仇討ち助太刀・とある老武士の場合
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月02日〜06月07日
リプレイ公開日:2005年06月12日
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●オープニング
「そちらのご老人は?」
「あぁ、昨夜にちょっと、な‥‥」
ギルドの受付の青年に聞かれた言葉にそう答えたのは、顔馴染みの与力。与力は70も既に超えた老人を連れてきており、その姿形からは何とか武士だと感じ取るのがやっとと言った様子。
洗い晒されよろよれで薄汚れて見える着物に裾がすり切れた袴、しわくちゃの顔にもかかわらず長年の苦労とげっそりとやつれて痩けた頬が分かります。
「息子の仇を見つけましたのですじゃ‥‥ですがの、護衛がその男の側を離れませんでの‥‥」
老人は市右衛門といい、どこの藩の者かは言えないそうですが、15年前に息子が勤めていたとある藩で同じ藩士であった伊ヶ崎兵部という男に屋敷へ押し入られ惨殺されてしまったそうで、それ以来ずっと仇として追い続けていたそう。
「息子も嫁も、見るも無惨に‥‥儂には他に子がおりませんで、孫もなく、息子の仇を討てるのは儂一人‥‥兵部は息子の家にあった金目の物など洗いざらい持ち去り、そのまま行方を眩ませ‥‥」
息子が殺されたのは、ただ上役から伝言を頼まれただけ、それだけだったのですが、兵部にしてみれば同役から言われるのがしゃくに障った、それが兵部に比べて裕福な家の者だという妬みもあり、もとより酷薄な性質の兵部は陰湿な行動に出たよう。
しかし、この老武士の話を聞いていると、その仇討ちは許可のない物というのがよく分かります。父や兄の仇は討てても、子の仇討ちは原則認められませんし、弟妹、妻などの仇討ちもそう許可が下りることはありません。
そのことを思ってか、困ったように与力、武兵衛へと目を向けるギルドの青年は、その顔に微かな笑みが浮かんでいるのに気が付き首を傾げます。
「さて、儂が来たのはな、実はとある金貸しの悪行を押さえて捕らえて欲しいと言う依頼を持ってきたのだ。‥‥‥実はな、常に身の回りから用心棒を離さぬ男で、昔はどうやら二本差しだったような‥‥」
含みのある言い方をする武兵衛に目を瞬かせるギルドの受付。
「‥‥それって‥‥」
「あの金貸し、叩けば直ぐに埃も出ようし、苦しんでおる者達も多く、証文の一枚でも手に入ればいかようともなろう」
そう言うと、武兵衛は口元に微かに笑みを浮かべます。
「今回、その金貸しを捕らえてくるのが依頼だ。その条件として、捕り物の際こちらの市右衛門殿を同行させて頂きたい。‥‥なお‥‥」
そこまで言って武兵衛は意味ありげな笑みを目に浮かべて続けるのでした。
「手向かう場合は生死不問」
‥‥と。
●リプレイ本文
●所の評判
「ふむ、なんで子が親の仇を討つのは良く、逆は不可なのか? 全く理解できぬ理屈だな! やりきれぬ思いは同じではないかと思うのだが!?」
ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が声高に言うのに、道行く人はちらりと振り返りますが、仇を追い求めてという人間は幾らでもいるからかそこまで警戒された様子もなく、付近まで同道していたシィリス・アステア(ea5299)はほっと小さく息をつきます。
「まぁ良い。まずは情報集めからだな! 本来さくっと済ませたい所だが、残念ながら我輩の肉体美は余りに人目を引き過ぎる! ここは当たり障りのない聞き込み等を主にするほかあるまい!」
確かにそのジャイアントの大柄な体躯に恵まれた肉体、そして輝かしい頭と、実に一目をあらゆる意味で引きつける姿で伊ヶ崎屋の周りをうろつけば一発で目をつけられるのはゴルドワにも良く分かっているよう。
「それにしても、自分が行った事は、巡り巡って帰るものなのでしょうね」
伊ヶ崎屋の付近にある酒場へと足を進めながら呟くように言うシィリスは、ゴルドワと共に酒場へと足を踏み入れつつ言葉を続けます。
「市右衛門さんのためにも、亡くなった息子さんのためにも、事を早く進めたいですね」
「まぁ、兵部とやらはかなり派手に恨みを買っているようであるし、そう苦労は無いだろう! 上手くすれば直接被害に遭った人にあって話を聴く機会すらあるやも知れん!!」
「‥‥‥‥」
まだ早い時間ながらも安くて気の利いた物を食べさせるその店は既に客で一杯なのですが、ゴルドワのきっぱりはっきりと響き渡る声に店内の視線は釘付けのよう。
「‥‥異人さんら、あの血も涙もない鬼のことを‥‥」
「しっ、大きな声で滅多なことを言ってあの用心棒達になにをされるか‥‥」
2人に話しかけたどこぞの下男が言いかけるのに、老年へと差し掛かった職人が諫める様から見ても伊ヶ崎屋もその用心棒も快く思われていないよう。
「む! 何かを言いかけてやめるのは良くないことだ! 我輩に聞かせたまえ!」
「宜しかったら、どんなことでも良いのです、教えて頂けませんか?」
ゴルドワとシィリスの言葉に目を見合わせた先程の2人は、躊躇うかの様子を見せつつも、既に伊ヶ崎屋から金を借りたという内の3家族が首を括ったり、追いつめられて命を落としていると言うことをぽつりぽつりと聞かせます。
どうやら阿漕な真似をしていたかがぼろぼろ出て来る様子に、礼を言って纏めたシィリスは、小さく溜息をつくのでした。
「情報を得るなら‥‥やはり酒場でしょう」
のんびりといった様子で、まるで何事も問題など起きていないかのような暢気な様子を見せつつ馴染みの店の中でも伊ヶ崎屋に近い店へと向かうのは神田雄司(ea6476)。
馴染みの店にはいつものように見知った顔がちらほら見受けられ、酒を頼み手酌でちびりちびりとやりながらそれとなく伊ヶ崎屋の事へと触れると決まり悪そうな沈黙が落ちます。
「‥‥試しに金を借りてみましょうかねえ。いえ、返す気なんてありませんよ」
「そりゃやめた方が良い、そっくりその金を盗まれて首を括る羽目になるぞ」
顔見知りの男がそう言うと、それを幾人か茶を飲みつつ頷いて話を始めます。
「金を借りて、その帰り道に襲われてそっくり有り金を奪いとられたのだって、1件や2件じゃないんだからな」
「それで居て手ひどく取り立てられ‥‥何せ書かれた証文と実際の取り立てが、書いたときと違うんですから」
役人に訴え出るいわれはなくとも憤りは感じているらしく様々な話が神田の耳へ入ってくるのでした。
●その屋敷
「あのようにそぞろに護衛を引き連れてはいるが、大切なものは絶えず手近に持たねば安心出来ぬようなのだろうか」
「たしかあの男、確か証文などを昔は持ち歩いていたようですが、踏み倒そうとした浪人に襲われて危うく奪われる寸前まで行ったとかで、多分持ち歩いてないんじゃないでしょうかねぇ」
伊ヶ崎屋の斜向かいにある茶屋で茶を飲みつつ調べていた安積直衡(ea7123)は、兵多が籠の周りを4人のごろつきに守らせながら外出するのをみるとそう呟きます。
籠に乗り込むとき後生大事に抱えていた包みを見てそう言ったのですが、店を出て直ぐに襲われた様子をこの茶屋で見ていた店の女将が頭を振ってそう言うと、嫌な物を見る様な目つきで離れていく籠に視線を送ります。
「本当に‥‥何であそこで助かったのだと思うと‥‥」
茶店の女将はどこか吐き捨てるように言うと奥へと戻っていってしまうのでした。
一行の中で直接伊ヶ崎屋へと尋ねていったのは瀬戸喪(ea0443)。
喪は荷として馬に積んでおいた女物の着物に軽く化粧を施し出向き、早速伊ヶ崎屋兵多に金の無心を行うと、痩せぎすで顔色悪く陰気な顔つきをした伊ヶ崎屋は薄笑いにしか見えない陰気そうな愛想笑いを浮かべて金を用意して喪へと見せて確認させます。
証文へと印を押す喪に、上機嫌で袱紗に包まれた金を渡すと送り出す伊ヶ崎屋。
伊ヶ崎屋を出て一本奥の通りへと入ったところで、喪の前にそこいらのごろつきが待ち構えて居るのでした。
「市右衛門さんの仇の件だけじゃなくて、相当、悪事を重ねているらしいから、徹底的に懲らしめてやらないとね」
アーク・ウイング(ea3055)の言葉に大きく頷いたのは枡楓(ea0696)。楓は辺りを警戒しつつも身軽な様子でするりと伊ヶ崎屋の中へと入り、直ぐに姿を消しました。
伊ヶ崎屋はいつもの通り籠で出かけており、アークは伊ヶ崎屋の様子をブレスセンサーで窺うと、進入した楓の安全を確認しています。
「‥‥てな訳で、まずは兵部を吊るし上げるに足る証を探すのじゃな」
楓は既に何度か訪れた天井裏を慎重に進み伊ヶ崎屋の部屋へと向かうと、程なく悪趣味でけばけばしい、金箔の襖で伊ヶ崎屋の寝所へと辿り着き、そっと降りて手文庫から畳の下、と順繰りに部屋の探索へと移ります。
ちょうど部屋の真ん中、恐らく伊ヶ崎屋が布団を引くその真下の畳を何とか起こしてみてみると、そこに床板の一部がずらせるようになっているのに気が付き開けてみると、果たして証文の束が。
「酷いもんじゃな‥‥」
内容を検め、それを懐へと押し込むと楓は畳を元のように戻してそっと屋敷を抜け出すのでした。
旅を続けて身体は丈夫とは言え年老いた市右衛門を探索に連れて行くのは無理と、留守居を任せていたときのこと。トマス・ウェスト(ea8714)は市右衛門について同じく留守居をしていました。
「仇討ね〜。では我が輩はすべての病魔に仇討しなければならないのかね〜?」
「突然に降りかかることは同じとはいえ、人様に害されるのと病は同じ様には出来ませぬ」
ドクターの言葉に市右衛門は立場の違いを口にします。
「我が輩の髪も元は金髪だったのだ〜」
その言葉の意味を分からぬ市右衛門ではないのですが、すと小さく頭を下げて口を開きます。
「‥‥もう言って下さいますな、仇を討ち果たさぬ限り、儂は息子の仇を打ったとの知らせを待ち詫びておる妻にも、あの世の息子夫婦にも顔向けが出来ませぬ‥‥」
出来れば思い止まらせてやりたかった様子のドクターですが、それに残る生涯全てを賭けている市右衛門には、もはやそれより取る道はないようなのでした。
●仇討ち
ごろつきの不意打ちを受けて軽い手傷を負いつつもそのうちの1人を捕らえた喪にドクターがリカバーをかけ手当を済ませると、一行は伊ヶ崎屋が屋敷を出て通る道で待ち伏せることに。
武兵衛から捕り物の許可を得、捕らえたごろつきを引き渡してから道の脇に伏せて待ち構える、襷がけに鉢巻きでじっと時を待つ市右衛門の表情には決意が浮かんでいます。
「市右衛門君、まだ家族がいるのだろう〜。無事に帰らねばな〜」
ドクターの言葉に小さく頷く市右衛門。ドクターの身内は既に死に絶えていると、直接聞いては居ないものの、その言葉から何かを感じ取ったのかも知れません。
「伊ヶ崎屋兵多、数々の悪行、証拠も挙がっておる、大人しく縛につけ!」
籠が通りがかるとそれの前に立ちふさがるようにして安積が一喝、その声に籠かきが、用心棒達が留める間もなく一目散に逃げ出し、伊ヶ崎屋は籠からのろのろと顔を出すとせせら笑うように用心棒達に顎をしゃくります。
役人を騙ったと思いこんでいたのかも知れません。つらっと刀を抜き放つ用心棒達に同じく抜き放つ一行。
先制したのは道脇で詠唱をしていたアークとシィリスでした。
アークのライトニングサンダーボルトに巻き込まれたのはそこそこ腕が立つという2人に伊ヶ崎屋が降りて無人だった籠。
背後で籠が砕け散る中、僅かに傷を負い怯んだところ、そのうちの1人を襲ったシィリスのスリープによって眠りへと誘われて昏倒する男。
用心棒に任せて元来た道へと逃れようとする伊ヶ崎屋の前には市右衛門と共に行動するドクターが立ちはだかります。
過去に刀を握っていた経験からか、老人と他に比べて使い手には見えないドクターに侮ったか小太刀を引き抜いて薄ら笑いを浮かべる伊ヶ崎屋。
暫し睨み合う3人を他所に、喪とファイアーバードを纏ったコルドワが腕の立つ男へと、向かうと、安積はそこそこ腕の立つ、まだ立っている男へ。そして一番腕の立たないような男が逃れようとするのに楓が忍者刀片手ににっと笑うと問答無用でスタンアタックを叩き込み倒します。
「なっ、何なんだこいつはっ!?」
異国人も冒険者も今でこそそこそこ見るようになったとは言え、まさかジャイアントが燃えさかる姿で突っ込んでくると思いもよらず、しかも見かけ以上に鋭い体当たりに必死で身を捩って逃れているものの、全てを避けきることも出来ず。
「ぐぁっ」
刀が砕かれ次の攻撃を避けることも出来ず地に臥す用心棒。喪がそれを取り押さえている間に安積も自分の前の男を切り伏せ捕らえているところでした。
「市右衛門様の助太刀いたす!」
年齢の違いか老いた市右衛門と怪我をさせないように気を付けているドクターでは決定的な行動に出れない状況だったのですが、そこへ神田が伊ヶ崎屋の小太刀を刀で受け、ドクターのコアギュレイトが伊ヶ崎屋の動きを封じます。
「息子の仇っ!」
凄まじい迫力を込めた怒号と共に、刀を真っ直ぐに構えて伊ヶ崎屋へと突進する市右衛門。
伊ヶ崎屋を深々と貫いた刀を引き抜いた市右衛門は、園からだが崩れ落ちるのを確認すると、がっくりと膝をついて男泣きに泣くのでした。
●思いは遠く古里へ
「良い天気ですねぇ」
神田がそう言いながら空を仰ぎ見るのに、市右衛門は老いた顔に笑みを浮かべて仰ぎ見、顔を戻してから改めて一行へと頭を下げます。
武兵衛は事後の処理に追われ見送りに来られませんでしたが、捕らえられたごろつきや用心棒達から関わっていた他の者達も捕らえられるとのこと。
「悪党は成敗されてめでたしめでたしかな?」
アークの言葉にどこか寂しそうに微笑むと礼を述べてゆっくりと街道へと向かう市右衛門。
「元気でね〜♪」
アークの明るい声に振り返って手を振ると、ゆっくりとその姿は小さく、やがて街道の人混みへと紛れて見えなくなるのでした。