砂浜に隠れた悪魔
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■ショートシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月14日〜11月19日
リプレイ公開日:2007年11月22日
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●オープニング
秋も深まり、冬の季節がやってくる。
しかし、その島には誰もが足を踏み入れることに躊躇していた。
きっかけは、先日。平塚湾での出来事。
江戸から離れた場所に位置する、平塚湾。その湾内部には、小さな島があった。
それは、平塚島。島内部にある村は、平塚村と呼ばれていた。
平塚島に一番近い隣村は、辻堂村。そこは、湾の海岸からさらに陸地奥に向かった場所にある、街道沿いの小さな村。
そこから湾へと向かい、海岸に。海岸から船を出して、湾内部の島へと向かっていくのだ。というのも、湾の海岸周辺はごつごつした岩場が多く、あまり人が住むには向かない地形であったのだ。そこで村人たちは、ほとんどが湾内部の島、平塚島の平塚村に住んでいた。
そこは海岸よりも住みやすい。周囲は砂浜にぐるりと囲まれ、船も停留させやすい。それなりに住むのに困らなかった。
辻堂村の村長の息子であり、村長代理の若者、小源太は、平塚島へと向かっていた。というのも、父親や辻堂村の村民たちが戻ってこなかったためだ。
平塚村と辻堂村とは、お互いに懇意。平塚村で取れた魚と、辻堂村の作物とを交換し、二つの村はお互いにうまくやっていた。
しかし、いつもの事ではあったが、色々と村の間で話し合いを行う必要もある。今回は、平塚村の魚の干物を仕入れ、それを商品として売り、もうけの山分けを話し合う予定。
そのために、彼らは村長同士で話し合う予定であった。
が、朝に出て、戻る予定は昼過ぎ。遅くとも夕方までには戻ると言い残してはいたのだが、戻ってはこなかった。
かくして次の日。辻堂村の若者数人が、船に乗り込み向かっていった。そして、彼らも戻ってはこなかった。
その次の日。小源太は今度は自らが島へと繰り出すことに。仲間を数人引き連れて、彼は湾へ、そして島へと船を漕いでいった。
「?」
彼はすぐに違和感を覚えた。平塚島は、湾から船を漕ぎ出したら、すぐに見える場所に、砂浜の上に小屋が並んだ村がある。村の連中は人なつっこく、船が近づいてきたらすぐにでも迎えに出てくるのだが、今回は違っていた。
浜辺には、誰も出てこない。
「小源太ぼっちゃん。平塚村の連中、どうしたんでしょうね?」辻堂村から同行した、赤太郎が疑問に思ってつぶやいた。
確かに変だ。あの人なつっこい村人たちが顔を出さないのも変だが、それ以前に違和感を覚えていた。
静か過ぎる。人の気配が無さ過ぎる。この時期ならば、外洋へ向かって船を漕ぎ出し漁をしてもいい頃だし、村には女子供が残っているだろうから出迎えに出てもいいはず。
なのに、ひっそりと静まり返っているのはどういうわけか。まるで‥‥平塚村から、人が消えてしまったかのように。
疑問に思いつつ、小源太と連れの二人、赤太郎と青次郎は上陸した。小源太と青次郎は村の小屋を、赤太郎は周囲の砂浜を探すことに。小源太たちは念のためにと、小刀と銛を手にしていた。
しかし、何も見つからない。青次郎は赤太郎のもとへと戻り、小源太は島の内部へと進んでいった。が、誰の姿も見当たらない。
が、小源太が考えを巡らせていると、謎の答えを知らせる声が聞こえてきた。
正確には悲鳴、もっと正確には赤太郎と青次郎の悲鳴であったが。
海岸へと向かった小源太は、そこで凄惨な状況を目にした。青次郎は、兄を目の前にして凍り付いていた。目の前には、大きな砂の塊があり、赤太郎はその砂に顔を残して包まれていたのだ。
「あ、あ、あ‥‥」
青次郎は、動けなかった。兄を助けようとする以前に、その異様な光景に身体の自由を奪われたかのように。
「青次郎! 赤太郎を助けるんだ!」
小源太の声に、青次郎は正気に戻った。が、時既に遅し。赤太郎の顔をも砂は覆いつくし、目の前には奇妙な砂山が蠢くことに。
砂山は、砂浜に溶け込むようにして低くなり、やがて姿を消してしまった。
「ち、畜生! よくも兄貴を!」
足元の砂を、銛で突きまくる青次郎。小源太は青次郎の下へと走るが、彼への警告は遅すぎた。
「逃げろ! 後ろだ!」
青次郎は振り向いた。そこで彼が見たものは、足元から沸きあがった砂の塊。それは棍棒のごとく、したたかに彼を殴りつけた。
地面に倒れた青次郎だが、間髪入れず、新たな砂の腕が地面より生えてきた。それは青次郎の顔をおおい、首を、胴体を締め付けた。
顔は完全に砂に埋まり、青次郎は手で砂をかきむしった。が、その腕すらも砂は飲み込み、包み込んでしまった。彼は兄と同じく、完全に砂に飲み込まれ、砂浜と同化した。
砂の表面がもぞもぞと動いていたが、それすらもすぐにおさまり、無くなった。一寸前に、砂に飲まれてしまった男が居た痕跡などない。
否、ひとつだけ。赤太郎と青次郎が持っていた、銛と小刀が転がっている。
「!」
小源太は、きびすを返して逃げた。後ろは振り向かなかった。恐怖で身体が動かず、混乱した頭がもとに戻ると、すぐに恐怖が取って返した。
すぐに逃げろ、とどまっていると確実に死ぬ。本能が彼にそう警告し、小源太はそれに従った。後で罪の意識に苛まれるだろうし(実際彼は後で罪悪感に悩まされ、眠ることすら出来なかった)、臆病者だとそしりを受けるにちがいない。
が、戦おうなどとは考えもしなかった。彼は武士でもなければ、戦うすべを持たないただの村民。それに、あんな砂の塊を相手にして、どう戦えというのか?
青次郎を見捨てて逃げるのは辛かったが、だからといってあの後を追いたいとも思わない。彼は走った。
足元を、わずかに砂がこすれる感触を何度も感じる。実際、触手状になった砂が、小源太の足を捕らえようとして絡みついていたのだ。
理解した。この状況を見て理解した。村人たちがどこに行ったのか、そしてどういう末路をたどったのか。赤太郎と青次郎、彼らと同じ運命をたどったに違いない。
乗ってきた船を漕ぎ出そうとするが、砂の腕が船底を叩き壊した。が、櫂で砂の腕を何度も叩きのめし、小源太はむりやり漕ぎ出した。
船底に開いた穴から浸水し、船は途中で沈んでいく。小源太は海に飛び込み、湾へ、陸地へと泳いだ。
岩場に上がり一息つくまで、彼は生きた心地がしなかった。疲労が彼を襲い、眠気が彼を誘う。泥のように眠りこけ、彼は目覚めた。
あれが悪夢であったら、どんなに良かっただろう。しかし悪夢でない証拠に、周りには赤太郎も青次郎も居ない。自分の親友だったあの兄弟は、砂の化け物に襲われ、そして殺されて食われたのだろう。
その様子を小源太は目の当たりにして、それを見捨ててこうやって逃げ帰ってきた。いや、兄弟たちだけでない。父や、平塚村の友人たちの弔いもせずに逃げ帰ってしまったのだ。
「‥‥というわけです。僕は、親友たちが死ぬところを見ても、なにも出来ずに震えているしか出来ませんでした。敵を討ちたいとは思いますが、どうすればいいかわかりません。どうか、皆さんのお力を貸してください。あの、砂の化け物を退治してください!」
ギルドを訪ねた小源太は、君たちへと頭を下げた。
●リプレイ本文
一見すると、平穏そのもの。砂はなだらか、冬空だが晴天で、そのあたりを子供が走り回っていてもおかしくなさそうな情景。
冒険者たちは、それを遠目に見つつ、心中は穏やかではなかった。数々の修羅場をくぐり、古強者として実力を付けた者たち。並みの怪物や悪漢たちが迫ろうとも、それらを退ける事ができるだろうし、実際退けてきた。
が、今回の敵、砂の怪物に対してもそれが行えるか。些かの不安を感じるとともに、それを倒すべく心意気を新たにして、六人の冒険者たちは船を平塚島へと進めていた。
「船の大きさは問題無いんやろうけど、大丈夫かいなあ」戦馬ブラストウィンドの背の上で、イフェリア・アイランズ(ea2890)、シフールの軽業師はつぶやいた。彼女のペット、フェアリーの弥生も、主人と同じように不安を隠せない。
「この船は、辻堂村でも特別あつらえの頑丈なものだそうだ。強度の点は大丈夫だろう。船から降りなければ、な」柴犬の疾風丸(ころ)をなでつつ、鷹城空魔(ea0276)もまた島へと視線を向けていた。純白の忍鎧に身を包んだ彼は、その肩に緑の翼を持つフェアリー・摩利を止まらせている。
鷹城の言うとおり、船はムクの特別固い木材を用いている。斧や錐を用いても、そう簡単には破壊できないほどの強度を有しているはずだ。今回の事件にあたり、村の方で貸し出してくれたのだ。
「じきに、島に着きます。みなさん、準備はよろしいですか?」
瀬戸喪(ea0443)の言葉に、他の五人の冒険者たちはうなずいた。
砂浜の上に撒き餌をするかのごとく、何かがばら撒かれていた。
それは、保存食‥‥魚の干物や野菜などを乾燥させたもの。僧侶、トマス・ウェスト(ea8714)は当初には自前の保存食を用いるつもりだったが、村の連中が持たせてくれた保存食の方が役立ちそうであったため、そちらをまず使うことにした。
瀬戸もウエストと同じく、砂浜の表面へと撒布している。ただし、こちらは小石や小枝、草木など。砂中の何かが流動したら、これらがそれを教えてくれる事だろう。‥‥問題は、襲撃する存在が分かっても、それに対処できるか否かという事だが。
鷹城は、釣った魚を何匹か、びくに入れていた。生きた撒き餌。砂中に潜む何物かが、これに気づいてつられてくれれば良いのだが。
同じく、黒皮の鎧に身を包んだ美貌の志士、超美人(ea2831)もまた生餌を撒き餌として砂浜に放っていた。辻堂村周辺で捕まえた、兎や野生の鶏、狐などを捕まえ、それを砂浜に解き放ったのだ。
が、それらは砂浜を一瞥すると、すぐに奥へ、奥の泉の方へと逃げようとした。おそらくは、本能的に危険を察知したからに違いないだろう。紐で近くの杭につながれてなければ、島の奥へと逃げ込み、出てこないことだろう。
「まだ、出てこないわね‥‥けど、これで見つけてみせるわ!」
マクファーソン・パトリシア(ea2832)、フランク王国のウィザードは、愛犬バロンとともに砂浜を見つめつぶやいた。その手には、水袋が握られている。墨汁が入ったそれをぶつければ、目印になって戦いやすくなると考えてのことだ。
「もっとも」彼女は付け加えた。「相手より先に、自分たちが見つけてぶつけなければならないけどね」
「いざ、参る!」
船の上には、何人かが用心のため、そして帰りの足を守るために残っている。
鷹城は、びくの魚を巻きつつ、砂浜を全速力で駆け抜けた。自分を囮にして、砂の怪物を島中央の泉へとおびきだそうと考えての事だ。それにうまくいけば、マクファーソンの墨汁をぶつけられるかもしれない。
が、その期待は裏切られた。砂地から土に、内部の岩場の上にたどり着いた鷹城に対して、砂浜はなにも反応しない。そこには居ないのか、あるいは様子を伺っているのか。
放られた魚のみ、むなしく砂浜に転がっている状態だった。
「‥‥やつは、どこだ?」
船に乗り、主人を見つめていた疾風丸、そして冒険者たち。
砂の上に放った保存食も、小石や草木も、まるで反応していない。食料を無駄にしたのだろうかと、ウエストは訝しんだ。
「ふむーっ、砂のジェルごときに、食料を無駄にしたか〜‥‥まあ、構わぬ〜。田舎者どもが用意した食料が口に合わなかっただけかも知れぬし、これしきで我が天才はどだい揺るがん〜!」
鋭い視線を泳がせつつ、ウエストは砂浜を仰いだ。この程度でやつが、砂の怪物が簡単におびき出せるものとは最初から考えてはいない。
ジェルのたぐいならば、知能はそれほど高いはずは無い。きっと今は我々を感知していないか、あるいは襲う気が無いのだろう‥‥しばらくの間は。
村の人間を一挙に襲った‥‥状況的に見て、一挙に襲い掛かったに違いなかろう‥‥怪物にしてみれば、わずかな人数などものの数には入らないはず。やつは必ず我々を襲ってくる。そこを突いて、殲滅してみせよう。
大仰な手振りで、彼は考える姿をとった。
「最後に勝利するのは、我輩である事は違いなし〜‥‥けひゃひゃひゃひゃ」
充分に用心しつつ、冒険者たちは砂浜に注意して、砂の怪物の姿を追い求めていた。が、探索行はさしあたってうまく行っているとは言いがたい。
数刻がたち、日も傾き始めている。砂浜の砂地の上に、鷹城が放った魚が徐々に腐臭を漂わせ始めた頃。
ぼんやりとそれを見ていたイフェリアだが、ふと視線を戻したその時。
「!」
魚が、消えていた。たった今、視線をそれからわずかに離しただけだったのに。
それに気づいたのか、イフェリアの愛馬・ブラストウィンドも警戒するかのようにうなり、マクファーソンの愛犬バロン、鷹城の疾風丸もまた、うなり声を上げていた。間違いなく何かが居る、得体の知れない何か、そして警戒させるだけの何かが。
船上には、ブラストウィンドに加えてもう一頭、馬が乗っていた。香影‥‥超の荷物を積載しているその馬は、ごく普通の馬。不安そうに鼻を鳴らし、主人を仰ぎ見た。
主人である超はすでに島の奥、鷹城の近く、溜め池周辺にてウエストとともに調査をしていた。何事も起きず、安全が確認されたと判断したために、船から出て島の奥へと足を踏み入れたのだ。
「落ち着け。ほら、カモメだ」
超の言葉通り、カモメが舞い降りている。それがさっと魚を取り、そのまま空中へと腐った魚をくわえ、去っていったのだ。
イフェリアとともに船上に残っていた瀬戸、そしてマクファーソンも、胸をなでおろした。そういえば、ばら撒いた保存食もカモメがつついている。こんな事をしたら、砂の怪物のみならず鳥がついばみに来るだろう。
が、次の瞬間。全員の顔が凍りついた。
最後の魚をついばもうとしたカモメが、砂中へと引きずり込まれたのだ。
「!」
それを合図にしたかのように、近くの保存食、そして生きた獲物もまた、砂に引きずり込まれていくのを、冒険者たちは見た。
「何!?」
「やつです!」
マクファーソンは驚愕し、瀬戸が叫ぶ。その言葉とともに、彼らは然るべき行動、然るべき態勢を迅速に整えた。
兎が、砂中へと引きずり込まれる。否、砂からタケノコのように生えてきた触手が、兎に、狐に、狸に、鶏に巻きつき、砂中へと引きずり込んだのだ。そして触手は、全てが砂で出来ていた。
「はあっ!」
マクファーソンはすぐに、すべきことをした。触手のひとつに向けて、墨汁が入った袋を投げつけたのだ。
反射的に、触手はそれを受け止めた。長いそれが袋に絡み、中身を染み出させる。黒い滴りが砂へと染み込み、色をつけた。
とたんに、水分を得た砂の触手が崩れ、分解した。明らかに、何らかのダメージを受けているようだ。そして、それっきり動かなくなった。
黒く濡れた触手は、砂浜の上に転がり動こうとしない。おそらく、体の一部のみ。切り離したのか、あるいはその部分のみが死んで剥がれ落ちたのか。
「‥‥来るぞ!」
次の瞬間、船に‥‥瀬戸、マクファーソン、イフェリアらの前に、巨大な砂の人間、ないしはその上半身が出現した。まるで、子供が土くれや粘土で作り上げたかのような、大雑把な姿。かろうじて人の輪郭をしているにすぎない、砂の塊。体の所々からはさらさらと、砂が流れ落ちている。
しかし、その砂の人型は大きかった。少なくとも、熊や熊鬼、山鬼と同じくらいの大きさではあったが、普通の人間よりも巨大なのは間違いない。
巨大な握りこぶしを振り上げると、それは即座に振り下ろした。
「あっ、危ない!」
イフェリアとフェアリーたちは空中に、マクファーソンと瀬戸、そして犬と馬たちは船の後部へと逃げた。が、船の前部はまるで巨大な岩塊に叩きつけられたかのように、粉々に砕け散ってしまった。
「船の修理費、弁償してもらいますよ!」
得物を構えた瀬戸は、砂の怪物へと切りつけた。太刀「薄緑」、その名の通り、薄い緑色の刀身を有する見事な刀。刃が怪物の腕に食い込み、切断する。怪物は痛みを感じたかのように、悲痛な叫び声をあげた。まるで砂嵐をもろにうけた家屋の隙間風のように、ざらついた咆哮だった。
が、それだけだ。腕は落ちて砕け、ただの砂の塊に。しかし本体から砂が伸び、新たな腕が形成された。
再び腕を振り下ろそうとした刹那、マクファーソンの呪文の詠唱が終わり、魔力が放たれた。
「吹雪よ! 凍えしその力を嵐と化して、我が掌に集い、我が敵を撃たん! 『アイスブリザード』!」
身を切り裂く冷気が、エルフのウィザードによって発生した。それは砂の怪物へ直撃し、霜を作らせ、氷で固めた。砂男の上半身は氷で固まり、そのまま崩れ落ちて砕け散った。
残った下半身が、再び上半身を形成する。が、明らかに以前よりも小さい。まちがいなく、痛手を被っている。
「おおっと、逃がさへんで!」
空中から砂男の後ろに回りこんだイフェリアが、アイスコフィンのスクロールを用いた。残った下半身、そしてその周辺の砂浜表面をも凍りつかせる。砂男が入った巨大な氷像は、そのまま倒れると、粉々に砕け散った。
「ふむ、どうやら終わったようだな〜」
「いや、まだ倒したとは限らん! 油断するな!」
「ああ、まだやつを滅したとは言い切れねーぜ‥‥!」
ウエストと超、鷹城が砂浜へと足を踏み入れ、船へと向かい始めた。
まだ、油断はできない。足元はイフェリアのスクロール、アイスコフィンの影響で氷が張っている。つまり、足元からいきなり襲い掛かられる可能性は低くなった。
しかし、奴を殺せたかはまだ分からない。否、完全に確信を持たない限り、安心はできない。そして、まだ奴を完全に滅したという確信はえていない。
六人の冒険者たちは、抜け目無く注意深く、周囲を見つめる。軟体の不定形な怪物ならば、完全に叩かなくてはならない。剣で片をつけるには、細切れにするまで切り刻まないと再生してしまうし、呪文にしても全体を一撃で倒さない事には意味が無い。
先刻に放たれた冷気の呪文は、多大なるダメージを与えた。が、敵の本体がどのくらいの大きさかは把握し切れてない。ここの村人全員を砂中に引きずり込み、食い殺したのだ。それを忘れたら、自分たちも彼ら同様に食われることになるだろう。
感覚的に、冒険者たちは悟った。「まだ終わっていない」「やつは最後の攻撃をしかける」と。どこから来るか、どこから‥‥!?
その答えは、すぐに判明した。三つに分かれた砂男が、三つの方角から同時に襲い掛かってきたのだ。
しかし、痛手を被り分裂したためか、それらの大きさはもう小鬼程度でしかない。
「来るなら来い! 貴様が何体いようが、俺の爪は休まねえぜ!」鷹城の両腕に備わった龍叱爪が砂の塊を切り裂き、
「やはり居たか! ならば徹底的に抹殺するのみ!」超の鉄扇が、砂の怪物を打ち据える。
「我が言葉〜、枷となりて其を縛れ〜『コアギュレイト』〜」そして、僧侶の呪文が砂の怪物を縛りつけた。すかさず、鷹城の爪と超の鉄扇が、動かぬ砂の怪物へ致命的な一撃を食らわせる。
「なっ、こいつ!」
しかし怪物は、最後のあがきを見せた。鷹城と超とが倒した、砂男の分身。その断片が最後に寄り集まり、出し抜けに船へと手をかけたのだ。
しかし、それが怪物の最後だった。
「慌てない、慌てない〜。試獲留丸弐式、いけるかね〜?」
主人の、ウエストの問いかけに答えたスモールシェルドラゴンが、海上に顔を出した。口から放たれたのは、強烈な冷気。
苦悶らしき叫びとともに、砂男は凍りつき、果てた。
「やはり、村人たちの亡骸は見あたらないか」
「ああ。おそらくは‥‥奴に」
鷹城と超は、悲痛な現実を認めざるをえなかった。
あれから砂男の襲撃はなく、冒険者たちは完全に怪物を倒したものと判断。砂浜へと降り立ち、村へと向かった。
船の応急処置と、村人たちの遺体が残っていたら、それを弔うために。
「気の毒に‥‥なんて事かしら!」
しかし、それはかなわないだろう。マクファーソンは改めて苦々しさを覚えた。
「気の毒ですが、村人たちは奴に食われ、消化されてしまったものかと」
「さすがにもう、遺体を見つけて埋葬は無理だろうね〜‥‥」
瀬戸がつぶやき、ウエストもまたかぶりをふった。
しかしそれでも、祈ることは出来る。
「墓は無理でも‥‥線香は上げてたらんとあかんなあ」
イフェリアの言葉に、誰も反対はしなかった。船を修理して戻る前に、冒険者たちは出来る限りで合掌し、村人たちの冥福を祈った。
やがて平塚村には、慰霊碑が建てられた。以後、辻堂村を見守るかのように、そこに建ち続けている。
慰霊碑を建てた小源太は、平塚村で命を落とした者たちを忘れることなく生きようと、改めて誓うのだった。