Wizard
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■ショートシナリオ
担当:ソラノ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月22日〜10月28日
リプレイ公開日:2004年10月29日
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●オープニング
その少年は、ギルドに一歩足を踏み入れた瞬間から、否応と無く、人目を惹いた。
陽の光にも当たったことのないような白皙の肌に、北の海を想わせる冷々とした青い瞳。意外に背は高いが、ほっそりとして線が細く、厳つい印象は全くない。
真冬の月色の髪の間からは、短剣のように鋭く尖った耳がぴんと突き出ている。年齢は、十六、十七歳くらいだろう。
そして、手には、自分の身長ほどもある、使い込まれた長い杖。
「ウィザードだな」
「エルフか」
「冒険者なのか?」
ひそひそと、居合わせた幾人かが囁き交わす。
少年は秀麗であり、同時に妖艶でもあった。
その趣味の無い者でも、家も、家財道具も、何もかも売り払ってまで手に入れたいと、思わせるほどに。
「依頼だよ」
少年が口を開き、ぽんと金の入った袋をカウンターの上に放り出す。
そっけなく、愛想のない口調だった。
「手の空いている冒険者を回して欲しい。近くの村までの護衛だ。難しい依頼じゃないから、駆け出しで十分。途中、森を通る。危険があるとすれば、そこだけさ。ゴブリンが出るらしいからね。‥‥どう? 付き合ってくれる暇人はいるかい?」
簡単な割には、提示された報酬は多い。
必要日数も少なく、お手軽だ。しかも、少年の方で保存食は用意してくれるという。
「村までの護衛ですか。もちろんギルドはその依頼をお受けいたしますよ。何のご用で村まで?」
「それを言う必要があるのかい?」
相変わらずの無愛想で、少年が答える。
何とまぁ、可愛げのないクソガキだと内心思いながらも、受付係は、表面だけは愛想良く頷いた。
「失礼しました。護衛の中身を知っていた方が、冒険者の方も何かと動きやすいかと思いまして」
「墓参りだよ」
少年が呟いた。
無表情の中の、何かの感情が、一瞬、揺れた。
「三日後が、僕の妹の、命日なんだ」
●リプレイ本文
【それぞれの】
「ちっ‥可愛げねぇガキ」
思わず呟いたアルフォンス・シェーンダーク(ea7044)の一言に、依頼人ことリーフェ・サクリスのエルフの耳が、ぴくりと反応する。
秀麗な顔に、相も変わらずの鉄面皮の仮面を張り付けて、少年は、わざとらしく肩を竦めた。
「人のこと言えるかい?」
この瞬間、美少年ウィザードと不良クレリックの間に、見えない火花が散ったのは、言うまでもない。
「そうだね。似た者同士だよね。二人とも」
育ちの良さ故か、周囲の空気などお構いなしで、システィーナ・ヴィント(ea7435)が、さり気なく火種を落とす。
ちょっとマテ、とツッコミを入れかけたクレリックを制するように、今度は、天然娘のシェリル・シンクレア(ea7263)が、口調だけはあくまでものんびりと、恐ろしい発言をかました。
「お二人とも、無愛想でぶっきら棒ですが、根は優しい方とお見受けしました〜。似ているかも知れませんね〜」
生意気エルフの護衛も大変だが、この二人の娘たちも侮れない。
冒険に出発する前から、もしかして俺は保父さんかい、と、大いなる父に思わず問いかけたアルフォンスの前で、システィーナとシェリルは、にこにこと、和やかに、依頼人と語り合っているのだった‥‥。
「こっ‥これは本当に‥‥」
多いに芸術魂をくすぐられる、チョコ・フォンス(ea5866)。彼女の生業は画家である。綺麗なものは好きだし、じっと見つめる癖は仕事の延長のようなものである。
「‥‥あのね。僕は珍獣でも何でもないんだけど」
とはいえ、リーフェの方は、いささか居心地が悪そうだ。整いすぎた容姿でぱっと人目は集めるものの、彼自身は、どうやら、地味で木訥な性格であるらしかった。
「ふふふっ♪ 時にリーフェさん、メイドを雇う気とかはありません?」
綺麗なもの好きにかけては、霧崎明日奈(ea7454)も負けてはいない。自称メイドの腕前を遺憾なく発揮して、甲斐甲斐しく依頼人の世話をする。
その気になれば、ゴブリンの攻撃などひょいひょいと避けまくるメイドが、一体どこの世界にいるのか‥‥等と、もっともな疑問を抱いてはいけない。これでも、本人、慎ましく隠し通しているつもりなのである。
【森のゴブリン】
街道沿いの道は安全であり、面倒が起こることもなかった。駆け出しの冒険者ばかりが集まったとはいえ、一般人とは比べるべくもなく旅に対する心構えは出来ているし、また、慣れてもいる。
問題の森に差し掛かっても、彼らは非常に落ち着いていた。
ゴブリンは予想通り襲いかかってきたものの、数はわずかに3匹である。しかも、チョコとシェリルのブレスセンサーに見事に引っ掛かり、短弓でも届かないような遙か遠くから発見された挙げ句に、霧崎の攪乱に引っかき回され、すっぱりと叶朔夜(ea6769)の忍者刀の錆となる。
依頼人に近付くことも困難だったが、そもそも近付いたところで、アルフォンスのホーリーフィールドを打ち破れたか、果たして怪しいものである。いざとなれば、ディストロイを容赦なくぶっ放すつもりだったというのだから、黒のクレリックはやはり怖い。
チョコの方は、なんとしても追っ払う、と気合い満々でライトニングを連発する。雷も厄介だが、シェリルの放つ真空の刃も、ゴブリンにとっては脅威以外の何ものでもなかった。二人の魔法を補佐する形で、システィーナが銀のダガーを構えている。ゴブリンを叩き伏せるほどの実力はないが、詠唱時間を稼ぐ役としては十分だった。
更には、迂闊に踏み込もうものなら、二人の神聖騎士、デューシンス・ダーエ(ea5203)とシーナ・ガイラルディア(ea7725)が聖十字の剣を持って、報復に出るのは間違いない。しかも、冒険者達とても予測のつかなかった伏兵が、思わぬ近くに控えていたのである。
「バーニングソード!」
神に仕える者たちの剣が、たちまち炎に包まれる。威力を格段に増した刃の輝きに、ゴブリン達は完全に戦意を喪失したようだった。慌てて逃げて行く後ろ姿を、執拗に追跡するような輩は、むろん、一行にはいない。
「火のウィザードだったのか」
叶が、感心したようにリーフェを見る。少年が、ぽそりと呟いた。
「僕は、攻撃魔法は使えない。‥‥使いたくないんだ。だから、どうしても、護衛が必要だった」
そこに、何があったのか、無理に問い質す者は、いない。
「‥‥私たちが、必ず護る。‥‥必ず、な」
言葉少なに、デューシンスが誓いを立てる。
「頼りないかも知れないけど、精一杯頑張るから!」
チョコが、殊更に明るく、言葉を添えた。
「怪我したくなけりゃ、前に出すぎるなよ。ガキは素直に守られていろ」
これも、アルフォンスなりの、優しさの表れだったのだろう。
【夜】
叶が作った鳴子が、夜の警戒には力を発揮した。人数が9人と多めだったのも、功を奏した。交代で見張りをすれば、大した負担ではない。森の規模は比較的小さく、今夜を凌げば、明日には再び街道に抜けられる。
慣れない野営の準備を手伝い疲労したのか、何時にも増して、リーフェは口数が少ない。
焚き火の炎を、無表情に見つめている‥‥その白い横顔を眺めていた叶が、いきなり、何の前触れもなく、ふに、と頬を引っ張った。
「‥‥‥なっっ!!」
引っ張られた片頬を押さえて、リーフェが目を丸くする。が、驚いた表情も、一瞬のこと。すぐにまた、いつもの鉄面皮に戻っていた。
「‥‥何だよ」
「仏頂面以外も出来るんだな」
叶は悪びれる風もない。
「どういう意味だよ」
「言葉通りの意味だが」
「僕も人形じゃないからね」
「時々、人形みたいに見えることがあるけどな」
仕掛けた鳴子の調子を見に、叶は、そのまま席を立った。
「妹さんは、どんな感じの方だったのですか?」
焚き火を囲んで、他愛ないお喋りに花が咲く。少年の態度は、昼間の戦いや諸々を通して、確実に軟化していた。シェリルの問いに、意外なほどあっさりと答えが返ってくる。
「‥‥明るい子だったよ。いつも笑ってた」
「妹さんは、どんな花が好きなの?」
シェリルの反対側で、チョコが身を乗り出す。既に彼女は墓参りに行く気満々だ。
「白い花‥‥何て名前かわかんないけど、よく、同じ花を摘んでいた‥」
「村にも咲いている花なのかしら? あ、これから行く村って、あなたの生まれた村なの?」
「そうだよ」
「妹さん‥‥リーフェさんの妹さんなら、もしかして、私と同じくらいでしょうか?」
システィーナが、傍らで小首を傾げる。
「今、いくつ?」
「11歳です」
「‥‥うん。同じくらいだ。僕の妹は、12歳の時に、死んだから」
ほんの一瞬、懐かしそうに、少年が、目を細めた。亡き人の像が、目の前の少女と重なったのだろうか。システィーナには、兄はいない。兄はいないが‥‥もしいたとしたら、こんな感じだろうかと、ふと、思った。
「リーフェさん?」
遠くから、少年を、誰かが呼んだ。
「お疲れではありませんか?」
シーナの言葉を受け、少年が、神聖騎士を見上げる。少しだけ、と、彼は答えた。
「ですが、賑やかな道中の方が、かえって気が楽やも知れませんね」
明るい性格だった、亡き人。
集まった朗らかな冒険者達の雰囲気は、さぞや懐かしく感じられたことだろう。
明日奈の、いかにも天真爛漫な声が響く。チョコが、笑いながら受け答えをしている。おっとりとしたシェリルと、一番幼いシスティーナも含めて、女性陣にハメを外しすぎないようにと釘を刺す叶。生真面目なデューシンスが、穏やかにそれを見守る。
「妹様のお名前を、教えて頂けませんか?」
大切な人の名は、如何なる魔法をも凌ぐお守りとなる。いかにも白の信者らしい、シーナの言葉。
「‥‥ティア、だよ」
「御心の中で、幸あれと、唱えてみてはいかがでしょうか?」
少年が、奇妙に長い間を置いて、言った。
「一緒に、祈ってくれるかい? 墓に、クレリックを呼んだことが、無いんだ。祈りの捧げ方が‥わからない」
「私でよろしければ」
「こらそこ! 明日は早いんだ。さっさと寝ろ!」
保父さんアルフォンスの檄が飛ぶ。
いつの間にか、時は、深夜に差し掛かっていた。
【村】
夜間のうちに、再度、強襲にあったものの、この時も上手く撃退出来た。
事前の話し合いがしっかりと進んでいたこと、役割分担が上手く機能していたことが、勝因だった。
いよいよ時間に間に合わなくなったら、システィーナが少年と相乗りして逃走することも考えていたのだが、その必要も無かった。
三日後に、無事、一行は、村へと到着した。
村は、エルフ族の集落だった。慎ましく、穏やかな時が流れている。
森と、川と、小さな丘。柵囲いの中の山羊。煙突からは、細い煙が上がっている。朝食の支度の時間なのか、何かがこんがりと焼ける良い匂いがした。
全てが、自然の恵みの中に、生きている。
墓地は、その村から少し離れた日当たりの良い場所に、あった。
「え‥‥何? みんな付いてくるの?」
少年が、驚いた顔をする。
実に、7人もの冒険者が、墓前への同行を希望した。
「白い花を見つけました‥‥この花でしょうか?」
純白の花束を、シーナが手向ける。少年が、眩しげに目を細めた。
「うん‥‥たぶん、これだよ」
「天上の花園に住まうティア様に、光の雨が降り注ぎますように‥‥」
「私も‥‥手を合わせても良いだろうか?」
叶とシスティーナが、道中で摘んできた花を、墓前に置いた。シェリルが、村人から分けてもらった花束を、横に添える。
「私に出来ることは、少ないが」
傍らで、デューシンスが、静かに黙祷を捧げる。
「詳しくは聞かねぇ‥‥ただ、聖職者としては、真面目に祈ってやるよ‥」
素直ではないクレリックだが、その祈りは、紛れもなく、本物。
「これ‥‥」
去り際に、チョコが、少年に、絵を渡す。
まだまだ未熟ながらも、一生懸命に描いた絵だ。
画の中では、少年ではなく、少年が何よりも大切にしていた亡き人が、明るく微笑んでいた。