薄桃に輝く者達〜夏だから〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月08日〜08月13日

リプレイ公開日:2005年08月18日

●オープニング

「えぇ、その、お役人様に来て貰うほどではねぇですが、なにぶん、困っておりまして‥‥」
 そう頭を掻きつつギルドへやって来たのは、舟で直ぐ、江戸郊外の小さな村に住むお百姓さん。
 このおじさんがギルドへとやって来たのは、朝のお仕事を終えてえっちらと舟を漕いでやって来たので、だいたいお昼過ぎのことでした。
「‥‥‥‥あの、何に困っている、でしたっけ?」
 あまりの内容の馬鹿馬鹿しさに暫く呆然としていたギルドの受付をしている青年は、聞き間違いであることを祈りつつ、再び首を傾げて聞き返しますと、悪いことをいってしまったのだろうかと、おじさんはおろおろとしつつも再び依頼内容を繰り返します。
「で、ですから、夜中に村ン周りをぶらついてる、わかぁい武家のお坊ちゃん方ですだよぅ」
「で、何で彼らは村を徘徊しているのかな?」
「だ、だから、おらん所の村ぁ守ってやるだと‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
 思わず顔を見合わせるおじさんと青年。少し考えて、青年は口を開きます。
「えー‥‥守ってやるからその代わりいくらか払え、とか‥‥」
「いんやぁ、鐚一文要求しねぇ」
「‥‥?」
「良いとこのお坊ちゃん方らしいでな‥‥」
「その彼らに、困っている‥‥?」
 困った青年は順を追って詳しく話を聞いてみると、その若者達は良家のご子息達で、親御さん方も村によくしてくれていたそうです。

 彼ら、良家の子息である若侍達は、近頃冒険者達が村の周りの化け物や盗賊の類と戦って名をあげる者もいるのに感化されてしまったよう。
「近頃江戸の郊外が不穏だからと冒険者大活躍! 俺らもここらでいっちょ近隣の村を守ってやるときっと感謝されて英雄に!」
 若さとは怖いもの。
 夏の暑さに脳が茹だってしまったのかも知れませんが、そんな勢いで気が付けば夜中にうす桃色の光を放って歩き回るようになったそう。
彼らが村の見回りを始めてから間もなく、お百姓さん宅の会話です。
「お、おっとう、あのおにぃちゃんたち‥‥」
「ひかってるよう」
 小さな姉妹が父親、母親にしがみついて泣きそうな顔でそう言います。
「い、いや、だから、あれは御武家さんとこのお坊ちゃん方で、(自称)村を守るための見回りだで‥‥」
「おぶけさんのおばけー」
 びやぁっと大泣きする子供達。
 折しも夏、祖先の御霊が里帰りをする頃。
 ‥‥時期が悪すぎました。

「‥‥という訳で‥‥」
「あぁ、たしかにそれは‥‥」
 遠い目をして虚ろに笑うギルドの受付の青年。
「じゃ、じゃあ、これはこの若侍さん達に、微妙に不気味な見回りをやめて貰うって言うか‥‥」
「ええ、村の人間では意見なんぞできねぇし、親御さん方には世話になりっぱなしだで言いづれぇし‥‥」
 そう言ってから、ちらりと受付の青年を見るおじさん。
「ただ、村に近付いたときによそ者は悪い奴、と思われるかも知れねぇから、説得してやめさせて貰う人達にも、気を付けて頂きてぇと‥‥」
「分かりました、そのように伝えましょう」
 そう言うと、頭痛を押さえるかのように額に手を当てつつ、受付の青年は頷くのでした。

●今回の参加者

 ea2941 パフィー・オペディルム(32歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea6450 東条 希紗良(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6639 一色 翠(23歳・♀・浪人・パラ・ジャパン)
 ea7865 ジルベルト・ヴィンダウ(35歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

斎部 皓牙(eb3051

●リプレイ本文

●どんな子達?
「ご本人達は善意のつもりなのでしょうけれど‥‥子供が怖がるのでは迷惑ですわね」
 実際の所、パフィー・オペディルム(ea2941)のこの一言でそのまま済むような事態に苦笑する一同。
「闇の中薄桃色に光る人達を見たら、小さい子は怖いよね」
 ちょこんと座ってお茶を飲んでいた一色翠(ea6639)も苦笑を浮かべたまま口を開きます。
「金とか銀だったら少しは良かったかもしれないのに」
「そう言う問題では‥‥しかし、盾か剣の闘気魔法でも使って歩き回っているのかね? 身体が発光し続ける魔法はなかったはずだが」
「あぁ、申し訳ね、説明不足だぁな、全身がピカって光ることもあるが、大体はこう、手に光る刀を持ってるでな‥‥」
「‥‥光る刀を持って徘徊すれば、それは確かに‥‥」
 東条希紗良(ea6450)がふと疑問を持って聞くと答えられる言葉に思わず溜息。
「でも、まぁ、さすがに魔法の効果を見られて恐れられる事は予想できても、魔法使用時の発光現象で間接的に子供達を怯えさせるとは予想できないわよね」
 ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)の言葉に頷くパフィー。
「若侍さん達の若さゆえの過ちを正して差し上げましょう」
 斎部皓牙に荷物を預けて見送られて、一行は村へと向かうのでした。
 昼間の内に、お百姓さんの舟に乗って村へと着いた一行は、若侍らについてざっと聞いて回ることにします。
「一寸、お武家の坊ちゃん達の夜回りの話をお聞きしたいのですが」
「どんな話をすれば良いでしょうな?」
 茶で持てなしながら言う村長にジルベルトが聞くと、軽く首を傾げる村長。
「回り始める時間とか、どこに集まるか、普段はどうしているか、などだな」
「ええと、夕刻になってから村の神社に集まって、夜になると見回りを始めるようですねぇ。昼間は江戸市内の道場とかにいるとは聞いたことがありますが、詳しく迄は‥‥」
 東条が聞くと思い出す様子を店ながら言う村長。
「余所者は悪者と間違えられるかもしれないという事だったねえ。一色のが一番警戒されずにすむだろうから先頭に立って話しかけてもらうとするかね」
「うん、夜に村の外から行くより安全だと思うし‥‥探すのは簡単だよね‥‥光ってるんだもん」
 東条に言われて苦笑混じりに言う翠。
「ええと、確認しますが、要するに桃色侍さん達をどうにかすればよろしいのですわね?」
「はい、まだ提灯などの灯りを手に徘徊する方がましですし、ご本人達が光って村中を徘徊しなければ、子供達も収まりましょうし、何かあったときに助けて貰えるというの自体は有難いわけですし‥‥」
 そう言って溜息をつくと、村長は改めて一行に頭を下げます。
「悪い若者達と言うわけでもないのですがなにぶん困ってしまい‥‥どうか宜しく願いいたします」
 そう言う村長に頷いて約束をする一行なのでした。

●そんなつもりは‥‥
 辺りが薄暗くなり、そして日が落ちた頃、神社の境内でだらだらしていた若侍達が揃って徘徊を始めた様子。
 一行が村長の家を出て歩き出すと、程なく畑の辺りで1人の影が薄桃に輝くと、その手の中には刀が握られます。
 遠巻きに見ていても夜、畑の中を薄桃に光れば不気味ですが、目視できるその距離で見ると、その刀の光が4人の若武者の姿をうっすらと浮かばせ、挙げ句に持っている者など、顔の下半分がぼんやり照らされていて、これなら子供達が泣き出すのも分かる気がします。
「あー‥‥あれじゃあね‥‥」
 始めから知っていなければこれはかなり怖い光景。まるで怪談の世界に入り込んでしまったか肝試しに迷い込んだか。
「むっ、そこにいるのは何奴っ!?」
 パフィーの持つ灯りに気が付いた様子の若侍達が素早い足取りで近付いてくるのに、翠が一歩前へと出て声をかけます。
「お兄さん達、こんばんは。冒険者の一色翠と言います。少しお話聞いてくれますか?」
「冒険者‥‥? 君が? 小さいのに感心だなぁ〜‥‥じゃなく、何でこの村に居るんだ?」
 ぺこりと礼儀正しく頭を下げて言う翠に、悪い者達でないようで不思議そうに首を傾げながらそう言う若侍達。
 翠に一行は仲間と言われてとりあえず話だけは、と神社へ戻ることに。
「はじめまして、お武家様。私は見ての通り火のウィザード、冒険者よ」
 ランタンの蓋を開けてその火を魔法で自分の周りへひらひらリボンのように回してから自己紹介をするジルベルト。
「なるほどねぇ、お前さん達が幽霊の正体かい」
「ゆっ、幽霊!? 誰が? 何で?」
「お侍さん方には申し訳ないのですが、夜中にオーラをまとって歩き回るのは止めていただけませんか? 子供達がお化けと間違えて怖がっておりますの」
「へ‥‥?」
 東条に言われて目を白黒させる若侍達は、続くパフィーの言葉に顔を見合わせます。
 先程から、半分彼等の灯り代わりになっている輝く刀を何とはなしに弄りつつ、何とか状況を理解しようと首を傾げる様を、その刀は怪しく照らし続けています。
「単刀直入に申し上げましょう。村人特に子供は夜中に魔法で光りながら歩き回るあなた達を見て怯えています」
「え、だ、だって、我々はそんなつもりじゃ‥‥」
「この村の子供に夜中に幽霊が出ると泣きつかれてね。こうして様子を見に来た次第だ。‥‥薄桃色に光るのだと聞いて心当たりがあったしね」
 そう言われてオーラを唱えたときに自分たちがどう見えていたのかに気が付き目を瞬かせる若侍達。
「いや、だが、やはりこれは我々の護衛のための得物で‥‥」
「んーっとね、翠と一緒に、実際に見てみると分かると思うの」
「見てみる‥‥?」
 くいくいと刀を持っている男以外の手近な2人を引っ張ってちょっと離れたところに向かう翠。それを見て、パフィー・東条・ジルベルトの3人もひょいと残る2人の若侍から離れます。
「ね、ここからあそこを見てみて?」
「‥‥‥‥ぁ‥‥」
 思わず声を漏らす2人。
 ちょっと離れたところで見ると、やはり薄ぼんやりと刀に照らされた2人の様子はなんだか不気味です‥‥更に神社ですし。
「ね? あれをちっちゃい子達が見たら‥‥」
「あぁ、確かにちょっと‥‥」
「それにね、今、まだ季節的に‥‥ね?」
 翠の言葉にこくこく頷く2人。
「お兄さん達も、唱えてみると、向こうにも分かるんじゃないかな?」
 翠の言葉に1人がやはりオーラソードを唱えると、薄桃に輝く姿、そしてその手に浮かぶ輝く刀‥‥。
 何やら神社の境内から呼び戻されて戻ると、やはり不気味だったのか何やら青い顔の2人お若侍が待っているのでした。

●落ち込む若者達
「今迄は善意で夜回りしてくれているのだし。貴方達の親御さんには良くしてもらっているから言い出せなかったそうなの」
 ジルベルトの言葉に落ち込んでいた若侍達がますますがっくりと肩を落とすのが目に入り、思わず苦笑する東条。
「子供達には魔法の事が、まだ理解出来ないの。お武家のお化けを見たと怯えているわ。大人も頭では理解しているけど。やはり薄気味悪いそうよ」
「せめて見回りの際はオーラを切っていただくとか‥‥駄目でしょうか?」
 パフィーが続けて言う言葉にしょんぼりとしつつ見上げる若侍。
「見回りか‥‥精の出る事だが如何せん時期が悪かったんだねえ。盆の頃に発光したものがうろうろしていればなかなか気味が悪くみえるのもしようがないと思わないかえ?」
 微妙に慰めともつかないことを言う東条に、力なく笑って頷く若者達。
「それにね、冒険者ってお兄さん達が思ってる程華々しいものでもないよ? ‥‥こんな風に地味ーにお話する仕事だってあるんだし」
 なんだか偉くしょげている若侍が可哀相になったか、良い子良いことでもするように頭を撫でながら笑って言う翠。
「そんなわけで折角張り切っているところを申し訳ないんだが控えてもらえないだろうか。
もしよかったら何か事があった時に駆けつけてやっておくれでないかえ」
 控えろ、と言われたときに何かあったとき、と続いて少し驚いたように顔を上げる4人。
「村の者もいざという時に貴殿たちのような者がいる事を頼もしく思うだろう」
「うん、そうだね。『守ってやろう』っていう押付けの気持ちじゃ、折角のお兄さん達の善意もすれ違っちゃうと思うの。だから、どんな風にしたら本当に喜ばれるのか、村人さん達と相談したらいいと、翠は思います」
「‥‥‥で、でも、こういうことになって、それでも相談って‥‥」
 東条と翠の言葉で、すっかり自信を無くした様子で不安げな様子だった若侍の1人がどこか縋るように言うと、4人は思わず顔を見合わせます。
「冒険者が感謝されるのは、困ってる人を助けるお手伝いをするから。だから、お兄さん達も、きっとちゃんと相談してやったら本当に必要なときに助けられて、きっと感謝されると思うの」
 そう、翠が笑って言う言葉に、若侍達は頷いて、オーラを使っての見回りを断念したそうです。

●それから
 江戸に戻って直ぐのこと、一行宛に依頼人のおじさんが手紙を持って現れます。。
『村人達ともよく相談して、1つの空き家を借りてそれを自分たちの道場にして我々で時折そちらに泊まってやっていくことになりました。
 元々、跡を継ぐあれもなく自由気ままにやってきていましたが、この村では読み書きを教えたりして結構必要とされています。
 それこそ、光って夜中うろついたりしなければ、子供達とも仲良くやって行けそうです。
 本当にお世話になりました』
「話してみると、普通の無くって、なんつーかまだ子供じみた様子のある子達だもんで、若いのが村に増えて、なんつーか活気がと言いますかねぇ」
 そう言ってどことなく嬉しそうに言う依頼人。
 依頼人は何度も礼を言ってから、村へと戻っていくのでした。