ろくでなし

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月24日〜05月29日

リプレイ公開日:2005年06月01日

●オープニング

「ええ、本当に腹の立つっ!」
 そうギルドの人間の前で酷く腹を立てた様子で話をしているのは、すらりと若く美しい女性。
 その横でちょこんと腰を下ろしつつしょんぼりした様子で腰を下ろして項垂れている7つ程の少女‥‥既にすっかりとギルドに来慣れた美名の姿があります。
「ええ、事も有ろうに、まだ幼い美名を、しかも旦那様の留守に押しかけてきて嫁に寄越せと、こういうおっしゃいますもので、わたくしもカッとなりまして‥‥」
 思い出すだけで腹の立つようで、普段おっとりにこにこしている美名の若い義母はそう言ってからギルドの人間に勧められた茶を飲むと、隣に座る美名をぎゅっと抱きしめます。
「美名を嫁にすればそのまま当家を手に入れることが出来ると踏んでか、それはもう見ているだけで気分の悪くなるような男‥‥わたくしにも旦那様が留守の間は寂しかろうなどとおぞましき猫撫で声ですり寄るゆえ、引き取り願うと言い、肩を触る腕をひょいと捻りあげて表の門から往来へとたたき出させて頂いたのでございまするが、ああいう男は徒党を組んできっと仕返しに来るであろうと、こう思いましたゆえ‥‥」
 そう言う母親に抱きしめられて俯いていた美名が、その大きな目に涙を浮かべてギルドの人間を見ます。
「みなをおよめさんにしておうちさえ手にいれればって、そう言っていやな目つきでみなのことじろじろ見てて、こわかったの‥‥」
 ぼろぼろ泣き出す美名は、よっぽど怖かったのでしょう、ぎゅうっと母親に掴まってしゃくり上げています。
「使用人達に大事があってはならないと、暫くの間暇を取らせようと思いまする。このことを旦那様へと連絡を入れましたら、急いで戻られるそうですが、なにぶん日数がまだかかってしまうため、その間暫く、どうしても力をお貸しして頂きたく」
 そう言うと母親は頭を下げてもう一度ギルドの人間へと頼むのでした。  

●今回の参加者

 ea0853 陣内 風音(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5944 桂 春花(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea8171 卜部 こよみ(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1804 甲賀 銀子(40歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●誘き寄せは恋文で
「自分の欲望の為に年端もいかない女の子を利用しようとするなんて見下げ果てた馬鹿ボンね」
「迷惑な馬鹿坊んには天罰じゃーん! お母上と美名ちゃんには指1本触れさせないじゃん♪」
 陣内風音(ea0853)が怒って言う言葉にレーラ・ガブリエーレ(ea6982)もんむんむと鼻息も荒く頷いています。
「子供を愛さずに道具に使おうなど、わたくしが許しません!」
 少年をこよなく愛する甲賀銀子(eb1804)にしてみれば、子供を道具になど、それが少年であれ少女であれ許せないことのよう。
「かなり嫌だろうけど‥‥誘き寄せるためにちょっと手紙書いてくれないかな? ‥‥そうだね、文面は『ちょっと頭を冷やしまして、もう少しお話聞きたいと思います。つきましてはどこどこの方に夜にご足労願えませんでしょうか』と言うような感じ」
「‥‥待ち伏せが出来るようなところ‥‥ならば明神様裏手にある宿は如何でしょう? あそこは旦那様もご存じですゆえ話も早く、裏から入れる上に庭もそこそこの広さ」
 奥方とは既知の間柄、サラ・ヴォルケイトス(eb0993)の頼みに快く応じて筆を執ります。
「こんなことさせて本当に申し訳ない〜‥‥でも、きっと馬鹿坊んたちには痛い目見てもらうじゃん!」
「文面はかなり情熱的なほうがいいんじゃないかしら? 燃えるような恋には刺激が必要よん♪」
「‥‥旦那様にも恋文を書いたことがございませぬのに‥‥」
 申し訳なさそうに謝ってから約束するレーラに、横から覗き込んで邪魔とも助言とも吐かないことを言って面白がる卜部こよみ(ea8171)に、小さく息をつく奥方は、さらさらと筆を走らせ文を書き上げるのでした。
 手紙を書き終えて湯を沸かすために鉈と薪を用意し始める奥方から、ひょいと鉈を取り上げて笑みを浮かべたのはモードレッド・サージェイ(ea7310)。
「使用人に暇を出したんならやることは沢山あるんじゃねえか? 力仕事ぐらいは任せな」
「しかし、そこまでして頂くのは‥‥」
「機嫌がいいからサービス、ってやつ。身体動かしてる方が好きなんだ。気にすんなよ」
 モードレッドの言葉にお言葉に甘えて、と深々と頭を下げてから掃除に移る奥方。
 縁側では美名がサラの隣にちょこんと座り、しょんぼりとした様子で庭を眺めていました。手紙は既に男達の泊まる宿の店員へと預けていて、後はその時が来るのを待つだけです。
「‥‥美名さんと奥方は、危険ですので屋敷に籠もっていて下さいね‥‥」
 九十九刹那(eb1044)がそう言うのに奥方は頷き、美名は不安そうに顔を上げます。
「あんな馬鹿どもはお姉ちゃんがこらしめてあげる、安心してね」
 そう言ってぎゅっと抱きしめるサラに、美名も目に涙を浮かべながらぎゅうっと掴まります。
「うん、サラおねえちゃんありがとう‥‥」
「すわにふー、ちゃんとこの家に居て変な奴が来たら守るじゃん!」
「わうっ!」
「うん、すわにふもありがとうね」
 ずうっと沈んだ様子だった美名も、レーラとすわにふの様子を見て、サラに抱きしめられたまま漸く小さな笑みを浮かべるのでした。

●嬉し楽し待ち伏せ
 美名と奥方の警護にと言う桂春花(ea5944)を残して、一行は明神様裏手にある宿で待ち受けていました。
 サラは宿の手前の木に登ると、宿の庭と一行が来るであろう道を見渡せる位置へ陣取ると弓に手をかけじっと時がくるのを待ち、他の面々も宿の庭へと向かうと各々がその宿の庭に潜みます。
 やがて現れたのが3人。小走りに駆けてくると、襷がけをし弓を持った男が弓を銜えてサラの登った木の手前で、庭を見渡せる位置に歩きによじ登り始め、2人は指示された裏口へと歩み寄り刀に手をかけます。
 『足を狙ってやれ』と、木に登る男へ声をかけていた男が聞いていた人相の男と一致します。始めから、例え謝罪であろうと恥を掻かせた女の言うことを聞く気はないようで、一方的に距離を詰めてなぶり殺しにでもするつもりだったのでしょう。
 戸に手をかけて中へとゆっくりと入っていくのを待って、サラは狙いを定めた弓使いへ向けた照準を、その方へと向けて矢を放ちました。
「ぎゃあっ!」
 短く起こった声に塀の内側へと転がり落ちる男、そこへサラ追い打ち、矢が残る肩を射抜き悶絶するのにはっと振り返る2人。
「‥‥命までは取りません‥‥けど、傷の一つや二つ‥‥覚悟してもらいます‥‥」
「左の拳は心を折り、右の拳は魂を砕く。悪党に人権無し。覚悟しなさい!」
 刹那と風音が各々拳と刀を淡く光らせ2人へと挑みかかります。
 風音の一撃が話に聞いていた馬鹿坊んの下腹部を捕らえ、吹き飛ぶ馬鹿坊ん。刹那の一撃はかろうじて、刀を鞘ごと出して受けるもう一人の男。こちらの方が腕が立つようではありますが、刹那には後一歩及ばず、刀をそのまま断ち切られるのに愕然とした表情を浮かべて目を上げて刀を手から放して飛び退ります。
「ほらほらほらほらほらぁっ!!」
 そこへ撃ち込まれるこよみの連撃に呻くようにして地に臥す男。
「そっ、そこまでだっ!」
 声に振り向けば、表から入ったのか、仲間とおぼしき男が刀を宿の下女へ突きつけて入ってくると睨み付けるのですが‥‥。
「二度と馬鹿な事しやがりませんように、天罰〜!」
 レーラのコアギュレイトに身動きを封じられる男。ほぼ同時に放たれた銀子のイリュージョンに送り込まれたイメージ、深々と胸に打つ込まれた担当にそのまま意識を手放した男。
 暫く後、庭には縛り上げられた4人の男達の姿が。
 そのどれもが虚ろな表情を浮かべたり脂汗を流して苦悶の声を上げていたり。
「‥‥あなた方は‥‥『身』と『心』、どちらの精進も足りなかったようですね‥‥」
「‥‥女性の怖さを思い知りやがりましたか?」
 刹那がそう言いレーラが聞く言葉はもっとも、彼らも女性は怒らせない方が良いことを身をもって思い知ったようですが、果たして聞く余裕があったかは分かりません。
「ふん、知ったことか」
「‥‥理解力の無ぇ頭なんざ、ついてるだけ無駄だよな? ちっと軽くすっか‥‥?」
 忌々しげに呟くのは、僅かに比較的被害が少なかった男ですが、うっすらと首筋につけたれた傷と、それを付けたクルスソード、次に胡乱な笑みを浮かべるモードレッドへと視線を移すと、さあっと血の気を引かせたとか。
「反省するまで街頭につるすわよ、あんたたちは反省しなさい。嫌われてたことしたって逆効果なんだから♪」
「‥‥あの‥‥少しやりすぎな気もするんですが‥‥」
 こよみがそう言うのですが、反省したかは分からず、彼らは暫く該当に吊されることになるようです。刹那が呟きますが、他の者の耳には入っていないよう。
「あたしの友達にまた手を出したらこの程度じゃすまさない!」
 サラの言葉が留めとなり、彼らは少なくとも暫くは何もしてくる気は起きないでしょう。

●迎え撃つ1人と2匹
 一方、屋敷へと留まって美名と奥方の護衛をしていた春花は、愛犬とレーラの犬、すわにふを傍らに、仲間が戻ってくるのを待っていました。
 ぴくっと、ほぼ同時に2匹が顔を上げるのに、引き寄せるようにしっかりとナイフを握り直して辺りを警戒する春花。
 かたっと言う音と共に裏口の塀をよじ登ってくる姿が見え目を凝らすと、どうやら縄梯子を使っていたようで、塀の上へと上がるとその梯子を外して屋敷の庭へと改めて設置し直します。逃げる時のためでしょう。
『わざわざ屋敷を確認するなんて、かったりぃなぁ‥‥』
 微かに呟く声が聞こえると、庭へと降りてくる男へ2匹の犬が猛然と駆け寄って唸り、激しく吠え立てます。
「何だこの犬はっ。畜生、下がりやがれっ!」
 犬へと刀を向けようとした男ですが、その刀が砕け散るのに呆然とした表情を浮かべて立ちつくす男。
「そこまでですよ」
 春花の声に弾かれたように顔を上げる男。春花のデストロイが撃ち込まれて得物を失った男は、恐ろしい唸る声を上げている犬たちと、立ちはだかる春花にじりっと壁へとさがります。
「もう二度とこういった悪事を思い付かない方が良いかと思いますよ? 今回は美名さんでしたが、他にも立場が似たような方に同じような事をすれば、今度はどうなるか‥‥判りますよね?」
 にっこりとそう言う春花の笑顔に恐怖を覚えたように縄梯子へと手をかける男。そこにがぶっと足に噛みつくすわにふに痛みよりも恐怖を覚え、振り払って一目散によじ登って逃げる男は、あっという間に塀を越え、縄梯子を外すのも忘れて逃げ去ります。
 よっぽど怖かったのでしょう。
「御疲れ様でした。これで彼がもう美名さんやそういった方々に近付かないといいですね」
 春花は先程とは違う、優しい微笑みで愛犬とレーラのすわにふを撫でて褒めて上げるのでした。

●何をやっても懲りない奴ら
「いや、留守中に飛んだことになって‥‥忝ない」
 主が戻ってきたのは、それから直ぐのことでした。壮年男性は妻子の無事を確かめると、一行に深々と礼をします。
「あぁ、わたくしにも素敵な少年からの縁談がこないでしょうか」
 主に持てなされて食事とお酒を振る舞われると、銀子はどこか夢見がちな目で庭を眺めつつ呟いています。
 風音はすっきりして良いお酒が飲めたよう、美名はサラの隣でほっとしたような表情を浮かべてお話をしています。
 一行がのんびりと時を過ごしていた頃、街頭で吊された男達は、駆けつけた役人達に降ろされて事情を聞かれるも答えられるはずもなく、また手ひどく恥を掻いてしまったよう。
「おのれ‥‥おのれおのれっ! 今に見ていろよっ!」
 彼に懲りるという言葉はあるのか謎ですが、当分は何も出来ずに自分の屋敷で寝たきりでしょう。
 彼は心の中で復讐を誓ってはいるのですが、果たして、その時に悪友達は手を貸してくれるのか、そこまで考えが至ってはいないようなのでした。