脅の投げ文

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月09日〜07月14日

リプレイ公開日:2005年07月19日

●オープニング

「実は、この手紙を見ていただきたいのだが‥‥」
 そう言って60過ぎた細身の老僕を従えた、品の良い40ほどの男性がギルドを訪れたのは、少々肌寒い朝のことでした。
 男性は印判師で元々武家の出らしく、立ち居振る舞いに隙がありません。
 老僕を気遣うように、後ろで控えていた老僕へと座るように促してから、印判師はつと薄汚れてぼろぼろの手紙を差し出します。
「手紙、ですか?」
 そう言って手紙を開いて読むギルドの受付。
『あなたさま むかし人にはいへなしごとしてたの おれしてる
かたぎの女ぼうもらったあなたさま 女ぼうになにかあつては大へん
おれいいたいこと あなたさまわかるはず
十かごの夕こく なめちょうもつて あなたさまいえちかく
とうげのちゃやまで
ないとはおもうが やく人うごいたら女ぼう死ね』
「‥‥えらく物騒な内容に上に、最後は死ぬと書きたかったんでしょうねぇ‥‥」
「心当たりはないゆえ文を投げ込む先を間違えたのであろうが、人の命がかかってる様子なのが気にかかってな‥‥」
 読み終えた受付の青年がそう言うのに印判師は眉を寄せてそう言うとちらりと受付の青年へと目を向けて口を開きます。
「他人の過去を暴くような真似をするのは心苦しいのだが、この手紙が悪戯でなければ取り返しがつかないことに成りかねん」
「確かに‥‥」
「そこで、頼みたいのだが‥‥」
 そう言って印判師はすと紙に包んだ金子を差しだし頭を下げます。
「本当の受取人と、出来ればこの手紙にあるお内儀を助けること、何とか頼めぬだろうか?」

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5557 志乃守 乱雪(39歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7123 安積 直衡(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8483 望月 滴(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

環 連十郎(ea3363)/ 白井 鈴(ea4026

●リプレイ本文

●印判師
「聞いたぞ‥‥また巻き込まれたようだな」
「こ、これはその節は本当に‥‥」
 氷雨雹刃(ea7901)が印判師と老僕へ声をかけると、老僕は頭を下げ、印判師もその顔に笑みを浮かべてすと頭を下げます。
「いや、面目もなく‥‥申し訳ないが、なにとぞよろしく‥‥」
「まあ‥‥任せておけ。これも何かの縁だ‥‥」
 印判師に事も無げに言う氷雨。
「『なめちょう』は盗人用語。恐らく彼の過去は盗賊団の嘗役‥‥」
「松浦の言う‥‥なんだ? そうそう、『嘗役』‥‥だったっけか?」
「ええ、諸国の町や村を巡り歩き、おつとめをするのに適当な商家や民家を探しまわる役目と聞き及んでいます。場合によってはどこかに所属したりせずに、調べた図面などを売っている場合もあるでしょうが‥‥」
 首をひねる秋村朱漸(ea3513)に松浦誉(ea5908)が嘗役の説明をすると、しばし考え込む秋村。
「投げ文の相手であると思われる‥‥3名にどのような経緯があるのかわかりませんが、お仲間との間で諍いでもあったのか、それとも悪行を改めてお過ごしであるのか‥‥まずはこの3名とご内儀のご様子をそれとなく伺った方がよろしいですね」
 望月滴(ea8483)が少し考えるようにしながら言うと、考え込んでいた秋村が口を開きます。
「話からすりゃあよ、本命は浪人の何とかってヤツなんだろうが‥‥な〜〜んか違う気すんだよなァ」
「どうしてそう思われるのです?」
「なんつーかアレよ‥‥勘だ、勘。俺的にゃあ‥‥本命に按摩、対抗で浪人、穴で大工‥‥ってとこか。どうでぇ? 賭けるか?」
 そこまで言って、じろりと冷たい目で見られて首を竦める秋村。
「まずは誰が当事者なのかっていうのを調べるトコからだな。俺は浪人の日義達之助んトコに行ってくるか」
「私は又七さんの処へ伺います‥‥あら、又八さんでしたっけ」
 リフィーティア・レリス(ea4927)が言うのに、志乃守乱雪(ea5557)も立ち上がって首を傾げつつ出かけていくのでした。

●大工・浪人
 瀬戸喪(ea0443)は印判師の家に程近い長屋で日義達之助について聞いて回っていました。
「至って良い浪人さんだよぉ、子供達が好きなようで‥‥」
「昔は腕の良いお侍さんだったって聞くけどねぇ」
「お侍さん?」
 昔の話を言い出したので不自然にならない程度に首を傾げて喪が聞くと、井戸端会議のおばちゃん方は頷いてぶんぶんと手を振りながら、日義が優しく、また非常にのんびりしていた性格の為に禄を返して浪人へとなったそうと話します。
「最近そこの家で変わったこととかあるか?」
 同じ頃、リフィーティアも日義の住む長屋裏で聞き込みをしていました。
「あそこの御新造さんと旦那さんねぇ、風邪を引いたらしくて‥‥」
「風邪?」
「えぇ。なんで、あたしらみたいな町人でも気さくに付き合ってくれる方だから、こういう時はと入れ替わりで身体に良い物とか、精の付く物を運んでいってあげてるんだよぉ」
「ちゃんと2人とも中に?」
「あぁ、御新造さんの方が熱が酷くてねぇ、お薬とか着替えとか、あたしらが手を貸してやってるよ。それがどうかしたかい?」
「いや、何でもない。2人とも早く良くなると良いな」
 礼を言ってその場を立ち去るリフィーティア。
 表で聞き込んでいた喪は、直接日義の元を訪れ、その御新造と共に風邪で寝込んでいるのを直接確認するのでした。
 大工の又七の元へと訪れたのは乱雪。乱雪が又七の長屋へとやって来て話を聞くと、井戸周りで選択をしながら話していたおかみさん連中が笑いを噛み殺して口を開きます。
「どうなされたのです?」
「いえねぇ、又七さんとこは端から見ても偉く仲の良い夫婦なんだけどさぁ」
「どっちも気性が激しくてねぇ‥‥」
 そう言ってくすくすと笑いを零す尾長屋のおかみさん方。
「気性が、激しい‥‥?」
「そうそう、売り言葉に買い言葉で、しょっちゅう『出て行け!』『こんなとこ、こっちから願い下げだよ!』なんてね」
「では、今又七さんの御内儀は‥‥?」
「実家の呉服屋で、又七さんが折れて迎えにくるのを待ってるよ」
 それを聞いてから又七の家へと訪ねていく乱雪。
「実は最近、最近お姿を見かけないのと、印判師の旦那さんが気にかけておられます」
「あ‥‥こりゃ面目ねぇ、いっつもうちのと遊びに行っては良くして貰ってるってぇのに‥‥その、見ての通り、ちと実家に戻っていまして‥‥」
 そう言って頭を掻く又七。
 どうやら又七の話では実家に戻った御内儀を昨日も話して喧嘩して戻ってきたそうで、こちらもちゃんと実家にいることが分かるのでした。

●按摩の葦の市
 松浦と滴が按摩・葦の市の家へと訪ねた時、なにやら家の様子がとても暗いことが分かります。
「腕のいい按摩師が居ると伺ったのですが、このあたりにお住まいではありませんか」
 滴が近くのおかみさんを捕まえて聞くと、すぐに家を教えて貰えますが、どうにもここ数日外に出てこないので心配しているとか。
「後ろめたい思いをして足を洗った奴が、今も尚、引き摺るように商家の人間と関わりを持つだろうか?」
 2人が訪ねてきたのとほぼ同じ頃、氷雨はそう呟くように言うと長屋へと忍び込んでいました。
「まずそうした連中とは距離を置こうとするのが普通だろうに。それともうひとつ‥‥何故、印判師の店にこれが投げ込まれていたのか‥‥だ。これはどう考えても碌な奴が書いた物ではない」
 もし葦の市が本当に目が見えなければという可能性を考えつつ中を覗くと、部屋の中でぽつんと座り込む丸い身体の按摩の姿が。
 ただ、普段と違うのは、呆然とした様子で目を開けてうなだれていることです。
「ごめんください」
 外から松浦が声をかけても、しょんぼりとした様子で項垂れたままですが、そっと戸を開けて覗き込む松浦と滴に目をつむって盲人を装いつつ口を開きます。
「誰だぇ‥‥まぁ、いい、お上がりなさいな」
 そう言う葦の市に中へと入ると、痩せてやつれた様子の葦の市と対面です。
「実は、御内儀のことで‥‥」
 話を聞いた様子から推察し、おそらく葦の市こそがと思い極めた滴と松浦が投げ文の話をすると、弾かれたように顔を上げる葦の市。
「おしのは拐かされたと!?」
 盲人のふりをするのも忘れて見る葦の市は、手紙のことを聞き終えると嗚咽を漏らしつつ自身の話を始めました。
 葦の市は元々一人で図面などをつけて売っていたのですが、とある大盗の人柄に惚れ込み嘗役として暫く暮らしていたそうです。
 ですが5年程前、茶汲み女のおしのと知り合い、おしのに堅気として生きるなら一緒に、と言われ、頭に許しを得て堅気になったそう。
「わっしは、おしのがいつまでも按摩の女房でいるのが辛くなったかと、置いて行かれたのではと思っておったのですが‥‥昔のことのせいで‥‥」
 そう言って顔を覆う葦の市。
「嘗帳は‥‥?」
「堅気になったときに焼き捨ててしまいまして‥‥わっしの頭の中のも、もうだいぶ忘れてしまい‥‥」
「‥‥悪事を見過ごす事も出来ません。是非、ご内儀をお助けしましょう」
「ほ、本当ですか!? な、なにとぞ、おしのさえ無事ならわっしは‥‥」
 そう言って滴を拝むようにして、何度も何度も葦の市は頭を下げるのでした。

●元嘗役の女房
 茶屋にいた浪人が6人に、一人町人らしき男が混じっているというのを前もって白井鈴から聞いて、秋村は茶屋へとやって来ていました。
「おうおう‥‥どいつもこいつも‥‥悪党でございってツラしてやがら。コイツは‥‥間違いねぇ」
 そう口の中で小さく呟くと、茶屋の娘に酒のお代わりを頼んでいた秋村は、茶屋の娘が浪人達を嫌って、それでいて何も言えない様子なのを見て取ります。
「ぁ‥‥あの‥‥」
「おら、さっさとこっちに持ってこい!」
 消え入りそうな声で酒のお代わりを置こうとしつつ言いかける娘ですが、浪人に叱りつけられて涙目で奥へと戻ります。
 やがて出てきた娘がなにやら包みを浪人の1人に渡すと、その男がふらりと外へと出て行き、やがて戻ってきます。
 印判師の家に再び集まった一同は、氷雨から浪人が包みを持って行った先には廃寺があり、そこにおしのとそれを見張る浪人が居ると報告を受け顔を見合わせます。
「俺は、『女』を助ける事を第一に動くつもりだ」
「アン? 狙われた女房殿を救いましょうってか‥‥? ハッ!? 兄ィだけにカッコつけさせてたまるかよ‥‥」
 にやりと笑う秋村。
 一同は葦の市の御内儀を2人に任せて茶屋へと向かいました。
 茶屋近くの廃寺で、浪人が2人だらだらと話をしています。
「嘗帳が手には入れば万金はくだらないそうだな」
「で、この女は?」
「顔を見られてる、どちらにしろ、あの茶屋の2人共々消えて貰おう」
「そいつぁ無理な相談だぜぇ‥‥」
 声に気が付き刀を抜く2人の男にずいと一気に間合いを詰める秋村。
「ぐっ!?」
 霞刀で自身の刀を押さえられたと思うと、喉元へと強烈な一撃を打ち込まれて呻く浪人に、もう一人は身を翻して廃寺の戸を開けて中の女房をと手を伸ばし。
「ぐぇっ!」
 顔面へと一撃を受け、床へと倒れ込むもう一人の浪人。
 先に廃寺内へと入り込んで御内儀の安否を確認した氷雨に迎え撃たれた形で落とされてしまったのでした。
「あ、ありがとう、ございました‥‥」
 痩せて弱っているものの、何とかそう礼を述べるおしのは、見たところ気性の優しそうな大人しそうな女性です。
「あ、あの、うちの人は‥‥無事、でしょうか‥‥?」
 そう聞くおしのにただ頷いてみせるだけの氷雨。その横で秋村が倒れた男達をけたぐりつつ縛り上げているのでした。
 一方茶屋では、客としてバラバラに入り込む一同の姿が。
 暫くしてひょこひょことやってくる葦の市を待ち構える浪人たち。
「お、おしのは何処だっ!?」
 そうくってかかる葦の市ですが、にやにや手を差し出す町人らしき男。
「おしのを出すまではわたさねぇ!」
「ならお前を斬って奪うまでだぁな」
 そう言って浪人へと目配せする町人に、刀を向く浪人ですが、ずいと乱雪が葦の市の前に立ちはだかって守ります。
「邪魔するなっ!」
 そう言って刀を向ける浪人は、すぐに横合いから喪に斬りつけられ、乱雪と葦の市に斬りつける男には松浦が割って入ります。
 リフィーティアが小柄で斬りつけるのを斬り返す浪人もいたりして、茶屋前は直ちに乱闘に。
 人数の不利などで負う手傷は、滴が駆け寄りその傷を癒すことで何とか五分の状況を保っていましたが、おしのを助け出した氷雨と秋村が駆けつけることで状況は一気に逆転するのでした。
 松浦が、茶屋の親子が呼んだ役人に『人攫い』として浪人達を突き出すと、葦の市は半ば自身も捕らえられるのを覚悟していたようですが、役人達は浪人と町人を捕らえて引き立てるだけで立ち去っていくのでした。

●ひっそりと片隅で‥‥
「なんにしても良かった良かった‥‥」
 そう言って茶と菓子で持てなすのは印判師。
 おしのが無事に戻ってきて、葦の市とおしのは暫く療養に専念するそうですが、最悪の事態は免れたよう。
「茶屋の老人と娘からも礼を伝えられた。本当に感謝いたす」
 そう言って一同に頭を下げる印判師は、茶屋の2人も全て終わったときに片づけるつもりであったと言うことが取り調べで分かったそうだと聞いてそれも含めて感謝しているそう。
「しっかし、あいつら本当にしけてやがったぜ‥‥」
 財布を抜き出したは良い物の、子供のお駄賃にもならないものだった秋村はちょっと不満げに言いますが、それを氷雨にじろりと見られてやはり肩をすくめます。
「葦の市さんもおしのさんも、これからも2人でひっそりと、助け合っていくと、それはもう涙を流して礼を申しておりましたよ」
 印判師の老僕が自分のことのように目元を潤ませながらそう言って、2人に代わって改めて礼を言うのでした。