【船宿綾藤・新装開店】破落戸達の夕暮れ
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月01日〜07月06日
リプレイ公開日:2005年07月11日
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●オープニング
「‥‥と言うことで、もう一つ依頼があるんですよぅ」
ぱっと見30代半ば位な船宿『綾藤』の女将、お藤は一つ依頼を出した後に、受付の出す茶で一息入れると口を開きました。
小雨降る中、何気なく外の雨を眺めつつ、淡藤に銀の月の帯と行った涼やかな装いと裏腹に表情を暗く曇らせたお藤は、暫く手の中で茶碗を弄りつついましたが、小さく息をついて口を開きます。
「うちが新装開店するというのは言ったじゃありませんか。ですが、なにぶん店の名が変わっているもので、その、勘違いなさる方々もいる様子で‥‥」
「‥‥はぁ‥‥」
何となく間抜けな返事をするギルドの受付の青年、ちょっとぴんと来ていない様子。
「今まではお店に来ていた常連様方が腕の立つ方とか混じっていたので、言われなかったんですよねぇ‥‥」
「‥‥えーっと、あの、何を言われなかったので?」
ほうっと溜息のお藤に、青年はますます不思議そうな顔で首を傾げると、意を決して口を開きます。
「あら、言いませんでしたかしら? 近頃風体の良くない、いわゆる破落戸さん、だったかしら、あの方達が開業直前の今になって押しかけてくるようになって、ちょっと困っているんですよぅ」
「?? なんで押しかけてくるですか?」
「実は‥‥」
先日のことでだそうです、破落戸な男達が4人程で押しかけてきたそうです。
『ここで商売するなら所場代を寄越せ、そうしたら俺たちが守ってやるよ、暴れる奴らから』
『誰から守るんです?』
『俺たちの仲間だ』
などという世にも間抜けなやり取りがあり、、女中の娘にちょっかいかけようとして水撒き用の桶(水入り)で殴られたり、戸を蹴倒そうとして転けたりと、まぁ、なんだか迷惑をかけようとしたようです。
「そんなやり取りが有りましてから、まぁ、実際にお店に迷惑をかけられたりお客様に迷惑がかかったらと思うと、幾ら相手がとてもとても御間抜けさんだとしても、放ってはおけませんからねぇ‥‥」
改装する前は特にそんな者の被害にあったことはなかったので、ここ最近になって船宿の辺りで『商売』を始めたのではないかとお藤は思っているようです。
「まぁ、そんなわけで、少しの間用心棒を雇いたいと思ったのですわ」
「なるほど、分かりました」
「では、改めて、破落戸さん達に丁重にお引き取り頂くよう促してくれる人を、お願いします」
事情を聞いて頷くギルドの青年に、ほっとしたように笑うと、お藤は頭を下げるのでした。
●リプレイ本文
●優雅な用心棒生活?
新装開店した船宿『綾藤』の一室‥‥そこにはのんびりと寛ぐ夕月真里(ea6416)の姿が。
「ふむ、これは良い茶じゃな‥‥」
直ぐ隣で優雅に茶を頂いているのは羅刹王修羅(eb2755)。
「女将さん、用心棒を雇うとなるとそれなりの覚悟が必要だがいいのか?」
風斬乱(ea7394)が確認するのに頷くのは宿の女将お藤。
「そりゃま、それなりの覚悟がなけりゃ頼みませんよぅ」
そう言うお藤にニヤリと笑い、背を向ける風斬。
任せておけと語る背中を見て頭を下げてから、持ってきた差し入れの食事と茶、菓子などを置いて出て行くお藤。
一同へと宛がわれた部屋は二間続きの広々とした客間で、落ち着いた、それでいて決して暗くない雰囲気です。
「む、新装開店の船宿を襲うごろつき‥‥許せないじゃん! なので、お引取り願いやがりますっ!!」
そんな部屋の中で1人燃えているのはレーラ・ガブリエーレ(ea6982)。どうやら目の中に炎が見える勢いで、破落戸にお引き取りいただく気は十分のよう。
「勘違いばかりの破落戸達を追い返すこと、でしたか。『丁重にお引取りいただく』が正解ですね」
「‥‥でも、俺様はあんまり喧嘩とか得意じゃないからなぁ‥‥」
所所楽林檎(eb1555)が改めて仕事のことを考え呟くように言うと、急にしょんぼりして指先でいじいじと畳を弄り始めるレーラ。
「さほど腕っ節がよいというお話でもありませんし‥‥後衛のあたしでも何とかなるでしょう」
「んむ、そーかな‥‥? まずはともかく、頑張って見張りじゃん!!」
結構立ち直りの早いレーラは、気持ちを切り換えて、船宿の周囲をうろうろと見回りすることに決めたようなのでした。
「これが冒険者の仕事なんだな‥‥」
自身の子供達が冒険者をしているためにどういうものかを見極めようとばかりに参加した南天陣(eb2719)はそう呟きます。
「では、日中は宜しくお願いします‥‥」
そう言って隣の間に布団を引いて休む林檎。既にそちらの部屋では理瞳(eb2488)が休んでいます。
林檎と瞳の休む部屋には窓にてるてる坊主が逆さまに下げられていて、しとしとと降り続く雨を、このてるてる坊主が呼び寄せているのかも知れないのでした。
●まずは小手調べ
2日ほど平和な日が続き、その間に刀根要や所所楽石榴が聞き込んできた話で破落戸達の事で幾つか分かる事がありました。
一に人数は15、6人いるのですが、腕が立つのはたった1人の浪人者だけ。
刀根が聞いたところではそこそこ匕首が使える程度らしいのが5、6人ですが、これも実際に見たところ、本当にただ匕首を使える、というだけのよう。
そんなこんなで3日目、漸く日が顔を出したときのことです。
「‥‥おぅ、こないだやらかしてくれた女ぁどこだ?」
玄関の掃除をしていた佐伯七海(eb2168)にそう破落戸が3人ほど入ってきて声をかけます。
どうやら先日水をひっかけられて桶ではたかれた破落戸が、もう一人ぐらい引っ張ってきたようで、その時の女中に仕返しをと思った様子。
「おぅ、女将よ、俺たちが優しく言っているうちに大人しく所場代払った方が身のためだぜ?」
「止めてください、お店の迷惑になります」
「あぁん? どきな、この女」
そう言ってお藤の前に抱えた桶に手を入れて立ちはだかる七海。その七海へと手を伸ばした破落戸ですが‥‥。
「うぎゃぁっ!」
七海が手にした桶に入れた手を出し様にさっと破落戸へと振ると、1人の顔面へと氷の塊が直撃して昏倒します。
「この女ぁ!」
「お主ら、大人しく帰ってはくれんかのぅ?」
逆上する2人の破落戸にのそのそ出てきて言う修羅。
破落戸達はぎゃんぎゃんと喚きつつ掴みかかろうとしてひょいと修羅に蹴倒されて、顔を押さえて倒れている男を2人で引きずりつつ出て行き。
「うぉあ!?」
「すまん、見えなかった」
船宿を出て途端、ひっくり返る破落戸達。
足をかけた風斬にじろりと見られて『覚えてやがれ』とおきまりのセリフを吐いて逃げ去っていくのでした。
●可哀相な破落戸達
『たぁすけて〜』などという悲鳴と共にずりずり簀巻きで男がお藤と冒険者らしき赤毛の女性に引きずられているところに、そろそろ交代と起き出してくる者達の姿が。
話を聞いて今夜辺りと当たりをつけた陣がお藤に声をかけようとします。
「今夜辺り気を付け‥‥と、何だその男は?」
「あら、こちらは気になさらずに良いんですよぅ、おほほ‥‥」
取り繕うように笑いながら言うお藤に首を傾げる陣。
男の様子では同じくお藤に雇われた別口の冒険者達らしいことは分かるのですが、何やら微妙に不思議な状況。
「これが冒険者の仕事‥‥なのか?」
不思議そうに首を捻りつつも、陣は部屋へと戻るのでした。
夜警として屋根へと上がっていた瞳は、屋根の上に寝転がって、乾いた目つきで空を長めつつの見張りをしていました。
下の方でざっざっという複数の足音が聞こえてきて目を向けると、ぞろぞろと10人程の男達の姿が。
さっと目で合図をする、1人様子の違う浪人者。それで5人程が裏口へ回るのを確認すると、瞳は屋根の上からひょいと手にした桶を出して、そのまま破落戸達の上にひっくり返します。
「むっ!」
飛び退る浪人者と、何が起きたかも分からず頭から海水を浴びる破落戸達。
「なっ、何しやがるんでぃ!」
折角こそこそ来た意味もなく、賑やかに怒り出す破落戸に頭に手を当てて溜息と言った様子の浪人。
そんな様子を気にもせず、ひょいひょいと石を適当に投げつけて『痛い痛い』と右往左往する破落戸達に、それだけ大騒ぎもしていれば当然他の者達も気が付くわけで‥‥。
「吼えるだけが能ではないだろう?」
にやりと邪悪な笑みを浮かべた風斬がそう言って現れるのにびくりとする破落戸達に、いい加減疲れた表情を引き締める浪人。
「腕一本ぐらいは貰おうかな?」
その一言に既に引け腰の破落戸達、浪人へと振り返って指さします。
「せ、先生、お願いしやす!」
「‥‥だから先生ではないと‥‥」
言いつつ刀を抜く浪人ですが、刀を向けただけで、ほぼ同じ腕か相手の方が上と感じたのか、すと表情が真剣なものへと変わります。
「おぬしか、そこの者どちらかがこの集団の大将のようだな。どうだこの店からひいてはもらえぬか?」
そう言って浪人へと頼んだ破落戸に声をかける陣。
浪人と風斬が暫く睨み合っている中、ここぞと思ったのか、綾藤へとどやどや押し入ろうとした破落戸達は、『どぉれ‥‥』と顔を出した夕月や修羅に取り押さえられ、叩き伏せられて転がしてから、2人の勝負の観客へと移行したよう。
「う‥‥」
「わかるであろう、お主なればそこで観戦しておるなかにも強い者がそこらに居る事をな」
「うるせぇ!」
匕首で斬り掛かった男の攻撃を十手で受け流すとそれを叩き折る陣。
それでも収まりがつかないのか掴み掛かる破落戸。
「ほう、まだ諦めぬか気に入った。店の迷惑もあるんでな峰で打ち倒してやるわ。小童」
その言葉通り、破落戸は陣の一撃を食らって倒れ込むのでした。
一方同じ頃、裏口へと回った破落戸達はずかずかと中庭へと入って来ていました。
「ぐはあっ!?」
いきなり撃ち込まれた魔法、邪悪というわけではない破落戸ですが、どうやら抵抗に失敗した様子、もんどり打って倒れ込みます。
「無害な方でしたら怪我を負うはずもありませんし、万が一でも、初級ですから問題ないでしょう、幸い、回復手段もありますし」
「い、痛そうじゃん‥‥」
レーラが後ろからそう呟くと、表情を変えずに振り返り口を開く林檎。
「『丁重にお引取りいただく』、とはこういう意味ではないのですか?」
そんな2人の前に、屋根から降りてきた瞳が破落戸へと近付いていって、怪しげなへびぃ〜っぽい構え。
「シャーーッ」
「う、うわ、な、なんだ、こいつ‥‥」
言いかける破落戸に傍目からはとんと叩く程度に撃ち込まれた一撃で、そのまま言葉もなく昏倒する破落戸。
「キシャーーッ」
さぁっと血の気の引いた顔で瞳を見ると、破落戸達は必死でへこへこ勝手に降伏するのでした。
「悪人どうし、血みどろで地べたを這いずり回ろうぜ?」
玄関では風斬と浪人が睨み合っていましたが、にやりと笑って言う言葉と共に一線。
2人の一が入れ替わったかと思うと、ぐらりと身体をよろめかせて膝をつく浪人。
さっくりと入った腕の傷に、何とか無事な方の左腕を使い刀を納めると、どさりと倒れ込むのでした。
「冒険者にはもっと強い人も居るし、迷惑かけてずばっと斬られちゃったらやばいじゃん? もっと真面目に生きなきゃ〜」
お藤の好意で更生して迷惑をかけないならと許される破落戸達。
怪我を負った浪人は雇われただけと言うことも分かり、陣に根城を調べ上げられてると分かるとこれ以上続けていく気は起きなくなってしまったよう。
「オ前タチ、ゴロツキ、向イテイナイデスネ。鉱山、向イテイルデスネ」
瞳の助言を聞いて這々の体で帰っていく破落戸達は、どうやら端から見ても痛々しかったようなのでした。
●心おきなく大宴会
「なかなかのお点前‥‥」
次の日はのんびりまったりとお茶席から始まるお礼の宴でした。
お藤の点てる茶にそう言って茶碗を置くのは風斬。
その直ぐ横ではちょこんと座った林檎が他の人には分からないくらいの、微かな笑みを浮かべていたり、レーラが足が痺れたのか目を白黒させていたり。
お茶好きの修羅を十分満足させる様なお茶席が終わって程なくして、船宿自慢の料理とお酒、飲み物が運び込まれてきます。
修羅にしなだれかかり、目一杯お持てなしをする夕月に、黙々と料理を食べつつ時折小さく頷く瞳と、張り切ってはしゃぐレーラ。
船宿のお礼の宴会は賑やかに過ぎていくのでした。