旬の食材〜水無月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月30日〜07月05日

リプレイ公開日:2005年07月10日

●オープニング

「えーっと、頼まれてくれますでしょうか?」
「‥‥また料理が出来る人で?」
 30程の商人に、丁稚の少年・荘吉君が揃ってギルドを訪れたのは、まだじめっとした様子の梅雨の日のことでした。
「今回はちょっと、人に頼まれましてねぇ‥‥」
「素直に良い格好しようとして、安請け合いしちゃったのだと言ったらどうですか?」
 言いかけたところで丁稚の少年にすぱっと言われて、ざくっと何かが音を立てて突き刺さったかのような反応を見せる商人。
 隅っこでのの字を書き始めた商人を気にするでもなく、丁稚の少年は事情説明のために口を開きます。
 商人の馴染みの船宿で、とある御店のご隠居、ご隠居と親しいお茶の先生とで集まってお酒を頂いたり、料理を頂きつつ庭の花を愛で、時には賑やかに談笑してとやっていたそう。
 そして、久々にご隠居が知人から真鰺と鱸のお裾分けを頂くと言うことになったので、お茶の先生は梅を用意してくださると言うところまで話が進んだのですが‥‥。
「その船宿、事情があって今休業中で、ちょうど店の名を変えてやり直すとのことなのですが、ちょっとそう言うときはごたごたしているので、料理人を独占しちゃいけないだろうと言うことになって、そこで旦那様『それなら心当たりが』と良い格好しいで言ってしまったのですよ」
「そーぢゃないもん、冒険者さん達に頼めばいつも美味しい物が食べられるから大丈夫って思ったんだもんー」
「‥‥まぁ、そんなわけで、マアジとスズキ、それに梅を使って、何とかおもてなし料理を作る人をおねがいできませんか? もちろん、ご一緒に旬を楽しんでくださるともっと嬉しいですけど」
 ちょっぴりいじけ気味な商人を放っておいたまま、丁稚の少年は軽く首を傾げて聞くのでした。

●今回の参加者

 ea0567 本所 銕三郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2722 琴宮 茜(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8470 久凪 薙耶(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2945 神郷 志津香(37歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

巽 弥生(ea0028

●リプレイ本文

●久し振りに会う人
 小雨降る中、2人の老人が約束の刻限通りに包みを手に訪ねてきました。
「重いでしょう? お持ちしましょう」
 そう言ってご隠居から荷物を受け取ったのは山本建一(ea3891)。
 本所銕三郎(ea0567)もお茶の先生から荷物を受け取っていると、そこで出迎えたのは藍色の紬に銀糸で紫陽花の刺繍を入れた帯を締めた琴宮茜(ea2722)です。
「ようこそいらっしゃいました」
 そう言って頭を下げる茜を見て、おお、と目を細める老人2人。
「久しいですのぅ‥‥長く生きると嬉しい驚きを感じることが出来ることが増えますな」
「あのときの竹の帯も良かったですが、その紫陽花の帯も趣があって良いですな」
「覚えていましたか、嬉しいです」
 にっこりと笑ってそう言うと、茜は2人の先を案内しながら先へと進んでいきます。
「お食事の後にはお茶席の準備もさせていただきました。どうぞこちらに」
 茜の言葉に嬉しそうに頷いてついて行く老人2人。
 それを見送って山本と本所は受け取った荷を水場へと運んでいくのでした。
「真鯵と鱸でしたら、お刺身で食べたいですが、焼き物もよいですね。どうしましょうか‥‥?」
 そう首を傾げて言うのは大宗院鳴(ea1569)。
「はい、これが梅で‥‥」
「商人さん、実は今の時期、烏賊も旬物。手に入らないでしょうか?」
「‥‥烏賊、ですか?」
 神郷志津香(eb2945)が聞く言葉にそう言って厨房に梅の入った籠を置くと、ぐるりと籠とご隠居達が持ち寄った魚をあけた笊を見回してから困ったように頬を掻きます。
「えっと‥‥食べきれます?」
「そんなに沢山でなくても‥‥」
「え? あ、そ、そうですよね」
 てっきり仕入れと同じ分だけ必要になっているのと勘違いした商人は、照れ隠しに笑いつつ魚屋に声をかけに行くのでした。

●賑やかな料理場
「いい加減にしなさい、この天気! ‥‥失礼」
 じとじとと湿気を帯びた空気に、我慢できないかのように裏口からでて空に向かってぴしりと一喝したのは潤美夏(ea8214)。
 華国人の美夏は、梅雨の長雨には少々うんざり気味で、思わず文句も口をでたのでしょう。
 戻ってくると気を取り直したように水場へと戻ると、梅を手にして食事会用に梅干しを取り出した瓶から中身を出し、それを洗って代わりに下漬けをしているよう。
「こちらに梅酒の瓶と後こっちには梅酢が入っています」
「分かりましたわ、其処へ置いて置いて下さい。良かったですわね、どの実も熟していて。青梅ばかりでしたら生では食べられないのですけれど」
 荘吉が運んできた物を見てそう言いながら、美夏が手に取る梅は黄色く一部は赤く熟し、上品に香っています。熟した梅は香りも良くとても美味しいのだと美夏。
「俺は洒落た真似はできないが、捌くぐらいならできるからな」
 梅を手にしている美夏のそばでそう言いながら真鯵を捌いているのは本所。
 流石と言おうか、漁師の豪快な包丁捌きで真鰺を捌いていく本所は、その間に鍋に湯を煮立たせている様子。
 先程から久凪薙耶(ea8470)は捌いた真鰺を細かく切り、白葱・生姜をみじん切り、大葉を糸切りにした薬味を混ぜた物に味噌を加えて粘りが出る様に包丁で根気よく叩き続けています。
「新鮮なものほど、味わい深い甘みが増してとても美味なのですよね」
 大分粘りが出た物を形を整えて皿に盛りつけて完成させると、薙耶は他の人の手伝いに回ります。
「ん、良い香りだね」
 そう満足そうに茄子を焼きつつ焼いた鯵の身を解していたケイン・クロード(eb0062)が呟くと皮を剥いてちょんちょんと一口大に切り分けていきます。
 酢・醤油・出し汁と入れて味を調えてからみょうがを加えて和えるケインは、見た目も香りも食欲をそそるその出来映えににっこりと笑ってお皿に盛りつけ薬味を添えます。
「スズキと玉葱をちょうど良い大きさに‥‥」
「おい、枝豆が良い具合に煮えたようだぞ」
 ちょいちょいと包丁で切り分けて行くケインに、鱸の味噌汁を作っていた本所が声をかけ、それに慌てたようにケインが枝豆を取りに向かいます。
「『真鯵の刺身』に『鯵のたたき』迄良し、なめろうは既に作っているしこちらはもう一工夫と‥‥」
 鱸の味噌汁と作り終えた本所は、そう言って多めに作っていた真鰺のたたきを使って嘗めろうを作ると、それをひょいと大葉で包んで七輪を用意して火にかけます。
「これで『さんが焼き』の出来上がりだな」
 満足そうに頷く本所。
 本所と同じくお造りを用意した志津香は、商人に頼んで手に入れた烏賊を同じく捌くと、烏賊と真鰺、鱸の盛りつけられた皿は見た目にも美しい物。
「出来た♪」
「こちらも、梅御飯がもうそろそろ炊きあがりますわ」
 茸と梅の和え物を作り終えた美夏が、梅と昆布を使ってお吸い物を作りながらそう言います。
「大分沢山出来ましたねぇ‥‥詰め合わせておきましょうか、皆さんのお土産用に」
 そう言って準備にかかる荘吉。
 出来上がった料理を薙耶が次々に運んでいき、程なくして食事会の準備が整うのでした。

●味わい深い食事
「ほう、これはこれは何とも美味しそうな‥‥」
 そう言ってご隠居が目を細めると、箸を取って早速梅御飯の装われた茶碗を手にします。
「梅って、華国の外来種なので、神道には関係する神様がいないのですよね。でも、綺麗なので何の問題もないですね」
 鳴が微妙に言いたいことが分からない様子のことを言いながらもぐもぐと素早い箸の動きで食べ勧めていくのを尻目に、美夏が口を開きます。
「元々華国が原産のこの梅ですが、古くから青梅を燻したり乾燥させたもの‥‥烏梅、と言うものなのですが、下痢とか嘔吐とか食欲不振の治療に利用されたようですわね」
 そう言って商人の屋敷にあった梅干しを使った梅御飯を一口口にします。
「この酸っぱさがどうも体にはよいらしいですわよ? まあ、戦場の保存食として梅干の方は機能しているわけですしね」
「昔から貴族を主とした、健康の良い食べ物であったようですからね」
 美夏の言葉にそう頷いて言うお茶の先生。
 その先生の横では上機嫌で料理を食べるご隠居と商人の姿が。
「いやぁ、梅も良いが、この鱸の煮物、なかなか良いですなぁ‥‥」
「こちらの味噌汁、儂には好ましいですなぁ」
 どうやらご隠居は本所の魚の味がよく分かる料理がいたくお気に入りの様子。
 商人はケインの料理の味付けがお気に入りのようで、刺身を好む様子の荘吉は、なめろうとお造りを鳴と黙々と、そして時折頷きつつ食べています。
「済みません、その烏賊と鱸の刺身を少しこちらに頂けませんか?」
「はい、どうぞ」
「本当に済みません」
「お気になさらずに。これもの務めです」
 普段は給仕する立場の荘吉は、どうにも申し訳なさそうに少し顔を赤らめつつお刺身を取って貰っていますが、余程に気に入ったようで、御飯と共に美味しそうに、それこそ鳴に負けない程の旺盛な食欲を見せているようです。
「アツアツの飯にぶっかければ、また違った旨さを楽しめる」
「そうですね、味噌の味と良くあって何とも‥‥」
「茶漬にしても旨いぞ」
「あ、お茶ならありますよ」
 山本になめろうを薦める本所と、お茶と聞いてすと急須に手を伸ばす薙耶。
「そうでした、お茶用の菓子、ちょっと梅を使ってみたんですが‥‥」
 ふと思い出したのか、のんびりと食事を頂いている茜に荘吉がそう言って、こんな風にしてみました、と口頭で説明するとにっこり笑って頷く茜。
 歓談しつつも賑やかと言うよりは味を楽しむ、何とも言えないしみじみとしたお食事会となったようです。

●のんびりまったりお茶の席
 食事を終えて、暫くのんびりと時間を過ごした一行は、山本の手を借りて準備した、茜のお茶席へとお呼ばれです。
 上座に座るのはお茶の先生。
 これはご隠居が茜の準備したお茶席の意味を考えて気を利かせたのでしょう。末席にはご隠居が。
 席に着いたところで茜が茶道口から部屋へと入り、お茶の先生が代表して挨拶を交わします。
「美味しそうですね」
 菓子の盆が回されると、その上には砂糖で煮付けた梅と白玉の装われた小皿が人数分乗せられており、順々にそれを頂いていきます。
 鳴の言葉通り、甘過ぎず良い香りの、涼しげなお菓子です。
 菓子をお茶の先生が頂き、茜の点てたお茶をまずはその美しい茶碗で楽しみ、頂いてから、それぞれにお茶が振る舞われるのですが‥‥。
 お茶より菓子とばかりに荘吉にお代わりを持ってきて貰って沢山食べる鳴に、振る舞われたお茶に、どこかどきどきした面持ちでお茶碗を手にするケイン。
「『お茶』は飲んだことがないので楽しみなんですよ」
 そう言って見よう見まねで茶碗を回してお茶を飲むと、にこやかな表情のままに固まるケイン。ぐっと飲み干して、のんびりと食べていた白玉と梅の砂糖煮へと逃げたようです。
 ご隠居と美夏の、魚を娘の嫁ぎ先ヨリいただいたという会話に加わり、専ら聞き役に回っているのは志津香。
 それぞれ思い思いのお茶を楽しむ横で、優しい微笑みを浮かべて茜へと声をかけるお茶の先生。
「この1年で成長なさいましたね。お茶も、その心遣いも‥‥」
 そう嬉しそうに言うお茶の先生。
 1年ほど前に自身の代わりに茶を点てた茜を思い出してか、まるで孫を見る老人の様な優しい声。
「結構なお点前でした」
 すと頭を下げるお茶の先生に、茜は花がほころんだかのような笑顔を零すのでした。