御店からの挑戦状! 〜倉破り編〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 95 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月04日〜06月11日

リプレイ公開日:2005年06月16日

●オープニング

「実はな、ちょっとした仕事を手伝って欲しいんだ」
 そう小柄でぽっちゃりと良く肥えた、まぁるい顔をした50男。その男が急ぎ足でギルドを訪れたのは、日が暮れかけた夕暮れ時のことでした。
「おいらぁ猿の亥兵衛。猿と書いてましらっていうんだが、ちょいと前まではそっちの世界じゃ知られていたんだよ。今じゃすっぱり足を洗って今じゃ堅気で煙草何ぞを商っているんだが‥‥」
 そう言うと、亥兵衛はきょときょとと辺りを見回してから声を落として続けます。
「頼まれちまって、とある御店の倉破りをすることになっちまってねぇ‥‥ちょいと、話に乗ってくれそうな人間をお借り出来やしねぇかと‥‥いやいや、勿論、ちゃあんと入る理由があるんだよ」
 亥兵衛の話によると、足を洗うきっかけになったのが、とある御店に入った時にそこの矍鑠とした主人に見つかり、見逃して貰った物のこれはいけないと足を洗ったよう。
 後で聞いたところ、その主人、若い頃にはどこぞの小さな道場に通っていたためか、腕自体の筋は良くなかったものの、なかなか気配などに敏感で、しかもその日はたまたま寝付けずにいたために出くわしてしまっただけのようなのでしたが。
「で、その後もその爺様とはヘンな縁もある物で、親しく付き合わせて貰っていたんだが、3年程前、隠居して息子に跡を継がせたはいいんだが、これがまたただ人の良いお坊ちゃんで‥‥ぽんと大枚はたいて金蔵を立派な倉にして、錠前も立派で丈夫な物にしたとか言って、それまでご隠居が雇っていた浪人先生を放り出しちまったんだよ」
 これが少し離れたところに自分の隠居用の家を手に入れてのんびり暮らしていたご隠居の耳に入ったからさぁ大変。
 ご隠居にしてみれば苦労してもり立てて立派な御店へと育て上げたというのに、奉公に出して修行させたにも関わらず、危機管理が全く出来ていない、ただそろばんを弾くことしか脳がなく育った駄目息子に頭に来るのも当然。
『倉を一度立派にしてしまえば、浪人なんぞを用心棒にして払う無駄が省けて良いじゃありませんか』
 そう言ってお払い箱にした2代目に浪人も見切りをつけて出て行ったのですが、突然出てきて蓄えもないのにご隠居が幾ばくかを渡して面倒を見ているとか。
「それまで御店を守ってくれた浪人先生に申し訳が立たないし、いつ押し込みがあるかも分からないと諫めた番頭も追いやられて、もう御店は近頃じゃ評判は落ちる一方。まだ若年の弟に跡を継がせた方が良いだろうと、ご隠居はそこまで考えているらしく‥‥」
 しかし自分に自信を持っている様子の馬鹿息子に何が原因で外されるかと言うことを分からせないと問題の火種になると思ったご隠居は、そこで如何に働いてくれる人間が大切かと思い知らせようと、亥兵衛が元盗人であったことを思い出して相談しに来たとのこと。
「1人で遣るつもりで色々準備をして、御店の間取りから何から手に入れたまでは良かったんだが‥‥よりによって、紹介状を受け取って数日滞在としてやって来た客がいてな、これが、やっとうの名人らしい」
 そう言って困ったように頭を掻く亥兵衛。
 頼まれた期日内に御店を出てくれればいいが、そうでなければ危険すぎるため、ご隠居に相談したところ、ギルドで手を借りることに賛成して貰えたため、こうしてやって来た様子。
「あのままじゃ、ご隠居が折角作り上げた御店も終わりだし、番頭さんも浪人先生も‥‥。うっかり掴まってしまってもご隠居が身柄を保証してくれるとのことだ、誰か、手を貸しちゃあくれないかね?」

●今回の参加者

 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4530 朱鷺宮 朱緋(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●ちょっと的外れ
「押し込み強盗団がきたら、浪人一人やとっても、被害が増えるだけのような、まあ、良いか」
 加藤武政(ea0914)がそう言うのに、亥兵衛の表情に哀れむかのような色が微かに過ぎります。
「へぇ、左様でございましょうか?」
 亥兵衛は実際に盗賊をしていただけに、加藤の言葉に10も20も反論したいのを今回の仕事のためとそれ以上特に何も言いませんが、その目が思いを物語っている様子。
「金で買える評判も、変えないあたりにセンスの悪さが伺える、10儲けたら、そのうち1,2で、橋を直したり、貧民に粥でも配れば、ある程度以上悪くいわれたりしない」
 まるでその道をずっと続けでもしていたかのように理想論をいう加藤にご隠居も不機嫌そう。
「賄賂を受け取ったら、それを大いに回りにばら撒く。自分のために使わないなら、評判も人望も手に入るというのに」
「橋の修復などは公共の事柄でしてな。そこから利益に繋がるなどと言うことで勝手に行うことが出来ないのが大半。また、こういう仕事は信用が第一でしてな、金で評判を買わずとも、真っ当な仕事をして手に入れる評判に比べれば、吹けば簡単に立ち消えて仕舞うような、頼り無いものですからな」
 あくまで口調は穏やかながら、有無も言わせぬ迫力を込めて言うご隠居のめは、笑っていない処か、と言ったところ。
「‥‥‥倉へと向かうのはこちら、ここを通るしかないが、今は誰も詰めては折らぬ故、御店からここへと出るにはこうぐるっと回るしか無く‥‥」
 怒るご隠居を他所に、大人しそうで小柄な男がつと指で亥兵衛の絵図面を前に、白井鈴(ea4026)とレディス・フォレストロード(ea5794)に御店の内部と倉の周辺を説明しています。
 若旦那へと暇を出された浪人先生で、ご隠居から事情を聞いて『そういった事情なら仕方有りませぬな』と協力をしてくれたよう。
「上から見た範囲ではよく分かりませんでしたが、他に御店から倉を見る事が出来る場所はありませんか?」
「非常に不用心ではあるが、この倉の前の見張り所以外から倉を見るのは不可能だ。面した部分に小窓すらない故」
「実際に肝心と客人が休んでいるのは御店の直ぐ奥、この辺りの部屋になるので、ここの渡りを通り‥‥」
「じゃあ、全くここの倉と面した棟にすら人は居ないのか?」
「ご隠居と御店を尋ねた折には、どうやらご隠居が使っていた客人などを持てなす、中庭に面した部屋ぐらいしか使われていなかったようだな」
 既にご隠居の知人として顔を見せておいた凪里麟太朗(ea2406)が、感じたままを言うと、浪人がその通りです、と頷いてそれを肯定します。
「裏口はどちらに?」
「ここだな。倉に回る為に通る道故、少々面倒やもしれぬが‥‥実は、見張り小屋の影に人1人通り抜けられる道があってな」
 朱鷺宮朱緋(ea4530)が尋ねると浪人がそう言って絵図面に手を加えて入口を書き入れます。
「へぇ、そこまではまだ調べられておりませんで‥‥」
「当たり前じゃ、儂がこっそりと出かけるのに使っておったのじゃ」
 威張れることでないことを言うご隠居にそこならば人目につかずに出入りできそうであることを確認する一行。
「ともかく、僕の仕事は倉に忍び込んで文箱を持ち出してくる、だね」
「僧侶が倉破りとは…少々躊躇は致しますが、此度は御隠居様の想いをお伝えするお役目と確りお努め致しましょう」
 鈴が確認して言うと、朱緋がすと手を合わせつつそう優しい声音で言うのでした

●先行潜入
「なるほど、親父様の紹介ならお泊めせぬ訳にはいきませんな」
 うすらぼんやりとした顔の若旦那が多少うんざりとした面持ちでそう言うと、麟太朗は母屋の客室へと案内されます。
 ご隠居の趣味か派手過ぎず、しかし使われているものは逸品揃いと来ていて、もてなす心が良く現れています。
「ふむ、そちらのお客人、宜しかったらこちらで少し話でもどうかな?」
 御店の中を歩いて回ってみると、まだ若向きの剣術家らしき男とふと目が合い、自分の部屋から声をかけてきます。部屋に呼ばれて見ると、何とも成金とでも言うべき、あからさまに金をかけてあるとでも入った様子の部屋で、麟太朗が見回して居るのに気が付いて苦笑を浮かべます。
「折角この御店の主がこの部屋を調えてくれたために居るのだが‥‥なにぶん、落ち着かんでな‥‥」
 聞いたところ、人からの紹介でこちらに逗留しているだけのようで、主の持てなしもあまり良いと感じていない節があり、付き合いで数日だけ逗留して、以後は関わり合いになる気がないことを声を潜めて教えてくれます。
「先代の主は立派であったと伺っていたので少々楽しみにしていたのだが‥‥」
「ご隠居と言えば、若い頃には町道場などに通い修行しったこともあったようで‥‥」
「なるほど、その筋で今回のご紹介があったのだろうなぁ」
 ご隠居の客でしっかりとした様子の麟太朗を気に入ってか色々と話す剣術家。麟太朗は話し相手を暫く務めると、部屋に戻り、御店の一同が寝静まるのを待つのでした。

●いざ倉破り
「忍び込むのは僕にまっかせといてよ。まずは鍵を開けることからだね」
 鈴がそう言って敷地内に入っていくと、出入口では朱緋と亥兵衛が影になるところで見張りへと残り、加藤とミミクリーで猫に姿を変えたレディスが続き、倉の入口で加藤が辺りを警戒し始めます。
「まずは鍵を開けることからだね。立派で丈夫な鍵みたいだけど鍵っていうのはどれだけ精巧にできてるかだと思うんだ。開錠の術で開けられるかな?」
 レディスに微かな声で話しかけつつ鍵を弄り始めた鈴は、いとも容易く鍵を開けてしまいます。
「やっぱり、思った通り鍵自体はそこそこの人が作った程度で、丈夫さばっかりに頭が言ってたみたいだね」
 そう言って錠を外すと朱緋も敷地内へと足を進め中へと入って文箱を探し始める3人。
「家捜しというのも、なかなか楽しい物ですね」
 普段あまり関わりの状況下で、ついわくわくと心躍る様子のレディス。
「この位置ですと灯りは漏れても母屋の方に気が付かれることはありませんね」
 灯りを覆っていた毛布を少し開いて部屋を照らす灯りを少し強くする朱緋。
 倉の換気のための小窓から入る灯りで暫くごそごそと調べていた3人ですが、ふとレディスが簡易の鍵のかかった箱を見つけてカリカリと爪でひっかくと、それに気が付いた鈴が鍵を開け、その中に収まった文箱が目的のものであるのに気が付き抱えて立ち上がる鈴。
「さて、早く引き上げよう」
 そう言って鈴を除き、倉を抜け加藤と合流をして抜け道を通り抜けて足早に姿を消す一行。
 それを確認してから微塵隠れで姿を消す鈴。
 その爆発音で慌ただしく起き出してくる御店の面々。それを数軒先の屋敷の屋根から見物する鈴の目にも、打ち合わせ通り、倉の側に漂う鬼火を微かに確認することが出来ます。
 爆発音がするまで、御店の中にいた麟太朗はそっと部屋から辺りの様子を窺っていました。
 幸いというか、母屋から離れへの廊下は麟太朗の部屋からこっそりと伺うことが出来、思ったより簡単でした。
 倉の方から爆発音が聞こえてきたことで、のそのそと起き出す御店の人間に紛れて倉の方に向かうと、剣術家と顔を合わせることに。
「何事であろうか?」
「これから見に行ってみるところだが‥‥」
 始めから客人の上、倉は離れを挟んでの位置であるため、剣術家も含め全く気が付かなかった様子。
 倉の入口で爆発があったらしい様子に開け放たれた倉の入口に目を瞬かせている御店の人間達の目にふわふわと鬼火が現れて浮かび、御店は直ぐに蜂の巣を突いたような騒ぎになります。
 種を明かしてしまえば麟太朗が辺りの目を盗んで唱えたファイヤーコントロールで作り上げられたものなのですが、知らなければ当然胆を潰す事に。
 若旦那はどうして良いのか分からぬ様ながらも、鬼火の噂が流れてはと慌てて従業員達に口止めをするのでした。

●願わくば良い薬に
 亥兵衛とご隠居、浪人の他に、一行の前には1人の男が座って笑いを噛み殺しています。
「若旦那は偉い胆を冷やされているようで‥‥いやや、事を内密に済ませるようにと私に呼び出しがかかりましたが、ご隠居にも秘密裏に、と言いましてねぇ」
 どうやらお上の御用を預かっている男のようで、ご隠居とも昵懇の間柄のよう。
 程良い頃合いに見つかったと適当に言って返しましょう、と笑って請け負う御用聞きの男。
 この場に朱緋と加藤、それにレディスの姿はありません。
「以前お見かけした際には活気のあった覚えがあるのですが‥‥今は御店の和が乱れていますが如何した事でしょうか?」
 朱緋が御店に、加藤とそれに一匹の猫を連れて現れたのは、ちょうど同じ頃でした。
 朱緋の物柔らかな声とその僧形に、まるで縋り付かんばかりに客間を勧めて泣かんばかりに昨夜起きた爆音と少しの間現れた鬼火のことを泣きつく若旦那。
「商いとは、秋の収穫を交換する秋の行いが元と聞き及びます。人と人との交わりにて生じる和こそが大切かと存じます」
「つ、つまりあたしが親父様の付き合いなんぞ無駄だと省いたのが原因という訳で?」
「御札『春夏冬□□五合』の意を理解出来る程、柔軟な御心をお持ち精進下さいませ」
「しゅ、しゅんかとう‥‥??」
「商いますます繁盛、と言う意味でございます」
「は‥‥な、なるほど、言われてみますと‥‥」
 汗を拭いつつ頷く若旦那。
「‥‥これでは、まだまだご隠居様も安心して任せられませんねぇ」
 そんな様子を猫の姿で傍観していたレディスは、苦笑混じりにしみじみと呟くのでした。