山賊退治〜大嫌いな冒険者〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月24日〜07月01日

リプレイ公開日:2005年07月02日

●オープニング

 驟雨にずぶ濡れになりながらやって来た、その痩せこけて見窄らしい身形の少年がギルドへと入ってきたのを見て、だらだらと溜息混じりに煙管を燻らせていた受付の青年ははっと顔を強張らせました。
「‥‥いらっしゃい、坊や、依頼かい?」
 雨に濡れた顔を拭おうとせず、暗い憎しみを込めた目を向ける少年に、受付は擦れた声で、1年前にかけた言葉と寸分違わぬ言葉をやっとの事で吐き出します。
 1年前、その少年がギルドへやって来たとき、今と同じぐらい見窄らしい身形ではありましたが、大きな目をくるくると動かして辺りを興味深げに見渡した、その人懐っこく愛らしい表情が印象的でした。
「‥‥‥本当だったらこんな所‥‥冒険者なんて二度と見たくもなかった‥‥」
 抑揚が無いように感じる声は、怒りを押し殺しているのだと言うことを、受付は痛いほど分かって一瞬言葉を失います。
「お茶とお饅頭でもどうだい?」
「施しなんていらないっ!」
 きっと鋭い声を上げて睨み付ける少年。
 1年前は飢えていたため一気に食べられず、少しだけお茶で柔らかくふやかしてほんのちょっぴり食べて幸せそうに笑い、残りをそっと懐に大切そうにしまった少年。
 確か村で待っている妹のために持って帰ってやると言っていたのを思い出して、受付の気持ちはどんどん沈んでいきます。
 その事件は、結論から言うと失敗。そして、村の壊滅と言った、青年が受け持った中でも辛い部類に入る依頼です。
 その時雇われた冒険者達は名も良く売れた部類の、いわゆる腕利きの者達で、馬や驢馬に沢山荷を積み、鍛え上げられた腕と高価な武具といった、村の者達からすればそれこそ雲の上の存在。
 そのために村は餓えながらも何とか金を掻き集め、村を苦しめる山賊達さえ取り除いて貰えればと餓えた者達が目に留まらないように気を付け、彼らに気持ち良く働いて貰おうと精一杯持て成しました。
 彼らは自分たちの実力を過信し、山賊を過小評価し過ぎました。
 自分たちを囮に村から離れたところへと誘き寄せるはずが、それを事前に察知され、逆に囮が追うのに誤魔化され、それを気が付いたときには既に村は焼き払われ、あちらこちらに村を守っていた男達の死体が転がり、そうして初めて餓えて死に、火に焼かれて死んだ、隠されていた年寄りや女子供を見つけました。
 飢えて死んだ者の中には少年の幼い妹も居たそうです。
 彼らは戻ってどうしたか。
 生き残りは居ないと見て、無かったことにしてしまったのです。
 自分たちが辿り着いたときには既に村は壊滅していたと、彼らからの報告は届いています。
 もっとも、ギルドは記録係からその件を報告されています。
 しかし、少年は直ぐ近くの村でこき使われながらも生き延びていたのでした。
「‥‥暫くどこかに行っていた奴らがまた戻って来て、今居る村を狙っている‥‥名が売れていない、それで居て役に立つ奴らを雇いたい」
 金銭的に腕利きを雇うだけのものはないらしく、また、自分が幾ばくか出そうとも言えない気迫を少年から感じ取った受付は小さく頷いてその巾着を受け取るのでした。 

●今回の参加者

 ea6463 ラティール・エラティス(28歳・♀・ファイター・ジャイアント・エジプト)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb0139 慧斗 萌(15歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb2170 黄 鸞鳳(32歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2536 廻來院 成(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb2892 ファニー・ザ・ジェスター(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●それぞれの想い
 街道を抜けて細い獣道へと踏み込んだのは、一時程前のことです。
 戦闘を行く少年の直ぐ脇には、レーラ・ガブリエーレ(ea6982)を引っ張るようにして歩いていくレーラの愛犬すわにふの姿が。
 続いてあたりを警戒しつつ続く李連琥(eb2872)に、それに他の面々が続く形に。
 黄鸞鳳(eb2170)やファニー・ザ・ジェスター(eb2892)が、時折挟む休憩時に山賊達の情報を聞くのに併せてなんとか少年の名が正助と言うことを聞き出すことが出来ますが、それ以外は山賊たちのこと以外は話そうとしない正助。
「ここから後は道のない森の中を突っ切ることになる」
「山賊に私達の存在を気取られると拙いと思いますし、村には入らずに山賊の根城に皆で直行しましょう」
「三倍以上の数の山賊団が相手ですわよね、感づかれて警戒されると厄介ですわ。ちゃっちゃと済ませたいものですわね」
 ラティール・エラティス(ea6463)の言葉に頷きながら、廻來院成(eb2536)がそう言うと、休息を兼ねてそれぞれが保存食を取り出します。
「山賊の根城の周辺は?」
「根城である廃寺は木々に囲まれていて、木の陰に隠れながら近づけばすぐ側まで行ける」
 聰暁竜(eb2413)が聞くのに正助が答えると、レーラが正助に保存食を渡そうとします。
「施しはいらないって‥‥!」
「一緒に依頼に参加するからには、しっかり準備しないといけないんじゃん! なので、しっかり食べるのが務めじゃん〜」
「一緒に来るからには空腹で動けないなどただの足手纏いだからな」
 突っ返そうとする正助に押しつけるように握らせるレーラと、自身も腹ごしらえをしながらぴしゃりと言う暁竜。
 その言葉に言葉を詰まらせて手の中の保存食見る正助に口を開く成。
「んもう、飢え死になんて許しませんことよ? 保存食すら受け取らないなら、口移しても食べさせてあげますわ」
「たっ、食べれば良いんだろっ!」
 顔を覗き込んできた成に身体を引いて立ち上がるとがさがさと一行と離れて森へと入っていきます。
「みんな〜、あんまりあの子に関わっちゃダメだよ〜。萌っちたちは、お金さえ貰えば何でもやる冒険者だしね〜」
 慧斗萌(eb0139)が自分は関係ないと言わんばかりに言う言葉に表情を曇らせるラティール。
「私達の先輩方が犯した過ちによって冒険者を信じられなくなって尚、冒険者を頼らざるを得ない‥‥というのは辛いことだと思います。ですから男の子の信をもう一度勝ち取るためにも‥‥」
「冒険者の信用が、だとか大仰なことを言う気は無いんだがな‥‥あんな眼を見せられて放っておけるかよ」
 鸞鳳が少年の去った方を見つつ呟くように言います。
「少年のためにも絶対に依頼は成功させるじゃん!! 少しでも冒険者たちが捨てたもんじゃないことを知って欲しいんじゃん」
「立ち直るのには‥‥時間がかかるものだ。‥‥‥‥少年に、生きる道を示せればな」
「萌っちたちは慈善事業でも正義の味方でもないよ〜。あの子の人生、ずっと背負うんなら止めないけどね〜」
 レーラとファニーが言うのに、好きにすればとばかりに言い捨てる萌。
 暫く押し黙る一行ですが、正助が戻ってくるのが遅いのに連琥は立ち上がると正助の消えた方に足を進め、そこで誰かに謝り泣きじゃくりながら保存食を無理矢理に飲み込む正助の姿が。
「彼のためにも、必ずこの依頼は成功させないとな」
 連琥は小さく呟いて、頃合いを見てから正助へと声をかけるのでした。

●偵察‥‥失敗!?
 日の落ちた頃、正助の案内で、猟や山菜などを採りに来たときに獣たちから身を守るために使っていたという穴へと案内されて其処へ落ち着くと、萌が廃寺の位置を聞いて偵察に出て行くことに。
「萌っちたちはガチの格闘勝負だから神聖魔法や精霊魔法への耐久力は期待できないし〜、弓矢で遠距離から狙撃されたらアウトだね〜。見つかったら『どっかから紛れ込んだシフール』ってことで誤魔化そうかな〜☆」
 そんなことを言いながら羽音を立てて向かっていた萌は、夜の闇に紛れ目を凝らして教えられた廃寺へと近付いていたのですが‥‥。
「う〜ん、そこそこ大きい感じの寺だけど、あんまし奥の方とかはぼろぼろで‥‥あっ!」
 夜に紛れてはいるものの、気配を隠しての偵察というわけでもなく、杯と弓を手にほろ酔いの様子で出てきた30半ばの男が羽音に目を向けたのに気が付いた萌は慌てて身を翻します。
「っ!!」
 痛みと共に、回避への絶対の自信があった萌の脚を矢が抉り、必死でその場を離れる萌。
『気のせいじゃないんすか〜ぁ?』
 そんな声を聞きながら、萌は命からがら逃げ帰るのでした。

●第一陣
 一方萌が情報収集に出て行った後、正助に山賊達の一部が村の娘達に悪さをしようと夜に村に出かけて行くことが多々あると言うことを聞くと、場合によってはそう言う奴らが1日2日戻らないなどを聞いてちらりと暁竜が正助へと目を向けてそれ尾を確認します。
「どの道を通っていくか、村の見張りに見つからない場所で、そいつらが通りかかる辺りはあるか?」
「ここのところの木に僅かに目印があって、その木に沿って辺りに気を付けて5本目ぐらいに獣道が‥‥」
 正助がぐりぐりと木の枝で地面に道までの図を書きつつ説明します。正助はどうやら山賊の目を盗んでは山で兎や鳥・山菜などを採って村へ運び込み、それを村長に取り上げられおこぼれを貰って生き延びていたようで、森の抜け道や隠れ場を事細かに覚えているよう。だからこそ、ギルドへの依頼を正助が出しに来たのでしょう。
 正助に教わった地理を頭に叩き込んで、ファニーと正助を残して出て行く6人。
「ほらほら、笑うでヤンス!」
 1年前を思い出したのか強張った顔で見送る正助の目の前に手をぬっと出すと、そこからぽんと保存食を出すファニー。
 先の休憩で少しだけしか食べられなかったのを知っていたファニーは、この機会にもう少し、無理をせずに食べるように勧めているよう。
 吃驚したようにファニーと出された保存食を見比べると、微かに笑いを零す正助は、ファニーの様子に先の冒険者達に無い暖かさを感じていたのかも知れません。
 6人が正助に教わった獣道で待ち構えていると、ぞろぞろ連れ立ってやってくる数人の男達の姿が。
 すっと後ろへと回った成に山賊達が気が付きますが時既に遅し、一行に挟み撃ちになって切り倒され、捕らえられたのは8人ほど。
 不意を打たれて為す術もなく倒され、逃げ出せた者も、その襲撃に気が付いた者もいない様子なのでした。

●貫く矢
 怪我を負って戻ってきた萌にファニーがリカバーで癒すも、一度打ち落とされかけた萌は念の為隠れ穴で残ることとし、正助を加えた8人が廃寺へと向かったのは次の日の夜明け前のことでした。
 廃寺を上から見下ろせる木陰を見つけると、正助を側に置いて弓の具合を確認する鸞鳳と、木の陰を選びつつ近付いていく一行。
「良く見とけよ少年。これが冒険者の戦いだ‥‥!」
 鸞鳳はそう言うとぎっと矢を番え一点を見据えています。
 鸞鳳達の位置から一行がそれぞれ配置につくのが見え、そっと足音を忍ばせた成が太刀で見張りの1人を音もなく斬り捨てるのと同時に、ひゅっと言う小さな音と共にとさりと倒れるもう一人の見張り。
 矢を放った鸞鳳の側で息を飲んで成り行きを見守っている正助ですが、間髪入れずに矢を番え直す鸞鳳にはっと我に返ったように目を向けます。
 見張りを倒した一行は廃寺にそっと近付き入って行きます。
 まだ僅かに酒を飲み続けていた男ががたりと音を立てて立ち上がるのと暁竜がその右手で手刀と叩き込むのとほぼ同時です。
 その手に染み込んだ毒が男の身体の自由を奪い俄に起き出し始めた山賊達ですが、寝込みを襲われろくな抵抗も出来ない様子。
「畜生っ!」
「はっ!」
 何とか小柄を手に突進する山賊の1人も、ラティールは十手で受け流すと、ロングソードで叩き斬っていき、1人、また1人と落としていきます。
 その横では目にも留まらぬような素早い太刀捌きで山賊を切り刻んでいく成が。
「命が惜しくない奴からかかって来いっ!」
 連琥の怒声と共に繰り出される蹴りに倒れ込む男達に、あわあわと走り回りながら避けるレーラに、そのレーラに斬り掛かる山賊の脚に噛みつくすわにふ。
 すわにふが噛みついている山賊の身体がぐらりと揺れると、背中に深々と矢を突き立てながら倒れ込むのに、レーラは鸞鳳のいるであろう辺りへと目を向けるのでした。
「村の奴らめっ!」
 弓を手にした男がそう怒鳴り散らしながら弓を構えるも、乱戦へと持ち込まれた山賊達に、部下と敵の区別がつけにくい夜明け前なことで、その自慢の弓を使うことも適わない様子に歯噛みをします。
 その間にも目の前で弓によって射抜かれる部下を見て建物の陰に隠れて必死で目を凝らすも、森の中から撃ち込んでくる鸞鳳の姿を見つけることが出来るはずもなく。
「頭の方は何処かしら?」
 頭を潰せばと考えた成ですが、物陰に隠れた様子の頭を見つけることも出来ず、また、部下達も頭の姿が見えないのに混乱を起こし、次々と倒されて行きます。
 小太刀で浅く斬られた傷をファニーに治して貰いながらも頭目らしき男を捜すラティールも見つけることが出来ず、僅かに焦りを覚え始めたときでした。
 微かに空が明るくなってきたのに隠れ続けるのが不可能と身を翻して森へと駆け込もうとした弓を持った男に気が付いた時には間に合わない、誰もがそう思いました。
「逃がすかよ、賊が‥‥この一矢、避けられると思うな!」
 次の瞬間、その声と共に苦しげに男が呻いて倒れ込みます。
 男の脚を貫いたのは、鸞鳳が放った矢。
 男の姿が物陰に隠れてから、鸞鳳は男が物陰から出るのを根気強く待ち構えていたのでした。
 まだ生きていて捕らえた山賊達を逃げられないように廃寺の一室に縛り付けてから、一行は村へと向かうのでした。

●踏み出された一歩
 村の者達と引き返してきた廃寺。
 苦しめられてきたという村の者達は、恨みを晴らさんでも言うかのように生き残った者達に怒りをぶつけたりしている様子。
 そんな中、山賊達が貯め込んでいた財の中から、村の方で使い道の分からない物は持っていって良いと言われてめぼしい物を適当に選んでいく一行。
 村長は山賊達の貯め込んでいた物でかなり潤うらしく、一行に追加に報酬を気前よく渡しますが、正助には連絡も寄越さなかったと小突き回し、見る限り扱いは酷い様子。
「冒険者にもいろいろ居るんだから、ダメな奴とは一緒にして欲しくないじゃん! ‥‥俺様もまともな冒険者になるように努力するじゃーん!」
 レーラが一行の元へと正助を連れて行ってそう言うと、何と言っていいか分からないような表情を浮かべる正助。
「冒険者に憎しみを抱くのも、好意を持つのもそれはお前の自由だ。だが、生きることを放棄することだけは許さない」
 そう言って暁竜がぐいと正助に押しつける包みには、保存食と今回手にした報酬が。
「施しを受けたくても受けることが出来ず死んだ者達だっているのだ。それはよく分かっているはずだ」
 暁竜の言葉にはっとしたように顔を上げる正助。
「村に居てもどうにもならないなら‥‥旅に出てみるのはどうだ? 私も大陸からはるばるこの国まで旅をしてきたんだ」
「私は‥‥私が謝っても仕方ないかもしれませんが、先輩方の非礼を詫びます。そして、もしその気があるのなら村を出て冒険者ギルドに住み込みの手伝いで入り、もう一度『冒険者』を見極めては貰えませんか?」
 連琥が言うと、ラティールも屈み込んで目を合わせると正助へと言葉をかけます。
「そーだ、冒険者になってみない? 君ならきっと立派な冒険者になれると思うじゃん!!」
「‥‥僕は‥‥」
 まだ迷う様子の正助に、漸く隠れ穴から萌がやって来て合流してそろそろ出発となる一行。
 ゆっくりと村から帰途につく一行を見送っていた正助ですが、手の中の包みへと目を落としてから、意を決したように一行の後を追って歩き出すのでした。