を整理しよう」ロニーが、イシュルーナとおなじような明るい口調で言った。
「僕達は、旅の商人と召使を装って、荷車で街道を渡る。荷車に積むのは、空の箱と香り袋。で、アシュレイさんが中に潜むと」
「ああ。俺は荷車の中に、で、ローガン、鎖堂、イシュルーナ、音無の順で、荷車とともに進む。ロニーはローガンの周囲を飛び回り、ローガンは鷹のパークを先行させて偵察しておく。何かあったら鳴いて知らせるようにしてな」ロニーの言葉を、アシュレイが引き継ぐ。
「で、パークが私に知らせてくれたら、それを警戒しつつ私とイシュルーナ殿、ロニー殿とで眼をこらし、怪しいものがいないかを注意しつつ進む」と、ローガン。
「そして豚鬼が出てきたら、皆がそれぞれ得意の得物で豚鬼どもと戦う。首領格を見つけたら、アシュレイとロニーと僕とでそいつを追撃。他の皆は、雑魚どもの目をそちらに向けさせない」たすきを締めなおしながら、音無。
「アシュレイさんたちは、豚鬼の首領格に対して攻撃。音無さんは刀の保護。それで刀を確保したら、あとは思いっきり戦ってやっつけちゃいます」ガッツポーズをとりつつ、イシュルーナ。
「で、最後は豚鬼どものねぐらをさがし、そこで他に盗まれたものが無いかを確認すると。ま、こんなとこですな」鎖堂が締めくくった。
「よし、それじゃあ夕方になったら始めるぞ。黄昏丸を、これ以上悪事に使わせないようにしないとな」
 ローガンの言葉に、皆がうなずいた。

「なあ、変じゃあないだろうか?」
 音無は、しきりに自分の姿を気にしていた。
「なんだかちょっと、落ち着かないな‥‥」
 女性とはいえ、普段は男装している音無。女性ものの衣装を着てその身を装ってはいるものの、普段と異なる自分の姿に照れを隠し切れない。
「変じゃありませんよ♪ すっごく可愛いです♪」
 イシュルーナは極めて素直に、その感想を口にした。
 荷車は、二頭の馬に引かれて進む。荷車には空箱と香り袋、それにアシュレイとが潜み、豚鬼の襲撃に備えていた。周囲には人間を排除するかのような、強烈な威圧感を伴う木々が群生していた。
 街道自体は、踏み固められた土のせいで、極めて歩きやすい。轍の後もそれほど深くはなく、荷車の車輪は快調に回転していた。
 空箱に潜むアシュレイだが、他の仲間達以上に不安であった。が、その不安もすぐに治まり、彼は落ち着いた心境で戦いの時を待った。
 抱えている愛用の剣、ノルマンの名工が鍛えた魔剣の柄を握り、はやる気持ちを抑える。
 日が傾き、空は茜色から赤くなり、宵闇が帳を下ろし始めた頃。
「しっ!」
 ローガンが、指を口元に立てた。
「‥‥パークの鳴き声。何か見つけたようです」
 見上げると、茜色の空に、パークが翼を広げて飛翔している影が見えた。忠実なる鷹は主人たちに何かを訴えかけるかのように、冒険者たちの上空を旋回している。
「ここから先は、注意深く。何一つ見逃さないようにしないとね」
 音無が、先刻からの照れた口調をどこかに置き忘れたかのように言った。

 冒険者達はゆっくりと、一歩一歩を注意深く、慎重に進んでいった。
 エルフのローガンとハーフエルフのイシュルーナ、そしてシフールのロニーは、鋭い視線を周囲に向けていた。
 時折、葉擦れの微かな音を耳にして、びくりとする。小動物の足音や鳴き声、虫の羽音にも警戒して進む。自分の心臓の鼓動、自身の呼吸音ですら、大きく響くかのようだ。
 鎖堂もその耳を鋭くすます。音無は、自分の肌がぴりぴりと緊張を感じ取っていると気づいた。
 そして、その刹那。
「!」
 狂乱した猪が突進するがごとく、「それ」は現われた。不恰好な男に猪か野豚の頭部を移植したかのような、醜悪な外見。牙めいた歯が上向きに突き出たところは確かに猪豚めいてはいるが、猪豚の持つ動物としてのある種の気高さや力強さ、美しさとは無縁の外観を有していた。
 だらしなくたるんだ胴体はぶよぶよしているが、武器を握った太い腕は非常に力強そうである。ローガンは母国語で、そいつの名をつぶやいた。
「出たな、オーク!」
 そのオークこと豚鬼は、三匹が正面から現われていた。手にしているのは粗末な槍、それに錆びた刃の斧とつるはしで、名剣などではない。
 そして冒険者達を見下ろす木の上に、二匹の豚鬼がいた。一匹が正面に現われ、そちらに気を取られている隙に彼らが飛び降り、獲物の不意を着く。件の素浪人たちはそのようにして敗れたわけだ。
 が、そいつらが飛び降りようとしているところは、既にロニーによって看破されていた。ローガンのフレイムエリベイションが、彼の能力を向上させていたのも幸いした。
「ええいっ!」
 小さきシフールとはいえ、彼はファイター。携えたショートボウによる射撃の一撃は、醜い豚鬼どもを見事に射抜いた。
 たるんだ皮膚と脂肪にさえぎられ、ロニーの放った矢は致命傷を負わせるには至らなかった。が、転倒させて地面へと落とすには十分な一撃だ。落ちた二匹の豚鬼は、怒りの声とともに立ち上がり、三匹の仲間とともに冒険者達へと突撃した。そいつらは棍棒と鎌を手にしている。
 迫る豚鬼に対し、鎖堂が手の仕込み杖の鞘を払った。細い刃のすばやい一撃をかわし、豚鬼はたたらを踏む。が、それは次なる攻撃の範囲内へと追いやる鎖堂の目論見だった。
イシュルーナが手のホーリーメイスを握り締める。聖なる鎚矛が、ウーゼル流を修得した神聖騎士の手によって恐るべき武器と化した。
「ソードボンバー!」
 不用意に接近した豚鬼どもは、メイスより放たれた衝撃波をもろに受ける。たるんだ皮膚の一部が抉られ、苦しみの悲鳴が怪物たちの口から上がった。
 後方に下がった槍の豚鬼は、自分の武器を投擲した。遠くの間合いから、冒険者達を狙おうという寸法だろう。
 が、それに対してはローガンが対処していた。
「猛る紅蓮の紅き力よ! 燃え上がる炎の一撃を我が手に宿せ!『ファイヤーボム』!」
 が、彼らが注意を払わなかった、道の脇より。もう一匹の豚鬼が、一つしかない目をぎらつかせながら荷車を襲うことまでは、対処できなかった。
 そいつは他の豚鬼よりも大柄で、何より片目で太っていた。そしてその構えた得物は、紛れもなく黄昏丸。肉厚の巨大な刀は、曙丸以上に破壊力を有した刀であることが見て取れた。
 そいつは 仲間に人間をおびき寄せ、自分が荷車に取り付こうと企んでいたのだろう。明らかに下卑た恵美を、猪の顔に浮かべている。
 が、それはすぐに凍りついた。荷車からアシュレイがいきなり飛び出し、不意を突いたのだ。
「チャンスは一度‥‥これをはずしたら‥‥!」
 アシュレイは狙いを定め、スマッシュを放った。
 その腕が、刀ぐるみ切断された。刀を握ったまま、豚鬼の腕が落ちる。
 更に、ロニーはシューティングPAにて豚鬼の残った目を打ち抜く。腕と目と武器を失った豚鬼は、最後に音無の忍者刀によって命をも失った。

 かくして、鞘に収められ、血糊がふき取られた黄昏丸は、詩乃の元に返された。
 豚鬼を掃討した冒険者達は、その後に豚鬼の根城を見つけ、そいつらが過去に奪っていった宝物などがない物かと期待しつつ探った。
 その結果、期待に裏切られることとなった。値打ち物はみな、壊されるか汚されるかされ、その値打ちをすっかり無くしてしまっていたのだ。
 それを伝えた冒険者達であったが、詩乃はかぶりを振った。
「いいえ。失ったものをこれ以上どうこう言ったところで始まりません。皆さんの尽力には感謝いたします」
 
 曙丸と黄昏丸。夫婦刀は今再び一つになり、やがては借金は返済できた。
 ここから先も、艱難辛苦が待ち受けていることだろう。しかし詩乃ならば、それを乗り越えられるだろうと思う冒険者たちであった。