【収穫祭】実りの夜会・紳士用

■ショートシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月12日〜11月17日

リプレイ公開日:2004年11月22日

●オープニング

 モルニェ伯の夜会は、収穫祭の最後の日に開かれる。各地から集めた腕利きの料理人に任せた料理と共に、祭の終わりを惜しむように、楽しい歓談の内に夜明けを迎えるまで続く。参加するのに制限はない。貴族も町人も農民も――もちろん冒険者も――少し決まりを守ってさえいただければ。

一つ。必ず仮装し、顔を隠す事。
一つ。仮名を使い、夜会が終わるまで誰にも本名を明かさぬ事。
一つ。次の質問の回答を一つ、決めてくる事。
 ――あなたが最も好む物は、その理由は。
 ――最も信ずるものは、その理由は。
 ――最も苦手なものは、その理由は。

 仮面は互いの素性を隠し、共通の質問を用意する事で歓談に広がりを持たせる。これらは、元は階級の別なく、夜会の一時を楽しめるよう作られた決まりだ。だが時が移ろうにつれ、『賑やかな祭の日々を独りで過ごさねばならなかった紳士淑女』が集うようになっていった。今年も気付けばそんな季節、祭に浮かれきれないアンニュイな紳士淑女は、パリに秋風が吹くとこの夜会を思い出すのである。

 あなたも実りの夜会に、参加してみませんか?

●今回の参加者

 ea1872 ヒスイ・レイヤード(28歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea2201 アルテュール・ポワロ(33歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4716 ランサー・レガイア(29歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4909 アリオス・セディオン(33歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5362 ロイド・クリストフ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7693 マルス・ティン(41歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●因縁の三人
「こんな所でまであの悪魔と出くわすとは‥‥」
 伝統的王子様スタイルのゼクスなる男。恋を見つける夜会にはいささか不釣合いな台詞を呟いている。
「悪魔の手先め、いまこそ神の鉄槌を受けるがいい」
 手に持つのはテーブルに備え付けてあったインドゥーラの高級香辛料の空容器。下に並べられているのは、その中身をぶちまけた二皿のスープだ。
「おい」
 ゼクスは通りかかった背の高い男の給仕を捕まえた。盆の上の茶器をのけ、先ほどの改良スープを載せる。
「これをあの馬面とその相手へ頼む。いや何。いつも世話になっている礼だ」
 実は給仕は給仕ではなく、参加者のイアソン・フィシスであった。しかし忍としての嗅覚が教える。この道化のような格好をした男の爽やかな笑みの奥、前髪で隠された瞳はきっと笑っていないだろうと。イアソンは黙って頷くと、言われたとおりに事を実行する。

 一方、ゼクス曰く、世話になってるコナン伯爵とクリスティーヌは和やかに雑談などをしていた。
 その元に無言で配られたスープは、異常に赤く、刺激的な香り。
(「‥‥奴らしい、正々堂々とした攻撃だな」)
 コナン伯爵はそれを見た瞬間、全てを悟った。
(「最初からこんないいネタを提供してくれるとは‥‥これは、相応の礼儀をもって返さねばな」)
 コナン伯は故意に声を大にし、クリスティーヌに話しかける。
「お前の被り物見て思い出したが、俺の知り合いに馬好きな娘がいるんだ。これがまた、良い女の割にやることが破天荒でな。この間は、鳥になった神聖騎士を射抜こうとした」
「あ、馬と言えば私も。知り合いの話なんだけど、跨ったら鼻血吹いたロバがいたそうよロバが!」
 神聖騎士、変身した、鼻血。
 それは馬をこよなく愛する悪魔に世話になった、屈辱の記憶。
(「く、気付かれたか‥‥。だがその反撃は生憎だな、ゼクスである俺には関係のない話だ」)
 ゼクスは顔をひく付かせながらも、自分の記憶を呼び起こすまいと勤める。
 しかし、二人の大声は周囲にも飛び火し、耳に挟んだ人々が、何か囁きあったりし始める。
「それから神聖騎士って言えば、覆面被って懺悔中にやっぱり鼻血吹いた奴が‥‥」
「やめろーっ! 話すなーッ!!」
 放っておけば会場中に広まりそうな勢いに居た堪れなくなって、ゼクスは大声を張り上げた。二人の座るテーブルに走りこみ、両手を叩きつける。
 二人はきょとんとした顔で、手作りの王冠の載った王子の顔を見上げる。
「え、なぁに知らない人?」
「俺達はただ互いの『知り合い』の話をしていたんだが。何か気に障ったか、王子様」
「ぐ‥‥っ」
 その衝動こそ、周囲に全てを悟らせた瞬間だった。
こうして、ゼクスはますますドツボにはまっていくのだった。

●吟遊詩人と踊り子と
 雇われ楽士がいそいそと楽器を取り出し始めるのを見ると、彷徨いの月は語らっていた人々と別れを告げ、持ってきていた竪琴を取り出した。
 吟遊詩人として音を奏でることは、呼吸するのも同じ事だ。参加者として会を楽しむよりも、彷徨いの月にはそちらの方が自然な行動であった。
 今日は何を奏でるのだろう。自分なら、恋を祝福する詩を詠うけれど――
 試し弾きを始めた楽士達まであと十数歩と言う所まで来て、彷徨いの月は足を止めた。
 銀の髪、青い瞳に白い肌、そしてどこか神秘的な雰囲気まで、二人の踊り子は似通っていた。違うのは顔つきと身長、それに見合った体つきくらいだろうか。
 歳の離れた姉妹だろうか。彷徨いの月は、楽しげに笑いあう二人を歳の近い母子に思った。
 娘の命を生み出すと同時に、神に召された妻。母の愛を知らない娘のためにも、妻の代わりを探そうと、彼はこの場にやってきていた。
 やがてフェイスガードを被った青年が、背の低い少女を踊りに誘い、一人母の面影を宿す女性が残った。
 見た目では何もわかりはしない。しかし、踏み出す事は分かり合える力になる。
 彷徨いの月は携えた竪琴を鞄の中にしまいこんだ。楽士の穏やかな音楽にあわせるように、彷徨いの月はその女性に近づいた。
「自分と、踊っていただけますか?」
 細い銀の髪を纏った女性は、少し驚いた風に目を瞬かせると、たおやかに微笑んだ。
「私で、よろしければ」

●異国の月
 石の館には窓がない。あっても、寒さを極力中に入れぬよう、細く、小さくなっている。そんな隙間から覗く星を見上げ、イアソンは軽く息をついた。
 会場の隅には階段があって、そこから中二階へ登ることができる。会場の喧騒から逃れられるこの場所は、早くも気のあった二人が静かに語り合う姿が目に付く。静かなこの場所で、イアソンは一人、滴り落ちるような星を見ていた。
(「人一人探せぬようでは、爺様に叱られるな」)
 忍軍の後継者である彼を厳しくしつけた祖父の、厳しい顔を思い出してイアソンは苦笑する。
「星を、見ているのですか?」
 不意にかけられた声に、イアソンは肩越しに視線をやる。見慣れぬノルマン人の女海賊が立っていた。
「私も、星を見るのは好きです。どの場所でも、好きな人と一緒に見られれば」
 しかし、その口から流れるのは、どこか懐かしい訛りのある、たどたどしいゲルマン語で。イアソンは、再び苦笑を浮かべた。
 今度は反省からではなく、どこか、いとおしさを絡ませた。
 イアソンは気にすることなくジャパン語で話しかける。
『どれだけ壁掛けで壁を覆っても、石の冷たさは凌げるものではない。熱い茶でも飲んで暖まって貰おうと配り歩いていたのだが、ここで休んでいる内に冷めてしまった』
「‥‥随分、お優しいのですね」
 女海賊のアイスブルーの瞳が、非難めいた色を湛えてイアソンを見上げてきた。
 人遁の術は変装の術。ぱっと見ただけでは変装していることは気づかない。ただ、イアソンにはわかった。色こそ違えど、そのすこし挑戦的で、一途な、瞳の光。
『烽火の瞳だ』
 確信を言葉にする。ダーナはぱっと俯いてしまった。
『‥‥飲むか?』
 伏せてあった碗を差し出すイアソンに、ダーナは下を向いたまま小さくうなずいた。

●貴女とダンスを
「慣れないか、こういう踊りは」
 たどたどしい運び、時折すくむ足。ミストは、自分のリードに必死についていこうとしている雪の女王スノウに尋ねる。貴族の出ではないな、と憶測を付け、すぐさま心の中で頭を振る。
 今日はそのような事は関係のない日だ。
「え、ええ‥‥村祭の踊りなら、よく踊るのですけど‥‥」
 受け答えをするも、質問に機械的に答えただけで、スノウは俯いて足取りを懸命に真似しようとしている。
 これでは、折角の時間も楽しむ事も出来ないだろう。
 ミストはゆっくりとダンスを止めた。スノウは気付かなかったらしく、少したたらを踏み、驚いたように自分を見上げてきた。
 やっと、コミュニケーションを取る事が出来そうだ。
 まず第一歩目、ミストはスノウとの姿勢を取り直すと右足を前に踏み出す。
「右足を、こっちに持ってくるんだ」
 スノウが足を持っていくと、ミストは次の動きを示す。
「曲は気にするな。今は、流れを覚えればいい」
「ミストさん‥‥」
 スノウは名を呟き、ミストを見上げた。何か考え事でもしているのか、次に示した足にも、ついてくる気配はない。
「どうした?」
「あ‥‥なんでもないですわ」
「そうか。ステップが分からなくなったなら、いつでも止まって良いからな」
 再びステップを踏み出したスノウをリードしながら、ミストはその黒髪に別の女性の姿を見ていた。
(「これでもう少しおてんばならリサそのものだが‥‥良く似ている人間もいるものだ」)

 石壁の冷たさが、話しつかれた身体の熱を吸い取ってくれる。紫闇は一人、くるくる回る人々を眺めていた。
(「これで収穫祭も終わるか‥‥。色々追われて忙しかったが、楽しかったかな」)
 紫闇はゆっくりと目を閉じる。音楽と、ざわめきと。それはここ数日を凝縮させたようで。収穫祭最高の賑わいにも思えた。
 明日からは、また何事もない日常が戻ると思えば、なおさらだろうか。
「わっ、私と、踊ってください!」
 紫闇を現実に戻したのは、そんな声。目を開くと、前と同じようにくるくる回る人が見えるばかりだ。
 しかし一つ違うのは、視界の下で黒い二つのリボンが踊っていた事。
 視線を下ろすと、まだ十にも満ていないだろうツインテールの少女がそこにいた。緊張しているのか、顔は真っ赤、肩は強張っていかり肩になっている。睨みつけるようにして紫闇を見ている。
「俺でいいのか?」
 問いかけると、メイド服の少女は大きく首を縦に振る。そのまま固まってしまいそうな少女の手を持ち上げると、その甲に軽く口付けた。
「では、参りましょうか、お姫様?」
 これほどまでに勇気を振り絞って誘ってくれたのだ。全霊でお相手をしなければ、主もお咎めになるだろう――。

●月明かりの少女
 ラムダが扉を開けると、夜の冷たい風が一気に流れ込んできた。その先は渡り廊下。踊りで火照った体には、一層堪える。
「ひゃ、寒いな」
「でも、ほら‥‥」
 後ろについてきていた銀の髪の踊り子が、扉をくぐって上を見上げる。そこには天井はなく、代わりに満天の星が瞬いていた。
「‥‥本当は外まで出ようと思ってたったんだけど。会場に向かう途中、偶然見つけてさ」
 ラムダは言葉と共に、首を回す。踊り子がラムダに倣う、その瞬間寒さではない震えが、彼女の肌を駆け抜けて行った。
 モルニェ伯の屋敷はパリの街から少し離れたところに建っている。周りはポプラの雑木林で、そこを抜ければなだらかな平原、遠くにパリの明かりが見える。パリからモルニェ伯の馬車で通ってきた道が、星と月の光に照らされ、まるまま見渡せた。
「‥‥でも、会場はもう一つ下の階ですよね‥‥?」
 少女の不意の問いに、ラムダは羞恥で顔が熱くなるのを感じた。無意識に頬を囲うとして、カツンと、フェイスガードの固い質感が指に触れる。
「あ、はは。こういう雰囲気は慣れないもんで、実を言うと、迷ってた」
 頭の中ではこうエスコートしようと決めていたラムダだったが、いざ行動となると全く予定通りに事は運ばない。‥‥やはり、経験に頼らない行動など、たいした事は出来ないのだと、改めて実感する。
「上手く行かないよな」
 呟くと、少女はくすりと笑み零した。呆れられたかとひやりとしたラムダだが、どうもそうではないらしい。その笑みはとても穏やかで、そのまま、遠い星空に向けられた。
「空に冷やされて、今日は月も綺麗‥‥」
 まるでその光を拾おうとするかのように、少女は手を伸ばしす。
「月、好きなのか?」
 もはや、気の利いた台詞は思いつかなかった。
「はい。月も、星も、太陽も、海も。自然は、好きです。皆が見守ってくれて、自分は一人じゃなくなるから‥‥」
 少女はどうにも捕らえがたく、神秘的な雰囲気を漂わせていた。目を離せば、月明かりに溶けて消えそうで、ラムダは目を離せないでいた。

●そして、夜が開け。
「これで、祭は終わりだ」
 イアソン、我羅斑鮫(ea4266)はダーナ、城戸烽火に言う。
 それは、自分に言い聞かせてもいるようで。朝日を見るには、まだもう少し心残りだ。
 二人は再び、仕事の相棒に戻る。
「次の祭には、何か買ってくださいね」
 烽火の言葉に、斑鮫は無言で頷いた。

 吸血鬼ミスト、アリオス・セディオン(ea4909)はスノウ、リサ・セルヴァージュを背負い、屋敷を後にする。結局、アリオスの勘は正しかったのだ。ただ、こんな夜更けに遊び呆けるパーティに、彼女が来ていた事実だけが、彼の予測の範囲外だったのだ。
「一人で夜遊びして、靴擦れして‥‥眠りこけて‥‥まったく、勝手な奴だ」
 こんな夜会には、不埒な輩も多いというのに、危機感がなさ過ぎる。
 帰って目覚めたら、もう一度言って聞かせようと心に硬く決め、アリオスは馬車に乗り込んだ。

「ティズ、か‥‥。少し、似ていたかな」
 紫闇、ヒスイ・レイヤード(ea1872)は遠い記憶を思い出して、小さく微笑む。目を落とした僧服の袖口は、ほつれた部分が綺麗に補修されている。メイドちゃん、ティズ・ティンが直してくれたものだ。
 25年後が楽しみだな、何とはなしに、そう思った。

 夢のようだった、とラムダ、ランサー・レガイア(ea4716)はルーチェ・アルクシエルとの一夜の事を思い返す。別れ際に握った手の感触が、まだ残っている。

「大量に土産話は手に入れたし、満足だな」
 付け髭をはがし、コナン伯爵、ロイド・クリストフ(ea5362)は人の悪い笑みを浮かべる。途中アルテュール・ポワロ(ea2201)が鼻血吹いて卒倒してから姿を見ていないが、まあ、パリは見えていることだし、万一送りの馬車に乗り遅れても大丈夫だろう。


 そして――
 屋敷の裏門に近い塀に寄りかかり、イコン・シュターライゼン(ea7891)は軽く震えた。冬の足音が聞こえる時期だ、イコンを暖めていた会場の熱気は、外に出た途端奪われてしまった。
 既に送りの馬車は出てしまった。イコンはそれでも動こうとしない。
 その時、イコンが立ってから幾度目かの裏門が開き、調理道具を抱えた少女が出てきた。
「シルビさん!」
 その姿を見紛えようはずはない。とっさに呼び止めると、シルビは振り向いた。驚いたように目をしばたかせている。
「え‥‥」
「料理、おいしかったですよ」
 バイキングを意識した格好、付け髭の向こうでイコンは微笑む。シルビも改めて声を聞き、やっと笑顔を見せた。
 悪魔を倒し、自分を勇気付けてくれた冒険者だと。
「来て下さったんですね‥‥! でも、もう馬車は」
「ぜひ直接お礼が言いたくて。それから」
 イコンは自分の鼓動が早まるのを感じながら、シルビの手を取った。
「出来れば、一曲踊っていただければ」
「‥‥でも、私踊りなんて‥‥」
「僕だって、上手くないですよ」
 言うと、シルビは小さく笑った。大仕事が終わって、やっと安堵できたのかもしれなかった。
 どこからか、竪琴が響いてくる。穏やかのその音にあわせ、二人はゆっくりとステップを踏み出す。

 音の主は彷徨いの月、マルス・ティン(ea7693)だった。彼が思うのはただ娘の幸せのみ。ちらりと会場で見かけた娘が、顔を火照らせて男性とダンスを踊っていたのを思い出して、驚きと、寂しさと、不思議な感覚を味わったけれど。
 彼女に幸せを与えてくれそうな女性は、見つけることが出来なかった。
 ‥‥いずれ、あの子に母の愛を教えてくれる女性が現われたなら‥‥その時は。
 マルスは娘をいとおしむように、やさしく、弦を爪弾き続けた。