腐った牙と熊の爪
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■ショートシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月06日〜12月11日
リプレイ公開日:2006年12月13日
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●オープニング
江戸より数里離れた場所に、街道沿いに存在する宿場町がある。
そこは必ずしも大きい町とは言えなかったが、人々が行きかい、活気に満ちた場所でもあった。みやげ物の木の彫刻が有名なためか、いつしかそこは「木彫町」と呼ばれていた。
さて、その木彫町。ここ数日の間に些か問題を抱えていた。というのも、山の幸を取りに行った猟師が、最近多く行方不明になっていたのだ。
木彫町は、裏に山がそびえている。山は山の幸が多く、町の宿場でも岩魚や猪などが多く振舞われていた。
当然のように、山鬼のような怪物や、狐狸妖怪の類もまた多い。が、町の方では自警団を擁しており、大抵の相手ならば退治したり退散させたりしていた。
が、それでも歯が立たぬ敵、敵わない相手は存在した。それが牙をむき、凶暴な一面を露にした。
自警団の団員は、腕っ節の強い商店街の店主や店員の他、浪人など職にあぶれた武士も多く参加していた。団長の滝ノ沢智三郎ももとは仕官していた身だが、この町が気に入ったため、隠居後に住み着いた。現在は小さな木彫の店を営みつつ、団員に剣を教える毎日を過ごしている。
そして、彼より剣を教えられた団員は、達人とは言わずとも決して素人ではない程度の腕前を持つに至った。
彼らは折りしも、山に登っていた。山に住む猟師より依頼を受けたため、それを遂行するために山に入り込んでいるところだったのだ。
依頼は、「山奥に存在する、恐ろしい獣を退治してほしい」というもの。巨大な熊が現れたため、数人の猟師がそいつのために命を落としたというのだ。
熊は恐ろしいが、それでも所詮は獣が一匹。装備を整えた五〜六名ほどの団員の手にかかれば、十分に対処できるだろう。
智三郎はそう考え、団員を送り込み‥‥彼らを失う事となった。
自警団の団員、太助は、大柄な百姓だった。働き者で正義感が強いものの、単純で少々間が抜けている若者。
だが、決して性根は悪くは無い。自警団に参加したのも、少しでも町のために働きたいと、彼自身が志願したため。剣の腕前はいまひとつだが、力任せの棍棒の一撃は、山鬼や熊鬼ですら撲殺したくらいの威力があった。
そのため、今回も熊退治にと、彼は数人の仲間たちと志願したのであった。
山に向かうと、どうしても人間が少なくなるためにひっそりしていると思われがちであったが、実際にはそうでは無い。むしろ、動植物が豊富に存在しているために、それゆえの賑やかさが存在していた。
かくして、太助らは動植物に見られつつ、狙うべき獲物、即ち熊を探し続けた。
目撃者によると、どうやら熊は月の輪熊らしい。普通の熊以上に大きく、凶暴な種だ。が、手ごわい敵とはいえ、所詮は熊は熊。少なくともこの人数でかかれば、まず間違いなく倒せるだろう。
皆が皆、それなりに修羅場をくぐり、なおかつ完全武装している。それに熊程度ならば何度も退治しているし、山に詳しい猟師も参加している。
少なくとも、全滅する事は無いだろう。‥‥誰もが、そう考えていた。
夕方には戻るはずだったが、彼らは戻ってこない。何かがおかしい、そう思った矢先‥‥。
「智さん! 太助が戻ってきただ!」
自警団員の報告を聞くが早いが、彼は道場から駆け出した。が、智三郎が感じていた不安は、解消されるどころか更に強いものとなって彼を苛む事になった。
太助は、瀕死の状態になっていたのだ。
「太助! おい、どうした!」
他の自警団員に医者を呼びに行かせ、智三郎は太助を介抱する。が、既に手遅れなのは見て取れた。
所々にかじりつかれたかのように歯型がつき、更に爪の痕‥‥明らかに、熊のそれだ‥‥が、ざっくりと胸部をえぐっていたのだ。
「だ、団長どん‥‥、オラァ、見ただ‥‥」
虫の息になっていた太助は、智三郎の姿を認め、最後の言葉を吐いた。
「き、牙の化物‥‥く、臭い奴が、三匹‥‥」
「牙の化物? 臭いやつ? そいつにやられたのか?」
が、太助の体は力をなくし、そのまま二度と動かなくなった。
「仁庵先生がかけつけたのは、その直後でした。で、調べたところ‥‥太助の体の胸の傷は、間違いなく熊の爪によるものだろうという事はわかったのです。が‥‥」
智三郎が、苦々しい表情でギルドの応接室にて、事の次第を話していた。
「所々についていた、噛み付かれた痕。それは熊のそれとはかなり異なるものであるとの事でした。歯型そのものが熊のそれとかなり違いますし、なにより、熊にしては小さすぎたのです。そのような歯型が、太助の体に多く付けられていました」
「ええ、わしも医者をしてそれなりに患者を診てきました。猟師などから獣の咬み傷を治療するように頼まれ、どんな獣が噛み付いたのかくらいは見分けが付きますとも」
智三郎に同行していた、医師の仁庵も請合う。
「犬と狼の咬傷の違いも、わしは判断できます。が、今回ばかりは太助の体についた咬み傷が何によって付けられた物なのか、とんとわからんのです。大きさからして、人と同じくらい、もしくはそれより多少は大きいくらいである事まではわかったのですが‥‥」
「が、先生が言うには、小鬼や茶鬼の類とは異なるそうなのです。先生は江戸で医者の勉強をされたときに、鬼の類の歯型について特に詳しく学んだそうなので、まず間違いは無いとは思います」
彼の言葉を、智三郎が補足した。
「それに気になるのが、『臭い奴が三匹』という太助の言葉です。太助は冗談でも嘘をついたり、隠し事をしたりする事ができない奴でした。奴の最後の言葉、あれが自警団を、ないしは太助を傷つけたものに相違ないでしょうが‥‥」
「完全武装した数名で、それなりに腕に覚えのある連中。彼らを一方的に血祭りにあげた三匹の何物か。そいつらが自警団と太助に致命傷を与えたにまず間違いは無いと思われます。熊の傷痕は、止めを刺したにすぎぬかと」
今度は仁庵が、智三郎を補足する。
「しかし、少々気になる点が。太助は言ったとおり、かなりの腕っぷし。素手で山鬼と組みあい、倒した事すらあるのです。『臭い奴』が何物なのかわかりませんが、太助ほどの力を持った奴がむざむざとやられるのは、腑に落ちません。しかも、一人だけでなく、数人の連れが居ての事なのに。熊も危険ですが、その三匹はそれ以上に危険という事はまず間違いないでしょう」
智三郎は、携えた財布から報酬を差し出した。
「私たちの依頼は熊、及び『三匹の臭い奴』を退治してほしいという事です。後者に関しては、正体も突き止めていただければと。ここに、報酬を用意しました。簡単にはいかない仕事でしょうが、これ以上自警団、並びに町の人間たちを危険に晒すわけにはいきません。どうか皆さんの力を、我々にお貸しください」
●リプレイ本文
森の緑は、生命を連想させるそれ。しかし、育む生命は必ずしも善性のものではなく、時にそれは凶暴となり、時にそれは凶悪にふるまい、そして時にそれは邪悪を連想し喚起させ、実行させるに至る。
当初の目的であった、凶悪な獣。冒険者たちが向かう直前に、新たな被害者が報告された。
今度は、若い山菜取りの一家。住居は山に入り込んだ辺りの小屋であり、数匹の番犬を飼っていたため、今まで襲撃されることはなかった。
が、それも昨日までの話。今朝になって小屋を訪ねた猟師は、五匹の猛犬とともに、夫婦と幼い子供がずたずたにされた惨劇の結果をそこに発見した。
「なあ、どう思う?」
山に入り込んだ冒険者一行、若き忍者の鷹城空魔(ea0276)は、河童の忍者である磯城弥魁厳(eb5249)に、道すがら疑問を口にした。
「爪の跡や足跡からして、小屋を襲ったのは熊に違いねえだろう。が、俺はまだひっかかってんだ。『三匹の臭い奴』ってのが何モンかって事によ」
鷹城につき従う二匹の柴犬、千代錦に疾風丸も、主の言葉を肯定するかのように吼えた。
「ふうむ‥‥、不死や死人、生ける屍のたぐいに相違なかろうが‥‥然れども、まずはそやつが何者か、そして何処に潜んでいるかを突き止めねばなりますまい。幸いにして、我らは鼻の効く友を従えておる。匂いを辿れば、そやつを見つけ、討ち取る事ができるやもしれぬな」
と、磯城弥の従えている二匹の犬‥‥柴犬のヤツハシ、忍犬のナラヅケが、低いうなり声を上げた。それに続き、千代錦と疾風丸もまた、警戒のうなりを上げている。
子犬と馬を置いてきて良かったと、モードレッド・サージェイ(ea7310)は思った。それと同時に、彼は冷酷めいた薄笑を唇に浮かべていた。
「へっ、あの世に送るやつ、約一名‥‥もとい、一匹ご案内ってとこだな。‥‥神よ、我が剣の刃が罪深き獣を狩り、犠牲者の御霊に安らぎを与えん事を御赦し下さい」携えたクルスソードの鞘を払い、彼はその刀身に祈りをささげ、白刃の煌きとともに集中した。
若き浪人もまた、腰の得物の刃をあらわにする。相州正宗、名匠が鍛えし業物の刀身が、白昼の闇を切り開く鋭い切っ先となり、鋼の力となりて鷹碕渉(eb2364)に自信と闘志、勇気を送り込んだ。
「志波姫、頼むぞ!」
志士、柚衛秋人(eb5106)が、肩に止まらせていた鷲を飛翔させた。大空を駆ける猛禽は、主に従い天に羽ばたき、空中を旋回した。そして鷲の主は、翼あるしもべに負けぬ勇猛さを示さんと、携えていた『マガツヒ』を身構えた。
漆黒の霊槍、それはまさに死の呪いがかけられた暗黒の力を連想させる。
シェリル・オレアリス(eb4803)。エルフの僧侶はその間近で、魔の力を行使する巻物を用い、自身の視力を増強していた。
「前方三百mくらいに‥‥いたわ、熊よ! 最初の聞き込みの時に聞いた特徴どおりね」
月の輪熊‥‥胸部の月の輪の模様が、普通ならば白いものが、返り血を浴び赤く染まっている事から、それは『赤月』と呼ばれていた。おりしもそれは、立ち上がり鹿を前足で薙ぎ払っては、そのまま放置している。遊び半分で獲物を襲うという行為からも、そいつが件の熊である事は相違無い。
「それじゃあ‥‥行くぞ!」
河童の忍者の掛け声とともに、六人の冒険者は熊を討つべく行動を開始した!
赤月の最後の戦いにおいて、最初に受けた傷と痛みは四匹の犬によるもの。
忍犬ナラヅケをはじめとする、冒険者たちの忠実なる犬の噛みつきが、熊に軽微ではあったが驚愕とともに傷をつけた。続き、空中から志波姫の鋭い爪が、赤月の顔面に襲い掛かる。
瞼を引っかかれた熊は、太い前足、ないしはその短剣のように鋭い爪で薙ぎ払おうとするも、鷲と犬たちはすぐに離れた。
入れ替わりに、熊の脇から黒き槍が突き出された。魔槍マガツヒの穂先が、赤月を鮮血で飾り、痛みを与える。怒りとともに前足を振り回した巨大な獣は、こしゃくな敵を叩き潰さんと、柚衛へと爪の一撃を見舞おうと目論んだ。
爪の一撃が僅かにかすり、柚衛の頬に一筋の傷がつく。柚衛は驚き、恐怖した。食らったダメージは軽微なれど、それよりも獣の凶暴さ、獰猛さに対し、ただならぬ恐怖を覚えたのだ。
もしも仲間がいなければ、恐怖に潰されていたに違いない。それは彼のみならず、他の面子も同じ事。然れども、冒険者たちは熊のそれ以上の一撃を食らわさんと、激しい闘志とともに武器を振るい続けた。鷹碕の相州正宗の一閃が別の方向から襲い掛かり、鷹城の龍叱爪が熊の背中から襲撃する。訓練と鍛錬、修練を受けたもののみが与えられる正確な一撃が、赤月の体力を徐々に削り取り、奪い取っていった。
手近の太い枝を一撃のうちに叩き折り、木の幹が牙によって深くかじりとられ、熊の蛮勇さが森に刻まれていく。が、それでも命ある存在に終焉の時がくるは必至。赤月に関しては、それが今日のこの時である事を、磯城弥は確信した。
絶望を超えた闘志が、冒険者たちの瞳の中に輝く。ロシア王国の神聖騎士が、熊に引導を渡さんと最後の一撃を繰り出した。
「迷わず、飢えず、神の御許に行くんだな‥‥スマッシュ!」
モードレッドのクルスソードが、熊の喉笛を深く食い込み、鮮血を迸らせた。
「最初の目標はしとめた。が、二番目のそいつらは、まだどこにいるか、どのあたりに潜んでいるかも分からない状態か」
焚き火とともに、鷹碕がつぶやく。
冒険者は、再び山中にいた。熊をしとめ、その証拠を町に持ち込んだ時。人々は喜び、うれし涙を流していた。が、依頼は半分しかこなしていない。残り半分を終わらせない事には、この笑顔と涙は無駄という事になる。
かくして、彼らは山中は適当な場所を見つけ、野営をしていた。
二人の忍者が、飼い犬二匹とともに山中を探索し、悪臭を漂わせる何者かの姿を追っている。そいつらはどこにいるのか、見つかるのか。
不安とともに、冒険者たちは待ち続けた。
鷹碕、モードレッド、柚衛が焚き火とともに仲間の帰りを待っていると‥‥。
「御同輩、どうやら目標を見つけたようですぞ」
薄暮の暗がりから、河童の忍者が顔を出した。
磯城弥の有する頭蓋骨が、歯を鳴らす。周囲には腐臭が漂い、その場にいる者たちの胃の腑を逆流させ、激しい吐き気をもよおさせた。
それもそのはず、周囲には種々の動物の遺体が折り重なり、さながら山の動物たちの墓場と化していた。ほとんどは白骨化し、たかっている蝿の方が残った腐肉よりも多いくらいだ。枝を繁らせた大木が、それらの墓石のようにそこに根を下ろしている。
「惑いのしゃれこうべが、これほどまでに歯を鳴らしてるっつー事は、間違いなくこの周辺に居やがるな‥‥くっ、それにしてもこの臭い、なんとかならねーもんか」
鷹城がぼやく。ぼやきつつ、彼は武器、そして清めの塩を手にして身構えた。彼だけでなく、全員が武器をもちて身構える。前方の暗がり、ないしは洞窟の中から、一体の「それ」が、強い腐臭とともに現れたのだ。
腐りかけた皮膚は、どろどろした腐汁にまみれ、所々が壊死したかのように朽ちかけている。が、死人憑きと異なり、そいつは機敏に歩き、生命力すら感じさせるくらいに力強い動きを見せていた。歩くたびに、地面、ないしは落ちている骨に腐った皮膚の断片がへばりつき、さらなる腐臭と死臭を漂わせていた。
「‥‥やはり、死食鬼! くっ、やっかいな相手だな」
鷹城と同じく、柚衛も清めの塩を手にしていた。マガツヒは背にくくり、もう片手には越中国則重の小太刀を握っている。槍に比べ小さい武装なれど、決して引けはとらない武器だ。
柚衛の隣で、鷹碕もまた清めの塩の包みを手に、それを撒こうと身構えていた。これを撒けば、少なくとも一体は倒す事が出来るだろう。
磯城弥、モードレッド、シェリルの三人が、後衛を受け持つ。四匹の犬と一羽の鷲は、周囲からの不意打ちを食らわぬようにと油断なく左右と後方へ目を配っていた。
「『臭い奴』が、これなら‥‥あとの二体はどこ? どこにいるというの?」
シェリルはインフラビジョンのスクロールを用いて、前後左右を見回す。なのに、どこにもそれらしい姿がない。
「一体、どこに‥‥?」
が、前衛の三人が塩を使うべく、包みを解こうとしたその時。
「! 鷹城殿、上だ!」
磯城弥の警告は間に合わなかった。悪夢の塊りのごとき、二体の悪臭の権化が振ってきた。
正確には、大木の枝の上に潜んでいた二体の死食鬼が、三人の上へと落下したのだった。その衝撃はたいしたダメージにはならなかったが、三人の手から塩の包みを弾き飛ばすのに足るものであった。
「んなろーっ!」
転がってそいつらから逃れた鷹城は、用意していた銀の髪留めを、そいつの片方の眼球に突き刺した。視力を半分奪われた死食鬼は躊躇し動揺し、隙を見せる。その隙に塩の包みを探したが、すぐには見当たらなかった。
「ちっ、ツイてないぜ!」
言いつつ、彼は体勢を立て直すべく、仲間たちの元へと走る。
「はっ!」
「たーっ!」
相州正宗と越中国則重の刃が、腐った体を深く、えぐるように切り裂いた。が、命なき体は痛みを感じず、さほどダメージを受けたようには見えない。しかしそれでも、怪物どもを退けさせ、体勢を整えるだけの時間を稼ぐ事は出来た。
三体の不死にして痛みを知らぬ化物、対するは生命力に溢れた六名の冒険者。怪物の濁った瞳が、獲物を捕らえんと見つめている。
「塩の包みは‥‥くそっ、取りに行けねえか!」
「ならば!」
モードレッドの歯噛みとともに、磯城弥が動いた!
「‥‥!」
彼の手が、手にした弓の弦をかき鳴らす。鳴弦の弓が奏でる音が、死食鬼どもを躊躇させ、混乱に陥らせる!
混乱した怪物に対し、鷹碕が相州正宗の必殺の一撃を繰り出した! 烈風よりもすばやき刃の閃光が、死食鬼の喉元を狙い一閃する!
「破ぁぁぁぁ−ッ!」
斬!
鷹碕の熾烈なる剣の斬撃が、不死の怪物の喉元へと叩き込まれる!
ポイントアタックEXにて、死食鬼の一体目は首を切断され、その動きを止めた。
「いやあぁぁぁっ!」
柚衛もまた、マガツヒを手に持ち替え、その切っ先を不死の化物へと刺し、穿った!
ポイントアタックは、二体目の死食鬼、ないしは片方の膝を貫き、切断した。片足を失い倒れたそれは、両腕ではいずってさらに攻撃をしかけようとしたが、四匹の犬と一羽の鷲、そして鷹城がそれを阻んだ。
「往生しやがれ、死にぞこない野郎!」
熊への一撃同様に、モードレッドの剣が宙を切る。それとともに怪物の首も切られ、二体目も永眠した。
よろけつつも、三体目の死食鬼が牙と爪で迫り来る。が、既にシェリルは呪文を唱え終わっていた。
「全てを無に帰す、破壊と滅びの力‥‥我に集い、解き放たれよ! 『ディストロイ』!」
呪文により練られた破壊の力が、屍を食い、罪なき人々を死へと誘った不死の怪物へと放たれ、破滅をもたらした。
三体目の死食鬼は、上半身を爆裂させ、倒れ、そのまま二度と動かなかった。
「では、脅威となる存在は無くなったと?」
帰還した六名、並びに四匹と一羽を迎えた智三郎は、念を押すかのように何度も問いかけた。
「ええ。三体の臭い奴‥‥間違いなく、私たちが退治した死食鬼でしょう。熊ともども、この通り退治しましたわ」
「無論、他に脅威になるものが無いかどうか、可能な限り調べては見た。が、どうやら大丈夫のようじゃ。安心するがいい」
シェリルと磯城弥の言葉に、智三郎は安堵のため息をついた。太助の命を奪った熊は退治され、それとともに三匹の怪物も退治した。他の犠牲者ともども、皆あの世で感謝し、成仏してくれる事だろう。
「ま、少々手ごわい敵だったがな。もう大丈夫だぜ」
鷹城が、ボロ布で銀の髪留めの汚れを拭き取りつつ言った。汚れを落とした髪留めは、清めの塩の包みとともに丁寧に背嚢へとしまいこむ。
彼と柚衛、鷹碕の清めの塩は、まだ包みを解いていなかったため、回収できたのだった。より手ごわく、そして邪悪な不死の怪物に対し、これは用いる事になるだろう。
「本当に、ありがとうございました。これで太助や皆も浮かばれる事でしょう」
「ともかくだ、これでこの町を脅かす奴らがいなくなった事を祈るばかりだ。それをもって、亡くなった人たちへの鎮魂になれば良いんだがな。神よ、彼の獣と怪物の犠牲者たちの魂が、安らかなる事を」
智三郎に相槌をうちながら、モードレッドは祈りを捧げた。
以後も、この周辺に獣は出たものの、この時のような巨大な熊や、邪悪な死食鬼のような不死の怪物は現われなくなった。
木彫町に再び平和が訪れた。そして、建てられた町の慰霊碑には、太助ら今回の事件の犠牲者たちの名前が刻まれ、この町のためにその命を捧げた者として語り継がれる事になった。
智三郎は毎日の仕事始めと終わりには、この慰霊碑に手を合わせることで、彼らを悼み、彼らに感謝するのだった。
今も慰霊碑は、町を見守るかのように佇んでいる。