嫁取り騒動

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月16日〜08月21日

リプレイ公開日:2005年08月25日

●オープニング

 その若い男女が連れ立ってギルドを訪れたのはじりじりと焼け付くような暑い昼のことでした。
「‥‥‥‥それは、護衛なんですか? それともその勝負のお手伝い?」
「一応、手伝いのお願いなのですが、なにぶん母が‥‥」
 ギルドの受付の青年が首を捻りながら言うと、何とも言えない表情で男の方が溜息をつきます。
 この男はとある商家の跡取り息子で、女と言うより少女と言った様子の娘は小さな町道場の道場主の妹だそう。
 跡取り息子の男はその道場の先代で道場主と娘の父親である、今は隠居した剣客に、難儀していたところを助けられたのがきっかけで武芸に心惹かれ、通い稽古をつけて貰っていたそうで、その時にさっぱりした気質の娘さんのことが好きになったよう。
 娘さんもあまりそう言うことに縁遠い世界で木太刀を振るって暮らしていたためか、ぱっと目を惹く容姿もさっぱり世には漏れ聞こえず、また、きつい稽古にも町人ながら一生懸命な男を好ましく思っていたそうで。
 まずは娘の父親と兄に心の内を伝えて許可を貰ったものの、何と言っても難関は口五月蠅く自分の思い通りにならないと不機嫌になる御店の女主。
「で、えっと、結婚を反対している母親の了解を取るために、家事やら何やら諸々をこなしてみせるって言う約束をしたと‥‥」
「正確には勝負です」
「‥‥は?」
「私がどんな無理難題にも音を上げずに4日間‥‥準備も含めて5日間ですか、やり遂げれば祝言を認めて貰えるそうで」
 そう娘が頷くと、男は心配そうな表情を浮かべて娘を見ます。
「何が心配かというと、その勝負の条件として、決して木太刀を握ってはいけないと言うことなんですね」
「でも、家で嫁としての仕事を見せるんですよね? 木太刀は必要ないんじゃ‥‥」
「いえ、母は父が他界して以来女手一つで御店を守ってきました。そのためか、少々後ろ暗いこともやり兼ねないのです。‥‥質の悪い男連中に小遣いをやって、とか‥‥」
「‥‥‥‥‥‥あの、言っちゃあなんですけど、なんか、凄いことになってません?」
「ええ、木太刀を持つなという時点で、最終、音を上げなければ実力行使にも出る可能性があるので、それを予防するためにも、護衛として手伝っていただけないかと‥‥」
「‥‥」
「その、彼女も道場で一切の家事を兄上と分担してやっているため家事も得意は得意なのですが、なにぶん質実剛健‥‥多少なりとも冒険者の方が手助けしてくださるなら心強くもありますし」
 そう言うと、2人は揃って頭を下げるのでした。

●今回の参加者

 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7675 岩峰 君影(40歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●第一の関門
「困ったものですねえ。女の戦いというのが一番困難ですよねえ」
 そう溜息混じりに言うのは神田雄司(ea6476)。何度も溜息をつきながらそう言うと、羽鈴(ea8531)が依頼人2人を微笑ましそうに眺めながら口を開きます。
「なんだか幸せそうで羨ましいネ、悲しむ顔をみるのはイヤね。私頑張るヨ」
 そう言うと微笑みながら2人へと軽く首を傾げます。
「‥‥そういえばお二人の名はなんて呼べばいいのかな?」
「あぁ、私は一郎太、こちらはお喜佐と言います」
 依頼人改め一郎太がそう言うと、喜佐も改めて頭を下げるのでした。
「‥‥ということなんですが‥‥どうしましょ?」
「そりゃあんた、相手のお嬢さんが良いんだって親御さんを説得しなきゃ」
「え、いえ、わ 私のことではないですよ!」
 慌てて否定して誤解を解く神田。そんな会話が繰り広げられているのは神田の長屋、俗に言う井戸端会議って言う奴ですね。
「そぉねぇ、噂じゃあそこのおかみさん、ちょっときついし、それに若旦那にべたべたでさぁ、唯一自分の子だからだろうけどさぁ」
「ふむふむ、ご兄弟が居たと?」
「妹さんが2人ねぇ。あそこのおかみさんだから、きっと派手なのが好きだと思うよ、柄が大柄なのとか」
「年甲斐もない感じがあるからねぇ」
「年に似合わず髪を真っ黒に染めて派手な紅ひいてねぇ」
 からからと笑うおかみさん連中。どうやら御店のおかみさんは派手好きで評判が宜しくないようでした。
 先程から古くからの使用人である老婆と下男を交えての話をするのは岩峰君影(ea7675)。
「旦那様が奥様に仕立てた着物は全て大柄な花の柄でしたねぇ」
「大柄‥‥何の花か、とか、その浴衣に関して何か無かったか?」
「何の花、と言うのはないですが‥‥あぁ、確か、奥様は浴衣は大柄の花ならば大体お好みですが、特に帯の刺繍が見事な物が好ましいようです」
「旦那様が『着る物でもっともこだわるのはやはり帯だな』とおっしゃって居たのを覚えてらっしゃるのでしょうねぇ」
 懐かしげに頷く下男と老婆。
 それを聞いて岩峰は少し考える様子を見せているのでした。
「芙蓉なんかどうかな? 夏の花でもあるし、美しい人の例えで『芙蓉の顔』という言葉もあるし‥‥」
 反物を前に幾つか手に取りつつそう言うのはケイン・クロード(eb0062)。
 幾つも浴衣用の反物を呉服屋から持ってこさせて見ると、一同は聞き込んできた結果などを合わせて検討に入っているところでした。
「朝顔には多様な種類があって人気があったネ、時期を見てもそれらの図案を使うのも良いと思うネ」
 そう言いながら羽鈴が手に取ったのは帯。黒地に、一面にびっしりと銀糸で縫い込まれた朝顔の物を手に取ると、それを見た岩峰も手のかかった鮮やかな帯に手を触れて確認しています。
「私は紺地に草花が良いかなと‥‥結構ありますね。あぁ、芙蓉もありますね、こんなのはどうですかねぇ」
「へぇ、綺麗な柄ですねぇ。紺に銀糸というのも意外と‥‥」
 一同が顔を合わせて相談するのに、組み合わせた様子を何度も確認しては小さく首を捻るお喜佐。若い女性にしては、こういう華美な物の良さが分からないのか不思議そうな様子で話を聞いていましたが、やがて勧められた生地を購入して作り始めたのですが、これがもう父と兄の世話をしていたためか実に危なげなく手際よく作成されていきます。
「あら、これは‥‥まぁ、これぐらい作れて当然さね」
 実際に浴衣の出来を縫いもしっかりしているが、その紺地に鮮やかな芙蓉、それに銀糸の帯で見た目は年寄り遙かに若向きの浴衣の柄がお気に召したのか、悪態をつく気満々であったおかみは一瞬言葉に詰まり、ごにょごにょと小さくそう言います。
「化粧は私に任せるネ」
 そう言う羽鈴に押し切られるように浴衣に袖を通してしまってから、はっと苦虫を噛み潰したような顔をする母親なのでした。

●第二の関門
 第二の関門は料理。
 その献立を決めている間、それまでずっと娘の護衛をしていた雨宮零(ea9527)はふらりと出かけていったよう。
 零はおかみと関わりがあると言われる、旗本の子供達がたむろしている場所を確認に行っていたところでした。
 そこにいる男達を見ると、たいしたのは居なさそう、せいぜい1人が腕が立つかどうか、と言うところではありますが、木太刀を握らずでだとお喜佐が圧倒的に不利であることは否めません。
 相手の力量を計って零が戻ってきた頃、ケインとお喜佐は献立を決め終えて、下拵えを始めているところでした。
「あ、雨宮殿、どんな様子でしたでしょうか?」
 やはり気になるのか、料理の手を止めて聞くお喜佐。
「大丈夫です、信用してください。これだけが取柄なんですよ、僕は」
 苦笑気味に自身の刀に手を触れて笑う零。
「ここはもう少しこう‥‥茄子にはこんな風に切れ目を入れて‥‥」
 包丁の使い方は堂に入ったものだが、どうにもちとばかり大味な様子のお喜佐の手元を見て、ケインが見本を見せてみると料理の方も筋は良さそうで、もう少し遊び心が出来れば見た目も良くなりそう。
 それまでのお喜佐の料理は良くも悪くも質素で粗食。眉を寄せながらケインに教わりつつ一生懸命に客の出すお膳を用意したようです。
 そこへふらりと戻ってきた神田。どうやら自分の行きつけの店で酒の好みなどはと色々調べてきた結果、その店で一番良いとされる酒を手に入れてきたよう。
「年に僅か数桶分しか作られない幻のお酒だそうですよ」
 そう言って桶1つをとんと置く神田。
 どうやら酒食は揃ったようです。
 客間でおかみに呼ばれてやって来ていた客人は、お膳を手に入ってきた娘を見て驚いたような表情を浮かべます。
 無骨な貧乏剣客の娘と吹き込まれてやって来ていたのですが、羽鈴の着付けと施した清楚な雰囲気漂わせる薄化粧があまりに意外だったのかも知れません。
「む‥‥」
 それは出された膳の料理にも言えたようで、器の茄子の揚げ煮・鯵と茄子のみょうが和えの様にちょっと拘りのある物が出て来るとは思いも依らなかったよう。
 夏の野菜を使った天麩羅を一口口に運び、羽鈴に酌をされて飲んだ酒がまた涼やかな喉越しで、思わず唸る客人。
「ふむ‥‥おかみ、話と違うてなかなかの物ではないか」
「さ、左様にございますでしょうか? あらぁ、お口に合いましたなら嬉しゅう存じます」
 そう言いながらもどこか苦々しげな様子でおかみは頷くのでした。

●襲撃
 急ぎ足で転がるようにかけていく奉公人の青年を見送ると、忌々しげに筆を部屋の隅に投げつけたおかみは、何を思ったか居丈高にお喜佐に使いに出るように言いつけます。
 出かける支度をして風呂敷包みを手に出かけるお喜佐の直ぐ後から、女頭巾をつけ店の裏口から出て後を付けるおかみ。
 それに気が付いた岩峰はさっと用意していた正装に着替え、何やら怪しげな包みを手にやはり出かけてゆくのでした。
「えぇい、あの餓鬼共はまだ来ないのかぇ‥‥」
 苛ついたように道を行くお喜佐とその護衛の零を後ろからっていたおかみ、2人が先に行こうとするのに前へと足を出しかけたその時。
「何をする、この無礼者がっ!」
 瀬戸物の割れる音と共に頭巾で顔を隠した岩峰がぴしゃりと怒鳴りつけます。
「あ、あぁ、御武家様、申し訳もございません」
 自分の持つ店に絶対の自信があるのかそこまで深刻に受け止めた様子のないおかみですが、岩峰が包みを落として、それを見聞しているうちに立ち去ろうとし、目の前に突きつけられた白刃に甲高い木綿を裂いたような悲鳴を上げます。
「遠く阿斗乱恥酢から取り寄せた奉納の品が! 許さん手打ちにしてくれる!」
「あ、あ、あとらん‥‥ち‥‥?」
「問答無用、そこへ直れっ!」
 遠巻きに野次馬の集まる中、その騒ぎに慌てた様子で戻ってくる零とお喜佐。
「お待ちください!」
 割って入り、振り下ろされんとした白刃を扇子で受け流そうとするお喜佐に、紙一重でその刀を止める頭巾で覆面の岩峰。
「これなるは私の母御となるお人。ご無礼の程は平ご容赦を、なにとぞ!」
 格の違いを感じているか、じっとりと汗をかきつつじっと見つめ返すお喜佐に刀を収めるとくるりと回れ右をして駆け出す覆面岩峰。
「ああっ、美しき親子愛に我輩前が見えぬ。達者で暮らせよ〜!」
 などと遠のいていく声を唖然とした様子で見送ったお喜佐は、はと我に返ると、がたがた震えているおかみに手を貸して立たせるのでした。
 奉公人から金の包みを奪い取るように受け取ってからがたんと立ち上がる男達の前に、のんびりとした様子で神田が現れます。
「やめておいた方が良いと思いますけどねぇ‥‥」
 暢気な口調で言う神田ですが、馬鹿ぼん達は気圧されたように動きを止めます。
 その、気迫のこもった目で見られるのに足が竦んだよう。
「う、うるせぇ、邪魔だてするなら容赦しねぇぞ」
 本能的に感じた恐怖を拭い、神田の力量を量れなかった様子の男はずいと前に足を踏み出すと、溜息のように息をついた神田がすと刀に手を触れ‥‥。
「ひっ‥‥」
 髷が落とされたのに気が付いた周りの男達が息を飲み、続いて、ばさりと髪が降りてきた当の本人が顔の色を失います。
「ま、まま、待て、分かった、俺たちは手を引く、これを返しておいてくれっ!」
 一目散に逃げていく男達の老いていった包みを手にすると、神田はのんびりとした様子で奉公人の青年に声をかけるのでした。
「さて、戻りましょうかねぇ‥‥?」

●勝敗の行方
 一行の前に、一郎太とお喜佐が並んで顔を出すと深々と頭を下げます。
 よっぽど斬り捨てられそうになったのが堪えたか、あれからすっかりとおかみは大人しくなったそうで、2人の仲も認めて貰ったそう。
「本当に皆様、有難うございました」
 嬉しそうに笑い合うと、改めて2人は礼を述べるのでした。