菖蒲園への誘い
|
■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月28日〜06月02日
リプレイ公開日:2005年06月05日
|
●オープニング
とある暖かい昼下がり、ギルドの受付の青年は困ったように一通の手紙を眺めていました。
確かに彼宛の手紙‥‥しかも美しい薄藍の和紙にさらりと落とされた楚々とした細い墨が、差出人の人柄を色々と想像させてくれるものがあり非常に嬉しく思うのでしょうが‥‥。
『突然のお手紙申し訳ございません。
あなた様に何度か助けられ、ずっと感謝と共にお慕いしております。
ですが、いつも突然のことゆえお礼もろくに出来ず、申し訳なく思っておりました。
直接一度、お会いしてきちんとお礼を申し上げたく、こうして文を送らせて頂きました。
宜しければ、菖蒲園でお会い致したく‥‥お待ちしております。
貴方を慕う娘より』
こう書かれているのを読んで心当たりを考えるも、この男、難儀している人は娘さんに限らず、鼻緒をすげ替えて遣ったり怪我したのを負ぶって医者まで連れて行ったりが日常の、底抜けのお人好しなので心当たりが思いつきません。
文の内容に嬉しくも恥ずかしくあり、女性に縁の薄い彼にしてみれば是非にもあってみたいし、大したことをしていなくとも礼を言いたいと気にしていた相手なら会ってすっきりさせてあげたいとも思ったのですが。
「行けないんだよなぁ、この辺りの日‥‥」
少し残念そうな響きを含んで呟かれる言葉。ちょうどギルドの受付のこの青年、仕事で数日江戸を留守にしてしまい、ちょうど手紙の主から受け取った待っているという数日間とこれが重なってしまって辛いところ。
「無駄に待ちぼうけさせてしまうのも申し訳ないけど‥‥差出人が分からない‥‥」
その嬉しい文句の差出人、逆に都合が悪いので日を改めて貰おうにも連絡のしようがないのです。
「‥‥菖蒲園に休みがてらに行きたくないですか?」
暫く後、彼はこんな依頼を出していました。
「この時期はちょうど花盛りで美しいでしょうねぇ。しかも茶屋で茶と茶菓子を楽しめるぐらいのお小遣い付きで数日間、これはお徳じゃないですか? しかもお仕事は簡単、人待ち顔した娘さんに文を出した人間を確認して、ギルドに文を届けた娘さんに日取りを改めて欲しいと伝えるだけ。ね? 簡単でしょ?」
こんな馬鹿馬鹿しい仕事に人が来てくれるんだろうか、そんな不安を持ちながらも、ギルドの受付は依頼内容を説明していたのでした。
●リプレイ本文
●心当たり
「‥‥ふむ、案外小さい娘さんかもしれんぞ、そっちも含めて心当たりとかは?」
「さぁ、さっぱり‥‥あまり助けたとか言う感覚がないもので‥‥」
龍深城我斬(ea0031)が聞く言葉に、申し訳なさそうに頭を掻くギルドの受付の青年。彼は旅装束に身を包み、街道に入る手前の茶屋で話していました。
「ただ、いつも通る道で何度かそう言うこともあった気がするから、あそこの店の親爺の方が分かるんじゃないかと」
「分かった、当たってみよう」
考え考え言って荷物を持ち茶屋の座敷から出ようとする受付に声をかけるのはアーウィン・ラグレス(ea0780)。アーウィンの手には韋駄天の草履が有ります。
「こいつを貸してやっから。徒歩の時に移動時間の短縮になるだろう?」
「じゃあ3日後か4日後に街道筋の『井津穂屋』でな。死ぬ気で頑張って終わらせてこい」
鷲尾天斗(ea2445)が笑いながら言う言葉にくれぐれも宜しくと言ってから、御影塔磨(ea9971)の手伝いに来ていた佐上瑞紀が愛馬・野裟斗の手綱を持ち待つのに歩み寄ります。
「御伝言をお伝えできるように、頑張ってお探ししますね」
「しっかり掴まっているのよ?」
安心させるかのように微笑みかけて言う白瀬沙樹(ea6493)に青年は頭を下げると、瑞紀は自身の後ろに青年を乗せて馬を駆り茶屋の前から慌ただしく立ち去ってゆくのでした。
その店は酒屋で、親爺は60絡みのしゃきしゃきとした様子の老人でした。
老爺の話では、何度か助けられてた娘さんは、付近の小間物屋の次女で武家さんに奉公に上がっている者、同心の娘で親爺さんの酒を買いに来る者、どこの娘かは知らないが、御武家の所の娘さんで医者に通って薬を買っていっているらしい者と、心当たりはそれぐらいのようです。
一行はそれぞれその特徴を覚えるようにして菖蒲園へと向かうのでした。
●優美な菖蒲園
「まぁ‥‥見事ですね‥‥」
「菖蒲って気品があって、涼やかで、綺麗な花だよね。管理人さんがいたら、株を分けて貰えないかなあ‥‥」
沙樹がそう言って溜息をついてそう呟くと、ハロウ・ウィン(ea8535)も小さく頷いてそう言います。
「爽快な眺めだね‥‥」
菖蒲園へと足を踏み入れると、良く手入れが行き届いた様子の花菖蒲が一面に咲き誇り、何とも美しい光景が広がるのに呟くハロウ。
「‥‥と、見惚れてばかりいてはいけませんね」
沙樹は我に返ってそう言うと通路をゆっくりと歩いてゆきますが、ハロウは屈み込んで花菖蒲へとグリーンワードで話しかけます。
「最近ずっと此処に通っている女性はいるかな?」
『たくさん』
どうやら何度も通う人は多く、それぞれを覚えているわけではないようでそう答える花菖蒲に、ハロウは小さく頬を掻いて通路を歩き始めました。
「うーん、依頼じゃなくて嫁さんと来たかったねぇ」
煙管を蒸かしつつのんびりと菖蒲を眺めつつ言うのは鷲尾。鷲尾は園内の縁台と傘で作られた休憩所で一服していたところでした。
園内にはこういった休憩所が幾つかと、茶店も一軒有って休憩所で菓子や茶が頂けるようになっていて、混み合うと言うほどではありませんが人が絶えず出入りしているよう。
「おねぇちゃん、もし誰かと待ち合わせじゃなかったら俺と少し菖蒲を愛でない?」
「えっ、ほんとですか〜」
「済みません、ご馳走になります〜」
「へ?」
1人で遊びに来ている風の娘に声をかけて見て、しっかりと連れの娘さん達にたかられてお茶と茶菓子を奢る羽目になる鷲尾なのでした。
「いつもの服でまさか菖蒲園なんて行く気にもならないし‥‥確か買った京染めの着物があったなぁ」
などと言って京染めの鮮やかな青の振り袖を身に付けてやって来ているのはリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。
リーゼは土川遮那(eb1870)、その手伝いに来た風月陽炎と共に菖蒲園の中を、聞いてきていた3人の特徴に合う人間はいないかと捜して歩いていました。
「さて、どこから探すかな‥‥っと、おばちゃん、そのあん団子二つね」
最近多くなってきたとは言え異邦人のアーウィンが少し珍しかったのか、おばちゃんはお団子を包むと、こっそりお団子をおまけしてくれてたよう。
「花を愛でるってぇのもあんまし柄じゃないんだが‥‥むぎゅむぎゅ‥‥」
そう呟きながらアーウィンが団子の包みと団子の櫛を持って、少し小高い園内が見渡せる位置で、軽く人の流れを見ながらいるところへと通りかかります。
「それらしい人、いた?」
「いや、もう少し見てれば分かるとは思うんだけどな」
遮那が聞くと団子を飲み込んでそう答えるアーウィン。ゆっくりと一つの所から花を楽しんでいる人がそこそこ多いので、まだずっと待っているというような娘さんに辺りがついていないよう。
「私たちはもう少し見て回ってみるから」
リーゼの言葉に頷くアーウィンを残し、3人はその場を離れました。
●人待ち顔した娘さん
「待ってるって言うならやっぱ待ちやすい場所だろうかね? どっか座れる所とか‥‥」
そう言って首を傾げつつ休憩所を見て回るのは我斬。同じく休憩所を重点的に見て回っている塔磨が長身を生かして見て回っているのと遭遇するとそれらしい娘がいたかどうかを確認します。
「話に聞いた娘と一致しているかは分からんが、もしかしたらと思う娘はいたな」
休憩所の一つ、園内の奥まった辺りで少し落ち着かない様子で腰を下ろしていた17、8の娘を見かけた塔磨は、女性陣を捜してきょろきょろとしていた様子。
直ぐに長身の塔磨を目印に、園内を回っていた人達が歩み寄って来ます。
「おう、ちょうど良いところに」
「見つかったんですか?」
沙樹とハロウが近付いてきてそう聞くと、確かめてはいないがと言う塔磨。
「集まってどうした? 見つかったの?」
「外見はどうにもならんからねぇ? 見つけても接触は任せるしかないわな」
リーゼと遮那が歩み寄るとそれらしいのがと我斬が答え、それに塔磨が苦笑混じりに言うと、案内をしてぞろぞろとその娘の元へ。
少し離れたところから見ると、その娘は17程の大人しそうで可愛らしい様子。そわそわしたような、不安そうな面持ちで休憩所の席に座って道行く人を眺めているようです。
沙樹とリーゼ、遮那は頷くとその娘へと歩み寄ります。
「宜しいでしょうか?」
「えっ、あ、はい‥‥」
突然かけられた声に驚いた様子で3人を見る娘は、物腰柔らかな沙樹に少し息を吐いて力を抜きます。
「君が彼に手紙を出したコかな? 彼は急用があって、今日含めて数日は会えないみたいなんだ」
「はい、手紙は確かに私が‥‥」
「だから、君さえよければ、また日を改めて会って欲しいんだ。ホラ、こー言うのは仕方ないとは言え本人同士が会った方がやっぱ一番良いじゃん?」
言って顔を赤らめる娘さん。会えないと聞いてしゅんとした様子を見せるも、日を改めて、と言う言葉に断られたのではないと分かりほっとした様子を見せます。
「名前書かなきゃ、誤解やすれ違いの元だよ。仕事らしくってね、頼まれたの。数日だけ待ってもらえるかな? 依頼人には、仕事全力で終わらせるように言ってあるの」
そう言ってから微笑むリーゼ。
「他にも何人も仲間が居るから、待つ間はゆっくりと色々と話に付き合ってくれると嬉しいね」
リーゼの言葉にはにかんだ微笑みで、娘はこっくりと頷くのでした。
●外さない男
「さてと、女のイロハは教えた通りだ。後はお前次第、頑張れ!」
「はっ、はいっ」
馬の後ろに乗っけられて、多少荒っぽい道行きの間に教わったことが、どれぐらい青年頭に残っていたかは謎ですが、鷲尾の言葉にそう言って少しよろめきつつ馬から下りる青年。
4日目の夕刻、菖蒲園が締まる時間の少し前に、何とか2人は江戸へと戻ってこられたようで、旅装を解く間も与えずに連行された青年は園内へと足を踏み入れると、馬を繋いで戻ってきた鷲尾に案内されて娘さんの待つ茶屋へと足を向けました。
ほぼ茶屋の席を貸し切り状態にしていた一行ですが、娘さんが鷲尾が青年を連れてきたのに気が付くとわたわたと立ち上がって、青年を見て、真っ赤な顔でぺこりと頭を下げます。
「ほら、行ってやれよ」
そう言って背を押す鷲尾に、女性陣に促されてゆっくりと歩み寄る娘さんを見て、一行は静かにその場を立ち去ります。
次の日、娘さんと青年は改めて菖蒲園で待ち合わせをして、ゆっくりと見て回っている様子。
娘さんは祖父の薬を貰いに街へと出てきては良く助けて貰っていたそうで、引っ込み思案のためにお礼も言えぬままだったそうで、一大決心をして文を送ったが、恥ずかしさと断られた時を考えると、怖くて名が書けなかったそう。
そんな2人の様子を、悪い虫が付かぬよう、と密かに護衛をしていた我斬ももう大丈夫と見たか2人の側を離れます。
「わ、有難うございます〜」
本当は見頃を終えてから株分けするのですが、ハロウが頼んだところ管理をしている植木屋の男性は少し考えて特別に花菖蒲を分けてくれたようです。
「お澄さん、良かったですね」
沙樹が茶屋でそう言って仲睦まじそうに園内を見て回る2人を眺めていると、一緒にお茶を飲んで頷いていたリーゼと遮那が何かに気が付き席を立ってそちらへと向かいます。
「何をしている」
そう言って、今しも成功しそうだった娘さんとの散策がリーゼに蹴倒されて露と消える鷲尾。
「エレンさんにばらすよ?」
遮那がにっと笑いながらそう言うのに、引きつった笑いを浮かべる鷲尾ですが、そこへ追い打ちが。
「あら、鷲尾の旦那ぁ〜、ちょうど良いところでお会いしましたわ」
見れば花街で鷲尾がつけで時折遊ぶ店の女将が。
慌てて逃げようとする鷲尾ですが、リーゼと遮那が手早く捕まえて簀巻きにして女将へと引き渡します。
「頼む! 見逃してぇ〜」
菖蒲園へと女将に引きずられ、名物男・鷲尾の叫びが響き渡るのでした。