【Wizard】ネズミ退治と大掃除
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■ショートシナリオ
担当:ソラノ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月08日〜11月13日
リプレイ公開日:2004年11月17日
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●オープニング
月色の髪を棚引かせて、少年が走る。
愛用の長い杖は、その手にない。よほど慌てていたのだろう、ギルドに飛び込んで来たとき、この季節にも拘らず、彼はうっすらと首筋に汗を掻いていた。
磨き抜かれた銀のような鋭い美貌を持つ少年は、そのままカウンターへと直行する。
「‥‥依頼」
受付係の前に、ぽんと報酬の入った袋を投げ捨てた。
【事の次第は】
「‥‥うっ」
玄関の扉を開けた途端、視界に飛び込んできた光景に、月色の髪のエルフ族の少年‥‥リーフェ・サクリスは、思わず呻く。
いたるところに投げ捨てられた、棚の引き出し。派手に中身が飛び散って、足の踏み場もない有様だ。様々な小物はもちろん、衣類の果てまで床にぶちまけられている。
幾つかの窓は戸板がむしり取られ、ぶらぶらと、留め具一つで頼りなく吊り下がっていた。窓枠に堂々と乗せられた足跡は、どう考えても自分のものではない。
泥棒に入られた、と悟るのに、そう時間は要しなかった。
どうやら、彼が家族の墓参りのために帰省している間に、賊が忍び込んだ模様である。
「こ、こんなに散らかして‥‥っ!」
怒る内容が微妙に違うような気もするが、ともかくも、リーフェは屋敷中を調べ回る。
幸い、金目のものは無事だった。念のため隠していたのが功を奏したのだろう。他に、リーフェにとって価値のあるものといえば、大量の書物だが、これは泥棒の興味を引かなかったようである。
「‥‥にしても」
好き勝手に荒らして言ってくれたものである。これを一人で片付けるのかと思うと、それだけで憂鬱になってくる。
見なかったことにして、今日はもう寝てしまおうか、と考えつつ、リーフェは更に屋敷内の探索を続ける。やがて、普段は全く使ったことのない地下室に足を踏み入れて、重い鉄扉をこじ開けた途端、予想だにしていなかった「とんでもないもの」とバッチリ目が合って、たっぷり10秒もの間、リーフェは、不覚にもその場に固まってしまった。
「‥‥ねずみ」
そう。
地下室にねずみがいたのだ。
いや、もちろん、ただのネズミではない。
ジャイアントラットである。
ばたん!と音を立てて、リーフェは扉を後ろ手に閉める。
さすがに、これは見て見ぬフリは出来ない。だからと言って、体力の無さには定評のあるエルフウィザードの彼が、一人で退治に乗り出すのは、あまりに無謀すぎる。
「‥‥何処から入り込んだんだ?」
それ以前の問題として、地下室にジャイアントラットが何匹も生息していることの方がマズイだろう。
こうして、ギルドに依頼が持ち込まれたわけである。
「ジャイアントラット退治。ついでに家の大掃除も」
侮ることなかれ。この仕事。
依頼書は、無駄な広さを誇る屋敷の構造と凄まじい荒らされ方について、一切、触れてはいなかった。
ねずみ退治より、このだだっ広い家の片付けのほうが、はるかに難物かもしれない事実は‥‥闇に葬り去られたわけである。
●リプレイ本文
●まずは挨拶
「君が兄さんの言っていた、仏頂面のリーフェ君だね。よろしくー!」
明るい笑顔と供に、いきなりハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)の両手が頬に伸びてきて、リーフェは思わず面食らう。上手いこと防御したと思ったら、今度は横から現れた違う手が、はっしと少年の指先を掴んだ。
「はじめまして。僕はカイン・アッシュと言う。よろしく頼むよ」
カイン・アッシュ(ea7630)が爽やかに一礼する。実は、頭の中で、「さてさて‥‥美少年エルフか。ん〜‥‥実に僕好みだ。是非仲良くなりたいね」等というとんでもないことを考えていたりするのだが‥‥恐ろしいことに、見た目からはわからない。わからないはずなのだが‥‥リーフェは、ほとんど本能で、一歩、後ずさった。何か身の危険を感じたようだ。
「ジャパンの忍者、緋芽佐祐李(ea7197)と申します。どうかよろしくお願いします」
深々と頭を下げ、緋芽が和風の礼をする。筋骨逞しい肉体とは裏腹に、心根の優しい女性のようだ。表情も柔らかく、それが品の良さを生んでいる。自然と滲み出るものなのだろう。
「貴殿が依頼の雇い主か。月詠の神と見紛う麗人に、一時とはいえ仕えることが出来て光栄だ。報酬に見合うだけのことはすると約束しよう。よろしく頼む」
続けて、同じくジャパン出身の葉隠紫辰(ea2438)が口を開く。彼もまた、物静かで礼儀正しい青年であった。さすがは忍ぶ道に身を置く者たち。礼節は身に付いているということなのか。
その時、ふわりと薄色の羽を羽ばたかせ、シフールのヨアン・フィッツコロネ(ea7727)が、依頼人の前に留まった。
「この度は災難でしたね。僕でよろしければ、お手伝いさせていただきますよ」
一通り全員が挨拶を済ませると、早速、大掃除とネズミ退治が始まった。
●事前調査
「掃除も退治も情報が欲しいわ。何と言っても、無駄(強調)に広いし。この屋敷」
「無駄だけ余計だよ‥」
「いいから、部屋数とか主な構造とか、地下室の様子とか、教えて頂戴。特にネズミの侵入口になりそうな場所を‥」
てきぱきと指示を出すレテ・ルーヴェンス(ea5838)。実に頼もしいが、少年からは、実に頼りない答えが返ってくる。
「知らないよ。そんなもの」
「‥‥‥ちょっと」
「屋敷の見取り図とかは?」
いつもの天真爛漫な笑顔も微妙に引きつりつつ、ハーヴェイが尋ねる。が、
「さぁ? 無いと思うけど。僕自身、全部の部屋を把握してないし、使ってもいないしね。屋敷はもらい物だしさ。地下室も、今回の泥棒騒ぎで知ったんだ」
つまり情報無し。
「あららら‥‥。困りましたね」
当てが外れまくって思わず硬直するレテとハーヴェイの頭の上を、ちっとも困っているように聞こえない緋芽の声が、何だか、奇妙に浮き上がって駆け抜けて行く‥‥。
「このメンツなら、罠に頼らずとも、力業で決着が付くだろう。鼠が向かってくるなら好都合だ。後腐れなく切り捨てるまで」
これと言って落胆の様子も見せず、セオフィラス・ディラック(ea7528)が、きっぱりと言い切る。彼は、元々、戦闘重視で依頼に入った。仲間の作戦を信頼していないわけではないが、それに頼りきるつもりもない。
「罠にかかれば、一撃で苦しめることなく葬ってやれるのだが‥‥」
同じく戦闘メンバーとしてこの場にいる葉隠が、自身の忍者刀に手をあてる。残忍行為や無駄な争いを好まない質のようだ。
「力業も、やむを得ないか‥‥」
●地下室の罠
限られた空間である室内では、ブレスセンサーが頼りになる。何と言っても百メートルの効果範囲は強力だ。メンバーの中では唯一の使い手であるエクリア・マリフェンス(ea7398)が、地下室に蠢く気配を、正確に全員に伝えた。
「奥の方に、何かいるみたいです。数は‥‥五匹。これが鼠でしょうか‥‥」
二度、三度と試してみたが、鼠が動く気配はない。五匹いっぺんに相手することも不可能ではないが、鼠ごときに苦戦するのも馬鹿馬鹿しい話ではある。当初の予定通り、まずは罠で捕縛することにした。
「上手く引っ掛かってくれると後が楽なんだけどね」
「違うタイプの罠を、私とハーヴェイさんで用意してみました」
身近にある物だけを器用に利用し、緋芽とハーヴェイが捕縛用の罠を設置する。僅かな知識さえあれば、誰にでも作れるごく簡単な物だ。が、だからこそ用意も早ければ手際も良い。罠など懲りすぎたらろくな事にならないのだ。結局三箇所に設置したが、その間、鼠が出てくることはなかった。
「私は逃走防止の罠を張るつもりだったのだけど」
やれやれとでも言いたげに、レテが嘆息する。事前調査で、依頼人から、「地下室の構造? 知らないよ。そんなもの」と、何ともまぁ力の抜ける解答を頂いた彼女は、結局、罠の設置を諦めた。何しろ進入経路がわからないのだ。逃走防止も何もあったものではない。
「これで逃がしても文句は言わせないわよ?」
にっこり笑って、レテが釘を刺す。
‥‥笑顔なのに怖い。
●夜間戦闘
ふと、何かがぶつかり合う音がして、カインははっと表情を強張らせた。
鼠捕りの罠に、獲物が引っ掛かったのだ。ハーヴェイが、念のためにと、罠と一緒に鳴り物も仕掛けておいたのである。これは戦闘開始かな、と呑気に思ったカインだが、悲しいかな、誰も起き出してくる気配がない。
当然と言えば当然だ。時間は深夜の一時半。全員、夢の中を彷徨っている頃だろう。こんな時間に起きているのは、良からぬ目的がある人間くらいのものである。
「‥‥仕方ないな」
結局、カインが、全員を起こしに走る。寝起きの悪い輩がいなかったのは幸いだ。手早く武装を整えると、全員が地下室へと走った。
「良く気付きましたね‥‥」
緋芽がひたすら感心する。彼女も忍であり、隠密能力は人よりも上だ。だが、さすがに、地下室の鳴子の音を、寝ながらに察知することは出来なかった。
「僕は全く戦闘向きではないからね。これくらいの役には立たないと」
しれっと答えたカインだが、真相は別にある。
まさか、リーフェの部屋に夜這いを仕掛けに行く途中だったとは‥‥口が裂けても言えるはずがなかった。
罠には二匹がかかっていた。網やロープに絡まり、じたばたと暴れている。拘束されているのなら、大技で一気に切り捨ててやるのがせめてもの情けだ。武器の重量を十分に乗せて、レテが踏み込む。常ならばまずあたらない攻撃だが、相手が動けないのなら話は別。強力な斬撃が、皮膚を割り骨を砕き、鼠の体に深々と埋まった。
鼠は、それでも、辛うじてまだ息がある。苦しげにのたうち回る姿を見て、葉隠の忍者刀が、的確にその鼓動を止めた。
「そこです!」
エクリアが、ブレスセンサーで、罠の捕縛を逃れたものたちを追いつめる。松明やカンテラの灯りが届かない所に潜んでも、魔法だけは誤魔化せない。合図を受けたハーヴェイが、ぎりりと矢を引き絞る。近くにいたリーフェが素早く加護の魔法を唱えた。
「バーニングソード!」
矢が、たちまち紅蓮の炎に包まれる。短弓はそのままでは威力が低いが、付与魔法を受けた一射は、並の剣を上回る。ハーヴェイ自身、腕力の低さ故に連射は難しいが、技量は高く、決して外さない。首に近い部分に矢を受けて、ぎゃっ、と鼠が甲高い悲鳴を上げた。
十字剣を構えたセオフィラスが、続けざまに二撃を叩き込んだ。特別な技など使っていないが、彼は基本の攻撃力が高いのだ。十分な手応えがあった。更に、よたよたと逃れようとした鼠に、素早く横に回り込んだ緋芽がトドメを刺す。
「もう一体、います!」
エクリアの雷が飛んだ。波打つ光が、最後の鼠を撃つ。それが、位置を知らせることになった。ヨアンがシフールの機敏性を生かして仲間の近くに誘導し、更に葉隠が冷静に鼠を袋小路に追いつめる。間髪入れず、彼は忍者刀を繰り出した。既にエクリアの魔法で傷ついた敵を葬るのは、物足りないほどに簡単な仕事だった。
「これで、全部です‥‥」
エクリアが、取りこぼしを警戒して、再びブレンスセンサーを試みる。
鼠退治は、こうして、あっと言う間に幕を降ろした。冒険者達の圧勝であった。
●いざ大掃除!
「要らないものは捨てる‥‥これは掃除における基本よ」
細腰に両手を当て、仁王立ちして指示を出すのは、レテ。メンバーの中で一番家事の技能が高い彼女に、一体誰が逆らえるだろう‥‥いや無理だ。
戦闘では頼りになったセオフィラスも葉隠も、罠の設置で鼠を翻弄したハーヴェイも緋芽も、魔法で隠れ潜む鼠の位置を次々看破したエクリアも、はい、と殊勝に仕事に勤しむ。
それは良いのだが‥‥何ともまぁ、このメンバー、家事音痴が揃ったものである。
「きゃ〜!」
せっかく綺麗に拭き掃除した廊下に、エクリアが、埃だらけのがらくたをぶちまける。自分の腕力を考えず、視界が埋まるほど高く腕の中に物を積み上げるからだ。なまじ真面目に頑張っているだけに、叱ることも出来ない。
「戸板‥‥。これはどうやって直すんだ?」
かなり危なっかしい手つきで、セオフィラスが、がたがたと外れかかった戸板をいじっている。嫌な予感が‥‥と思った瞬間、ばきっ、と、これまた嫌な音がした。
「壊したか‥‥」
その隣で、葉隠が首を振る。出来ないことには手を出さず、彼は重い物運びに従事していた。鼠の死骸を率先して片付けてくれたのも、彼である。
「こちらは終わりましたよ?」
「次はどこを掃除しましょうか?」
にっこりと爽やかに微笑んで、緋芽が隣の部屋から顔を出す。彼女の肩には、シフールのヨアンが。二人で組んでいたらしい。ヨアンが細かな場所の汚れを見つけ、それを、背の高さと体力を生かして緋芽が綺麗に掃除する。なかなかに良いコンビだ。
「昼飯だぞ〜」
厨房で、皆の食事当番を担当するのは、なぜか、カイン。
いや、けっして料理が得意なわけではない。レテが作ってくれれば、それなりに美味しい食事が期待出来たに違いないが、現場主任の彼女がまさか台所に篭もるわけにもいかない。
「費用はリーフェ君持ちだ。タダって本当に素晴らしい‥‥」
味はこの際置いておいて。
タダ、の文字に目を向けてもらいたいものである。
●書斎にて
「凄いです‥‥この蔵書‥‥こんなにたくさん」
印刷技術が発達しているわけでもないこの国で、本は、有り触れて見えて、実はなかなか手に入りにくいものである。
本好きのヨアンにとっては、ここの掃除を担当出来るだけで幸せらしい。
出来れば読み耽ってしまいたいところだが、性格的にサボりはできないヨアンである。真面目に掃除をしていると、ぎぃ、と音がして、リーフェが室内に踏み込んできた。
「あ‥‥君が書斎の掃除をしてくれていたんだ」
ほっとした様子が、窺い知れる。
リーフェも本が大好きだった。だからこそ、本が好きな者に、ここの掃除を任せたかったのだ。
「もし出来たら‥‥これからもお伺いして、読ませて頂いても構わないでしょうか?」
恐る恐る、ヨアンが尋ねる。無愛想な依頼人が相手で、何かと気が引けるらしい。
「うん‥‥いいよ」
ふわりと、少年が、滅多に浮かべない笑顔を見せた。
「本が好きな人なら、いつでも歓迎するよ」