兇賊遭遇〜許し難い略奪者〜
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月03日〜08月08日
リプレイ公開日:2005年08月11日
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●オープニング
じりじりと照りつけるような暑さの中、風通しの良いギルドの受付で硬い表情のままじっと一点を見ているのは受付をしている青年。
ここのところ江戸では、寝付けないと云われる暑い夜にはあまり押し込みをされない、などと言った定石を守らず、惨たらしい畜生働きを続けている集団がありました。
と言っても、近頃はそう言った事件も多々あり、それについて役人達もかけずり回っていますし、多少、情報収集に人をと言った依頼もあるのですが、だからといって受付の青年が難しい顔をしている理由には成りません。
普通ならば。
さて、少し前から受付の青年は、ギルドで手伝いなどをしながら受付の仕事と冒険者としての仕事の見習いを始めた少年を預かっていました。
少年の名前は正助。
実際に預かり色々と手解きをすれば、なかなかに利発で身も軽く器用で、酷く暗い影を落としていた表情も、滅多にありませんでしたが笑みを浮かべることさえ近頃ではあったようでした。
数日前、受付の青年は正助にお使いを頼んだのですが、正助が訪ねていった日の晩に、近頃世を騒がせている兇賊が現れ、あろう事か先方へと押し込んだのです。
先方は何年か前に幼い子供を亡くした商人で、正助に面影を見いだしたかことある事に正助を可愛がったそうで、その日も遅くなったので是非にと正助を泊めて、ギルドへとその旨を伝えていました。
現れた兇賊達の仕事はそれこそ皆殺し、1人残らず斬り捨て金蔵の戸を叩き壊し、そのままさっと姿を消してしまうというものだったのですが、今回は御店の半数は生き残っており、主人夫婦も主が斬りつけられはしたものの無事です。
「10人程の黒尽くめで顔を隠した男達が‥‥ええ、もう助からない、そう思ったときに、表通りから子供の声で『人殺しーっ! だれか、誰か役人をっ!』と‥‥ですから、正助だと思うのですが‥‥気が付いたときには姿が‥‥」
見舞いを兼ねて事情を聞きに行った青年は、療養所で商人にそう言われた時には正助はもう戻らないだろうと最悪の事態を覚悟したそうなのですが、先程舟遊びをしていたという男が何やら布切れを結んだ物を持ってギルドへと訪ねてきて事態は急変しました。
『賊の数は十・場所は川沿い・舟を使っている。
深追いをし見つかってはいないが倉に閉じこめられている。
次の仕事を終え次第他国へ逃げる様子。
これをギルドへ届けられたし』
そう書いてある布切れがいつの間にか舟の中に投げ込まれていたそうで、舟を出すときにはなかったため、この男は訝しげに思いつつ届けてくれたそうです。
よく見れば、正助が訪ねていったときに着ていった着物の布を裂いて作られた手紙です。
「無事でいてくれると良いのだけど‥‥」
役人に任せておくのが一番と知りつつも何とか助けて欲しいと商人から渡された依頼料の包みに目を落とすと、受付の青年は小さく溜息をつくのでした。
●リプレイ本文
●盗賊の居場所
「回の依頼は正助とかいう少年の救出か。中々難儀な依頼だ」
李紅龍(ea5447)は考えるようにそう言うと、情報収集は得意ではないとして待機することに決めたようで、落ち合う先を確認しています。
「盗賊の捕縛もできればそれに越したことはありませんが‥‥正助さんの救出ですわよね。彼の命の安全が、一番優先されるべきですわ」
キルト・マーガッヅ(eb1118)がそう言うのに、ぶんぶんと首を縦に振って頷くのはレーラ・ガブリエーレ(ea6982)。レーラも紅龍と同じく待機組です。
「先輩冒険者の意地と誇りにかけて、正助を助けるじゃん!!」
「賊は高飛びの準備中らしいから余り時間がないのだ。正助さんが見付かる前に助け出すのだ」
レーラに続いて言う玄間北斗(eb2905)の言葉に頷くと、それぞれ自分の出来ることをするために立ち上がりました。
「‥‥これがその盗賊達の似顔絵、ね?」
「‥‥はい‥‥どうか、くれぐれも宜しくお願いいたします」
幽桜虚雪(eb3111)はそう言って頭を下げる商人から賊の似顔絵を受け取ると、頭を下げる商人から賊についてを詳しく聞き取っています。
「ええ、体格の良さそうな、喧嘩っ早い様子の者達ばかりに見受けられまして‥‥」
「大体何人ぐらいだったかな?」
「8‥‥人ぐらいだったと思います」
そう答える商人に礼を言って立ち去る虚雪。
キルトは、その頃所所楽石榴と共に襲われた御店の共通点を見いだそうと聞き込みを続けていました。
「隠密の方達の邪魔になってしまっては意味がありませんから、私は私で出来る事をしなくてはなりませんわね」
そう言うとキルトは次に狙われそうな、船着き場に程近い裕福な商家を調べ上げて2件ほどに絞り込みます。
「この辺りでお客さんは居眠りを始めたのかしら?」
マハラ・フィー(ea9028)は客を乗せていたい船頭を運良く捕まえると、川に実際に出て見ていました。
暫くは沿いに川があるのですが、途中幾つかの倉が川に隣接する様に立つ建物が幾つか。
「この倉のどれかに正助さんはいるのですわね」
そう言って、マハラはじっと倉の換気用の窓をじっと睨み付けていました。
「船の可能な場ですね。でしたら依頼主さんが通った周辺で人の出入りが会って長く居ても不自然でない船を置ける場所、もしくは‥‥」
そう言いながら川沿い辺りを手紙を持ってきた舟遊びの客の証言から場所を絞り込みつつ廃屋や廃寺を回るのは北天満(eb2004)と鷹月澪(eb2126)。
「‥‥うん、変なおじちゃん達が出入りしている場所って言うのはあるよ。昔の御武家さんのお屋敷だってかぁちゃん言ってた」
満にそう答えるのは、満の愛犬『七星』と遊ばせて貰っていた子供の1人。鷹月も虚雪の聞いてきた面相からその周囲を聞き込んで、同じ昔の武家屋敷の一帯が怪しいと睨んで見て回っていると、略図を手に玄間が一つ一つ確認を取って建物を特定しようとして居るのに出会います。
「ほぼ、十中八九はここだろうね‥‥」
後から合流した満も情報をあわせると、ほぼ、居るであろうという場所は特定されたのでした。
●安否と救援
「居りましたわ。少し弱っている様子ですけど‥‥恐らく正助さんで間違いありませんね。‥‥正助さん、見つけたからには、もうすぐ助けて差し上げますからね」
キルトがそう言うのはとある武家屋敷の裏道で、そこの倉庫をブレスセンサーで確認したところ、空気穴の辺りで息を潜めている気配が感じ取れます。
マハラが頃合いを見て空気穴から手紙を投げ入れると、微かにそこに顔を寄せる人の気配が。
『正助ですか?』
テレパシーでそう満が確認を取ったところ、そこにいるのは正助で、蔵上の方に隠れることで倉に人間が入ってきても盗品は地下に保管場所があるから見つからずに済んでいる旨を伝えてきます。
何か証拠になる物が欲しいと言われるのに、暫くして正助は舟で近付いてきているマハラにぽんと自分の着物の布を裂いて、高価そうな根付けを来るんで共に投げて寄越します。
助けに来る事を約束すると、一同は虚雪を見張りに残し、直ぐに落ち合う予定の茶屋へと急ぎました。
茶屋でレーラとマハラを奉行所へと向かわせると一同は盗賊のアジトと思しき建物の近くへと戻っていきます。
奉行所へ向かった2人は、何やら慌ただしい様子で居ながらも、レーラが知人の津村武兵衛に取り次ぎを頼むと通してくれます。
「おっちゃん! 盗賊が閉じこめてて正助が危険で大変なんじゃん! 助けて欲しいんじゃん〜〜!!」
「おお、レーラ殿、どうなされた、それではさっぱり分からぬ、落ち着いて話されよ」
そう飛びつくようにいうレーラに与力の武兵衛は、慌ただしくしている奉行所仕事の最中に手を止めて話を聞いてくれます。
「これは‥‥先日皆殺しにあった御店から盗まれた物ではないか」
「はい、わたくしたちは正助という少年を助け出す依頼を請け負ってきたのですが、その少年は閉じこめられており、これをと託されてきました」
事情を詳しく説明するマハラにさっと顔色を変える武兵衛。
「分かった、直ぐに手配しよう」
そう言って頷いた武兵衛は、レーラとマハラを少し待たせると、ただでさえ慌ただしかった奉行所内ですが捕り物の支度などで余計に騒がしくなるのでした。
●正助救出
正助の居る倉の前には常に人がいる形になります。ちょうど入口は庭に面していて、そこから屋敷の部屋と直接面する形になっているからです。
この時期、常に障子は開かれておりそこにだらだらと寝転がったり酒を飲んだりする男達の姿が。
中には倉から引っ張り出したであろう物をせっせと荷造りしている男も居ます。
「おっちゃん、正助の命が最優先なんなんだよ〜」
理解はしていても立場上それを公言することの出来ない武兵衛は困ったように笑って部下に前後から表と裏、他に塀を乗り越える可能性などを指示してから一同に向き直ります。
「盗賊と建物の方は何とかしよう、ただ、撃ち漏らしが倉庫の方へと行くのは、君達に任せても良いだろうか?」
「あくまで正助の救出がこちらの優先事項だ。無理はしないがそのための時間稼ぎぐらいなら精一杯遣らせて貰おう」
そう言って紅龍は頷きます。
「うむ、出来るだけそちらに害が及ばないように配慮しよう。済まぬな、この様な凶悪な輩を1人も逃すようなことにならぬ為に、屋敷の外の方に人手を割くことになってしまっているが‥‥」
「盗賊達と直接やり合わないだけずっとましだからな」
そう言う鷹月も既に支度を調えて盛り込むのを待つばかりです。
「みんなに祝福を〜、絶対成功させるじゃん!」
レーラがグットラックをかけると、武兵衛は配下に指示を出していっせいに建物に討ち入ります。
玄間が中へと入り込んで戸を開けると乗り込んで一同は建物へと向かう武兵衛と別れて真っ直ぐに倉へと向かいます。
「眠っていなさい!」
倉の前で何やらやっていた賊の1人に鷹月がスリープを唱えて眠らせると、マハラが急いだ様子ながらも気を落ち着けようとしつつ錠前と向き直っています。
「痛い目を見たい奴から来い」
屋敷に面した庭に立ち、時間稼ぎのためと前衛を買って出るのは紅龍と玄間。
紅龍は1人とがっちり向き合って激しい応酬を繰り広げています。
「邪魔をするなら痛い目を見るのだ!」
火遁によってそれ以上賊を近寄らせないようにしている横では、先程眠らせた男を縛り上げて居る鷹月の姿が。
「開いたっ! 正助さん!?」
戸を開けてマハラが声をかけると、よろりと上の方で影が動いたよう。
虚雪が梯子を駆け上り、足場を何とか伝って空気穴の所に行くと、僅かしか持っていなかった保存食を切りつめて持たせていた様子の正助が、やつれた様子で虚雪を見上げます。
「君が正助くんかな?商人さんに代わって助けに来たよ♪」
「あ‥‥」
ほっとしたように微かに笑みを浮かべる正助に手を貸して倉の床まで降りると、ちょっと泣きそうな顔のレーラが正助を迎えるとぺたぺた腕や身体を触りながら心配そうに声をかけます。
「正助っ! 大丈夫だった? 怪我とかない〜?」
「だ、大丈夫だよ‥‥ちょっとお腹空いたぐらいで」
ちょっと赤くなりながらそう答える正助は、どうやら照れているよう。
手を借りて倉を出ると屋敷の捕り物を眺めつつ取り押さえた2人ほどの男を踏みつけたまま紅龍が振り返り、鷹月も気が付くとわしわしと頭を撫でて声をかけます。
「どうだ外の空気は?助かって良かったな!!」
「あ、うん、ありがとう‥‥」
手を借りて庭を裏口へと向かって歩く一同。
「むぅ、正助に辛い思いさせたお前らは‥‥神様が裁いてくれる前に痛い目見るじゃん!!」
ちょっと怒りの感情が有り余っている様子のレーラですが、盗賊に至近距離まで近付いたら危ないためか、こちらは紅龍に引きずられての退場です。
助け出された正助を連れて屋敷から出て行く一同を確認した武兵衛。
こちらの方は建物内を探索し尽くして逃げた賊がいないのを確認するのですが、更にこれから盗品の吟味という大変な仕事が残っているらしく、一同へと軽く礼をして見送るのでした。
●立派に見習い冒険者
依頼を出した商人の屋敷も漸く落ち着いて、もう暫くしたら商売を再開する様子。
正助の世話も喜んで引き受けてくれたので、部屋で休ませられつつ徐々に元気を取り戻している様子です。
「本当に良かったですわね」
「正助、最善を尽くす事は良い事ですが返り討ちにあわない術を身につけて欲しいですね。自らの力で出来る術で」
そう言うキルトに ちくりと正助に釘を刺す満。
「だって、見失ったら顔を見ているこの店にどんな被害が及ぶかって考えたら、放っておけなくて。盗賊達なんて、本当に何をするか分からないから‥‥」
次からは気を付ける、と付け足して言う正助。
「それにしても正助、正義感あるんだなぁ‥‥凄いじゃん! 10人も居て怖かっただろうに‥‥よく頑張った〜! 立派な冒険者じゃん♪ 」
「ん‥‥ああいう奴らをのさばらせないためにも、もっと頑張って腕を磨かないと‥‥」
そう言う正助の頭を撫でながら、玄間は一瞬真面目な顔で見ていましたが、直ぐにのほほんとした笑みを浮かべて『頑張るのだ』と励ますのでした。