仕入れ屋サントマリー★エイプ山の綺麗な石

■ショートシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月16日

リプレイ公開日:2004年10月21日

●オープニング

 白いドレスにふわふわ金髪の依頼人は、片頬をさすっていた。
 彼女は、どのような品でも依頼されれば必ず入手する、『仕入れ屋』という変わった看板を掲げる女商人だ。よく見ると頬は赤く腫れていて、きつくつねられた痕のようにも見えるが‥‥
「いつもお世話になりますわ。今回皆様にお願いしたいのは、ある山から石を持ち帰って頂くことなのです」
 あなた方に気付くと、完璧な営業スマイルでサントマリーは優雅に礼をする。
 ある山と言うのはパリから二日ほど行った所にある岩山だ。険しく、草木も少ない所だが、代わりに珍しい石が採掘できる。

「できるだけ多く、できるだけ種類豊富に、できるだけ美しい石を採掘していただきたいのです。当方で鑑定し、商品として使える物があれば一つ50C、良質のものがあれば一つ1Gで引き取り、報酬に上乗せいたしますわ。色があっても透き通った物は引き取りかねますので、ご了承いただきたいですわ」

 しかし本当に採掘するだけならば、ドワーフの腕利き採掘師にでも依頼すれば済む話だ。わざわざ冒険者ギルドに話を持ってくるとなれば、彼らの十八番を必要としているという事で。
「その山、何でもエイプが群を作ってるらしくってねー。採掘しようとすると、2・3体ぐらいで突然不意打ちしてきて、おっきな腕で抱きかかえて強制下山させられちゃうんだって。お猿さんも石の美しさは分かるのかしらねー?」
 受付のお姉さんは裏のない笑みを浮かべながら説明するが、腕力の強いエイプに抱きかかえられたら、一般人なら軽傷ではすまない。
 なるほど、冒険者にお鉢が回ってくる訳だ。

「とはいえ、採掘には多少なり専門的な知識が必要ですから‥‥もしお詳しい方がいらっしゃらない時は仰ってください。専門家を同行させますわ」
「ただでさえ足場悪いのに、一般人連れてったら邪魔よー」
 ぼそっとお姉さんが冒険者的見解を述べる。サントマリーは横目でお姉さんを流し見て、キッパリと言い切った。
「仕入れ屋が必要としているのは、お客様を満足させる、確実な量と質ですわ。それさえこなしていただければ、どんな方法を用いて下さっても結構ですわ」

●今回の参加者

 ea1606 リラ・ティーファ(34歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 ea1646 ミレーヌ・ルミナール(28歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2792 サビーネ・メッテルニヒ(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea3844 アルテミシア・デュポア(34歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 ea4658 黄 牙虎(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea4746 ジャック・ファンダネリ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5101 ルーナ・フェーレース(31歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea6349 フィー・シー・エス(35歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 数羽の雀が、休まる梢を捜して宙を舞う。しかし行けども見えるのは、ごつごつと隆起する冷たい岩肌ばかり。
『ついばむ土もありゃしない』
 そんなぼやきか、愛らしい鳴き声をかわして飛びすぎる。
 雀達は聞いただろうか、彼らが見向きもしなかった岩山で、その鳴き声にも似た音がいくつもこだましているのを。

 リラ・ティーファ(ea1606)が、右手で支えるた鉄杭の頭にハンマーを打ち下ろす。冷たい金属音が響いて、衝撃に砕けた岩片が飛び散る。同時に掌に広がる、痺れを伴う痛みにリラは顔をしかめる。
「大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと痺れただけだから」
 様子を偶然見かけたミレーヌ・ルミナール(ea1646)が心配そうに覗き込む。リラが不安を打ち消すように笑うと、ミレーヌも安堵の笑みを漏らす。
 リラはハンマーと杭を置いて、握った形のままでいた両手をほぐした。使い続けた手には鉄の臭いが染み付き、指の付け根にはまめが出来ている。昨日の疲れも癒えきっていはいなかった。改めて、採掘師達は凄いと思う。
「採掘は大変な仕事だね。修道院でも畑仕事とかはするし、労働には慣れているつもりだったけど、岩を掘るのとは比べ物にならないよ。これを毎日続けるんだものね」
「それがあの宝石になるんですものね」
 ミレーヌは親やその友人が身につけていたアクセサリーを思い起こす。それがこんな切り立った、殺風景な場所から掘り起こされるのは、知識として知っていてもまだ実感が湧かない。
 それと言うのも――
「はあ。綺麗な石と一口には言っても、なかなか見つかりませんわね。やはり、専門家の方に来て頂いた方が良かったかしら」
 サビーネ・メッテルニヒ(ea2792)は自分の周りに小山のようになった岩くずを眺めて、思わず溜息をつく。実のところ昨日の作業開始からこの方、現在二日目の昼に至るまで、冒険者達はただの一度も鉱石を目の当たりにしていないのだ。黙々と作業を続けていたルーナ・フェーレース(ea5101)も、サビーネの溜息についにハンマーを放り投げた。
「あーもう! 掘っても掘っても石石石石‥‥あたしゃいい加減見飽きたよ」
「すまないッス‥‥。正直、採掘を少し軽く見ていたかもしれない」
「そんなつもりで言ったんじゃないよ。ホラ、時には苦労するのも男を磨くのには必要だしさ」
 昨日アタリつけの纏め役を担ったジャック・ファンダネリ(ea4746)が申し訳なさそうに頭を下げる。ルーナは両手を振って否定するが、声の落胆は隠し切れない。素敵な男性との出会いを冒険に求めている彼女には、何より最近入った依頼に男性冒険者が少ない事が虚無感を倍増させていた。
 ジャックの心なしか落ちている肩に横から手を置いたのはフィー・シー・エス(ea6349)だ。
「今は、その苦労が報われるよう全力を尽くすしかありませんよ。戦いと同じ、負けたと思った時が真の敗北です」
「‥‥そうだな」
 殺伐とした戦場を潜っている者同志通じるところがあるのか、ジャックは自分の弱気を詫び、フィーが新たに情報を書き加えてきた自作地図に目を通す。そんな二人のやりとりが、パラのバード一名のやる気を少し増加させたのは本人のみ知るところだ。
 サビーネを加え、鉱物について学のある三人は次なる採掘場所について話し合う。しばらく続いた議論の後、ふいにフィーが違った意見を持ち出した。
「そういえばギルドの受付嬢の言っていた、エイプに宝石や鉱物類を好む習性と言うのがあるか、ご存知ではないですか」
「いや‥‥俺は聞いたことないッスけど」
「それがどうしたのです?」
 モンスターについて少し知っているジャックが記憶を探りながら答える。真意が汲み取れないサビーネが意見を促すと、フィーは自分の憶測を語り始めた。
 エイプは鉱石を取られるのを嫌っているのではなく、むしろ採掘現場を住処にしているエイプが、入ってきた人間を追い出しただけなのではないか、とフィーは考えていた。
「もしその場所があったら、行けば必ず何かは見つかりますわね」
「ええ。ですから次の休憩の前に、牙虎に警戒がてら確かめに行って貰いたいのですが‥‥」
「このまま出ず終いであたしの一攫千金がパアになっても困るし。いいけど?」
 空高い太陽に羽をきらめかせた黄牙虎(ea4658)は肩に揃えた赤い髪をかきあげる。話が聞こえたミレーヌも、フィーの暗に賛同する。
「じゃあ、現場近くの警戒は私とアルテミシアさんで気をつけます。ね、アルテミシアさ‥‥あれ?」
 ミレーヌは同じく警戒の役目を負っているアルテミシア・デュポア(ea3844)に同意を得ようとして、彼女の不在に気が付いた。
「飛べるって素晴らしい。皆、あたしが飛べる事に感謝するのね〜」
 警戒班の仲間が首を傾げている事に気が付かず、牙虎はフィーの地図を受け取ると、さっさと飛び立っていった。
「じゃ、牙虎殿が戻ってくるまで、もう一踏ん張りといくッスか」
 手を打ち鳴らして相談の終了を告げると、ジャックは迫立つ岩壁に向かって右手をかざした。

 這わねば進めないような険しい岩山も、人間が入り込めば道が出来てしまうものだ。実際その細いが安定した道を使って冒険者達も山を進んできたのであったが、坑道などが存在するならば、そこに至るまでの道がある可能性が高い。牙虎もそれを追う様にして進もうと思ったのだが。
「‥‥‥‥」
 上空から見ると茶色いモサモサ。毛皮のせいで輪郭がぼやけ、周囲の岩から浮いて見える。
 探しに行こうと飛び立って十秒ほど。二体のエイプは大きな岩陰に隠れて冒険者達の採掘の様を窺っていた。目だけ影から出してはすぐに引っ込め、彼らなりに見つからないように努力しているようだ。
 その時、ふいに採掘現場に閃光が走り、爆音が大地と空を振るわせた。採掘の効率を上げるため、ジャックがオーラショットを使っているのだ。エイプは身を跳ねさせると、頭を抱えて大地にうずくまる。そして、ハンマーの音が響き始めるのを聞きつけては身を起こして様子を窺い、オーラショットの爆音に身を伏せる。
 オーラショットは思わぬ所で効力を発揮していたようだ。
 牙虎はその小さな身体に、息を一杯詰め込んだ。そして同時に自らの武器である両の拳を、軽く握りしめる。
 フィーのともすれば一攫千金の案も確かめてはみたいが、その前に仲間が強制下山されては、掘る力のない牙虎には元も子もない話。
「エイプー! エイプ発見!!」
 再び様子見行動に移っていたエイプは突如降ってきた声に、オーラショットに負けず劣らず驚いた。しかもその声を追うようにして、衝撃波が落ちてくるではないか。
「ギャギャーッ!?」
 岩陰から飛びのいたそのすぐ後に、衝撃波は落下して四散する。
 エイプが岩陰から飛び出てくる様は、現場にいた冒険者達にもしっかり視認できた。ここはさすが冒険者と言うべきか、仲間の一声に咄嗟に反応し、各々警戒態勢をしく。
 いち早くミレーヌは腰に携えたダガーを抜き放ち、牙虎は精神を集中させると手に、自分の身長の倍ほどもある光の剣を出現させる。
 二人が地と空からエイプに迫らんと踏み出す。懐に飛び込むために刃を身に引き寄せ、ミレーヌは姿の見えない仲間を呼ばわる。
「アルテミシアさん! エイプです! どこに行ったんですか!?」
 アルテミシアは一向に姿を見せない。しかし代わりに聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
 馬の嘶き、そして蹄の音。
 やがて一頭の馬が小石を巻き上げながら、怯えるままに全力でこちらへ駆けて来るのが見えた。フィーが目を瞬かせる。
「私の馬‥‥? キャンプの近くの木に繋いでいたはずなのに‥‥」
 その理由はすぐに分かった。馬の後を追って、一匹のエイプが走ってくる。片腕には何かを抱えて。
「クリスティ――ヌッ! どうして逃げるのー!?」
「アルテミシアさん!?」
 抱えられたアルテミシアはもがきながら前を走る馬に懸命に手を伸ばす。
「あんなに小さい時からカラス麦をあげて育ててきたのにー!」
「落ち着いてください、アルテミシア!」
 クリスティーヌと言う名前でもないし。
 その間にもみしみしとアルテミシアは締め上げられている訳だが。自分の苦しみよりもむしろ馬の逃げ行く姿が悲しくて仕方ないらしい。
 まあ、客観的に見れば、人間でも逃げ出したくなるが‥‥色んな意味で。
「‥‥出発前から挙動不審とは思っていたッスけど‥‥」
 前々からアルテミシアが馬を欲しがっていた事を思い出し、苦笑するジャックに、嘆息で答えたのはルーナだ。
「とにかく。アルを何とかしなきゃ、作業再開の目処は立たなそうだね。‥‥ったく、あたしに迷惑さえ掛けなけりゃ黙認してやるつもりだったのに。世話のかかる事だよ」
 言い終わるや、ルーナは両手で印を組む。
「馬はあたしが何とかするよ。戦える奴らはサル共を何とかしておくれ!」
「私達は、このまま抑えます! 誰か、アルテミシアさんを!」
 巨大な腕が音を立てて振り下ろされる。間一髪でかわしながらミレーヌと牙虎が刃を振るい、二体のエイプを牽制している。
 フィーの愛馬とアルテミシアを抱えたエイプは、まさにこの混戦の場を横切って山を下る道を駆け下りんとしている。
 ここから走っても追いつけはしない。
 引き止める方法は一つ。
 悟った者はほぼ同時に動いた。
 一人は祈り、一人は静かに体内の気を集中させる。
「コンフュージョン!」
 ルーナの体が銀の燐光を放つと、恐怖に暴れていた馬が嘘のように落ち着きを取り戻す。戦闘馬のように堂々と、優雅に足を止める。細い道は、その後ろを追ってきているエイプが馬を避ける程の余裕など残ってはいない。慌てて足を止めようとするが、坂道に勢いが付きすぎ、馬へと結果的に突進していく。
「クリスティーヌ!」
 アルテミシアだけは幸せそうに、視界に広がっていく馬に手を伸ばす。
「これ以上、邪魔はさせない!」
 ミレーヌが切り上げた刃が、エイプの鼻先に傷をつける。痛みを覚えて首を振るった瞬間、エイプは見た。
 リラの主への祈りと、ジャックのオーラが重なり合うように光を放った。二つの光は空気を切り裂く轟音を上げながら、吸い込まれるようにエイプへ向かい、その身体をはね飛ばした。
 岩をも砕く光が仲間を吹き飛ばした。それは魔法を見たことのない彼らにとって恐ろしい悪夢のようにも映ったのだろう。いよいよ怯えきった声を上げると、エイプたちはきびすを返して逃げる事を選んだ。
 直撃を受けたエイプも、さほど傷は負ってはいなかったものの、仲間が逃げていくのに怖気づいたのか、数歩後ずさるとそのまま隆起する岩の向こうに退いていった。
「‥‥痛ーい‥‥」
 放り出され、強かに腰から落下したアルテミシアのうめく声が、採掘現場攻防戦の終わりを告げたのだった。

 出立の朝、ルーナは転がっている石ころを恨めしそうに眺めていた。
「依頼品を持って帰るのが優先です。仕方ありませんわ」
「だって、こっちの方が絶対に高価じゃないか! それをみすみす捨て置くって言うのかい!?」
 ルーナが指さしてサビーネに訴えるのは、掘り当てた水晶の原石の事だ。エイプを追い返した後、冒険者達はいくつかの鉱脈を見つけ、十分な量の原石と思われる石を採掘する事が出来た。坑道ではなかったが、フィーの言うような昔の採掘跡も冒険者の作業を手助けしてくれた。
「もてる量には限りがあるもんね‥‥。でも、折角綺麗なのに、全部置いていくのは勿体ないよね」
 リラが名残惜しそうに原石の前にしゃがみ込み、ざらついた表面を指で撫ぜる。このままでは不恰好な石ではあるが、自分で掘り起こしたものだとなると、愛着がわいてしまう。サビーネは弱ったふうに肩をすくめる。
「気持ちは‥‥分からなくもないけど‥‥」
「じゃ、皆記念に小さいのを一つずつ持って帰る‥‥って言うのでどうッスか? 俺が責任持つんで」
 水晶は『幸運を運ぶ石』と呼ばれていて、これをあげればきっとサントマリー嬢の商売の運も上がるッス、とジャックは悪戯っぽく笑って、小さな原石を懐にしまいこむ。他の冒険者も異論はなく、それぞれに気に入った石を自分用に拾い上げた。
「これだけでは、お金になりそうにありませんけどね」
「いい記念品だよ」
 依頼とは関係ない宝石で個々人で売って儲けようと目論んでいたルーナやフィーは、少し不満げではあったが。
 それとは少し違った無念を感じているのは、ジャックであった。
(「とうとう、紫の方は見つけられなかったな‥‥」)
 こっそりと、少し多めに持った水晶を皮袋の中で転がしながら、ジャックはからりと晴れた空を見上げた。
 かくて冒険者達は、緑多きノルマンの平野へ、戻っていく。