【船宿綾藤・新装開店】奇妙な舟泥棒

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月30日〜08月04日

リプレイ公開日:2005年08月06日

●オープニング

「ええっと、で、例の護衛って言うのは?」
「いえ、護衛って言うか‥‥」
 何と言っていいか分からないような表情でそっと首筋に手拭いを当てながら考える様子を見せるのは、船宿綾藤の女将・お藤です。
 先程から受付の青年と、暑さのためかのんべんだらりと風に当たりつつ世間話に興じていたお藤に、受付は、漸くやる気が起きないながらもお仕事をやる気になったよう。
「ここのところ、ちょくちょく舟が勝手に使われるんですよねぇ‥‥」
「えっと、それでその舟は‥‥」
「返ってきますよぅ。そうでなければお上に訴えてますって」
 扇でぱたぱたと受付を扇いでやりながら笑うお藤に、それもそうですね、と頭を掻く受付。
「じゃあ、その舟を誰が勝手に使っているかとかを調べるのが?」
「ええ、悪いことに使われてたんじゃあ堪ったものではないですしねぇ‥‥いる間に、後はおかしな事がないかだけ見ていていただければ、あとはゆっくりと寛いでいただいて結構ですし」
「まぁ、ついでに護衛っぽくいてくれれば?」
「ええ、そう言う人がギルドから来ているって言うだけで、牽制には十分ありますからねぇ」
 そう笑って言うお藤に頷きながら依頼を確認する受付は、改めて依頼を確認するのでした。

●今回の参加者

 ea1585 リル・リル(17歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9700 楠木 礼子(40歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

フィン・リル(ea9164

●リプレイ本文

●綾藤にて
「船宿綾藤、いい名前ネ」
 羽鈴(ea8531)の言葉に、女将であるお藤は嬉しそうに笑って礼を言います。
「確か船宿といえばお抱えの船頭さんや太鼓持ちがいたりして、客さんと夜の川遊びや客の移動の足にもなったりすると記憶してたりするネ?」
「そうですね、そう言う商売をさせて頂き、快適に過ごしていただけるようにと‥‥」
「私は湯屋『鈴風』を営業してるネ。良かったら商売のこつを教えて貰いたいネ」
 綺麗に装いを変えた羽鈴と楽しそうに商売の話に花を咲かせていたりします。
「なんだってこうクソ暑いんだろなぁ? 夏ってぇのはよぉ‥‥」
 綾藤の看板娘、お燕に冷たい物を一杯持って来させつつぼやくのは秋村朱漸(ea3513)。
「護衛はいい。下手に警戒されると尻尾が掴み辛くなる。それに‥‥」
 お藤にそう話かけるのは氷雨雹刃(ea7901)。氷雨はちらりと秋村の方へと目を向けるとお藤へと再び目を戻して軽く顎でしゃくります。
「ああいう奴を置いてみろ‥‥船泥棒どころか、客が飛ぶ」
「は、はぁ‥‥」
 お燕を相手にぐでぐでと絡んでいる、様に見える秋村に、何となく納得したように頷くお藤。
「‥‥犯人は悪い人じゃないみたいですね」
 そんなことを言いながらのんびりとやってきたのは神田雄司(ea6476)。神田はお藤と目が合うとにはっと笑って口を開きます。
「とりあえずは新装開店おめでとうございます」
「これはご丁寧に、有難うございます」
「勝手に船を使われるのは気分がよくないですねえ、書置きだけでもしていけば良いのに」
「まったくですよねぇ‥‥」
 腕を組んでうんうんと頷きながら言う神田に、お藤の頬に手を当ててほぅっと溜息をつきます。
「ま、使う理由さえわかればいいという女将の考えもご立派です」
「ま、そんな‥‥」
「ところで、小柄でぽっちゃりの50男はご存知ですか?」
 神田の流れるような言葉に、ふと、考え込んで思い出そうとするお藤なのでした。

●武士? 町人?
 さて、情報収集に出たのは秋村に氷雨、それに舟で出かけた羽鈴。
 まずは秋村と氷雨です。
「その時に見た武士の人相や身形など、覚えている範囲で聞きたい」
「は、はぁ‥‥そうですね、実は、どっかで見たことあるような気がするんですよ‥‥と言っても、私が品を納めている店じゃなく、だったんですが‥‥」
 そう言って首を捻る細工師。暫く比較的かっちりとした体型に少しふっくらとした顔つきの、なかなか堂々とした30半ばの男だったとまで話してから、はっとしたように顔を上げる細工師の若者。
「そうです、あれは呉服屋の御店で見かけたんでした。一度納品しに言ったときに、お得意様の1人として紹介されて‥‥その御店の御主人で、武士と町人じゃあぴんと来ないんで、何となく思い出せなく‥‥」
「ハァ? 町人だァ? おい、アンタ‥‥嘘言っちゃあいねえだろうなァ?」
「え、ええっ!? う、嘘なんざついてませんって! 私は正直者で通って居るんです!」
 言いかけた言葉を秋村に凄まれて遮られた細工師は慌てたように、滅相もないとばかりに首をぶんぶん振ります。
「ええ、そうです、立派なご主人が、偉く金遣いが荒くて我が儘できつそうな奥さんに散々罵られてる所を見たんです、ありゃ間違いないですよ」
 記憶がはっきりしたのかきっぱりと断言する細工師なのでした。
 舟に揺られてやって来たのはお藤の紹介した船宿。そこの主は話を聞いて、はたと思い当たることがあったよう。
「そういえば、亥兵衛さんが夜中に船を漕いでいたようだって言う話は聞きましたよ。いえ、お一人で。こう、まん丸い顔の50ばかりの‥‥」
 羽鈴の様子に心なしか嬉しそうに目を細めつつ話す主。亥兵衛は綾藤から舟で乗り付けて、この宿から出かけることが何度かあったそうで、その時には舟を預かったことがあるそう。
「身のこなしもなかなかで、器用に服装などを変えて別人のようにして出かけていったこともあるんですよ」
 そう鼻の下を伸ばし気味な主から礼を言って舟に乗り込む羽鈴は、『美人に口は軽くなるネ?』と悪戯っぽく笑うのでした。
「馬鹿馬鹿しい動機から始まったお芝居が、おおごとになりかけている‥‥という気がするわね」
 小さく呟くように楠木礼子(ea9700)が言うのに、お藤は酒で満たした瓢箪を渡しながら首を傾げます。
「お芝居?」
「ええ、私はそう思うの。まだぎりぎり笑い話ですむ状況だと思うから、穏便にすませられるよう頑張ってみましょう」
 既に辺りは薄暗く、夜の闇に包まれ始めています。
 瓢箪を手に笑いながらそう言って出かけていく礼子に、宜しくお願いします、と頭を下げて送り出すお藤。
「お藤、先程の話は‥‥」
「はい、先程のご指示通り、舟の警備もいつも通りにしております」
 お膳をお藤自ら運びやって来たのは、客を装って滞在している聰暁竜(eb2413)の部屋です。
 お藤は先に警備をいつも通りにしておくようにと言う暁竜の通りに船頭達に伝えて手配したことを報告しに来たよう。
「今までの流れから考えて、件の犯人は再び、船を無断で使用し、また元に戻すという行動を取る可能性が極めて高い」
 そう言う暁竜の言葉に頷くと、お藤は口を開きます。
「あと、先程ですが、いつも使われる50程のお客様がいらっしゃいましてねぇ‥‥」
「様子は?」
「本日はお泊まりで、朝になるまで1人でしんみりと酒を飲んで休みたいとおっしゃいまして、明日、昼になるまで起こしに来るなと」
「それはいつものことなのか?」
「‥‥そうですねぇ‥‥お泊まりはいつものことなのですが、ここのところはよくそう言ってご案内するお部屋に、お酒を運び込んで籠もってしまうことが多くなりましたねぇ」
 そうお藤が言うのに頷くと、暁竜は亥兵衛の様子を窺いにすっと立ち上がるのでした。

●舟の行く先
「船宿綾藤にいた小柄でぽっちゃりの50男はご存知かな? 確か、亥兵衛、とか‥‥」
 そう酒場で酒を飲みつついつもの仲間と話していた神田に、聞かれた男は軽く首を傾げて男の特徴を聞きますが、あぁ、と頷いて口を開きます。
「猿の亥兵衛かぁ、あのおっさん、変わってンだろ。あれで、かなり昔は盗賊だったとかで、今じゃすっかり足を洗ってどっかの御店のご隠居の頼まれ事なんざして、悠々暮らしてるようだけどな」
 前に倉破りを余興でやったりとかと言う話を聞いたことがある、と離す男になるほどと頷く神田。
「ところで、にぃさん仕事はいいのか?」
「いいの、いいの。夜の見張りはちゃんとした方がしてるから。ところで、最近夜に船を使っている噂とかは?」
「あぁ、なんでもどっかの御店の主を乗っけてたのを見たことあるけど、それがどうした?」
「それ、どんな様子でした?」
 杯をくいっと傾けながら、あくまでのんびりとした口調で神田は男に聞くのでした。
「船泥棒さん、お船勝手に使ってなにしてるんだろうね〜?」
 妹のフィン・リルからどの辺りで舟が見られたかを聞いていたリル・リル(ea1585)は、同じく隠れながら舟を見張っていた白井鈴(ea4026)に小声で聞くと、ちょこんと首を傾げて、わかんないと答える鈴。
「でも、なんか聞いたことあるような気がするんだよね、そのおじさんの名前‥‥」
「ましらのいへえ、だったっけ?」
「うん」
 その名前を聞いた辺りから、鈴はその名に聞き覚えがある気がして気になっているよう。
「来た‥‥」
 何やら包みを手に身のこなしも軽く舟へと近付くと、音もなく一艘の船を漕ぎ出し、舟は闇の中を滑り出していきます。
「ぁ‥‥」
 擦れた声を漏らす鈴。船を漕ぎ出した猿の亥兵衛は、鈴は過去に依頼人としてあったことがあるのです。
 リルと鈴が追跡を始めると、程なく神社側の船着き場から1人の町人が乗り込んで亥兵衛から包みを受け取ると、ごそごそと着替えを始め、その間に亥兵衛が舟を船宿の近くへと戻し、近くの河原で男の髷を直してやるときょろきょろと辺りを見渡します。
「旦那さん、ほんとにお気をつけなさいな。もう一回、もう一回とズルズル続けてしまっているが、危ないことなんですよ‥‥」
「分かっているが、もう少しだけ、な‥‥」
 そう言って何やら軽そうな刀を渡して見送ってから、舟の上で溜息をつく亥兵衛。それに反して降りて楽しそうに歩いていく男は、いつのまにやらすっかり武士の姿に入れ替わっています。
 すっかりと辺りが暗くなった中で、瓢箪を手にのんびりと歩いている礼子の視界に、河原からやってくる武士の姿があります。
「良い夜ですね。あなたも月に誘われたのですか?」
「うむ、この様な夜は家にいるのは味気ない」
 そう答える武士の立派な体躯に堂々とした風貌。
 確かに、それだけ見れば立派な武士と見えるのですが、礼子は武士が恐らく刀は扱えないだろうと言うことをその立ち居振る舞いから見て取ります。
 話した様子では機転も利きそうで教養も高いことは分かりますが、それが武士の者かというと、むしろ商人のもののよう。
「そういえば、最近武士の振りをしようとする者がたまに出るという話ですね。まぁ、悪気はないのでしょうけど‥‥」
 小さく男が身体を震わせたのを目ざとく見た礼子はちょんと手で首を切る仕草をしつつ微苦笑を浮かべます。
「ばれるとこれでしょうから、ばれる前に止めて欲しいものですね」
「う‥‥む、そうだな。某先を急ぐので、御免」
 取り繕ったようにそう言って歩き去る男を見送ってから、礼子は軽く瓢箪を揺らしつつ船宿へと戻っていくのでした。

●一件落着?
 3日後、のんびりと船宿で休みつつ亥兵衛と、細工師から聞いた御店の様子を窺っていると、亥兵衛がその御店へと寄って暫くして、そのまま綾藤へとやって来ます。
 暁竜が様子を窺っていると、冴えない顔色で溜息なじりなのを見ても、気が進まない舟泥棒をこの日も行うつもりであることが分かります。
 一同は、亥兵衛が舟を出したのを見計らってから、例の河原で待ち構えます。
 やがて、礼子が人相書きを作って貰った、例の武士を装う男を乗せた亥兵衛が河原へと舟をこぎ着けるのに、さっと取り囲み、舟を出させないように押さえる一同。
「おやおやァ〜? こんな夜更けにぃ‥‥なにやってんだい? アンタら? って、痛ぇな、雹兄ぃ!」
「‥‥調べさせて貰ったぞ。洗い浚い全て‥‥な」
 早速やる気満々の秋村を、ぎっと抓って黙らせ言う氷雨の言葉に真っ青になる偽武士と溜息をついてどっかりと腰を下ろす亥兵衛。
「だからいったじゃないですか、旦那さん、これ以上は危険ですよって」
「亥兵衛さん! 黙って人の物使っちゃったらいけないんだから。黙って使うのは悪いことだし、それでもし悪いことに使ってたらもっと大変なんだから」
「そうそう『故郷のおふくろさんが泣いてるぜ〜』だよ」
 鈴が声をかけるのにリルもそう言いますと、ぎょっとしたように見て亥兵衛は肩を落として事情を説明します。
 どうやらこの偽武士はとある御店の旦那で、婿養子のため、一人娘で我が儘に育てられた奥方に煮え湯を飲まされ通しだそう。
 見かねて何か気分転換をと、とある商人経由で引き合わせられた亥兵衛はちょっと身軽な格好になって街に出かけてみてはどうかと勧め、お小遣いを幾つかやったそうなのです。
 身軽な遊び人で開放感を味わった男は、身分的にも手が届かない武家になってみたい、と思い駄々を捏ね、一回だけと言う約束でやらせたところ、疎まれて暮らしている御店と違い、他の者が頭を下げてくれたり丁重に扱ってくれるのにすっかりのめり込んでしまったよう。
「悪いことに使うんじゃなかったら最初っからちゃんと理由を説明すればいいのにね。何でそういうふうにできないのかな? 人に言えないようなことは悪いコトしてるって思われても仕方ないんだから」
「もし万が一家のに知れてはと思うと‥‥」
 奥さんにどこかからか話が行けばどんな目に遭うか、としょげて言う男に口を開く氷雨。
「‥‥女将に会って来い。悪い様にはならん」
「お得意さん相手ネ理由があれば融通聞くネ」
 くすくすと笑って羽鈴が言う言葉に顔を上げる男。
「事情があるなら、舟を使わせることに異存はないと、お藤はいっていたぞ‥‥」
 暁竜が言うと、礼子も小さく首を傾げて言葉を続けます。
「武士に化けるのは、何かあったら大変ですからもうやめた方が良いとは思いますけどね」
 一同に連れられ、綾藤へと向かう男と亥兵衛をのんびりと眺めていた神田は、ふと立ち止まり小さく笑います。
「おや? 鈴虫が‥‥」
 そう呟いてから、神田は一行の後をのんびりと歩いてゆくのでした。