●リプレイ本文
●ちっちゃな盗賊達
「ねぇねぇ、おにーさんの実家の村ってどんなとこなの?」
「あー‥‥実家じゃなくって、友達が嫁いでいてね、良く行き来するんだ。静かで鄙びていて良い所だよ」
柊小桃(ea3511)が青年の腕を引きながら楽しそうに聞くのに、空いている手で軽く頭を掻きながら絵師の青年は答えます。
「ハオ♪ 私、リン・リィリンね。よろしくですね」
そう声をかける林麗鈴(ea0685)にこちらこそ、と慌てて答える絵師。
良く晴れた出発の朝です。菊川響(ea0639)が絵師の荷物を預かって馬に乗せている横で、結城夕刃(ea2833)が咲堂雪奈(ea3462)の荷物を受けとって自分の馬に乗せています。鎮樹千紗兎(ea0660)は自身の荷物を馬に積み込みながら、中にさいころを入れ忘れていないか確認しています。
「依頼人殿ォ、このヴァラス様が護衛につくからには弟君は絶対に安全ですからねェ!」
ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)の言葉に、何度も頭を下げて頼む絵師の兄。兄から聞いたところ、盗賊はちっちゃな子供のようなのが3人ほど。すぐに逃げるので、それほど怖くはないだろうと言うことです。
兄に見送られて、一行は出発しました。
先に歩くのはヴァラス。その後に辺りをさりげなく警戒しながら琴宮茜(ea2722)に、夕刃と雪奈が続きます。絵師は小桃に手を引かれて麗鈴と話しながら歩くのを、意味ありげに笑って千紗兎が見ていまして、最後をのんびりと景色を楽しみながら菊川が歩いていきます。
一日目の夜、何事も起きずに無事に野営の出来るところを見つけて早速火を焚き準備する一行。入れ替わりの見張りを置きながら、手が空いた千紗兎は大振りの茶碗とさいころを3つ持ってきて絵師に見せます。
「おや、ちんちろりんですか?」
まるで落ち込む間を与えない様子に絵師は小さく笑うと、遊びと見るや雪奈がひょっこりと顔を出します。見張りが引けた菊川がひょっこりとその様子をひょっこりと覗きに来て苦笑します。
「ううう、嵐だ〜」
「あらら、負けっぱなしだな」
千紗兎と雪奈にきっちりと負ける絵師。少し悔しそうにさいころを茶碗へと投げ入れながら言う絵師に、千紗兎がつつと寄って耳打ちします。
「ところで弟さん、今回の護衛内で、意中の娘などいたりしません?」
「えっ!? あ、い、いや、その、皆さん魅力的な方と思いますよ、うん」
言われる言葉に慌てたようにそう言う絵師。赤くなりながらそっぽを向く様子に、千紗兎はくすくすと笑っていました。
2日目の行程も、思った以上に順調でした。途中の茶店でお茶を楽しんだりしながら休憩をしていて、絵師は元気に話しかけて来る小桃のお陰で一日目よりもずっと楽しそうに話に加わっています。雪奈などは護衛もそっちのけでふらふらと歩き回っては、千紗兎に耳を引っ張られたりとお仕置きを受けています。そんな様子のまま、夕暮れ時、村のすぐ側へとやって来たときのことです。
先行しているヴァラスが、ふと道脇の林から何かが窺っている様子に気が付きます。すぐ後を付いていた茜もそれに気が付いてよく見ると、小さな人影が3つほどあるようです。
「どうしよう、人がたくさんなのね」
「うう、でもでも、今度こそ成功させないと、お腹がぺこぺこで死にそうなのね」
「でも僕たち、ちっとも成功してないのね。お腹がすいてちっとも力が出ないし」
本人達はひそひそと話しているつもりのようですが、どう見ても隠し切れていない声に、ヴァラスが近づきますと、林の中でひそひそと話しているのはパラの男の子3人でした。慌てた様子で立ち上がってヴァラスへと向かうパラ達。
「い、命が惜しかったら、金品っていうやつと、特に食べ物を置いていくのね!」
「ムヒヒヒヒ、死にてーらしいなてめーらはよ〜‥‥だったら望みどおりにしてやるぜェッ!」
「ひ、ひいいっ! 怖いのね〜っ!!」
「やっぱり僕たちにはこういうコト無理なのね〜」
ヴァラスの勢いにべそをかきながら、必死で駆けだして逃げる3人。盗賊が思っていたのと違ったことに拍子抜けをしたように見送る茜と、すぐ横ではヴァラスがつまらなそうに舌打ちをしています。
「チッ! つまらんやつらよのォー。まあ、今回は弟君の護衛が依頼なわけだから放っておくがね」
そう言いながら再び一行は合流すると、なにやら夕餉の美味しい匂いが立ちこめる、のどかな様子の村へと辿り着いたのでした。
●村の日常
絵師の友人は村長宅に嫁いでいた為、夕食後、個別に泊まりたい人の為に客間を用意してくれます。
「あらぁ、皆さん、この子の我が儘に付き合って貰って有り難うございますねぇ」
「この子って止めてくれよ、幾つになったと思ってるんだよ」
のんびりとした様子の女性が山菜など、山で取れた物の煮付けなどを出しながら愛想良く応対してくれます。女性の言葉に照れたようにいう絵師。
「久々に裏の泉の辺りで絵を描いたらどうかしら?」
「きれーなお花とかいっぱいあるの?」
女性の言葉に小桃が目をきらきらさせながら絵師に聞き、絵師は笑いながら連れて行ってあげるよ、と約束します。和やかな様子で夜は更けていきました。
滞在一日目。
元気な小桃に手を引かれて、絵師は村の中を案内していました。鄙びていながらも、それなりの広さのある村の中を、お馴染みの様子なのか楽しそうに歩いています。
「今日何食べよっか? ‥‥お味噌汁と野菜の煮物にしよ!!」
ご機嫌で絵師と村の人達に食材を分けて貰って戻ってくる小桃に、同意を込めて頷く絵師。
「小桃さんのお味噌汁は晩ご飯の楽しみにしましょうね。あ、皆さんも行きます? 裏の泉」
絵師は仕事道具を持って裏の泉へと足を向けようとしてそう聞きます。来る行程で、だいぶ元気になったのでしょう、人懐っこい笑みを浮かべてそう言うと、のんびりした足取りで歩いていく絵師。
「ゆっくりとしていて下さいねー、弟君。俺は邪魔しませんから、ムヘヘヘ」
どこか怪しい笑いを浮かべながら離れたところから、変なことをしないようにと絵師を見張るヴァラスに、ついて行く雪奈を呼び止める夕刃。
「あの、雪奈‥‥景色が良いところを見つけたんだけど‥‥その、少し、一緒に行ってみない‥‥?」
「う〜ん‥‥まぁ、半刻ぐらいなら、ゆうはんにつきおーたるわー」
どうしようかなという風に、泉の方へと歩いていく他の者達を見るも、そう言って夕刃についていく雪奈。他の人間はまるで遠足にでも出たかのように泉へとわいわい出かけていきます。
「わ、冷たい〜」
楽しそうにいう小桃を見ながら、絵師は日陰でのんびりと絵の道具の手入れをしています。そんな絵師に千紗兎はここで誰か女性陣を描いてみないかというのに思わず赤くなります。
「ジャパンの絵、素晴らしいと噂で聞きました。美人画はジャパンですか? 実際にこの目で見てみたいね。私、絵の題材になってもいいですよ? 私、芸術のためなら脱ぐです」
「ぬ、脱がなくて良いです、その辺りで小桃さんと一緒に遊んでいてくれれば、いい絵が描けそうです」
慌てたように真っ赤な顔でそう答える絵師。筆を走らせながら、楽しそうに遊ぶ様子や空を描いているようで、のどかな時間が流れます。
日が暮れるまで遊んだあと、屋敷へと戻り、星空を眺めながらお餅とお茶をいただき、夜が更けていきました。
●蛍の河原
滞在二日目。
「うわ!?」
朝も早くから絵師の吃驚したような声が屋敷に響きます。念の為に見張りをしていた雪奈が様子を見に行くと、顔中に墨で悪戯書きをされた絵師と、笑いながら筆を持っている小桃がいます。その落書きの可笑しさに、見に来た他の人達も思わず笑ってしまうほどで、絵師も笑いながら井戸へと顔を洗いに出て行きます。
「そうそう、この辺りって水源が近ければ水も綺麗だろうし、蛍とか見られないかな?」
菊川の言葉に手拭いを用意していた女性は笑いながら頷きます。
「ええ、あの子に夜にでも案内する様に言っておきましょうね」
その日の昼間は屋敷でのんびりとしながら絵師は千紗兎と書や絵について語り合ったり、小桃や麗鈴とお菓子を食べたりと目一杯楽しんでいた様子で、夕飯を食べると、辺りが薄暗くなるまで、ゆったりとした時間を作ります。
「そろそろ行ってみましょうか」
絵師の言葉に立ち上がる一行。一日目に行った泉へと行くと、そこからゆっくりと遡り、辿り着いたところは、ちょっとした河原になっています。その河原では、月明かりの下で、もう幾つもの光があちこちに飛び回っています。
「うわ〜、蛍がいっぱいだよ〜 きれいだね〜」
何とも言えない幻想的な風景の中で、はしゃいでいた小桃が、ふっと絵師へと振り返ります。
「そういえばおにーさんって絵描きさんなんだよね? 思い出のひとつとして絵描いてほしいなぁ〜」
そう言うのに笑いながら絵師は頷いて絵筆を取りますと、一行を眺めてさらさらと筆を動かしていきます。
「出来た‥‥」
絵師はそう言って満足そうに笑います。
見せて貰った絵は、思い思いの姿をした一行の周りに、蛍が乱れ飛ぶ、どこか幻想的なものです。
「来て、良かったなぁ‥‥」
どこか嬉しげに、絵師はそう呟いていました。
●また、いつか‥‥
村を出る日がやってきました。
目一杯楽しんで村を出るのに、絵師もすっかりと楽しんで、良い気分転換になったようです。
帰り道、盗賊に会った辺りにも、もう何かがいる気配もなく、平和な旅が続きます。賑やかに騒ぎながらの道中も、とうとう終わりが近づいてきたようです。
最終日、江戸について別れを惜しむ絵師の姿があります。
「皆さん、楽しかったです。また、機会が有れば、またいつか‥‥」
「おにーさん、ばいば〜い!! 楽しかったよ〜!!」
小桃の言葉に絵師は嬉しそうに笑いながら手を振っているのでした。