謎の書簡を取り返せ!

■ショートシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 44 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月06日〜02月13日

リプレイ公開日:2005年02月16日

●オープニング

 契約の壁画を主よ守りたまえ。愚かなる者どもの欲望より。先の見えぬ者どもの穢れた手より。願わくば、この書が再び人にまみえる前に、時の流れが全てを消し去らん事を。
 若(も)しこれ読む者が神の目に適いし賢人ならば、我の記した事肝に銘じ、この色彩の導(しるべ)を再び箱に封ぜよ。
 若しこれ読む者が悪意に穢れた愚者ならば、必ずや主の裁きが汝の上に降りかかるであろう事を肝に銘じ、悔い改めよ。

 〜黒僧ハレイス・ネグイスの書簡『色彩の導』12〜



 とある村で見つかった竜の壁画。これを調査した冒険者達によって発見されたのは、200年程前の古びた書簡。
「このネグイスという人物が朽ちる前の壁画を見、その内容を読み取った上でこの警告を残したのならば、ドラゴンに関する重要な手掛かりになるかも知れんのだ」
「ええ、そりゃ解りますがね‥‥」
 係員は太い眉の間に深い縦ジワを刻んだ。この海戦騎士はいつもおおらかと言うか。
「情報が少なすぎやすよぉ。それだけじゃ、盗人少年を捕まえるって依頼は出せませんぜ」
 これ以外にも存在しているらしい色彩の書は、保存されている教会からなくなっていた。それが盗まれたと裏づけるのは、村長が見た、同じような紙を持った少年の目撃談のみ。それも一月以上前の話だ。ほとぼりが冷ますための間、国を離れていてもおかしくない。
「同じ年恰好の奴を片っ端から捕まえればいい」
「無茶言わねぇでくだせぇ。エイリーク親方を暴君にしたいんですかい?」
 エイリークの名前に渋面を作った騎士は、太い腕を組んで考え込む。後ろでは順番待ちの列が出来てしまっている。
 やがてやおら手を打った騎士は豪快な笑みを係員に向ける。
「そうか、容姿を伝えなければ探しようもないな」
「いや、そーいうんじゃなくてね‥‥」
「申し訳ありません、落ち着いて、もう少し具体的にお願いできませんか」
 隣の受付からも困ったような係員の声が聞こえてくる。派手派手しい商人風のその客は相当いらついていて、拳を叩きつけてわめき散らしている。とにかく隣の係員は、客を宥めるのに必死だ。
「だからガキだよ! ぶかぶかのチェインヘルム被った! 昨日だ、妙な紙切れを買わせといて、財布のありかを確認してから、後でその金ごっそりスリやがったんだ! 取引の金も入ってたってのに!」
 前を見やると、騎士は何かを腕を組んで、伝えられた特徴を思い出そうとしている。
「そう、えらく不恰好にチェインヘルムを被っていたらしい。生意気そうな少年で口だけは良く回るという話だ」
「偉い聖者様の文句だとか何とか、調子のいい事抜かしやがって‥‥ラテン語ってだけでただの日記だったんだぜ!?」
「背は140、50。もしかしたらパラかもしれないな」 
「俺の胸ぐらいまでしかねぇチビのくせして、足だけは滅法速ぇ‥‥」
「「‥‥ん?」」
 騎士と商人は不意に黙り込んで顔を見合わせた。
「すまないが。その紙切れを今お持ちか?」
 商人は信じられないような、不思議そうな顔をして、懐の紙を騎士に手渡す。覗いた騎士の表情が見る間に変わった。
 素早く走らせていた羽ペンをペン立てに戻し、係員は窓口の向こうから不敵な笑みで二人を見上げた。
「それでお二人さん、幾ら出せるんですかい?」

 商人の証言では、少年は人の多い定期市で遭遇したという。早速次に定期市の開かれる町へ、冒険者達を派遣する事になった。

●今回の参加者

 ea3088 恋雨 羽(36歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7171 源真 結夏(34歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8910 セル・ヒューゴー(25歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0704 イーサ・アルギース(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0976 花東沖 槐珠(40歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●駆ける冒険者
「ああ? 色んなとこで妙な紙を売ってるってガキの事か?」
 雑貨を広げた商人が、恋雨羽(ea3088)と花東沖槐珠(eb0976)を不思議そうに見上げる。比較的小さな街だ、東洋の人間が珍しいのだろう。
「何か知っている事があれば、教えてくれないか?」
 羽が持ちかけると、商人は愛想良く頷く。羽の言葉の不慣れを察してか、噛み砕き、ゆっくりと話をしてくれる。
「何かわかりましたか‥‥?」
羽の一歩後ろで様子を窺っていた槐珠が、たおやかな笑みを浮かべて彼の長身を見上げる。華国から移ってきたばかりで右も左も、行きかう人の声は言葉にも聞こえないと言うのに、大した度胸だ。真っ直ぐ見つめられるのが気恥ずかしくもあり、羽は微笑した。
「依頼人以外にも何人か、方々の市で被害にあっているらしい。一度見つかったらその町からはすぐに離れてしまうようだね。彼は、まだここでは姿を見ていないらしい」
「この市には来ていないのでしょうか‥‥」
「いなければ他を当たるだけさ。今は、もっと情報を集めなければね」
「ソレヨリ、オ二イサン。ばれんたいんノ、恋人ノオ守リ、イルカ?」
 華国語で意思疎通を行う二人の間に、唐突に片言の華国語が混ざる。見れば商人が、揃いの首飾りを見せて満面の笑みを浮かべている。槐珠はもちろん驚いたが、もっと反応したのは羽だった。浅黒い肌にさっと赤みが差したかと思うと、
「いらない!」
と槐珠の手を引いてさっさとその場を離れた。
 商人が異様に親切だった時点で裏があることに気付くべきだった。顔を赤らめた二人とすれ違った人々は、ひゅう、と口笛を吹いて囃し立てた。

 所変わって乾物売りのおばちゃんの話はこうだ。
「チーズを沢山買ってくれるの。お酒の肴にするんだって。
 うちに来る時には、もう他にも色んな荷物持ってるのよ。宿まで持って行ってあげようかって言ったんだけど、近いから大丈夫って。まだ小さいのに、感心な子だよぉ。あの子がどうかしたのかい?」
「え‥‥」
 源真結夏(ea7171)はおばちゃんの勧めてくれたチーズを喉に詰め掛けた。
 おばちゃんは少年がスリとはこれっぽっちも思っていないようだ。作戦を成功させる為に色々考えてはいたが、探りを入れる時のカモフラージュは考えていなかった。冷や汗がうなじをひやりと流れる。
「それって、珍しい紙を売ってるって子の話かい? 珍しもん好きのうちの旦那が探してるんだ」
 顔を青くしている結夏の後ろから、青年の声が飛んできた。幅広のバンダナを額に巻きつけた白髪の青年、セル・ヒューゴー(ea8910)だ。
「そ、そうそう! 私も見つけたら教えてくれってその人に言われて‥‥なんでも東の大商人らしいわよ」
 話に乗っかって、結夏も考えていた情報をアレンジする。おばちゃんは我が意得たりと何度も頷いた。
「やっぱりね。武器商の小姓さんか何かだと思ってたんだよ。買い物ついでにチェインヘルム頭に乗っけて、宣伝してるんだね」
 これ以上突っ込んで質問してボロが出ても困る。結夏はおばちゃんに礼を言うと、セルと共に次の聞き込みに向かった。

 こうして冒険者達が最初の数日を聞き込みに費やす中、イーサ・アルギース(eb0704)は一人市から離れ、薄暗い裏路地にある酒場に足を踏み入れていた。
(「蛇の道は蛇、ドラゴン騒ぎの裏で盗賊や海賊が暗躍するならば、彼らに近しい者なら何か知っている筈‥‥」)
 まさにそう考えて、曰くありそうな酒場に足を踏み入れたのだ。
 カビや古い酒の臭い、荒くれ者の騒ぎ声。酒がシミを作り、食べかすが積もる床を、ゆっくり進んで行く。
「あのいけ好かない交渉役はどうしたんだ? 魔法嫌いのあんたが、この価値解るのかい?」
 不意に入ってきた声にイーサは耳をそばだてる。店の最奥の席に座る、商人らしい男のものだ。彼は片手で小さな箱を弄びつつ、チーズを口に運んでいた。
「竜の代わりに売っ払っちまったよ」
「そりゃ惜しい。無愛想な君らの中じゃ、飛び切り楽しい食事の友だったのに」
「心配するな、ロクに仕事も出来ないお喋りよりは、眼はいいつもりだ」
 商人の相手は他の客に隠れて解らない。人を探す振りをしながら、少しずつ近づく。
 二人は会話しつつ、大きなチーズを切り分けては、相手の皿に盛っていた。切り方はバラバラで、時折、相手の取り皿からチーズ片を取ったりする。チーズはまだ沢山余っているのに。
「しかし、ああいう類の儲け話は、君らは興味ないと思っていたんだがね」
 商人の相手は答えの代わりに、大きなチーズ片を乱暴に商人の皿に置いた。商人は一瞬恐怖に身を強張らせて、やがて愛想笑みを浮かべた。
「おお怖い。そんなに急かさないでくれよ。今の話もあのエルフなら、美味しい食事を引き立たせる冗談に使ってくれるのに」
「俺の冗談を聞きたいなら、布を黄色く染めてくる事だな」
「やめておくよ。私は物を手に入れるには価値に等しい金と交換する主義だからね」
「ならば、これで満足だろう?」
 商人の眼に探るような、楽しむような光が宿る。ドラゴン騒ぎと関係があるのか――あと半歩近づけば相手の顔が見える、その時、イーサの肩に手が置かれた。
「お客さん。誰をお探しで?」
 イーサの背に冷たいものが走る。顔にいくつも傷を走らせた屈強な男が彼を睨み据えている。
「残念ながら、すっぽかされたようです。出直してきますよ」
 極めて冷静に、イーサは後退しようとするが、男は鵜呑みにはしなかった。無言でダガーを引き抜き、襲い掛かる。
 しばしの酒場の乱闘の後、イーサは傷を負いつつやっとの思いで逃げ出した。白の僧槐珠の力で傷自体は癒えたものの、しばらく宿で安静にしておかねばならなかった。

●追う冒険者
 シュタール・アイゼナッハ(ea9387)は立ち眩んだ。
「何でも言い値で買ってくれる大商人ってアンタか!?」
「哀れな者には必ず10Gお恵み下さるという‥‥」
「違うよ。東方の秘術を売る商人だって!」
「いらない紙をポーションに替えてくれるって錬金術師だろう?」
 今や彼は通りを歩けば老若男女問わず囲まれる有名人だった。一生懸命情報を集めた冒険者達の力か、はたまた商人の抜け目ない情報収集力の賜物か、いっそ両方か。少年をおびき寄せる罠は今、予想を超える尾鰭をつけて冒険者達の前に立ち塞がっていた。
 日々を研究に費やすウィザードであるシュタールには、大勢の人間に囲まれるのは、下手な攻撃魔法より凄まじい衝撃だった。
「イコンよ。わしが死んだら後は頼むぞ‥‥」
「大商人が人にあてられて死んじゃ駄目ですシュタ‥‥いや、旦那!」
 すかさず使用人役のイコン・シュターライゼン(ea7891)がしっかと支える。混乱は幸いにも、使用人にしては機敏で力強い動きを誰にも気付かせなかった。
「おっちゃんが派手派手な割には顔が垢抜けない、変わり者の大商人?」
 並み居る大人の間を縫って、甲高い無邪気な声がする。内容の失礼さにも気付かず、すぐさまシュタールは我に返った。よく動く大きな瞳で見上げるのは、依頼人や仲間の情報とも一致するチェインヘルムの少年だった。
 シュタールの目の色が変わったのを察して、少年はすまなそうに頬を掻く。
「悪いね、おっちゃんの探してる紙、もう全部売っちゃったんだ。だから代わりに、どこに売ったか教えてあげようと思ってさ。勿論、タダじゃないけど」
 どうやら本人にはちゃんとした情報が伝わっていたようだ。
「大丈夫ですか? そんな事言って、旦那を騙そうとしてるんじゃ‥‥」
「信じてもらえないなら、おいら帰るよ」
 イコンはこれ見よがしにシュタールに耳打ちしたのを、少年は耳ざとく聞きつける。背格好が兄弟のように見えなくもない二人を、シュタールは宥めた。
「ともかくまず話を聞いてからだ。わしの聞いた話が本当なら、あの紙には大変な歴史的価値があるのだからのぅ。さ、宿に帰るから他の皆に店じまいを伝えてきておくれ」
 イコンはそれでも不審そうに少年を眺める。黒い髪と黒い目、色白の肌。厚手の服に隠れてはいるが、肩の線は少し華奢に見える。それだけでは種族は何とも特定できない。
 再度急かされ、イコンは渋々を装ってシュタールの側を離れていく。群がる人々を押しのける後姿が見えなくなったのを確認して、シュタールはおもむろに少年に向き直った。少年の向こうに、一人の影が動いた事を確認して。
「そういえば、お前さんの名前を聞いていなかったのぅ?」
「おいら? おいらはハーラルって‥‥うわ!?」
 ハーラルが素っ頓狂な声を上げたのは、突然身体が宙に浮いたからだ。人込みに紛れて近づいた羽が背後から羽交い絞めにしていた。
「捕まえたよ、盗っ人殿」
「きゃーっ!」
 少年は死に物狂いで足をばたつかせる。それはシュタールや、シュタールに群がっていた老若男女の顔や身体に襲い掛かる。近くに潜んでいたセルが駆けつけようとするが、少し遅かった。顎を強かに蹴られたごろつきが怒り任せに羽に拳を振るい、やむを得ず手を放した隙に、ハーラルは一目散に逃げ出してしまった。
 遅れて合流した槐珠が三人を見回す。冒険者の顔に焦りはなかった。
 混乱は混乱を呼んで、周囲は騒然となった。怒りに我を忘れた人々が繰り出す拳を掻い潜り、四人は少年の消えた方向に向かった。

 軽く息を整え、目を閉じ、少年の姿を思い描く――
 思い通り想像したと思ったその像はしかし、それ以上の何物も写しはしなかった。
「うーん。あれだけの接点じゃ、駄目なのか‥‥」
 オーラセンサーでの追跡をしようとしていたイコンは、少しがっかりした。
 あてこそ外れたが、それでもこの場でまとめた作戦からは微々たる変動だ。イコンは瞳を開くと、狭い路地を突っ切って、一人の冒険者の名を呼んだ。
 崩れかけた壁に背を持たせかけていたカノン・リュフトヒェン(ea9689)は、わずかイコンの声のほうへ顔を向ける。
「作戦が始まりました。予想が正しければ、もうすぐです」
 カノンが頷くのを見ると、イコンはすぐさまきびすを返して影の中へ引っ込む。
 その足音が遠ざかるのと入れ違うように、軽い足音が砂利を踏みしめて来る。そちらへ身体を向けると、駆けて来た相手は必要以上に驚いた。
 さらに無言で、柄からクルスソードを引き抜く。
「うわあああ〜っ」
 ずり落ちそうなチェインヘルムを支えながら、ハーラルは百八十度方向転換してもと来た道を走り戻る。路地の出口手前で後を追ってきた羽に出くわし、再度鋭敏に方向転換して狭い道に入り込む。
「なるほど、すばしっこさだけは目を見張るが」
 彼女のやるべき事は果たした。後はなるままに任せればいい。
「今よ!」
 路地の向こうで結夏の雄々しい合図。暗がり路地の両端で待ち構えていた結夏とセルがぐいと太い縄を引く。情けない叫び声と砂利を盛大に滑る音。カノンが路地を覗いた時には、ハーラルはイコンに抑えられ、自分の足を引っ掛けた縄で身体をぐるぐる巻きにされている所だった。

「‥‥では、教会の書簡を盗んだ理由を聞かせてもらおうかのぅ?」
「いつもの仕事だよ。‥‥生活費稼ぎの」
 ハーラルは先程とは打って変わって、しゅんとうな垂れ、神妙な態度でシュタールの質問に答える。覚悟を決めたかのように逃げ出そうとする素振りは全くなかったが、カノンが前に進み出ると、怯えて竦みあがった。
「お前の出身はどこだ?」
「‥‥ノ、ノルマンの‥‥北の方」
「あの書簡はラテン語で書かれたものだ。情報からすると、異国の言葉を読めたようだが?」
「それは、アニキが‥‥あっ」
 言いかけて、ハーラルは明らかに失敗した表情をして口をつぐむ。カノンは何も言わず、ただハーラルを見下ろした。彼女の視線は、寸分の隙もない戦士のもの。敵を逃さず、倒す眼に、ますますハーラルは硬くなる。
「嘘さえ付かなければ、おぬしをどうこうしようと言う意志はない。話してくれんかのぅ?」
 代わって、シュタールが穏やかに話しかける。ハーラルは横に首を振った。
「『他の黄布を他人に掴ませちゃいけない』から‥‥」
 幾人かの冒険者は、ハーラルの小さな呟きにそれぞれに反応する。黄色い布を旗印にする盗賊団の事を思い浮かべたのだ。
 しかしそれならば何故、折角手に入れた書簡を売りさばくような真似をするのだろう。スリの道具などにしては、遅かれ早かれギルドに依頼が来る事も予測できるはずなのに。
 セルはそこまで考えて、ハーラルに視線を合わせるように屈んだ。
「じゃ、ずっこけヘルム君。他の黄布じゃなく、君自身の事なら聞いても構わないか?」
 ハーラルはしばらく考えて、こくりと頷いた。
「書簡の事についてどれくらい知ってるんだ?」
「教会の偉い人の日記」
「書簡を使ってスリをしようと思ったのは、君の意志か?」
「違う」
「スリで儲けたお金は?」
「おいらは持ってないよ」
「つまり、君は兄貴分にやれといわれて仕事をしただけと言うわけか」
「‥‥あ」
 結局いいように情報を引き出された事にやっと気付いて、ハーラルはばつの悪い顔をする。セルは子供の遣いを褒めるように軽くチェインヘルムを叩いて、立ち上がる。
「じゃあ、兄貴たちの所に行って、金を返してもらおうか。それが俺たちの仕事だからな‥‥心配するな、君に案内してくれとは言わないよ」
 今まで得た情報から考え、イーサが聞いた商人の相手が関係しそうなことはすぐに予想できた。いや、ハーラルが上手く冒険者の罠に掛かった所で、両者の関係はほぼ疑うべくもなかった。
 冒険者はある程度ハーラルを泳がせ、彼の根城にしているだろう場所で待ち構えて戻るのを待っていたのだから。
 そうして通り一本向こうの酒場にハーラルと共に足を踏み入れた冒険者達だったが、彼らを迎えたのは強面の店主だけだった。
「何だ? 食事なら銅貨五枚、宿を探してるなら二階に雑魚寝で二枚だ」
 ハーラルを見てもそ知らぬ素振りの店主に、探りを入れることは無理だと判断した冒険者は、情報だけを持ってギルドに帰る以外になかった。
 ギルドの報告を受け、情報と盗っ人本人の捕縛に、騎士は十分に満足した。かたや商人はハーラルを売って金にすると騒いだが、その分を肩代わりすると申し出たイコンとシュタールの意志を汲み、騎士が商人の書簡を買い取るという事で解決した。
 ハーラルの身柄の方は、更なる情報源でもある事からこちらも騎士がしばらく預かる事となった。