殺戮の鋏

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月14日〜04月21日

リプレイ公開日:2006年04月21日

●オープニング

 春。
 この季節。漁村は、新たな魚の群れを求め、漁に出る。
 が、ここ岩灘村は、一月ほど前から多大なる悩みをかかえていた。

「三人やられた! 医者呼んでくれ!」
 村に担ぎ込まれた漁師たち。彼らは皆、重傷を負っていた。
 彼らの傷は、全てが切り裂かれたようなそれ。まるで狂乱した悪魔が刀で切りつけたような、深く鋭い切り傷を一様に受けている。
「‥‥だめだ、一郎は死んじまった」
 あとの二人も、彼を追って死ぬのは目に見えている。やがては苦しみぬき、二人も息を引き取った。
 岩灘村の猟師たちは、ここ数年でぐんと減っていった。それは、ある海の生き物の仕業であった。
 それは、カニ。
 牛よりも巨大な、三匹の化物カニがここに出没し、猟師たちを見境無く襲い掛かるようになっていったのだ。
 
 最初に襲われたのは、海岸の岩場でカニや貝を採っていた子供や海女。
 背の甲を岩に擬態していた巨大なカニ。それに不用意に近付きすぎたため、まずは女子供が犠牲になった。
 それがきっかけになったかのように、毎日のようにカニは現れ、襲撃する。そのたびに犠牲者が出て、漁民は殺されるか、大怪我を負わされるはめになった。
 カニは食欲旺盛で、男や女、老人子供、そういった差別をせずに襲っては食べる事を繰り返していた。猟師だけではなく、大漁で戻ってきた船にいきなり襲い掛かり、船ごとひっくり返して、漁で捕れた魚を平らげる。
 陸に上がったところで同じこと。カニもまた陸に上陸し、船を壊しては魚を頂戴して海に去って行く。食欲のみならず、まるで破壊衝動にも飢えているかのように、船はずたずたに壊されていた。
 
 カニは利口で、まるで悪意があるかのように動くことも少なくなかった。
 ある日に打ち上げられた、大量の魚やイルカの死体。が、それらは食われた様子はなく、さらにカニの鋏によるものと思われる傷痕が深く残されていた。
 それはまるで、食うための殺戮ではなく、楽しむための殺戮を行なったかのように思えた。
 その死体の中に、人間のそれが含まれるようになったのは、そのすぐ後の事である。

 漁師のなかで正義感が強かったり、若く力強い者たちは、化物退治とばかりに銛や鉈を手にカニ退治に赴いた。
 が、数日後に全員が、切り刻まれた遺体で発見された。
 カニの甲羅は固く、銛では効果が無かったのだ。
怪力の漁師が棍棒や岩で叩き潰そうとしても、すばやく動くカニは岩場や水中に逃げてしまう。怒りにまかせて深追いしたところ、水中からいきなり襲われて手足や首を鋏で切断されたり、水中に引きずり込まれて溺死し、カニの餌食になって終わった。
数人がかりで襲い掛かったところで、所詮は無駄なこと。カニに対して生贄が増えただけの事であり、カニは餌以前に漁師を玩具にして遊んでいた。
向かってきた漁師を鋏でつまみあげ、その手足を生きたままで切断し、苦しんでいるところをやはり生きたままで喰らう。
漁師たちには、このカニにかなう者はいなかった。

 なけなしの金で、村長は素浪人を十人ほど雇い入れた。落ちぶれた武士であり、なかば堕落した生活を送っていた、山賊めいたごろつきたち。
 だがその腕は確かで、頭は山鬼を一撃で倒すほどの腕前を持っていた。
 カニなど、ものの数ではないわと請け合い、素浪人は向かって行った。そして次の日、全員がカニに貪られることとなった。
 

「カニは、いつ出てくるかわからないのです。忘れた頃にいきなり出てきては、油断していたわしらを襲い、血祭りにあげるという始末で。そのせいで、この界隈の漁師が、すっかり減ってしまいました」
 打ちひしがれた様子の漁師が、ギルドに依頼していた。
「わしの息子も、あのカニに右の手をちょん切られました。そしてその怪我がもとで、つい先日に‥‥。わしの孫は、父なし子となってしまいましただ。
 村を捨てるという事も、考えました。が、あの村は、わしらのご先祖様が切り開いた場所。あそこを捨てたとしても、どこに行けばいいのか、当てがありませんです。それに‥‥カニに何もせず、別の場所に逃げるのは、悔しくてがまんなりませんです。あいつらは、わしの息子だけじゃねえ、親友も、恩人も、わしの女房も殺しおった。あいつを倒さない事には、死んでも死に切れないのですだ!」
「‥‥それに、あいつは村の近く、海を望める場所にある墓地にまで出てきました。海岸から結構離れているというのに、あいつはわしのご先祖様が眠っている墓地を、まるで嘲るかのように鋏でほじくり返していたのです。
 あの周りには、餌となる動物などほとんど出てきません。わしらを嘲笑うためだけに、墓を壊し、荒らしたとしか思えないです。しかし、例えそうだとしても、わしらにはあのカニどもを倒せる力は残っておりません。
 これは、砂金を売って作った金です。海岸でわずかに取れるものを、少しづつ貯めたもの。何か災難があったときにだけ使うという決まりでしたが、今がまさにその時でしょう。ギルドの皆々様方。どうか、あのにっくきカニどもを殺してください!」
 漁師の月次郎は、頭を床にこすりつけ、仕事を依頼した。

●今回の参加者

 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea7169 フロート・クリスナー(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb2755 羅刹王 修羅(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3283 室川 風太(43歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「不愉快だな‥‥まさしく、不愉快だ」
 海岸にて、その地形を目にしつつ、エルネスト・ナルセス(ea6004)はまだ見ぬ甲殻類への言葉を吐き出した。
 この仕事を引受けた直後、またもカニによる被害が起こったのだ。
カニによって夫の命を奪われた、妻とその子供。夫が殺されてからも、二人は海岸より若干離れた、村外れの粗末な小屋で暮らしていた。が、今朝方に村の若者が魚を届けにやってきたら、小屋の壁が壊され、中で二人が惨殺されているのが発見された。お決まりになった、大ガニの足跡とともに。
 二人の遺体は手足を切断されている他、口にするだけで呪われそうな、あまりにおぞましく惨たらしい殺され方をしていた。捕食目的では無く、楽しむために行なわれたと容易に理解できる殺され方を。それを目の当たりにした第一発見者の若者は、失禁し朝食を吐き戻してしまった。おそらく数日間は、魚の血を見るだけで気絶する事だろう。
 聞かされたその惨状を想像し、エルネストは胸のむかつきを必死になって押さえ込んだ。自分は悪どい性格と思っていたが、それでも自身に義憤が湧き上がってくる事を否定できない。自分の妻や息子が同じ目にあわされたら、おそらく発狂することだろう。否、それで済めばまだ良いかもしれない。
「ええ全く。悪い蟹さんには、お仕置きが必要ですね」
 フロート・クリスナー(ea7169)、エルフの吟遊詩人が、のんびりした口調でそれに同意した。天然ボケの彼女ではあったが、だからといって怒りを感じないわけではない。彼女もまた、早く戦いの場に出て蟹と相対せんと、エルネストとともに海岸を見つめていた。
 この海岸、もしくは海底。美しい水面のどこかに、鋏を持った残忍な殺戮者が潜んでいる。海からの風を受けて銀髪をはためかせつつ、フロートもまたカニ退治への決意を新たにした。

 迂闊な事を口走ってしまったと、僧侶・室川風太(eb3283)は反省していた。
 村にある寺、ないしはその本堂。村の集会がある時には、大体がここで話し合いが行なわれている。冒険者達はそこに、村長と村人達に迎えられた。
 ここの僧侶もまた、犠牲者であった。海岸で鎮魂の経を唱えていたところ、いきなり現われたカニに首を刎ねられていたのだ。
「生きるためとは言え、哀しいものは哀しいものなのだ。亡くなった者のために泣くことは恥ではないよ」
 涙を流している村人達に対し、室川は宥めようと言葉をかけたのだが、彼らは逆ににらみつけた。
「哀しい? そんな事はわかっている! おらたちは哀しいだけじゃなく、悔しいから泣いているんだ! こんなに弄ばれているのに、なのにおらたちは、自分たちの力であいつらを倒す事も、村のみんなを守る事もできない。こうやってめそめそする事しかできねえ! それが悔しくて‥‥」
「お坊様、わしらは亡くなった人たちの事を哀しんで泣くのなら、いくらでも泣く用意があります。ですが、あのカニどものせいで、葬式を出す事すらできんのです。どうか、あいつらを殺してください。わしは、復讐は馬鹿げた事だと思っておりましたが‥‥今ではそうとは思っておりません」
「あ、ああ。わかったよ、軽率だった。あなたたちの無念を晴らすため、カニは必ず退治する」
「そうじゃ、心配は無用。全て妾にまかせるがいい」
 室川に続き、羅刹王修羅(eb2755)が手の槌を振りつつ言った。
「お主らの仇、必ず討ち取って見せようぞ。蟹退治か‥‥‥倒したら美味しく頂けるかのぅ?」
 金色の左目を妖しくきらめかせ、羅刹王はつぶやいた。

「とはいうものの、この人数で対抗できるかが問題であるがな」
 羅刹王の言うとおり、この仕事に参加できたのは四人だけであった。防風林となっている、海岸の松林。そこに四人は、とりあえず集まり作戦を練っていた。
「妾のこの槌で、カニどもに痛手を与えられるかが問題ではあるが。のう、エルネスト殿?」
「ああ。ともかく室川君の偵察で、カニが今現在どこにいるのかをつきとめない事には始まらないからな。迎え撃つ場所は大体決まったが、問題は討つべき目標、大ガニをそこにおびき寄せられるか否か」
「それに、逃げられないようにするのも考えなければ、ですね」
 フロートが、更に問題点を挙げる。
「ま、今のところは空を舞う室川さんが戻るまで待ちましょう」

 大空を舞う室川は、翼を羽ばたかせて海岸へと視線を送っていた。ミミクリーの呪文により、彼の身体は大空を舞う隼に変身していた。 
 人間大の隼は、さすがに普通のそれと比べ大きい。が、大空を飛ぶ分には困らない。上空からでも隼の目は、地形や状況を視認させる事を可能としている。
 力強く羽ばたく室川は、視線を送り続けていた。奴らは、鋏を持ったカニはどこに居るのかと。

 そして、ついに発見した。猛禽の鋭い視覚が、もぞもぞと動く塊を発見したのだ。それは最初、まるで岩塊が動いているように見えたが、岩塊ではなかった。一匹の背には稲妻模様の傷があり、一匹は甲羅が赤みを帯びている。
 三匹の大ガニは浅瀬から這い出てくると、引きずっていた何かを岩場に放り投げ、鋏で解体し始めている。どうやら、牛か何からしい。腹の部分がずたずたにされ、内蔵がはみ出ているのが室川の目に飛び込んできた。
「‥‥‥‥」
 そして、カニは際限の無い食欲を満たさんと、それに喰らいつき始めていた。
 それを見て気分の悪くなった室川だったが、ある意味これは好機かもしれないと持ち直した。
 運んできた獣はかなり大きく、大ガニ三匹といえども平らげるのに時間がかかりそうだ。その間に仲間達のところに戻り、仲間達とともに不意を討てば、退治できるかもしれない。
 出来るか? 否、やってみせる。
 それに、そろそろミミクリーの時間切れになる。もう一度場所を確認し終わると、室川は旋回した。

「ふむ、奴らに近づけたら何とかなりそうだな」
 練った作戦。十分とは言えないものだが、それでもなんとか作戦を立案したエルネストは、室川からもたらされた情報を何度も吟味した。
「こちらに与えられたカードは、そう多くは無いですね。けど、他に良い方法が思いつかないのなら、実行すべきかと」
「フロート殿の言うとおり、案ずるより産むが易しじゃ。ここはひとつ、打って出るべきと思うが。室川殿、いかがなものか?」
 羅刹王の言葉を、噛み締めるかのように聞いていた室川だが、やがてうなずき、返答した。
「‥‥わかりました、やってみましょう」

 がつがつと、嬉しそうに「大爪」は牛の死骸を貪っていた。仲間の「赤甲」「稲妻」も、ともに牛を解体しては、その肉を余すところ無く食らっている。海底に潜んでいたところ、牛を積んだ小船が通り過ぎようとした。そこをカニに狙われたのだ。
 船の持ち主は、この辺りの事情を知らなかった。そして運悪く、船のすぐ下にカニが潜んでいるとも知らずに通り、そのままカニの餌食となってしまったのだ。
 船を漕いでいた持ち主は泳いで逃げられた。カニは積んでいた牛の方へと三匹ともが向かっていったのだ。
 浅瀬に近かったため、牛は必死になって逃げた。が、水中から斬り苛まれ、とうとう陸に上がったところで力尽きてしまった。牛を岩場にあげた三匹のカニは、陸の上で悠々と食らい、その肉を堪能し終えた。
 が、まだ足りない。中途半端に食らったためか、更に飢餓感は増すばかり。カニの甲殻内に、凶暴にして残酷な、自然の猛獣も嫌悪する、邪悪に限りなく近い凶悪な破壊衝動が沸いてきた。
 牛の脚を鋏で切断し、その肉を食い尽くした「大爪」は、右の二倍はある巨大な左の鋏をカチカチさせながら開閉し、食欲と破壊衝動を満たすために行動を開始した。すなわち、村へと向かっていったのだ。
 が、野生生物が有する特殊な感知能力が、巨大な甲殻類の動きを止めた。二匹のカニも、仲間の感知に気づいたように捕食行動を止める。
 何かがいる。何か、生きた生物が近くに潜む。まずはそいつを先に、獲物にするとしよう。カニの濁った思考は結論を下し、それに従った行動を開始した。
 岩場を、三匹のカニは移動し始めた。

「来るか‥‥!」
 手近な岩に隠れ、エルネストは息を殺した。ブレスセンサーのスクロールを用い、カニの位置は確認した。三人の仲間達も、手近な岩に隠れてカニを迎え撃つ用意が出来ている。
 決戦の場は、目の前にある潮溜まり。そこに入り込んだところで、呪文を唱えて足止めし、攻撃を加える。
 果たしてうまくいくか。三匹をいっぺんに相手にしなければ、意味が無い。おそらくは散開し、逃げてしまうだろう。そうしたら各個に潰すしかないが、それを許してはくれないだろうと冒険者達は確信めいた推測をたてていた。
 ガシガシと、岩に爪を立てて進む鋏を持った殺戮者。甲羅が赤い一匹が、潮溜まりに入り込んだ。
「!」
 羅刹王は、はやる気持ちを止めるのに苦心した。フロートと室川も、同じ気持ちだ。続けて二匹目。稲妻を背負ったカニは、冒険者達に狙われている事を知ってか知らずか、悠々とした足取りだ。
 三匹目が入り込んだところで、エルネストはその姿を現した。三匹の怪物カニを目視出来る場所、そしてカニの方からも見られる場所。頭部の触覚をひくひくさせて、カニは獲物を見つけたりとごそごそ動き始めた。パラが一人だけ、脅威になど誰が思うだろう?
 そのパラが一声、一言口にしたとたん、複雑な呪文の詠唱が完成し、超常的な力を発動させる言葉が構成され、実体化した。熱きウィザードの力が、冷たい炎の様に燃え上がる。
「『アイスコフィン』!」
 高速詠唱によって紡がれた呪文が、ウィザードから放たれる。潮溜まりに入り込んだ「赤甲」「稲妻」は、呪文を受けて氷の棺に閉じ込められた。
 しかし、カニは恐るべき力をもって、氷を砕き、逃げようとする。その恐るべき怪力に、冒険者達は相対する存在の恐ろしさを改めて思い知った。
 氷の攻撃を逃れた「大爪」がその場より逃げようと試みる。が、逃走経路の先には三名の仲間が待ち構えていた。
「其が狙うは、甲殻をまといし鋏を持つ殺戮者!『ムーンアロー』!」
 フロートが放った魔の矢が、カニの甲殻をものともせずに痛手を与える。さらに室川が、滅びの呪文を唱え畳み掛けた。
「滅びの力よ、その力を解き放て! 『ディストロイ』!」
 彼が放った呪文は、「大爪」の片方の鋏、爪を破壊した。が、それは彼にとって痛恨のミスだった。
「しま‥‥った!」
 カニは思った以上にすばやく動き、残った鋏で室川をつかみ上げたのだ。
 爪を片方破壊したところで、もう片方の爪が残っているし、脚は健在だ。つまり、逃げられるし、攻撃だって仕掛けられる。
 彼はまず、逃がさないように脚を狙い、動かなくさせるべきだった。僧侶は、戦い方を誤った事に気づいた。
 もしも羅刹王が、豪胆にして剛力なる女傑が仲間に加わっていなかったとしたら、彼の胴体は真っ二つに切断されていた事だろう。すばやく小山のようなカニの背中に登った羅刹王は、槌を振り上げて甲羅にたたきつけた。
 甲羅にひびが入り、体液がほとばしる。悲鳴めいた呻きがカニより響き、力を失った鋏より室川は逃れる事が出来た。二度、三度と振り下ろされた羅刹王の槌が、甲羅の一部を粉砕し、内部の柔らかい肉を露出させる。
 氷詰めにされた二つのカニに対しても、エルネストは容赦しない。攻撃を受ける事なく、一方的に殺戮していたカニは、いまや一方的に殺戮を受ける側の存在になっていた。今まで奪った命の清算させんと、エルネストはスクロールを取り出した。
「とどめじゃ!」
 羅刹王は槌を更に叩きつけ、カニの内臓が飛び散る。
「因果応報とジャパンでは言うのだったな‥‥受けるがいい、然るべき報いを!」
 羅刹王の止めと同時に、強烈な重力波がエルネストのスクロールより練成され、放たれた。氷から半ば逃れかけた二匹のカニに、羅刹王の攻撃に劣らぬ一撃がぶち込まれた。
 脳漿にも似た体液をぶちまけ、三匹のカニは甲殻を砕かれ、潰れた。
 
 三匹の鋏を切り取った四人は、それを背負って村へと戻った。
 村人達はみなが喜び、そして感謝した。今まで自分達を虐げてきた悪魔のカニが、とうとう倒されたのだ。文字通り、涙を流して喜ぶ漁民を見て、冒険者達は自分らの戦いが役に立った事を実感し、そして安堵した。
 僧侶として、室川は寺で、そして墓で、鎮魂のために経を唱えた。他の三人も、それに付き合う。
「あなた方の無念、僕たちが晴らしました。どうかゆっくりと眠ってください」
 海の水面から、風が吹いた。それは先刻のそれに比べ、やさしく、ゆったりとした流れで、冒険者達の頬を撫でた。
 この悲しみを乗り越えて、以前のささやかな生活を取り戻して欲しい。墓から望む海を眺め、冒険者達は物思いにふけるのだった。