救の投げ文

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月08日〜05月13日

リプレイ公開日:2005年05月17日

●オープニング

 竹箒を手に欠伸を噛み殺して掃除をしていたギルドの受付の一人がそれに気が付いたのは、だんだんと暑く目を覚ましやすくなりつつあった若葉の頃のとある早朝でした。
「‥‥なんだ、これ‥‥投げ文?」
 窓の所に放り込めなかったせいでしょうか、ぎりぎりと押し込まれた布の塊があり、それを手にとって首を傾げるギルドの人間。
 高価そうな、それでいて童が好みそうな愛らしい手鞠が描かれた布にただ一言、拙い字で『救』と書かれており、これまた子供がつける程の可愛らしい鼈甲の簪、それに僅かばかりの金が添えられています。
「‥‥これは、依頼、なのかな‥‥?」
 そうは言っても身元も分からないような依頼を受けるわけにも行かずに首を傾げていると、その布をよくよく見てさっと顔色を変えるギルドの人間。赤い布なので直ぐに気が付かなかったのですが、袖の端が濡れており、そこから離してみた指先が僅かに赤く濡れたからです。
「もしかすると、お役人に届けられない類の者が‥‥?」
 放っておけば良いかもしれませんし、お役人を捕まえて渡してしまえばそれで済むでしょうが、投げ込まれたその布きれに簪、そして手に付いた微かに鉄錆の匂いがする液体を考えると悪戯にしては悪趣味だし、何となく届けてはいけないような、何とも言えない胸騒ぎがしたようです。
「それにしたって、これじゃあ雇える人間なんてほんのちょびっと‥‥最低必要そうな人間がこれぐらいで、情報集めのお駄賃でこれぐらい‥‥うう、今月は少し酒を控えるか‥‥」
 そう言って肩を落とすギルドの人間。手拭いを取り出すとそっと包んで懐へしまい、急いだ様子で掃除を済ませて仕事へと戻ると、そっとお金を付け足して依頼を出します。

「依頼人は明かせないんだが、ちょっと気になる悪戯があって‥‥ただまぁ、悪戯にしては気になることが多いから調べて欲しいって言うものなんだが‥‥ちょっと、出来ればこっそり調べて貰えないかな?」
 そう言うギルドの人間ですが、表情に出やすい人なのかも知れません、引きつった笑みで冷や汗を掻いていたように見受けられるのでした。

●今回の参加者

 ea0853 陣内 風音(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5299 シィリス・アステア(25歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1241 来須 玄之丞(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1670 セフィール・ファグリミル(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb1817 山城 美雪(31歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●不確定な先のこと
「不思議な投げ文ですね‥‥。お役所ではなく、ギルドに助けを求める‥‥」
 小さく眉を寄せてそう呟くように口にするのはシィリス・アステア(ea5299)。
「お役所に助けを求めたらその話自体を隠さし、潰され、助けを求めているであろう方に何らかの被害を被る‥‥のでしょうか。慎重に事を進めないといけませんね」
「きっと子どもが助けを求めてるんじゃん! こんなときは頑張って助けにいかなきゃー!!」
 シィリスの言葉にレーラ・ガブリエーレ(ea6982)がむむとばかりに眉を寄せてそう言います。
「いたずらなのか事件なのか今ひとつ分かりかねますが‥‥ほうっておくのも性に合いませんし」
「巻き込まれたのは櫛や布からして少女だろうな」
 どこか冷たい口調でそう言う山城美雪(eb1817)に、ギルドの人間から受け取った布と簪を手に考えるように呟くのは来須玄之丞(eb1241)。
「‥‥今回の件‥‥ただのいたずら、というわけではなさそうですね‥‥」
「それを貸して頂けますか?」
 簪を手に取って調べる九十九刹那(eb1044)が小さく言うのに、美雪は玄之丞からその布を受け取るとフォーノリッヂのスクロールを取り出して唱えるます。
 美雪の頭に過ぎるのは、一面の赤い床、その血溜まりの中に転がる短い髪の一見するとお人形さんが。
 直ぐにかき消えてしまったそれは、自分たちが何もしなければ、そのお人形さんを思わせる少女がその血溜まりの中に横たわる光景が現実の物となるのを感じる美雪。
 それははっきりとその投げ文が悪戯ではない、救いを求めた物だと言うことが分かります。
「‥‥手分けして調べよう。急がないと‥‥」
 美雪から話を聞いてそう言う玄之丞に、一同はそれぞれ聞き込みに出かけて行くのでした。

●誰が投げ文を‥‥
「へぇ、御店のお坊ちゃんが拐かされたんだ」
「そうさぁ、もう、あれは偉い騒ぎになってなぁ‥‥とと、お役所が秘密裏に捜しているらしいから、俺が言ったって事は言わないでくれよ?」
「分かってるわ。もう一杯どうかしら?」
 陣内風音(ea0853)がそう言って酒を勧めるのは、近くの大店の若い奉公人です。
 風音は先日数日間休んでいて御店の側の小さな飲み屋で、御店に出入りする者の話を聞き出そうと客としてやって来ており、そこに常連の客としてやって来ていた奉公人と関を同じくすることが出来たのでした。
 彼の勤めている御店が休んでいた時期はそのごたごたの為だったこと、大人しくしていたから返して貰えたらしいことを御店のお坊ちゃんが言ってたそうで、何度も殺してしまおうという男達を誰かが止めていてくれたから助かったとか。
「老人で、男の声だったようなんだが、どうにも怖かったようでそれ以上覚えてないってなったら、拐かされて他のは子供だから仕方ないしなぁ」
 風音に知っていることを話しながら、子供を捕まえてと言うのを考えてかむうっと怒ったようにお猪口を空ける奉公人。
「でも、それでお金を受け取った人とか、羽振りが良くなってそうよね」
「それよ、実はここ最近になっていきなり金遣いが荒くなった浪人共がいるって聞いたんだが、それを俺に話してた奴ら、賭場に出入りしているような奴らだからって役人に話すのを渋ってなぁ‥‥疑うには十分だと思うのによ」
 何にせよ家の坊ちゃんが無事で良かったが、と溜息混じりに言う奉公人に礼を言うと、風音は怪しまれないように奉公人の他愛のない話に暫く付き合っているのでした。
「最近、居なくなったお友達とか居ない?」
 セフィール・ファグリミル(eb1670)が付近の子供達にそう聞くと、子供達は目を見合わせてからてんでばらばらに3人程の子供を指さし合います。
「どういう事かしら?」
「りょーもゆうまも、ふゆも一度いなくなって帰ってきたんだもん」
「大人しくしてればお家に帰れるって言われて、おじーちゃんみたいな声でかわいそうになぁとか言われて頭なでられた。‥‥目かくしで見えなかったから分からないけど」
「そういえば、おかーさんのおさと帰りとかであそびに来てたまはらもいなくなったけど‥‥まはらはお家に帰ったのかもしれないし」
 口々にセフィールに群がって話しをする子供達。
 とりあえず手近にいた可愛らしい女の子をだっこしつつ詳しく話を聞くと、それぞれ良いところの子供達が遊びにでてきて、みんなと合流する前に捕まったこと、相手のことを見ていないことと、老爺に庇って貰っていたらしいことなどがわかります。
「で、ここのところおぶけ様のおよめさんの、まはらの母親がまはらと一緒にお家に来てて、その間いっしょにあそんでたんだけど‥‥」
「来なくなってしまったのかしら?」
「‥‥うん、おたなもおやすみだし‥‥まはら、おとなしくがまんするとも思えないから、ちょっと俺たち心配だなって‥‥」
「誰か、冒険者ギルドに投げ文とかを入れたことは?」
「‥‥ううん、おれたちじゃないよ」
 そう言う子供達は心配そうに目を見合わせるのでした。
「その時間帯に、確かにその老人はギルドの辺りで辺りを窺っていたんですね?」
「あぁ、確かあれはあちこちの御店に出入りしてる爺で、簡単な手伝いとかを小遣い貰ってしてるやつで‥‥」
 シィリスが変わった話はないかと投げ文のあった時刻にその辺を通っていたという棒手振りに聞いてみると、そう答える魚売りの男性。
「確か‥‥そうそう、なんか赤いもんを懐辺りに大事そうに抱えて、偉く急いでた様な‥‥背もまがっちまってひょこひょこと歩いてるんで間違えようがねぇやな」
 他の棒手振りに話を聞くと、その通りを抜けた辺りで野菜を売っていた男が見たとき、その老人は既に赤い者は手に持っていなかったことから考えても、その老人が投げ文をしたのはほぼ間違いないようなのでした。

●布と簪の持ち主
「なー九十九さん‥‥この櫛だったら何処の細工師さんに聞いたらいいかな?」
「これは簪ですよ。これだけの物となりますと、細工師より扱う御店を捜した方が早いと思います‥‥。扱える御店は限られますし‥‥」
 そう言って装飾品を扱う御店を尋ねて3件目、大きくはない物の評判の良い店の主に尋ねると、とある裕福な武家のお嬢さんに納めた物だと教えてくれます。
「うちは見ての通り、職人の一点物が多いですからね。特に、これは祝いの品として、お宅へとお届けに上がりましたから、間違いございません」
 主がそう言って請け負うと、お届け先を教えて貰いそこを見に行くと、尋ねた先は何やらピリピリとした雰囲気の武家屋敷があるのでした。
「あっと、ごめんよ」
 道で擦れ違い様にぶつかった玄之丞がそう言うと、武家屋敷の下女は慌てて頭を下げて無礼を詫びます。
「あぁ、良いんだよ。‥‥おや、あんた確か真帆のとこの‥‥真帆とは最近音沙汰ないが元気でやってるかい?」
 気さくにそう言う玄之丞にほっとした様子を見せる下女は、元気かと聞かれるとさっと表情を曇らせます。それを見て茶屋へと誘う玄之丞。
「すみませんねぇ、あの辺りで話したらいけないと思って‥‥実はお嬢様が何者かに連れ去られてしまい、奥様は酷く気落ちされておりまして‥‥」
 無事に返して欲しくば、とありきたりな文が送りつけられ受け渡しは明日とのことなのですが、皆一様に心配しているのはそのお嬢さん、ちょっと無茶なこともしかねないぐらいの元気いっぱいな女の子らしく、無事に帰ってこられるかが心配なよう。
 いなくなったときに来ていたのが投げ文の例の布であるらしいことをその下女から聞いて別れると、玄之丞は急いで仲間と合流するのでした。

●投げ文の意味
「も、もしや、あんた方‥‥」
 そう言って自分の長屋でびくびくとしながら一行を迎え入れたのは腰と背が偉く折れ曲がった小柄な老爺でした。
「わ、わしゃあいつらに見張られている、だから役所には申し出られなんで‥‥」
「なるほど、なのでギルドにだったのですね」
 何も聞かれていないのにそう震える声で言うと納得したように頷くシィリス。何とかあの子供を親元に帰して遣って欲しいが、見張っている浪人達の目を盗んで連れ出せないという老爺。
「では、もしやあの投げ文は?」
「わしじゃ、あ、あまり学がないで、うろ覚えの字を書いたが、こうして儂のところにあんた達が来てくれた‥‥間に合って良かったわい」
 どうやら脅されて子供が一人になる時間などを無理矢理聞き出され、その子供達を殺してしまおうというのを何とか親元に帰せるように庇っていたらしいのですが、今度の子供は大人しく捕まってるような子ではなかったよう。
「逃げだそうとしてなぁ、大暴れした挙げ句に目隠しが取れてしうもて‥‥何か起きたときのためにまだ殺してはいけないとなんとか引き延ばしているが、金が手に入ってしまったらあの浪人達もあの子をあのまま放っておかんだろうと‥‥」
 暴れたときに子供も老爺自身も怪我をしたらしく、セフィールに手当をして貰いつつそう説明すると、老爺は子供が閉じこめられているところまで行くので、こっそり付いてきて欲しいと言います。もし一緒に向かった場合、先に連絡が行けば子供が危ないからです。
「これで解かりました。早速助けに行きましょう」
「むぅ! 悪い奴らにゃ天罰覿面!! 神様の代わりにお仕置じゃん!」
 セフィールの言葉に頷いて言うレーラ。
 先に長屋を出て握り飯の入った包みを抱えひょこひょこと歩いていく老爺に、距離を置いて一行は付いていくのでした。

●お帰りなさい
 川沿いの廃屋に辺りを窺いつつ近付くと戸を開けて顔を出す質の悪そうな浪人者と二言三言言葉を交わす老爺。ちらりと一行が来る方向へと目を向けて小さく頷いてから老爺は中へと消えていくのでした。
 直ぐに追いついて押し入ると、そこにいたのは浪人者が一人。
「なんだてめぇらはっ! うぎゃぁっ」
「んむむむっ! 子どもを攫うなんて酷いじゃん!! 成敗してくれやがりますー!」
 咄嗟に刀を抜く浪人ですが、そこへ撃ち込まれたのがレーラのホーリー。間髪入れずに鼠撃拳を撃ち込む風音。
 奥に下へと降りる階段があるのに近付くと、そこからぬっと現れた男が刀を構えて睨み付けるのに風音は拳を見せ口を開きます。
「左の拳は心を折り、右の拳は魂を砕く。あたしの拳を受けてみる?」
「‥‥くっ‥‥こっちには子供が‥‥」
「‥‥退いて下さい。もし退いていただけないのであれば‥‥斬ります‥‥」
 男が言いかけるのにそれを遮って言う刹那。
 と、そこへシィリスが唱えたスリープに為す術もなく倒れ込む男。
 直ぐに2人の男を取り押さえてレーラとセフィールが階段を下りると、子供を庇うように屈んでいた老爺、それに庇われて、ぐったりと横になっている幼い娘の姿が。
 直ぐにセフィールのリカバーで傷を癒して貰い目を覚ます少女。
「まはらちゃん?」
「‥‥そうなのじゃ‥‥おぬしは?」
 ぐっと泣きそうな顔で見上げるのにギルドの者だと告げると、ごしごしと目元を擦るまはら。
「こっ、怖くなんてなかったのじゃ!」
 そう言うまはらにレーラが笑って手を差し出します。
「ん、よく頑張ったじゃん♪ 一緒にお家に帰ろう〜」
 手を借りて立ち上がり、負ぶわれてその廃屋を後にするまはらが、ほっとしてわんわん泣き出すのは、それから直ぐ後のことなのでした。