聖火台に火を灯せ!

■ショートシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月20日〜08月28日

リプレイ公開日:2004年08月30日

●オープニング

 冒険を始めてしばらく経った。
 いつも忙しなく人が行きかうギルド。いくぶんか使い慣れてきた武器を片隅で磨いていると、視線の端にこちらに向いて立ち止まっている足が見えた。視線を上げていくと、依頼書の束を抱えた受付のお姉さんがにっこり微笑んで立っている。
 まさかこんな公共の場所で手入れをしてるのを怒りに来たか!?
「踊り、好き?」
 ちょっと身を竦めたあなたを他所に、お姉さんは奇妙な問いかけをした。あなたは頭上にいっぱい疑問符を浮かべたが、束の中から差し出された一つの依頼書を見て納得した。

 とある集落で、これから徐々に短くなっていく太陽への、感謝を示す祭が開かれる。村外れの小高い丘にある灯火台に太陽の象徴として火を灯し、数日に渡って踊り騒ぐというものだ。灯される火は聖火と呼ばれ、村の代表が、村から灯火台まで走って点火し、祭は始まる。
 しかし最近になって、灯火台の近くにクレイジェルがうろつくようになってしまった。
 これでは危険で灯火台に近づけないし、クレイジェルの酸が神聖な灯火台を溶かしてしまいかねない。
 祭が始まる前に、どうかクレイジェルを退治して欲しい――と言うのが依頼内容だ。

「確認されている数は二体。表面が土に覆われているから、向こうが動かない限りこっちから見つけるのは難しいわ。不意打ちも良く仕掛けてくるらしいから、注意が必要よ‥‥って言ってももうほとんど直感勝負って話だけど」
 ジェルと言えば、不定形のゼリー状のモンスターだ。接触した生物を酸でで溶かして捕食する、本能だけのイキモノ。
「結構手強い相手だけど、あなたぐらいの手馴れた冒険者なら大丈夫じゃないかしら。今現在、この依頼を知っているのは、依頼者と、あなただけよ?」
 手入れ途中の武器をちらりと眺め、からかうようにお姉さんは言って、あなたの目の前でくるくると件の依頼書を丸めた。

●今回の参加者

 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea1906 ヴォルディ・ダークハウンド(40歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2229 エレア・ファレノア(31歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4290 マナ・クレメンテ(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4771 リサ・セルヴァージュ(31歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea4795 ウォルフガング・ネベレスカ(43歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)
 ea4909 アリオス・セディオン(33歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●聖火台の戦い
 穏やかに日差しが降り注ぐ午後。二羽の兎が草を食んでいた。見渡すばかり空と大地ばかりの丘で、まばらな草地をうろうろとしては、小さな口を懸命に動かしている。
 それはとても穏やかな光景で。
 しかし偶然底を通り過ぎる人がいるなら、違和感に気付くだろう。
 兎達の後ろに見える聖火台の周りにだけゆらゆらと陽炎が揺らめき、周りの土には植物を燃やした灰が敷き詰められている。何より兎の後ろ足に結ばれた紐が、人の作為を決定的にしていた。
 紐はうねって伸び、聖火台の丘よりいくらか離れた、いささか傾度の高い斜面の陰に隠れる。そして斜面の向こうからは、クレイジェル退治を依頼された冒険者達の頭がいくつか覗いていた。
「駄目だな」
 なべて周囲の生き物の命の力を教える大いなる父の加護は、兎の小さな命の灯火を伝えるのみだ。紐の先端を握ったはウォルフガング・ネベレスカ(ea4795)は、そう言いつつも鋭い視線を兎に投げる事を止めない。
「ジェルってやっぱりディテクトライフォースに引っかからないのかなぁ」
「いや。ギルドの話によると、ジェルは虫に分類されるらしい。近づけば必ず反応があるはずだ」
 カルゼ・アルジス(ea3856)の心配にヴォルディ・ダークハウンド(ea1906)が答える。
「灰と幻を警戒していると考えるべきか」
 と、クルスソードを抜き身で携えたアリオス・セディオン(ea4909)がエレア・ファレノア(ea2229)をちらと眺めやる。聖火台を取り巻く灰はジェルが乾燥を嫌うのではないかと言うアリオスの予測の元用意されたもの、陽炎は威嚇にする為のエレアのマジカルミラージュである。遠くから眺めれば、聖火台が業火で包まれているように見えるだろう。
「炎を警戒しているのであれば、まだかなり遠くにいる事になりますね」
「いらん憶測は失敗を招くぞ――む?」
 ウォルフガングは感じた。聖火台の方角の生命力が、ふと大きくなったのを。視線を上げたが、そこには相変わらず平和な光景が広がるばかりだ。そしてそのまま神の加護は終息する。
 大柄の僧は確信を持って、一言、注意を促した。
「近いぞ」
 同じ気配を感じてか兎の一羽が立ち上がり、耳をそばだてた。その足元が、奇妙に揺らぐ。
 突然沸いた泥水が、小さな津波を起こしたようにも見えた。クレイジェルはあっという間に兎を飲み込む。慌ててもがく兎達だが、最早逃れる術はない。
 いち早く駆け出したのはヴォルディだった。相棒のジャイアントソードを構えたまま接敵すると、渾身の力を込めて振りかぶり、叩きつける。ジェルの土を被っていない、半透明の部分に、兎から漏れ出した赤い液体が垣間見える。
 だが、一瞬の迷いもなく、ヴォルディは第二撃を振り下ろす。ジェルが粘りのある水音をたてて潰れる。
「ヴォルディさん!」
 ハルヒ・トコシエ(ea1803)は袋を握り締めてヴォルディの後を追った。中身は顔料で、エレアの集めた草花で、ハルヒが作ったものだ。これをクレイジェルに振り掛ければ、土に紛れても見分けがつく。
「よ〜し‥‥」
 袋の中に手を入れかけたハルヒだったが、背後で上がった叫び声に思わず振り返る。
 隠れていた丘陵の向こう、アリオス達がもう一方のクレイジェルと戦いを始めていた。
「ど‥‥どーしましょ〜っ」
 どちらかを選べば、きっともう片方は隠れてしまう。真ん中でおろおろするハルヒに向かい、ヴォルディは振り向かずに声を荒げた。
「向こうに回れ、ハルヒ!」
「で、でも〜‥‥」
「行け!」
 再度言うと、強い語気に押されるように、ハルヒはヴォルディに背を向ける。
 もう一撃。振りかぶったヴォルディに、苦痛に耐えるように身を震わせ、クレイジェルは足元から酸性の身体をまとわり付かせようとする。間髪いれず身をよじったが、わずかに遅い。足元にぐるりとまきつく。
 焼け付くような痛み。
「ち、面白くない攻撃しやがって!」
 本能ばかりで動くジェルには、ヴォルディの望む駆け引きのある戦いなどは望めはしない。煮え切らない不快感をぶつけるように、ヴォルディはまきつかれたまま、大剣を振り下ろした。

 その時エレアの視界の隅に、蠢き這いずる、何かが映りこんだ。
 蠢く虫、石ころ、草の根。エレアはエックスレイビジョンで地表の下を覗いてクレイジェルを捜していた。
「うおおおっ!」
 ヴォルディが気合のままにスマッシュを打ち込んだ――まさにその時。
「リサさん!」
「‥‥っ!?」
 リサ・セルヴァージュ(ea4771)は足元が浮き上がるような感触を覚えた。いち早くエレアの警告の意味を察したアリオスは、咄嗟にリサの手を掴んで引き寄せる――次の瞬間、土色の液状がリサを包み込むように伸び上がった。
 その先端がリサの腕を掠める。
「熱ッ‥‥」
「平気か」
「馬鹿ね、これくらいの事、怪我とも言わないわ」
 咄嗟にそう言い返すと、アリオスにつかまれた手を振り払う。
「とにかく、聖火台に行かせないようにしなきゃ。幸い、クレイジェルにはあたしがご馳走に見えているみたいだから」
「引き付けよう」
「言われなくたって!」
 二人は言い合いながら聖火台に背を向け、そのまま駆け出した。ジェルも二人を確実に捕食するべく、再び土に同化しようとする。
「あ〜っ、待って! 這いつくばっちゃ駄目です〜!」
 ハルヒがぱたぱたと駆けてくる音は、まだ遠い。
「よし、出来た!」
 青い光に包まれたカルゼの印を組んだ手に、どこからともなく水気が集まると、瞬時に冷気を帯びて氷のリングが出来上がる。マナ・クレメンテ(ea4290)はその行程を一部始終眺め、感嘆の息をもらした。
「へえ、これがアイスチャクラかぁ」
「そうどこへ投げても帰ってくる優れモノ、でも身軽にしておかないと受け取れなくて怪我しちゃう‥‥って俺も説明してる場合じゃなくって!」
「そうだったわね!」
 マナは弓を地面に置いてチャクラを受け取ると、自然な動きで放り投げた。
「行け、アイスチャクラ!」
 冷ややかな刃は狙い違わず飛び、回転しながらジェルの表面を抉る。ビクリと一瞬、土に潜む直前でジェルの身を竦ませた。
「そのままストップ! むこうのジェルの分まで、綺麗にお化粧してあげますからね〜!」
 ようやくたどり着いたハルヒは、顔料を取り出すのもわずらわしく、袋のままジェルに投げつける。表面を覆っていた土に付着し、ジェルは卵色に彩られた。
 クレイジェルが恐ろしいのは、完璧に土に隠れて不意打ちを駆けてくるからだ。降りかかった顔料を払う知能も持たないクレイジェルは、卵色を引きずってリサ達を追い始めた。
「囲んで一気にトドメだ!」
 自分の分を作り終えたカルゼが大きくチャクラを振りかぶる。場所さえ分かって距離を開ければ、動きの遅いジェルに攻撃される心配などまるでない。
 初撃のチャクラを受け取ったマナが、後に続く形で投げる。二つのチャクラが時間差にとび、ジェルを回転する刃で切りつけると、大きく弧を描いて二人の下へ帰ってくる。
「ブラックホーリー!」
「サンレーザー!」
 ウォルフガングの祈りとハルヒの舞いが力となって、黒と金の光が溢れる。二人の下から一閃に伸びる黒と金の光は、粒子を散らしながらジェルに終結し、炸裂する。ジェルはそれでもなお、手近な餌――リサとアリオスに向かって貪欲に進み続ける。
 二人は走り止めていた。普通に走っただけでも、随分と距離が開いている。
 リサはそれを確認すると、静かに目を閉じ、風の精霊への呼び掛けを始めた。アリオスは徐々に近づいてくるジェルをじっと見据え、剣を構える。
 リサが青い瞳を開く。内側から溢れ出るような緑の光が、魔法の発現を知らせる。見計らって、アリオスは聖なる剣を大きく薙いだ。
「ウインドスラッシュ!」
 切っ先から生じた衝撃波が、風の刃を追いかけるように空を切り、ジェルを打ちのめす。
「これ以上刃がこぼれん内に、とっとと終わりにしようぜ!」
 ケリをつけてきたヴォルディも大剣をふるう。
 あっけないほど一方的に終わった戦いは、冒険者達の機転のもたらした大勝といえた。

●太陽へ、みんなへ、あなたへ。
 ヴォルディとリサの負った怪我は酷いものではなく、アリオスのリカバーによって次の日には完治した。余った滞在日数も無駄にはせず、冒険者達はそれぞれに祭の準備を手伝いながらその日を迎えた。
 村から休む間もなく駆けてきた青年が聖火台に火が灯す。周囲からわっと音楽が響き、次々と村人達は輪を作って踊り始めた。
 明るい蒼に白い裾のスカート、赤いアクセントのついた白い帽子。女性冒険者達は祭り用の民族衣装を貸して貰っていた。
 マナはくるりと一周して見せて、にっこりと笑みを浮かべる。
「太陽と青空の色なんだって」
「へえ、変わるもんだな」
「まあまあな」
 ヴォルディは素直に感心してみせ、ウォルフガングはどこかからかうようにニヤリと笑う。
「アリオスも何か言ってよ! リサ、可愛いでしょ?」
 マナに念を押され、アリオスはリサを見た。リサはマナの後ろで俯いてしまって、いつもの勢いはない。
 どう表現したらいいのか分からず、アリオスは言葉を口の中で転がした。
「まあ‥‥馬子にも衣装だな」
 リサは耳まで真っ赤になった。お洒落してアリオスに何か言ってもらいたいと思っていた自分が恥ずかしい。
 そんなリサの思考を引き戻したのは、マナの狼狽する声だった。
「あたし、踊りなんて‥‥」
「その格好で踊らなきゃ嘘だろ。それとも、俺が相手じゃ不満か?」
 ヴォルディはさりげない動作でマナの手を取る。
「でも‥‥」
「大丈夫ですよ。楽しく踊れば、太陽は喜んでくれるんですから」
「お日様ありがとうって気持ちが大事なんですよ〜」
 エレアとハルヒが微笑んで、聖火台の周りの、一番大きな踊りの輪に誘う。
「そういう事。もちろんお前らも踊るんだろ?」
 全て知ってんだぜというような笑みを向けられ、アリオスは目を瞬かせたが、やがて軽く笑ってリサの手を取った。
「仕方ない」
「な、何よ、仕方ないって‥‥」
 アリオスの心は分からない――しかしリサはいつものように強がりながら、今彼と踊る事の出来る時間を大切にしようと思った。
「さあ、いきますよ〜」
 ハルヒが太陽への舞からライトを呼び出し、光を降らす。掌に小さな太陽を灯しながら踊るハルヒの姿は、観客たちを大いに沸かせる。エレアは全身で幸せを感じながら踊る、太陽の精霊メイフェのような舞を踊る。神々しく、美しい舞いだった。アリオス達も思い思いに曲に身を任せている。
「若いな」
 と一人残ったウォルフガングは呟く。こういう感想がでてくる辺り、年なのかもしれないなぁと、一人思う。
「ウォルフガング!」
 背後からの声に振り向くと、何か大量の荷物を押し付けられた。それぞれはとてもいい匂いがして、お菓子や料理の詰め物だと分かった。
「色んなトコで料理を振舞ってくれるんだ。持ちきれないから手伝って!」
 いいつつ既にカルゼは、自分でもいくつかお菓子の袋を下げて次なる標的を探している。
「構わんが、俺の分も取ってくれるんだろうな?」
 ゆっくり見物と言うわけにも行かないらしい。ウォルフガングは苦笑すると、走り出すカルゼの後を追った。