旬の食材〜文月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月31日〜08月05日

リプレイ公開日:2005年08月09日

●オープニング

「毎日暑い日が続きますね‥‥」
 汗だくの顔を手拭いで拭いながら、表情を特に変えずにそんな風に言うのは、商人といつもやってくる丁稚の少年・荘吉です。
 荘吉がやって来たのは夏の暑い盛り、じりじりと太陽が照りつけるお昼時の事でした。
 今日は商人の姿はなく、荘吉1人でやって来たようで、ギルドの受付をしている青年は冷やした白玉を出してやりつつ、それとなく聞いてみることにしたようです。
「ええっと、いつも一緒の旦那さんは?」
「‥‥‥実はそのことで伺ったんですが‥‥」
 よく冷えた白玉を暫く黙々と頬張っていた荘吉ですが、聞かれた言葉にゴクンと飲み込んでから小さく溜息をつきます。
「‥‥今回も、ちょっと料理を作ってくれたりする方を頼みたいんですよ」
「えっと、君の所の旦那さんに関わる話しで、料理?」
「まどろっこしいのはここでは必要無いでしょうし、有り体に言いますと、うちの旦那様は暑気中りを起こしたようで、食欲がわかないとのこと」
「あー‥‥旦那様に食べやすいものを食べさせるために、かぁ」
「違います」
 しみじみ頷く受付の青年ですが、思いもかけずに荘吉は首を振ってきっぱりと否定します。
「食べやすいものを食べさせたところで暑気中りが良くなるとも思えませんし、あれは気持ちが暑さに負けているからです。なので、問答無用で旦那様が食べたくなるようなものを沢山つくって見せつけて欲しいんです」
「‥‥‥‥‥は?」
「幸いなことに、知人が穴子をたっぷり融通してくれ、また、使用人として通い出来てくれる方のご実家から桃など如何かと送られてきて、それを良く冷やしている最中ですし‥‥あと、必要な材料は、買い出しをして貰えればこちらで出しましょう」
「あ、いえ、そうじゃなく、見せつける‥‥?」
「旦那様のことです、美味しそうな料理を目の前で頂いていれば、食欲がないだ暑さで動けないだとごねるのもやめて起きだしてくるでしょうから」
「‥‥」
「ということで、依頼の方、宜しく願いします」
 そう言って頭を下げると、改めて白玉を口にして微かに笑みを浮かべる荘吉を、暫し受付の青年は呆然と見つめているのでした。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0248 郭 梅花(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3558 緋村 新之助(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●うだる人達
「あー、暑さでまいってる旦那さんが食いたくなるようなものを作れってか‥‥」
 ぐでっと伸びている商人の部屋に行って、そこで頷くのは龍深城我斬(ea0031)。
「‥‥確かに最近暑いからなあ、鍛冶工房なんて地獄だよもう、こういう時に限って刀打ってくれって人多いし‥‥俺もだらけたい」
 そう苦笑混じりに零す我斬に、でろんと伸びた商人は同意してくれて有難うとばかりに我斬を見ます。
 と、すたすたと歩いてくる足音に2人が部屋の障子へと目を向けると、そこに障子を勢いよく開けて入ってくるのはデュラン・ハイアット(ea0042)。
「フッ‥‥。夏の暑さなど、この私の力で‥‥れ‥‥アヅ〜ゥ‥‥」
 ふっと笑って言いかけ、そのままばたりと畳に倒れ込むデュラン。
「お、おい、大丈夫か?」
 我斬が慌てて歩み寄ると、そこにはしっかりとマントを身につけだらだらと汗を流して顔色も少々危険な物に成っています。
『へんじがない、ただのなつバテのようだ』
「‥‥おーい、誰か冷たい水持ってきてやってくれないかー?」
 そんなことをやっている余裕はあるのでしょうが、流石にこの顔色は危険、早急に水が必要と感じた我斬が言うと、荘吉が少しお塩を入れたお水を運んでやって来ます。
「そのマントを外せば、まだマシなんだろうがなぁ」
「りょ‥‥料理は任せたぞ。それより、み‥‥水をくれ」
 だくだくと汗を流しているデュランには塩の入った水が一番。
 結局、商人が溶けている部屋にお客様用のお布団が用意されます。
 布団の上ででろでろ溶けつつ、ディランは手伝いに行く我斬を見送りのでした。
 「荘吉殿はホントに商人殿を思っているのだな。お互い思いやれる主従関係‥‥いいな、ちょっと羨ましい」
 菊川響(ea0639)がそう言って馬を引いて買い出しの準備をしていると、建物を見上げて商人の店を見上げる緋村新之助(ea3558)の姿が。
 「ここが私の夏バテを治してくれる食の都か‥‥ごくり」
 ちょっと違う気がしなくもないですが、この暑さで脳がでろりと溶けかかっているらしく、その目は真剣です。
「はい、お二方、とりあえず当座はこちらで‥‥後は、足りなければあの市なら大抵はつけ払いで可能ですから」
 思った以上に渡されてずっしりと重いお財布を受け取ると、2人は並んで市へと足を向けます。
 先程商人にお祭りの話をすると、何やらぴくりと反応があったなぁと思い出して市へと行くと、材料を集め始めてはたと止まる菊川。
「ん、どうした?」
「‥‥このレモンって‥‥あれ、だなよなぁ?」
 緋村が菊川に聞くのにそう言ってとある一角を差すと、月道渡りの珍しい物が有る中で、レモンも確かにあるのですが、店主にその値段を聞いて固まる2人。
 ぎりぎり手持ちで何とか一個分のお金は足りほっと一安心、すっかりとお財布の中身を使い果たして、他にもつけで幾つか買い込む2人なのでした。

●穴子
「商人だと言いますのに意外と根性が無いのですわね? まあ、それで仕事がもらえるのならよいのですが」
 商人を言葉でさっくりと斬ってから、潤美夏(ea8214)は厨房に行き、食材とにらめっこを始めます。
「‥‥しかし、ジャパンの夏は鬱陶しいぐらい暑いですわね」
「あはは、本当に暑くて、厨房は凄いことになっているね」
 美夏が打ち水をしに手桶と柄杓を手に入口へと向かうと、ケイン・クロード(eb0062)は笑いながらそう言って、厨房へと風が通る用に換気をしています。
「ジャパンのこの暑さは‥‥どこからくるので?」
「まぁ、夏だからねぇ」
 そんなことを言いながら穴子を調理始める2人。
  煎った煮干と胡麻と味噌を当てたものを炙りつつ、穴子の焼け具合を確認している美夏。その横ではケインが穴子を背開きにして、鍋に入る大きさにとちょんちょんと切っていきます。
「こちら、そろそろ宜しいようですわよ」
「あ、はい‥‥麦飯の方も大丈夫ですよ」
 互いに確認をとって料理していく様を見ながら、緋村は作る物を聞いてお品書きなどを作成中で、中をうちわで扇いだりしながらどうやら調理中の何とも言えない良い匂いを商人お部屋まで届けたそうにしています。
 暫く商人の相手をしたが我斬は、厨房にやってくると、ケインと美夏に手を借り、人に教わった方法を試すべく、穴子を開いて竹串で固定して焼き始めます。
 どうやら人から聞いた物を作ろうとしているようで、味付けなどを美夏と相談しながら甘いたれをつけて両面をまんべんなく、何度もひっくり返して焼いていきます。
 そこへ、部屋を準備し終えた菊川がやって来て、仕入れて血抜きをして冷やしておいた鮎がすっかりと美味しく焼かれているのに笑いながら頷くと、商人の具合を見に歩き去っていくのでした。

●桃に涼む
 カイ・ローン(ea3054)は桃の皮を剥いて小分けに切ると、手元にある材料で如何に代用できるかを考えつつ悪戦苦闘中です。
 とは言っても、多少食感や雰囲気は変わる物の、どちらかと言えば作り慣れた物だからか苦労すると言うよりはあれこれ工夫する楽しみはあるよう。
「桃は内臓の働きを整える効用があるから暑気中りには丁度いいか」
 そんなことを言いながら桃と砂糖を混ぜてすり鉢ですりつぶしているカイ。
 カイは時折ケインの寒天寄せの具合を確認もしつつ、3品もの桃のデザートを作り上げていきます。
 その近くでは我斬が冷やした小豆味の保存食を手に入れ手来て貰ったのに、それを細かく砕いて桃と和えて見ると、これはまた、一風変わった味わいの、それで居てちょっと癖になりそうな物が出来上がります。
「甘い物が好きでね。たまに自分で作るんだ」
 お品書きに書き込んだ緋村にそう言うカイは、緋村が自身のワインを提供して作り上げられたお菓子を見て、目を輝かせると、断ってひょいっと一つお味見です。
「うん、甘くて美味しい‥‥」
 ひんやりとした食感とその甘みに目を細める緋村。早速お品書きに書き込んで商人の元へ向かうのでした。

●暑気中りはどこへやら
「皆さん、とっても美味しそうな料理が出来上がってますよ〜。ほらこれなんかとっても美味しそうでしょう」
 ちゃっかりもう少し分けて貰って持ってきた桃をぱくりと食べて見せる緋村に、商人どこかじとっと羨ましそう。
 お布団にいる打ちは荘吉は粥ぐらいしか食べさせてくれないためかじたじたと溶けつつ悶絶している商人の横では、やはり布団の上でゴロゴロと暑さに耐えかねて溶けているデュランが。
「穴子のひまつぶしだと?そんなものが食べられるのか?」
「‥‥それは暇じゃなくて『ひつ』だ。おひつの中で御飯の上にのっけて混ぜたものだ」
 商人とデュランの様子を見に来ていた我斬がそう説明すると、あまりのデュランと商人の溶け具合に笑う菊川。
「しかし本当にお疲れだなぁ、俺も少々夏バテ気味で。でも江戸納涼夏祭の準備も始まってるし‥‥気合入れ直さないとな」
 そう言いながら涼風扇でぱたぱたと2人を扇ぎながらちょっと照れたように笑って続ける菊川。
「ま、俺なんて太鼓の音と提灯の灯りでもう血が騒ぐクチなんだけどな」
「あー‥‥そーですねぇ、お祭り、頑張らないとなー‥‥‥」
 そう言いつつ起きあがらない商人ですが、料理が出来たと我斬達が呼ばれると、なんだか少しうずうずとしてきたよう。
 先程まで溶けていたデュランは、のたのたと起きだして部屋へと向かうと、商人1人が取り残され、直ぐに賑やかな食事の音が聞こえ、良い香りが散々動だとイワンばかりせて立てているよう。
「にしても食欲が無いってのは可哀想なものだ、んな旨い物も食いそびれちまうんだからな」
 しみじみ言う我斬は、美夏の作った、『穴子の冷やし汁』を食べて、その麦飯と胡麻と味噌の、そしてその味に花を添えている薬味との兼ね合いの何とも言えない味わいに舌鼓。
「穴子料理に桃が財布を見ずに遠慮なく食べれるなんて‥‥」
 そう言いながらどこか幸せそうに食べ勧めている緋村はとても旺盛な食欲を見せます。
「あ〜、桃の甘さが体に染み渡るぅ〜」
 本当に心の底から痛感している、と言わんばかりにそう言って、カイの作った桃のネクターを味わって居るのはデュラン。
 まずは料理の前に食べる気力を回復、と言ったところでしょうか。
「あはは、全部食べちゃっていいのかな」
 どこからどう見ても素でそう言って食べ進めるケインもなかなかに旺盛な食欲を見せているようで。
「あれ? 荘吉殿は食べないのか?」
「いえ、食べますよ」
 まだ箸に手を伸ばしていない隣の荘吉にそう聞く菊川ですが、ふと、荘吉が耳を澄ませて小さく聞こえてきた足音を聞いているのに気が付くと小さく笑みを浮かべます。
 やがて、そのどこかのろのろとした足音が部屋の前まで来ると、恐る恐るといった様子で開け放たれていた部屋を覗き込む商人。
「あ、あのぅ‥‥私の分、ありますでしょうか?」
「お待ちしていました、あと少し遅かったらすっかり無くなっていたところですわ」
 そう言う商人に自分の隣の空いた席を勧める美夏。
「穴子は、日中は岩穴や砂の中に棲むらしいですわね。そこから穴子、と呼ばれるそうで」
 隣に座ってまずは美夏の冷やし汁を食べて気力を少し取り戻した様子の商人に、美夏はそう言うと、なるほど名は体を表すんですな、となんだかあべこべな反応を返す商人ですが、徐々に天麩羅や骨あげ、ししとうの天麩羅などを食べ進めていくうちに、すっかり暑気中りはどこへやら、と言った様子。
 それを見てから漸く箸を取って食べ始める荘吉に、笑ってぽんぽんと軽く頭を撫でる菊川。悪態をついていながらもやっぱり心配だった様子をみて、なんだか微笑ましくなったよう。
 カイの桃のお菓子をデュランに渡す、渡さないで大騒ぎをしたり、散々飲み食いをして楽しんだ後、ふと気が付けば暑い日差しの中にも涼やかな風が吹き込んできます。
 お持ち帰りに料理や桃、そして中には使わなかった穴子を持ち帰る者もいたとかいないとか。
「これで当分夏の暑さを乗り切れると言うもの」
「これで少しは楽になったはずだ。まだ暑いが動く気力と体力は戻ったぞ」
 桃と残った料理をしっかりお持ち帰りの緋村がそう言うと、先にマントを脱いだ方が早いのでは、と突っ込みをさっくりと無視したデュランが頷いて同意するのでした。