お茶席の攻防
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月13日〜07月18日
リプレイ公開日:2004年07月22日
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●オープニング
その手紙には、こう記してありました。
『梅雨明けを待ちかねていたかのようにどっと暑さが押し寄せてまいりました。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。
さて、この度私どもの屋敷で、恒例のお茶の席を設けたいと思っております。
前回、前々回のような不始末をしでかさないように万全の備えを引くつもりでありますので、お誘い合わせの上、どうぞお越し下さいませ」
微妙に変な文が混じる、茶席への誘い。
それを読ませた主は、ふくよかで細い目、普段ならばあまり怒ることなどなさそうなぐらい、穏やかな風貌をした、どこぞのご隠居でした。
「わしはこの、お茶の席が楽しみでのぅ。お茶の先生を呼んで点てて貰い、旨い茶菓子で客をもてなす。これを開くのがある意味生き甲斐とも思っておりますのじゃ。しかし、その手紙にもあるように前回とその前のお茶席は、酷いものでしての」
そう思い出すと肩を落とします。
「どこぞから聞きつけたか、甘いものに目がないという、冒険者を名乗っておりました3人組が来まして、無理に上がり込んだ挙げ句に抹茶は苦くて不味いだのと茶碗を投げて、大切にしていた物なのに壊され、ずかずか控えの間に言って茶菓子を食い荒らされ‥‥」
思いだしたのか、ご隠居の顔には悲痛そうな表情が浮かびます。余程辛い思いでなのでしょう、まるで今、それをやられたかのように顔を歪めます。
「それを前々回にされましたが、その時はそれで済むのだと思っておりました。しかしその3人組は前回の茶席にも来て、またしても同じ事を‥‥いらして下さった皆様に申し訳なく、点てて下さった先生にも申し訳なくてのぅ‥‥」
そういうと、ご隠居は藁にでも縋るような様子で頭を下げました。
「今回はっ、今回こそはっ! 平和なお茶席をしたいのです。後生ですっ、お茶席を無事に成功させる為、その3人組を撃退していただけんでしょうかっ!?」
●リプレイ本文
●情報と作法
依頼を受けた直後、一行はご隠居のお宅にお邪魔していました。お茶席の面々を詳しく聞く為です。
「此度の依頼を受けた大半が若い娘で、不安もあろう。だが、少々元気の余っている嫌いもあるが、皆、根は素直な娘達。わしがしっかり監督するゆえ、ご安心めされい」
「いやいや、若い娘さんが皆、あの娘達と同じではないと爺はよぅく心得ておりますでの」
秋山主水(ea1598)の言葉にからから笑って応えるご隠居。目を細めて一行を見る様子はまるで祖父のそれです。
「あたしとしては、お爺さんにもっと気軽にいつでもお茶の席を開いてもらいたいんです。生きてて良かったなぁ〜って思えれる余生を過ごしてもらいたいの。だから、なるべく、彼女たちが二度と、お茶の席を濁らせる様な行いをしないように、改心させたいんです」
朋月雪兎(ea1959)の言葉に、ご隠居は嬉しそうににこにこと笑って頷きます。
「ご隠居、恨まれてる心辺りとかはねぇのか?」
「わしほど年を食ってしまいますとのぅ、いつ人に恨まれているかも判断がつかんのですじゃ」
巴渓(ea0167)の言葉に、ご隠居は困ったように首を捻りました。
「ご隠居様、前回と前々回の席にはどの様な方が招待されたのでしょう? 後、御呼ばれしたいと言っているのにご隠居のご都合で御呼び出来ない方は居ますか」
南天流香(ea2476)の言葉にご隠居は暫し考え込みます。ご隠居曰く、気軽な席なので制限はせず、招待状もお誘い合わせの上としているとのことだそうで、それ以外で個別に呼んでいるのは、茶器の買い付けでお世話になっている骨董商の旦那かやはりお世話になっている寺のお坊様方や、お茶やお菓子を納めて下さる御店の方ぐらいと言うことです。
「その、骨董商というのは?」
「良く茶碗を買い付けるところで‥‥わしが見て気に入って買う茶碗はどうもいつも高いのですがの。今日も今度のお茶席の為の茶碗を持ってくるはずですの」
琴宮茜(ea2722)が尋ねるのにそう人の良い笑顔で応えるご隠居。屋敷の者がご隠居を呼びに来るのに笑みを浮かべて一行を見ます。
「噂の御仁がいらしたようじゃ、ちと席を立ちますが‥‥」
そう言うと、すぐ隣の部屋へと移動するご隠居。お茶席に参加する天乃雷慎(ea2989)や跳夏岳(ea3829)が秋山と作法などの話をしている横で、気になるのか渓・茜・流花が隣の様子を窺っています。
「いつも済みませんねぇ、いや、この間壊されたあの茶碗も、本当に勿体ないことで‥‥滅多に出ないものでしたのに。今回のこの茶碗なども、いつもの通りに控えの間で?」
「うむ、残念じゃ。あの色は抹茶が良く映えて、趣深かったのじゃがのぅ。おおぅ、そうです今回はこの茶碗と共に、秘蔵の茶碗も出そうと思いましてな。ちと可愛らしいお嬢さんが先生を手伝って点ててくれるので、この爺も少し張り切りましてな」
「‥‥ほぅ、それは楽しみですねぇ‥‥」
様子を窺っていた3人は何となく目を見合わせます。最後の骨董商の言葉に何か含みを感じたからでしょうか。骨董商を返して戻ってきたご隠居に、茜は一つ提案をしました。
「大事な茶器を守るためにできれば三人娘が何とかなるまでで良いですので、当日の茶会の点たてを私にやらせてください」
「‥‥ほう、これは‥‥可愛らしいお嬢さんの点てた茶ならば、きっといらした皆さんも楽しんでくれるに違いないでしょうのぅ。宜しい、先生にはわしが話しておきましょう」
ご隠居はどこか楽しげにそう言って笑いました。
雷慎は、作法の合間にギルドに行き3人組の娘達について聞いてみます。ギルドの信用問題にも関わるので詳しいことは聞けませんでしたが、どうも個人的に雇われている人達ではないかという答えが返ってきました。
●割られたお茶碗
流花や渓が情報集めに奔走しているも、骨董商以外にこれと言って不審な様子を見せる人間はなく、お茶席当日となりました。
思った以上にお客が来ます。お茶菓子目当ての町人達も押しかけてきていて、いつものことなのか、ご隠居は嬉しそうに対応しています。
お茶席の話題は、専ら先生の変わりにお茶を点てている茜の事でした。藍色の紬に竹をあしらった帯を締め、背筋を伸ばして茶を点てる様は、遊びに来た人々にとって見ていて楽しい物のようで、自然と会話も弾んでいます。
「先生のお弟子さんか? 可愛いな」
そんな声があちこちから聞こえて来ます。
お茶席の雰囲気が変わったのは、それから暫くしてのことです。ふらりと若い娘が3人連れだってやって来たのに、ご隠居の人柄から毎回顔を出していた人達が僅かに顔を顰めます。件の3人と気が付いた夏岳は近づいていってやんわりとお断りをしようとすると、すっと長身の男性が近づきます。
「まぁ、ご隠居はどなたも拒まない方ですし、たかだか娘さん3人で何が出来るんでしょうかねぇ? 通して上げて宜しいんじゃないですか?」
そう言うのに夏岳があちこちに潜む仲間に目配せをします。3人組が悪態を付きながら座敷へと足を踏み込もうとした瞬間、縁の下からぬっと手が出てきて、最初に足を踏み入れようとした娘の足首をむんずと掴んで引き倒します。引き倒したのは渓でした。
「きゃっ‥‥何すのよ、このっ‥‥」
言いかける娘の袖から小さな音と共に、半分ほどに割れひびの入った茶碗が転がり落ちます。よく見ると、ご隠居が秘蔵と言って嬉しそうに見せていた茶碗によく似た色合いと光沢の物です。
咄嗟に座敷へ上がろうとする娘と、逃げ出そうとする娘。逃げようとする娘の前に雪兎が立ちはだかります。
「一つ、みんなで守ろうお茶席のマナー‥‥一つ、御隠居の老後の楽しみ奪っちゃダメだよ‥‥一つ、大和撫子は厳かにってね♪さぁ〜覚悟してよね☆」
中へと入り込もうとした娘に雷慎が静かな笑顔で寄ってきます。その顔には青筋が浮かび上がっていて、彼女の現在の心境を良く物語っているようです。
「くっ‥‥」
短く声を漏らすとダガーを構える娘に、にっこりと笑いながら流花も茶室の入口をくぐって、上がってこようとした娘に向かいます。
「暴れてはいけませんね‥‥楽しみを壊されるとわたくしは怖いですよ」
ライトニングアーマーを身に纏いながらダガーを持つ手を掴んで、微笑んで手を握りしめる流花に、娘はダガーを取り落として、2人の剣幕に怯えたような表情を見せます。
逃れようとして雪兎と対峙する娘が様子を窺ってすり抜けて逃げようとしますが、そこに雪兎の手刀が入り、昏倒します。その脇では最初に転倒した娘を渓が締め上げているところでした。
「逃がさないよっ♪」
その娘達が取り押さえられるのを見てそろそろとその場を離れようとしていた長身の骨董商に気が付いた夏岳が、咄嗟に捕まえて、ホールドで締め上げます。
「何でこんな事、したのかな?」
ぎりぎりと締め上げる夏岳に、振り解こうともがく骨董商は、やがて観念したかのようにがっくりと倒れこみました。
「ご隠居‥‥これは一体?」
お茶席に遊びに来ていた町人が、あっけにとられたように言うのに、ご隠居は一瞬困ったような顔をしましたが、すぐにからから笑い出します。
「まぁ、爺の酔狂という事じゃな。ちょっとした余興じゃよ」
「なんでぃ、ご隠居も人がわりいやな」
取り押さえられた4人を引き立てられている空間に、ご隠居の可朗らかな笑い声が上がっていました。
●嬉し楽しいお茶席♪
お茶席が好評のうちに終わった次の日のことです。
ご隠居にお呼ばれとなり、一行だけのささやかなお茶の席が設けられました。穏和そうなご隠居と同じ歳くらいの落ち着いた老人が、見事な細工の茶碗や、黒く品の良い茶碗を使ってお茶を点てて各々へと勧めます。
その席で、ご隠居は骨董商が今まであの娘達を使って偽の茶碗と本物の茶碗をすり替え、偽物を叩き割って、本物を持ち帰らせていたらしいと言うことが分かります。幾つかはもう売り払われていて手元には戻りませんでしたが、ご隠居が特に大切にしていた茶碗は戻ってきたとのことで、とても喜んでいます。
席では夏の暑い最中を涼しくするような花の絵の小皿に、目でも楽しめる花をあしらった甘い茶菓子が添えられています。
秋山や茜の様子を見よう見まねで飲もうとしていた渓ですが、だんだんと苛ついたように肩を震わせると、目の前の淡い灰色の茶碗をがっと掴んで叫びます。
「がああああ!! こんなチマチマした飲み方出来るかァ! 茶ってえのはな、こうやって飲むんだァ!!!」
ぐっと茶碗を口元へ運んで、一気に煽る渓。
「ああああマズイ! もう一杯!!」
その様子に先生とご隠居は目を見合わせると可笑しそうに笑い出します。
「いやいや、正直な娘さんだ、お茶なんて言うのは、風雅を楽しむって言う人間だけじゃなく、各々で楽しいように飲めばいい。ですな、ご隠居?」
「あぁ、本当に久々に楽しいお茶が飲めますのぅ、先生。こうはっきりしておられると、なんだかこちらの方も気分がすっきりしますでのぅ」
楽しそうに言葉を交わす老人2人。
先生は笑いながらすぐにお変わりのお茶を点てて渓へと渡します。
「お菓子もさっぱりしていて甘くって美味しいです」
嬉しそうに言う雪兎の横では雷慎がまったりと幸せそうにお茶を飲んでほうと溜息をついています。
「お菓子もお茶も、十分用意させていただいております、今日はごゆるりと、楽しんでいって下さいますよう」
そう言うご隠居も、幸せそうにお茶を飲んでいるのでした。