偽薬売りを懲らしめろ!

■ショートシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月19日〜09月25日

リプレイ公開日:2004年09月28日

●オープニング

 その日の依頼人は、ひょろりとした男で体中に包帯やら青痣やらが覗いていた。
「偽薬売りを何とかしてくれ!」
 開口一番、依頼人は身を乗り出して訴えた。

 彼の住む町にふらりと異国風の行商人が現れたのは数日前の話。行商人は慣れた調子で手早く露店を開くと、怪しげな薬を売り始めた。
「これなるは華仙教大国に伝わりし秘伝のポーション、『カンポー・ツチグモ』! 病の人はたちどころに癒され、健全なる人には気力増進精力増進のスグレモノ。強大なモンスター、ツチグモの足を煎じて作ったこのポーション、今なら一袋たったの2Gだ!
 買っておいて損はないぜ‥‥何しろこのツチグモ、華国やジャパンでないとお目にかかれない、超、強力なモンスター。ここにあるのはジャパンの腕利きの冒険者が差し違え寸前でもぎ取ってきたモンだ。‥‥つまるところ現地でも貴重なシロモノ、ここノルマンで買えるのはまさに奇跡!
 さあ早い者勝ちだよ、幻のポーションがたったの2G!!」

「土蜘蛛って‥‥グランドスパイダの事だろ? そんなのそこら中にいるじゃないか」
「毒さえ気をつければ、そこまで強くもないよね」
 ジャパン語に明るい誰かの発言に、他の冒険者もその宣伝文句の間違いに気付く。
 そして一番の間違いが、華仙にそのような薬はなく、効果も全くのデタラメだという事だ。
 だが貿易も冒険も知らない町の人々にそんな知識があるはずもなく。その上行商人の煽りが上手い事と、客の中にサクラを紛れ込ませる事で客に効果を信じ込ませてしまい、薬は毎日売れに売れまくっているというのだ。
「僕はあの町で薬屋をやってるんだ。自分で買って確かめたけど、やっぱり薬は偽物だった。それで、インチキな商売は止めてほしいって抗議に行って‥‥最初の日に喜々として薬を買った奴ら――今思えばサクラだね――彼らに囲まれてこのザマさ」
 依頼人は笑って見せようとしたが、その動きが頬の傷に障ったらしくたちまち顔をしかめる。痛みを堪えているように見えた表情は、いつしか怒りを堪えるそれに変わっていた。

「身体に良くもない薬を、皆が喜んで買っていくのを見てられないんだ。健康になりたくて、働いて稼いだ貴重なお金を払っているのに‥‥あんなあこぎな事は許せない。
 お願いだ、奴らが二度とこんなインチキなことをしないように、懲らしめてほしい」

 依頼人は、最後にそう言って深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1845 オフィーリア・ルーベン(36歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2229 エレア・ファレノア(31歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3228 ショー・ルーベル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3844 アルテミシア・デュポア(34歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4746 ジャック・ファンダネリ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5101 ルーナ・フェーレース(31歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 偽薬屋たる商人は今までにも増して愛想のよい笑みを浮かべ、薬を所望したオフィーリア・ルーベン(ea1845)を迎えた。
「このカンポーという薬はね、長く服用すればその分強力な効果を得られるんですよ。後々の備えにもう一ついかがで? 今なら10c値引きいたしますよ」
 オフィーリアが仕立てのよい服を着ているので、ふっかけられるとでも思っているのだろう。
(「強かな事だ。これまでこの口でどれほどの人間を騙してきたのか‥‥」)
 彼女が小一時間並んで購入にありつくまでに、様々な人物が偽薬を買っていく姿を見た。彼らの歓喜や期待、安堵の混じった表情を思い出すと、すっかり猫を被っている詐欺師に、腹の底から怒りがこみ上げてくる。
「じゃあ‥‥20cだ。お嬢さん値切り上手だねぇ!」
 急に黙りこくったオフィーリアを熟考しているものと呑気な勘違いをして、押しに掛かった商人に、聞きなれない声が聞こえた。
 顔を上げて周囲を窺う。女の声のようだったが、それらしい人物は見当たらない。
「お客さん、何か言いました?」
「いや? それより、私の欲しいのは一つきりだ。後に多く待っている人がいると言うに、私だけ多く買うなど出来はしない」
 オフィーリアはキッパリ否定する。商人は空耳に首を傾げながらバックパックから小さな麻袋を取り出した。
「馬泥棒ーッ!!」
 声はオフィーリアの背後から聞こえた。視線をやると、列を割くようにして黒い布を顔に巻きつけた男が走ってくる。さらにその後ろから、女性がわめきながら走っている。物騒な事に、人込みの中にも関わらず矢を番えた弓を引き絞ったままだ。鏃の先はブレながらも、男を狙っているように見える。
 叫んだのが弓の女性だとすれば、追われる男は馬泥棒と言う事になるが、彼の近くに馬などいない。いたならきっと彼は馬に乗ってさっさと彼女を撒いているはずだ。
 しかし、商人はそんな事を疑問に思う余裕がなかった。
『ウ・ラ・メ・シ・ヤ‥‥』
「!?」
 今度こそはっきり聞こえたのだ。周囲のどこからでもない、空耳でもない。自分の頭の中に確実に響く、女性の怨嗟の声が。後ろめたい事があるせいか、背中を走る悪寒に身を震わせる。
「待てっていってんのよ!」
 女性の怒声に気が気でないのか、馬泥棒(?)は後ろをしょっちゅう振り返りながら人々を押しのけて走り、物凄い勢いで一直線に露店へと向かってくる。店には全く気付いていないようだ。
「ちょ、ま‥‥!」
 女の声に気が行っていた商人が気付いた時には既に遅く。馬泥棒(?)は商人にぶち当たり、景気良く露店を巻き添えにしながら盛大にスッ転んだ。
「何てことしやがる!」
「す、済まん!」
 声を荒げた主人を助け起こしつつ、律儀に馬泥棒(?)は謝罪する。
 だが、そんな事をしている暇など馬泥棒(?)にはなかった。
「あんたのスッた財布がないと‥‥」
『コ・ノ・ウ・ラ・ミ』
 追いかけてきたた女性、アルテミシア・デュポア(ea3844)は立ち止まってぎりぎりと弦が軋むまで弓を引き絞っていた。
「馬が買えないのよ私は!!」
『ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ!!』
 呪いの声と共に真っ直ぐ矢は放たれる。馬(を買う金)泥棒は咄嗟とは思えない機敏な動きで身をかわし、矢は立ち上がりかけていた主人の太ももを貫いてしまった。
「すまない、許してくれ!」
 痛みに絶叫する商人に再び詫び、馬泥棒は一目散に逃げていく。アルテミシアは太腿を抱えて呻く商人と駆け出すスリを見比べて――ちゃくっと別れの片手を上げた。
「じゃ、あたし急ぐから!」
「他に言う事はねえのかっ!? つうか、何でちょっとやり遂げたような笑顔してんだ!?」
「この方の怪我は私達が引き受けます。あなたはスリを」
 列に並んでいたエレア・ファレノア(ea2229)とショー・ルーベル(ea3228)は力強く言うとアルテミシアに頷いてみせる。アルテミシアは全く悪びれずに礼を言うと、言われたとおりに駆け出していく。
(「やっぱ現実の欲求不満を引き合いに出すと、演技も身が入るわー。詐欺師野郎にも全然気付かれなかったし!」)
とか思いながら。
 他方アルテミシアの罵声が追ってくるのを確認しながら、馬泥棒は人知れず思った。
(「‥‥アルテミシア嬢、演技とは思えない迫力だ‥‥うーん、犯罪者はこんな脅迫を受けながら悪事をしているのか‥‥」)
 演技を通して犯罪者心理を体験した騎士は、さらに騎士道への忠誠を強固にして、計画通り入り組んだ路地の向こうに逃走して行った。

「ショー、そのままきつく押さえて」
「分かりました」
 応急手当の心得のある二人は、傷の上をきつく縛り、止血の処置を施す。矢は深く刺さっていたようで、それでもズボンの赤い染みは広がる一方だ。
 ショーは痛々しい傷口に顔をしかめながら白布を巻いていく。
「しばらくはこれで大丈夫ですが‥‥早くお医者様に連れて行かないことには」
「見ていられない、これを使ってくれ」
 オフィーリアはさっき購入したカンポーの袋の紐を解き、商人の前に差し出した。商人は蒼くなった顔に脂汗を浮かべ、じっと痛みに耐えていたが、強く首を横に振る。飲んだって効果がないのがばれてしまうから当然の反応だ。
「一刻を争う時に遠慮などするものではない!」
 だが怪我で朦朧としている商人が、行為を押し止める事などできはしない。近くの人間が持っていた水袋を借り、オフィーリアは半ば強引に商人に薬を飲ませた。
 だがいつまで経っても商人の具合は良くはならない。
「どうした、まだ傷が痛むというのか?」
「まさか、そんなはずは‥‥」
 うろたえたエレアが、傷口を確かめるように押さえる。商人が声にならない悲鳴を上げて身を強張らせると、オフィーリアの視線はますます鋭くなる。
「‥‥治っていないではないか。万病に効くポーションだろう? まさか、偽りの薬を売っていると言うのではあるまいな!?」
「お嬢さん、そんな事言っちゃ困るよ」
「精錬している所を見てくだされば、貴方も納得してくださるはずです」
 無難なことを言いつつ、ガードマン達がオフィーリアの肩を掴む。
「何を‥‥!」
 叫びかけたオフィーリアだが、大人しくする。ただでさえ芝居がかった口調だから、騒ぐと嘘臭いと仲間に助言されたのだ。
「本当だろうな?」
 ガードマン達が頷くのを見ると、オフィーリアは黙って彼らについていく事を告げた。彼らはスリの逃走した入り組んだ路地を曲がる。最後の角を曲がってそこでオフィーリアが見たのは、周囲の壁、袋小路だ。彼女を壁のほうへ突き飛ばし、ガードマン達はオフィーリアを徐々に追い込んでいく。
「どこで精錬しているというのだ?」
「今に分かるさ‥‥真実を知ったものがどうなったかがな!」
 一人がわめいてナイフを抜き放つ。
 しかしオフィーリアは今までの人々のように泣いて助けを請う事などしなかった。
「では私も教えよう。真実を偽った者がどうなったかを!」
「コンフュージョン!」
 呪文が響き渡り、振り下ろそうとした切っ先は突如軌道を変えて、隣の味方に突き刺さる。
「どこで誰が見てるか分からないから、悪事はもう止めといたほうがいいッスよ」
 どこかしみじみした口調でスリが顔の布を剥ぎながら近づいてくる。中からはジャック・ファンダネリ(ea4746)の精悍な顔つきが現れた。
「テメエら、グルだったのか!」
「ジャックぐらいにイイ男なら手加減も考えたんだけど‥‥これなら遠慮なくぶちのめせそうだね!」
 ルーナ・フェーレース(ea5101)が再びコンフュージョンの詠唱を始める。それが何を意味しているかに気付いた一人が、最も近いジャックにナイフを突き出してきた。防具も武器も帯びていないジャックは、おいしそうな的に見えた。
「くそ、詠唱が終わるまでに‥‥!」
「騎士を舐めてもらっては困るッスね!」
 切っ先を見越して肩をわずかに動かして避けると、ジャックは頬に拳を打ち込む。
「ぐ、あ‥‥」
「闘気のこもった拳を甘く見ちゃ駄目だ」
 見た目以上の重みのある拳に、目を白黒させるガードマンに、ジャックは真面目に答える。
 同じく装備を外してきているオフィーリアも、ナイフの間合いの外から手近な石を投げ、多対一に持ち込ませないようにしている。
「よし、あっしらも行くでやんすよ!」
 以心 伝助(ea4744)は陰から飛び出そうとしたが、鉢金のヒモを後ろからつかまれて後ろにこけそうになる。
「‥‥ティファルさん、もう追跡は終わったから、迷子になることはないでやんすよ」
「あ、そうか。そやなー。ほな、一発ど〜んといこか〜」
 とんでもない方向音痴なティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)は、オフィーリアとガードマン達を追跡する時にはぐれないように、ずっと伝助の裾を握って付いてきていたのだ。至ってマイペースにこくこく頷くと、ティファルはスタッフを握り締めて呪文の詠唱を始める。
(「大丈夫でやんすかねぇ‥‥」)
 ほえほえした態度が伝助は心配でならない。悩む伝助に、巨漢のガードマンが攻撃を仕掛けてきた。
 伝助は軽くステップを踏んで闇雲な一撃を避けると、巨漢の懐に入り込み、ナックルで覆った拳を深く鳩尾にめり込ませる。完全に急所に入った拳に、ガードマンは割けんばかりに口と目を開く。
「行くで〜。ライトニングサンダーボルト〜」
「いいっ!?」
 振り返ったとき、数十センチほどしか離れていないティファルは、雷を帯びた手をこちらに向かって手を突き出していた。
 轟音と共に放たれる電流。
 超至近距離で放たれたそれを、何とか伝助は避け切ったが、気絶していた男はそのまま喰らう。
「あ、わざと外そと思てたのに‥‥」
 うろたえたティファルだが、黒焦げになりつつも巨漢が死んでいない事に気づきほっと胸を撫で下ろす。
 そしてその一連の行動で、他のガードマン達から畏怖の視線で見られていることに気が付いた。
「‥‥、と、ゆー事になるで〜! 分かったら、大人しくお縄に付くんや〜!」
 迫力の足りない脅しであったが、彼女なら何故か脅しではすまなさそうなことを肌で感じ、ガードマン達は素直に両手を上げた。

「だから、カンポーって薬は遅効性でね。リカバーポーションみたいな訳にはいかないんだよ。分かるかね?」
 ショーとエレアは一方的に商人から説明を受けていた。他の客たちは、商人のもっともらしい説明に首を縦に振るものも多い。中には常連なのか、商人の説明を横から助ける始末だ。
 傷の方は屋台の中に潜ませておいたリカバーポーションで完治している。そそくさと散らかった商売道具を片付け始めている。
「こんなんじゃ、もうお客さんには売れないからね‥‥もう一度ジャパンで仕入れなおしてこなけりゃ」
「‥‥このままでは逃げられてしまう‥‥」
「神よ‥‥」
「詭弁はそこまでだ! 詐欺商人!」
 エレアがきゅっと奥歯を噛み、胸のロザリオにショーが手を当てたとき、オフィーリアの雄々しい声が響き渡った。
 商人が驚きの表情で、エレアとショーが笑みを浮かべて路地へ目をむける。果たしてガードマン達がロープで後ろ手に縛られ、その端をジャックに握られている。
「この者達が全て白状したぞ! このカンポーは真っ赤な偽物だとな!」
「‥‥さあ、正直に言うんや〜」
「この期に及んで嘘を付くというんなら、土蜘蛛の巣の中に突き落とすっすよ?」
「やりました! そこの商人と一緒に!」
 ティファルと伝助に屈託のない笑みの裏にどす黒い影を宿した笑顔で背後に立たれ、怯えて黒焦げの巨漢があっさりと白状する。客たちは信じられないといった風に目を見交わしたり、小声で話し合ったりする。焦った商人は慌てて声を上げる。
「な、何をデタラメを! 悪質な営業妨害だ!」
「往生際が悪いのよ!」
 今度は客のほうから声がし、一人の女性が進み出る。アルテミシアだ。その隣に商人も見覚えのある顔が並んでいた。今度こそ商人は顔を青くした。
「その薬に関して疑問があるなら僕が答えるよ‥‥毒にも薬にもならない事が分かるはずだ‥‥」
「この薬屋は、その事を調べ上げた口封じにこんな怪我させられたのよ。真っ当な薬を売ってる人間のするこっちゃないわよ、これは!!」
「殴りました! ボコりました!!!」
 後ろに小柄とスタッフを突きつけられ、今にも泣き出さん勢いでガードマンは自白する。
「畜生、はめやがったな‥‥」
 商人は悔しそうに冒険者をにらみつけると、一瞬の隙を付いて逃げようと背を向ける。
 しかし、彼の意とは逆に、彼の身体は一直線にジャックたちのほうへ向かって行った。ルーナが密かにコンフュージョンを詠唱していたのだ。
「な、なな!?」
「あんたの行き先は安全な寝床じゃなくて、冷たく暗い牢屋だよ! ふっふっふ、あたしらにこんなチンケな悪事の片棒を担がせた事、後悔するんだね!」
「幽霊女!? 畜生!」
 ルーナの声を聞いて、さっき聞こえた怨嗟が彼女のテレパシーだと知った商人は往生際悪くわめくが、足は一向に止まることなく、待ち構えていた伝助にロープでぐるぐる巻きにされた。

 こうして詐欺師達は冒険者や依頼人の要望によって地方の領主に引き渡された。後に聞こえた噂によると、これまでの悪事を厳しく咎められ、後日しかるべき罰を受けたのだそうだ。