茶鬼盗賊団の洞窟

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 43 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月23日〜04月02日

リプレイ公開日:2009年03月30日

●オープニング

土浦の商店・池田屋。
池田文左衛門が商うかの商店では、頭を抱える事情が発生していた。
盗賊により、またも商品が盗まれてしまったのだ。

今回盗まれたのは、江戸から取り寄せた珍しい食材の数々。高く売れるだろうと思いきや、とんだ不運を招く結果になってしまった。
 このところ、多く出現している小鬼や茶鬼の盗賊団。彼らにより襲撃を受け、そして積んでいた商品をごっそりと持っていかれる。これを数度繰り返され、池田屋は手痛い損失を受けていた。
 
「そういうわけで、皆様にお願いした次第なのです」
 池田文左衛門が、事の次第を君たちに打ち明けていた。ギルドの応接室では、君たちと文左衛門とが互いに向き合い、座っている。文左衛門の表情は、あまり良いものではない。
 彼の隣には、一人の若武者が居た。誠実そうな顔つきの、切れ長の目をした若者。しかし、全身には血のにじんでいる包帯が巻かれていた。動くたびに痛むのか、顔をしかめている。
 彼は、杉村一心と名乗っていた。
「皆様にやっていただきたい事は、二つございます。ひとつは、この盗賊どもを退治していただきたい事。そしてもうひとつは‥‥」
 商品の中には、貴重なものがある。それを取り返してもらいたい。それが池田屋の依頼。

 池田屋は、友人から頼みごとをされていた。
 それは、散逸した家の、家宝を買い戻す事。
 池田屋店主・池田文左衛門の友人、桑野雷蔵。かつて桑野家は、度重なる戦により、多くの資金を失い、貧困生活を送っていた事があった。
 幼き日の雷蔵は、その時の事を覚えている。そして両親や親族は、苦渋の想いで家宝たる家の武具を売り飛ばし、当座の生活費を得ていた。
 大切にしていた物を切り売りする事は、家の人間、とりわけ雷蔵にとっては、ひどく屈辱に満ちたものであった。武士の魂と教えられた刀剣を、二束三文で売りさばく。
 その様子を見て、雷蔵は誓っていた。いつか必ず、あれを取り戻すと。

 やがて。成長した少年は一人前の男となり、幼名を捨て雷蔵を名乗る。以後、様々な出来事があったが、家宝を取り戻す事は忘れてはいなかった。
 南常陸一帯を治めている当主・八田知家に仕え、桑野家は再び家の力を取り戻しつつあった。蓄えも得て、かつて散逸させてしまった家宝を取り戻す機会も得た。
 文左衛門を友人に迎えられた事も、雷蔵にとっては大きかった。各方面に顔が利く文左衛門と、池田屋の情報網が役に立った事は少なくない。
 しかし、今回の雷蔵は少々先走っていた。

 山奥に根城を持つ、犬鬼の盗賊団「爪目一家」。そいつらが襲撃し、横取りした池田屋の商品。その中には、大刀があった。
 文左衛門が、江戸の知り合いに頼み、そして買い戻した桑野家の家宝。その名も、名刀「雷通丸」。
 雷が落ちたかのように、振り下ろした物はなんでも切り裂く事ができる、といった剣。父親が死の間際「ひと目、雷通丸の刃を見てから死にたい」と言い残し他界したのを、幼き日の雷蔵は見ていた。
 もちろん、文左衛門は十分に武装を整えさせ、隊商を守らせていた。が、それでも犬鬼の群れは襲撃し、積荷を奪い取っていったのだ。その中には、雷通丸もあった。
 待ちきれない雷蔵は、杉村一心をはじめとした、部下の中でも手練の者たちを数名連れ、襲撃場所へと赴いた。危険だからと止める文左衛門に耳を貸さず、自らの手で奪還せんと思い立ったのだ。
 が、彼は剣を取り返すところか、部下を数名失い、更には毒矢を受けて死に瀕していた。
「杉村様の言葉によりますと、襲撃場所からすぐ近くに『爪目一家』‥‥犬鬼どもの根城を見つけたそうなのです。が、そこは既に襲撃を受けており、犬鬼どもも何匹かが死んで転がっていたそうで」
 そこは、森林内の、山の尾根にあたる場所。そしてそこには、洞窟があった。
その洞窟へと、向かっていったところ。
「そこで、茶鬼の盗賊団『赤舌組』が襲い掛かってきた、との事なのです」
 いきなり不意を突かれたため、皆は弓矢の掃射をもろに受けてしまった。かろうじて杉村一心と雷蔵のみがかすり傷で終わったが、後方から雷蔵に打ち込まれた矢には、毒が塗ってあったのだ。
「我々はなんとか逃げ出しましたが、毒矢を受けた雷蔵様はいまだ床に伏せております。皆様方に依頼したいのは、爪目一家の洞窟へと赴き、犬鬼どもが奪った雷通丸を取り返す事なのです。それに‥‥」
 一心は、目を細めた。
「それに、あそこには茶鬼の赤舌組が居座っています。それを考えると、赤舌組のものどもが、雷通丸を奪ったのかもしれません。こちらを」
 一心は、自身の背負い袋から書付を取り出した。簡単に描かれた、地図の類らしい。
「間者や、近隣の山の民から得た情報で、地図を作りました。爪目一家の洞窟はここ、赤舌組の根城は、この廃村のうち捨てられた屋敷のようです。見ての通り、両方とも距離的には近く、どうやら赤舌組は爪目一家から奪い取ったこの洞窟を、第二の根城にするのではないかと考えられます」
 もしもその算段が正しいならば、雷通丸はまだあの洞窟に置かれたままだろう。しかし、洞窟に近づくのは至難の技。感嘆には近づけそうにはない。
「洞窟には、上部に茶鬼の射手が二匹。周辺には五匹から十匹程度がたむろしております。山の尾根にあり、周辺には隠れる場所はなく、接近する存在は姿を見られる事は必至。さらに洞窟の周りには大岩が数個転がっており、それを盾にして弓を射てくるのです」
 弓を射掛けあう長期戦になったら、こちらが不利というわけだ。
「尾根の上は岩場になっておりますが、降りるには険しすぎます。洞窟に入るには、正面から接近するしかないのです。しかし、弓を構えた茶鬼が数十匹待ち構えているので、こちらとしては手の出しようがないのです」と、文左衛門。
「どうか、我が主人の積年の望みをかなえるべく、皆様方のお力をお貸し下さい。礼として、報酬とともに皆様方に武具の類を進呈したく思う。どうか、引き受けて下さらんか?」 

●今回の参加者

 eb3974 筑波 瓢(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec6128 モニカ・クルージオ(30歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec6145 エクシール・パレンヌ(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec6205 チュカ・アメン(29歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

「俺の力不足で遺恨を残してしまった。深く詫びます」
 筑波瓢(eb3974)が頭をたれるが、雷蔵はかぶりをふった。
「いえ、この刀さえ手元に戻れば、我らが勝利。それに、奴らを殲滅する事は、われらだけでも不可能ではありません」
 雷蔵が受けた矢、ないしはその毒は、快方に向かった。解毒の呪文を有した僧侶により、回復したのだ。
 そして、手元には刀が、雷通丸が戻っている。これさえあれば、百人力。近々に茶鬼の群れを殲滅させる事も、不可能ではないだろう。
 雷蔵の喜ぶ顔を見つつ、筑波は刀を取り戻すまでの経緯を思い出していた。

「俺一人‥‥なのか?」
 この依頼に賛同した者は、あと数名はいたはず。が、筑波以外に名乗りを上げた者たちは、ある者は急用ができてしまい、ある者はなぜか放棄してしまったりで、結果的に参加者は筑波一人になってしまったのだ。
「やれやれ、なんてこった‥‥皆様方、申し訳ないです」
「いえ、きっと他の冒険者様たちにも、ご都合があるのでしょう。我々も協力しますので、どうかよろしくお願いします」
 一心と数名の部下たちが、代わりにと名乗りを上げた。
 それを見て、筑波は己を恥じた。怪物に、妖怪に肉親を殺された無念は、自分が一番良く知っているはず。それを見たくないから、今の仕事をしているというのに、逆に自分が助けられてしまうとは。
「筑波殿、我々は貴殿の指示に従い動きましょう。それで、作戦は?」
 一心の言葉に、筑波は立ち直った。そうだ、落ち込んでいる暇など無い。目前に助けを求める人が居て、自分が必要とされている。ならば、それに答える事が急務!
「そうですね。それでは‥‥」
 立案した作戦を、筑波は口にし始めた。

 茶鬼の洞窟を臨む森。昼なお暗いそこは、幽霊屋敷の開け放たれた門のようにおどろおどろな雰囲気をかもしている。
 すぐ目の前の木の枝には、何かの死体が木の枝に突き刺され、そのまま放置されていた。まるでモズの早贄。もっともその死体は、虫や小動物などではなく、半ば乾燥した犬鬼のそれではあったが。「爪目一家」に属する犬鬼に、おそらくは相違あるまい。
「彼奴ら、周囲へ畏怖させるつもりで、こんな事をしているのでしょうね」
 その対象が犬鬼とはいえ、このような残酷な事を行う茶鬼に、赤舌組の連中に、改めて嫌悪の情を浮かべる筑波であった。
「さてと‥‥それでは皆さん。作戦は理解しましたね?」

 茶鬼どもは、退屈していた。
 根城の洞窟を見張っていた茶鬼もまた、その例にもれない。どこかに暇を潰す、殺しがいのある獣か何かはないものか。爪目の犬鬼は、もう全て殺してしまった。
 が、そこへ視界に現れたのが、人間。そいつは迷い込んできたのか、心もとなく立ち尽くしている。仲間もいないようだ。
 ちょうどいい、あいつを殺そう。
 見張りの茶鬼どもは、そいつの存在を仲間たちへと知らせた。とたんに洞窟の内部から、周辺でたむろしていたところから、木の陰や岩の陰などから、仲間の茶鬼たちが集まってきた。武器を手にして、その人間へと迫る。
 人間は、気がつかないのかやはり立ち尽くしたまま。刃こぼれした剣できりつけた、最初の茶鬼だが、とたんにそいつの姿はかき消えた。
「?」
 疑問に思った茶鬼たちだが、すぐに疑問は吹っ飛んだ。遠くから放たれた矢が、数匹の茶鬼を貫く。
「!?」
 その疑問は、すぐに解消した。はるか遠くから、二人の武士が茶鬼たちを射たのだ。
「来い、この屑ども!」
 武士二人は、罵詈雑言を茶鬼どもに浴びせかけた。茶鬼たちはその言葉をろくに理解できずにいたが、侮辱している事は理解できた。そして侮辱されたら誰もが行うように、その茶鬼たちもまた、同じ行動に出た。
 すなわち、そいつらを殺そうと追いかけ始めたのだ。洞窟の警備など忘れて。

「よし、まずは一手」
 木の陰から、筑波はその様子を見てほくそ笑んだ。
 手持ちの巻物、ファンダズムの巻物にて、見張りの茶鬼たちをおびき出す。さらに一新の部下二人が、森の奥へとそいつらを誘い込む。
「筑波殿、次の一手は?」急く一心に、筑波は静かに答えた。
「しばしお待ちを。きっと他の奴らが、見張りがいなくなった事に気づくでしょう」
 筑波の言うとおり、数匹の茶鬼が洞窟から出てきた。何の騒ぎか、見張りどもはどこに行ったのかとでも言いたげな表情で、周辺を見渡す。
「今です!」
 筑波の合図とともに、一心、そして彼の部下数人が、ときの声とともに突撃した。
 物陰から飛び出すと、茶鬼どもへと切りかかったのだ。
 驚きとともに、数匹の茶鬼が切り捨てられる。が、持ち直した茶鬼は、逆に切りかかった。
 技量はこちらが上ではあるが、数は圧倒的に茶鬼が上。見張りを誘導し、奇襲作戦で混乱させた後。そこからが、次の行動。
「アースダイブ」の巻物を取り出し、彼は念じた。
 数秒後。彼は泳いでいた。土の中を。

 洞窟内を、もしくは地面や壁面を泳いでいた筑波は、時折息継ぎに顔を出す以外、ほとんどが己の感覚と勘のみが頼り。
 時間切れになる前に、洞窟内部の宝物庫へとたどり着けたのは僥倖だった。どうやら、行き止まりとなった洞窟を利用しているようだ。壁にはたいまつがかかり、炎が明かりとなって宝物を照らし出している。
 しかし、思ったより広く大きい。たいまつの炎も、隅々までは光を投げかけていない。探すのには少々手間がかかりそうだ。
「どうやら‥‥うまく行ったようですね」
 時間が無い、早く刀を見つけないと。
 とはいうものの、息を整え体力を回復しない事には。筑波は宝物庫、ないしはその壁に寄りかかり、荒く息をついた。
 すぐ近くから、茶鬼どものうめき声と気味の悪いうなり声が聞こえてくる。急がないと。

 雷通丸を見つけるのに、筑波は時間をかけすぎた。二十秒もかけてしまったのだ。
 彼が刀を掴んだと同時に、宝物庫の入り口に茶鬼が姿を現した。そいつは筑波の姿をみかけると、手の短刀を握り締めて切りかかる。
 が、それに対する対策を、筑波は怠ってはいなかった。
「汝が起きる事を『禁』‥‥スリープ」
 眠りの呪文により、茶鬼は地面に倒れ、寝息をたてる。
「これで、二手」
 が、三手もうまく行くとは限らない。いくら茶鬼どもが愚かしいとはいえ、そろそろ見張りの連中も戻ってくる頃だろう。
 筑波は再び、アースダイブの巻物を取り出した。

 一心は、焦っていた。
 最初のうちは、茶鬼どもを何匹か切り捨て、優勢に事を運んでいた。
 筑波の指示は、「奇襲したら、そのまま逃げてください」。しかし一心は、そして部下たちは、そのまま踏みとどまり戦う事を選んだ。この時点で茶鬼を一掃できれば、なおの事良い。ならば逃げる必要もあるまい、と。
 が、茶鬼の数は思った以上に多い。予想の二倍から三倍、いや、五倍くらいはいる。これを十数人で殲滅するなど、なまじの事ではまず不可能。
 実際、部下たちも全て押されぎみ。すでに何人かは、茶鬼に切りつけられて下がっている。いくら雑魚とはいえ、多すぎる相手に対し、戦い方を
 様々な術や技を得た冒険者や勇者、術者に手練の武人ならばともかく、一介の武士である自分たちのみでは、これを制するのはまず無理。
「‥‥ぬかった!」
 それに気づいた時、鋭い石片を埋め込んだ棍棒で打ちかかられた。
「!」
 すかさず、それを刃で受け止める一心。だが、彼の刀の刃は根元近くで折れてしまった。
 更なる一撃が、彼の脇腹に命中。肋骨が数本折れたことを、一心は痛みとともに悟った。
 もはや、これまでか。そう思った次の瞬間。
「一心殿! 大丈夫ですか!」
 足元から、筑波の声が現れた。彼は地面から上半身を出し、鞘をつけたままの刀で茶鬼の足を払った。
 足をとられ、転倒する茶鬼。その隙に筑波は一心へ、手にした刀を投げてよこした。それを握り締め、一心は鞘を払い‥‥起きあがる茶鬼へと一刀を浴びせる。
 袈裟切りされた茶鬼は、再び地面に倒れた。流れるどす黒い血が、地面へと吸い込まれていくのを一心は見つめた。
「この切れ味‥‥まさに、雷通丸!」
「さあ、はやく退却を。俺が時間を稼ぎます」
 一心らが退却したのを認め、筑波は迫り来る茶鬼の群れへと視線を向けた。
「三手目。そして、王手!」
 武士たちをてこずらせた、吐き気をもよおさせる不潔な顔の群れ。
 その群れが、筑波へと迫り来る。
 熟練の剣士でも、てこずるだろう粗雑な剣や短刀、棍棒や手斧の群れ。それらに臆する事無く相対する筑波の武器は、また別の巻物。
 それにこめられた力が解放されると同時に、彼は叫んだ。
「マグナブロー!」
 赤き流れが、地面から沸き立つ。数匹の茶鬼がそれに巻き込まれ、熱と炎により命を絶たれた。
 生き残った茶鬼が落ち着きを取り戻した頃、筑波らは脱出した後だった。

「ふむ、そのような事が」
「一心殿は、茶鬼により深手を負ってしまいました。が、命に別状は無いとの事です」
 事のいきさつを筑波より聞き、包帯に包まれた雷蔵は微笑んだ。
「一心が指示を守らず、とんだ迷惑をかけたようだな。代わって礼を言おう」
「いえ、ですが茶鬼たちを殲滅できなかったのが心残りです」
「心配めされるな。この刀が戻り、そしてわしや一心が回復すれば、いくらでも好機はあるだろう。そのきっかけを作ってくれたのは、紛れも無い筑波殿、貴殿の活躍によるもの。改めて、御礼申し上げる」
 雷蔵の顔に、生気がみなぎっているのを筑波は見た。
 おそらく、近々にあの茶鬼どもは征伐されることだろう。確信をもって、そう思う筑波だった。