旬の食材〜皐月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月29日〜06月03日

リプレイ公開日:2005年06月06日

●オープニング

 すっかり馴染みとなった商人が一人でギルドへとやって来たのは、徐々に日差しが強くなってきたとある日の朝でした。
「実は今回は鮎魚女と鱚なんです。‥‥釣りに行くはずが荘吉に置いて行かれましてね‥‥」
 一人で来るのが珍しいとばかりにギルドの受付に見られて、決まり悪げに、且つ寂しげに遠くを見てそう笑うと小さく溜息をつく商人。
 どうやら幾人かと釣りに行くことになっており、荘吉の数少ない楽しみの一つであるその釣りの集まりに連れて行って貰えることになっていた商人、仕事の疲れかどうしても朝起きられず、店の他の奉公人がそれなら行かないと言う荘吉を、面倒を見ておくから言っておいでと送り出してくれたよう。
「荘吉は釣りが大好きで、腕もなかなか‥‥なので、鮎魚女と鱚を土産に一杯釣ってくるからと言って出かけていったのです。‥‥はぁ、私も歳ですかねぇ‥‥」
 たかだか30ちょいの男がそう言うのはどうかと思いますが、これでなかなか手広く仕事をしているためか、こうしてギルドに依頼に来る以外はなかなか忙しく働いている様子なので、ギルドの受付は疲れが出たのでしょうと慰めつつ続きを促します。
「出かけるときに荘吉はそれは心配してくれたようで‥‥あの性格ですからきっと確かめても否定するでしょうが。ですから、せめてお土産に持ち帰られる鮎魚女と鱚を美味しく頂いて、元気であることを見せて安心させようと、こう思い」
 荘吉にとって商人は親代わりと言っても過言ではないですし、妻も子もない商人にとっても荘吉は可愛い子供のようなもの。
「でも、私は相変わらず料理は食べるのが専門ですし、日常の食事は荘吉が大抵作るのですが、こういう時の料理は自分で作りたがらず、人を雇っていろんな料理を楽しみたがるわけでして‥‥」
 要するに、日常の食事には困っていないため専用の料理人をおいてというのはおこがましい、しかしこういうときにはしっかりと作れる人にお願いしたい、とこういうことらしいのです。
「もし宜しければ、お願い出来ないでしょうか?」
 そう言うと商人は受付の人間へと頭を下げるのでした。

●今回の参加者

 ea2605 シュテファーニ・ベルンシュタイン(19歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8470 久凪 薙耶(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

暮空 銅鑼衛門(ea1467)/ ルミリア・ザナックス(ea5298)/ 黒畑 丈治(eb0160)/ 柩胤 澱部(eb1510)/ 流鏑馬 稍(eb1572

●リプレイ本文

●前準備と悪巧み
「鱚と鮎魚女でござるか! どちらも良い季節でござるな」
「はい、それこそ隣近所へお裾分けできるほど釣ってきました」
 沖鷹又三郎(ea5927)の言葉に、珍しく荘吉は少し誇らしげな様子で大桶にたっぷり入った魚を振り返ります。
「ふむふむ、鮎魚女と鱚を調理して欲しい、とのことですか。この季節の鱚はなかなかによろしいものですし、いっちょ頑張りましょうかね」
「皆それぞれで料理作るみてぇだな。俺も頑張ろっと♪」
 水桶を覗き込んでから潤美夏(ea8214)がそう言うのに、田原右之助(ea6144)も笑みを浮かべてそう言います。
「ええ、あと、それを買って来て下さいますよう」
「了解。薙やんの料理食べれるやなんてラッキーやわ〜。へ? ただの買出し要員? そんな〜‥‥」
 久凪薙耶(ea8470)が他に必要な食材を柩胤澱部に頼むと、買い出しのみで会食までいられないと聞いてがっかりしているよう。
 そんな一行を尻目に、ミィナ・コヅツミ(ea9128)の手伝いに来ていた黒畑丈治が会食用の場所を掃除している姿があります。
「あー、なにやら商人の旦那は御疲れかねぇ? ふむ‥‥按摩なんぞは出来ないから、ちょいと話し相手になってもらおうか♪」
 嵐山虎彦(ea3269)がそう言って商人と話している中、何やらシュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)が、手伝いに来て貰った流鏑馬稍になにやらあれこれと指示を出して材料を買いに行かせる様子。
「どうして専属の料理人が居ないのか、前から不思議だったけど‥‥そんな理由があったなんて」
「折角でしたらって思いませんか?」
 ケイン・クロード(eb0062)が苦笑気味に言う言葉に、荘吉は軽く首を傾げますと、ケインは笑って頷きます。
「では、お二人に楽しんで貰える様に頑張らないとね♪」
「はい、宜しくお願いします」
 そう言って、ケインの言葉に荘吉はぺこりと頭を下げるのでした。

●楽しいお料理
 買い出しに行った材料をルミリア・ザナックスなどが厨房へと運び込む中、それぞれが手早く下拵えを終えて料理へと入ります。
「鮎魚女は小骨の多い魚ですし骨切りは念入りにしませんとね」
 そう言ってそれぞれの料理に必要な下拵えを済ませていく美夏に、鱚を前に沖鷹と田原が顔を見合わせます。
「まずは鱚でござるが、これは勿論‥‥」
「やっぱり天ぷらにするのが一番ウマイと思うんだよな。鮮度いい鱚は本当に涙出そうな程最高‥‥」
 考えていたことは同じのようで互いににっと笑うとその場で揚げて食べられるようにと準備をする沖鷹は、塩焼きと生干し、そして最後にはさっぱりの鱚の昆布〆寿司を用意する様子。
「天麩羅は皆と重複するだろうけど、外せねぇ。つーか俺が食いたいぜ。かりっと揚げて、塩で食ってもらいてぇな」
 塩を用意しつつ言う田原は、小皿に塩を小分けにし、抹茶を混ぜた物など、色々と工夫をしている様子。 皿に紫蘇を敷いてカボスや梅肉を付け合わせたり、順調に進んでいるようです。
「うーん、『アイナメ』と『キス』ですか‥‥どう料理したものか‥‥小麦粉をつけてフライにする‥‥とか?」
 ミィナが厨房を眺めてそう呟いている側ではシュテファーニが何やら謎の料理を作っています。
 端から見ていても危なっかしい手つきに見た目を誤魔化し誤魔化し作り上げていく料理。その料理名を知る者は、恐らくシュテファーニのみでしょう。
「疲れているようですし、ここは‥‥」
 そう言いながら具に鱚と鮎魚女をそれぞれ練り込んで皮で包んで揚げたりしているのは美夏。それを揚げつつも、疲れに効くでしょうと、酢でしめ、甘辛に味付けをしているようです。
「家事は反復していれば誰にでも覚えることができます。それよりも、感覚を必要とするその技能は評価するに値します」
「お酒を嗜む人向けで『鮎魚女の骨酒』に、お酒のお供にもう一つ、『鮎魚女の背ごし』と‥‥」
 お酒を使ったりお酒好き用にとでも言いたげな物を作り始めたのは薙耶とケイン。
 鮎魚女の頭を兜割りにして焦げるまで良く焼くと、何とも食欲を誘う香りが。それに熱燗をつける準備も万端、浸して呑むと言う物。鮎魚女の背越ごしも既に酢へと付ける段階に。
 イギリス人のケインには渋い選択ですが、そこはジャパン人の養父の影響が強く出ているようです。
「まずは焼き霜でござるかの。皮つき刺身でござるよ」
 鱚は後は食べる時に揚げればと言うところまで準備を終えると、鮎魚女へと移る沖鷹。
 水で熱を取ってから器用な手つきで刺身をあげている様は流石にと言ったところで、梅肉を用意するのを見て、厨房でそれぞれの料理を絵に残していた嵐山が少し無理を行ってつまみ食いをさせて貰ったり。
「こりゃ美味いなぁ」
「梅肉は脂の甘みと香ばしさが良く合うでござる。‥‥旬なのでハリと食感がしっかりしているでござるな」
 むぐむぐと味わって感想を漏らす嵐山に自身も味見をして満足げな沖鷹。
「時間あれば骨抜きもしてぇけど、うーん骨切りでもいいのか?」
 田原はそう言いつつ鮎魚女に幾つか野菜を入れてじっくりと煮込み、その間に木の芽味噌焼きへと移ったようで楽しげに味付けをしていきます。
「実際見た目悪ぃけど食ってみると旨いよな。酒の肴にはもってこい」
 楽しげにそう言う田原。そんな様子を、釣ってきた本人の荘吉は楽しげに眺めているのでした。

●大混乱の昼食会
 料理も揃い、和やかに食事会は始まりました。
「華国の場合、代表的な調理方法は炒め、揚げなど、油を使うものが多いですわね。しかし、油を使う脂っこいというわけではなく、一気に仕上げますので、カラッとしているのですわ、この通りに」
 自身の作った料理を摘んでそう言うのに、荘吉はなるほど、と感心したように頷いては同じように摘んで味わっています。
「対してジャパンは蒸したり、切ったりと、素材のもつ魅力を活かしながら深みのある味わいを醸し出しているのがよろしいですわね。さすが海に囲まれた国だけのことはありますわね」
「それそれの国の良さがある、と言うことですね」
 自身の国のことも褒められて、荘吉は少し嬉しそうに笑います。
「なんか俺の料理って単純なもんばっかだな」
「でも凄くおいしいですよ♪」
 上機嫌でいろんな料理を食べては言う商人。商人は特に沖鷹の焼き霜と田原の天麩羅が気に入ったようで、塩と抹茶を混ぜたたものなどは荘吉も大いに気に入った様子を見せていたので少しこそばゆい気もします。
「‥‥ところで、この料理は‥‥?」
 先程から商人が気になっていたのは、何と形容したらいいのか分からない、と言うより何という料理かが予想がつかないもので、箸を延ばすのを躊躇って、作った人間に聞いてみたくてうずうずしている様子。
 何やら丸く捏ねてある白い物体。
 ぱっと見なんだか窺えず、何を加えてあるかも不明。
 直ぐ隣のシュテファーニに聞いているのですが、シュテファーニは知らん顔。
「そちらの料理、どうでした? もう食べました?」
「私は体が小さいのでもうお腹一杯ですわ」
「そういや、お前さんの作ったもんは絵に描いてなかったなぁ。もしかしたらそれか?」
 何の気なしに嵐山が笑いながら鮎魚女の骨酒を堪能しつつ聞くと、ばれた、と思ったのかシュテファーニは飛び上がって自身の影にシャドゥボムして逃げ出します。
爆風に巻き込まれてきりもみ状態で吹き飛ぶ商人‥‥。
「だ、旦那様っ!?」

‥‥暫くお待ち下さい‥‥

「大変な目に遭いました」
 リカバーを嵐山にかけて貰い、くいっと汗を拭う仕草を見せる商人。
 爆風に巻き込まれた商人を見て慌てて駆け寄るとおろおろと付き添っていた荘吉ですが、無事な様子にほっと一安心です。
「大変な目にって、旦那様も避けなきゃ駄目ですよ」
 無事と知ってか普段の辛口は健在、とんでもないことを口走る荘吉ですが、冒険者どころか、回避技能も持っていないような商人にそれを求めてはいけないでしょう。
 何にせよ、ほっと息をついたところで、幾つか巻沿いになった物を片付け、1人減ってしまいましたが、直ぐに商人の希望もあって、会食は再開されたのでした。

●終わりよければ?
「しかしなんですな、こうしているのはやはり幸せですなぁ」
 しみじみという商人は、鱚の昆布〆寿司をいただいた後に鮎魚女のお吸い物を口にして、これ以上はないとばかりに幸せそうに目を細めます。
 嵐山の猫が座敷に入り込んでじゃれつくのを構いながら、そんな様子の商人に、荘吉はほっとした様子を見せているのが何とも微笑ましく。
「荘吉さん、商人殿、楽しい時間をありがとうでござる」
 ちょっとした騒動もあったものの、のんびりまったりと最後にお茶を頂きつつ言う沖鷹に、こちらこそ、と礼を述べる商人。
 食べ終えた食器類などの片付けをミィナと薙耶は行っており、鮎魚女の揚げ出しなどを魚に、そろそろ大人達はお酒とつまみでゆっくり、と言ったところのようで、嵐山は満足げにくいっと杯を煽ります。
「なるほど、ではあそこでひと味入れるとぐっと味が‥‥」
「そーそー、そう言うこと。ただ、しっかりと骨抜きするか骨切りするかしないとな」
「はい、今度また機会があったときに、是非、やってみます」
 人の猫を抱えたまま、その肉球をぐっと差し出しながら田原に聞いて煮付けの助言を受けている荘吉は、余程今日の料理を気に入ったのか、それぞれに作り方を聞いて反芻しているよう。
「多少疲れは取れましたかしら?」
「はい、もうすっかりと。これだけ美味しいものを頂いてのんびりして、良い時間が過ごせましたよ」
 美夏の言葉に笑いながら頷く商人。
 何はともあれ、この食事会は、後暫くの間続いているのでした。