好かれたい気持ち

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月17日〜08月22日

リプレイ公開日:2005年08月28日

●オープニング

 その日、1人の男がギルドを訪ねてきたとき、受付の青年はなんだかその場に似つかわしくないな、と思いました。
「‥‥実は、恥を忍んで頼みたい‥‥冒険者ならば、その依頼を秘密裏に行って欲しいと頼めばそのように取りはからって貰えるだろうと思ってな‥‥」
 四十過ぎで厳つい、身分の高そうな男が小さくなってそう頼むのには訳があるのでしょう。
「はい、勿論、承っておりますが、どのような‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥かれたいのだ‥‥」
「‥‥‥‥え? あの、申し訳ございません、聞き取れなく‥‥もう一度お願いできますか?」
「好かれたいのだと言っておるっ!」
「‥‥‥‥はい?」
 受付の青年はきょとんとした様子で男を見ると、暫く考えて首を傾げてから、恐る恐る口を開きます。
「あのぅ‥‥どなたに、でしょうか?」
「‥‥その、なんだ‥‥誰にと言われても困るのだが‥‥」
 またもや小さくなってしまう男に首を傾げると、困ったように、根気強く男の話を聞いてみると、男はこれでも政に参加する立場で、切れ物、懐刀と誉れが高い上、忠誠心もあり武にも自分に厳しい分だけ上達しているのですが‥‥。
「‥‥‥‥ただ、人望もなく、人の紹介で娶った妻とも何となくしっくり来ないのだ‥‥」
 がっくりと事情を説明するだけでどんどん落ち込んでいく様子の男に流石に哀れと思ったか、頬を掻く青年。
「で、具体的にどういう依頼を出しましょうかねぇ?」
「それが分からぬから困っておるのだ」
「‥‥じゃあ、こうしませんか?」
 そう言って受付の青年が男とひそひそと相談事。
「‥‥おお、そうだな、それが良いやも知れん。早速手配をしようではないか」
 そう言って、厳つい顔に心なしか嬉しそうな様子を滲ませて出て行く男を見送った後、受付の青年はぺたりと依頼を張り出します。
『とある武家夫婦の護衛、及び滞在の折の相手』
「これで、後はどうすれば人に好かれるようになるのかについて助言とか、色々として貰えるように口頭で説明すれば良いかな。まぁ、人望がないって思いこんでいるだけで、話せばなんだか良い人そうだし‥‥」
 そう言って、受付の青年は頭を掻くのでした。

●今回の参加者

 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2476 南天 流香(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea4321 白井 蓮葉(30歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea9032 菊川 旭(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3021 大鳥 春妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●旦那の気持ち
「おっと、護衛依頼じゃなかったのか!? そいつぁしまった」
 参ったなぁとばかりに頭を掻くのは鷹波穂狼(ea4141)。
「色恋とは意識しないところで自然に始まるものと思いますが‥‥」
 そんな穂狼にくすりと笑みを浮かべてから依頼人へと向き直って白羽与一(ea4536)はそう言うと、むむ、と難しそうな顔で眉を寄せてしまう依頼人へ軽く首を傾げて見せます。
「好かれようと努力するその姿勢は、とても良き事かと思いまする。しかしながら自分を相手好みに無理に作るより、自然体の自分をありのまま受け入れていただける方がよろしいかと」
「あ、ありのまま、か?」
 武士にとっては思いがけない言葉だったらしく、驚いたように言うのに、与一はにこりと笑って頷きます。
「奥方の好きなものなどご存じかしら?」
 白井蓮葉(ea4321)がそう聞くのにふむ、と腕を組んで考え込む武士。
「‥‥‥良く、こう、小さな花の柄の物を身に付けていたりしているので、それではないかと‥‥‥思うのだが‥‥‥」
「知らないなら聞いてみたらいいわ、好きな花とか、色とか、あと食べ物とか‥‥」
「ふ、ふむ‥‥」
「宿場町の付近でもし景色などが良いところや美味しいものを出すところがあれば、そこに一緒に行って、そう言う物の話をするのはどうかしらね」
 言われた言葉に考えつつも小さくなるほど頷く武士ににこりと笑って続ける蓮葉。
「好きな物の話をできるのは嬉しいし、一緒に楽しめたら素敵だと思うのよね。どうすれば好かれるかより、こんな時はどうしたら一緒に楽しめるかを考えたらいいんじゃないかしら」
「‥‥一緒に楽しめるか、か‥‥」
 武家が呟くと、奥方の支度が出来たと使用人が告げに来て立ち上がる一同。
 奥方はほっそりとしたどこか儚げな女性で、一行と顔を合わせるとすと頭を下げて、宜しくお願いしますと告げ、武士は奥方から荷を受け取ると一同は歩き出しました。
 一同が見ていて感じるのは、余程奥方が大切なのかまるで壊れ物を大切に扱うが如くに接している様で、奥方は厳つい武士がそのように扱うのの真意が測れずにどこかおどおどとしているようでした。
「これはこれは、ご連絡通りのお時間でございますね」
 日が暮れる頃に無事に目的の宿場町へと辿り着くと、宿の主はそう言いながら一行を迎え入れ、それぞれの部屋へと待つこともなく案内されていきます。一行の顔ぶれからどれほどの時間がかかるのかを計算し手先に連絡をしておいた模様。
 厳つい身体を小さくして奥方を気遣う様子は、慣れない女人相手というのもあるのでしょうが、何とも可哀相なものがあるのでした。

●奥方の気持ち
 一夜明けた宿場町、見ているとまだよそよそしい夫婦と顔を合わせて膳を囲んでいると、刀根要(ea2473)が『手合わせを』と話しかけます。
「では、袋竹刀で宜しいか? それが一番最大限の力を振るえると思うのだが、お互いに」
 力量次第では木太刀でも打ち合って取り返しのつかない怪我を負わせることもあるのので、と提案する武家。
「勿論、得物が何であれそれで安心だと緊張をゆるめた手合わせをなさるとは思えぬが、如何であろうか?」
「私はそれで宜しいと思いますよ? ねぇ、あ・な・た?」
「そうですね、では宜しくお願いします」
 刀根と夫婦の誓いを交わしたという南天流香(ea2476)がくすっと笑ってそう言うのに、刀根も頷き食事が終わり軽く腹がこなれてから手合わせをすることになります。
「やあっ!」
「はっ!」
 袋竹刀で気合いを迸らせ睨み合う2人を見て、奥方が微かに心配そうに震えているのに気が付くと、流香はそっと小声で話しかけます。
「大丈夫ですか?」
「‥‥は、はい‥‥ただ、御怪我をされないかと‥‥」
 そう心配げに答える奥方。
 純粋な力量勝負、どちらからと無く振り抜いた袋竹刀が辛くも数瞬早く要の胴を薙ぎ払い、要も袈裟懸けに振り切り互いにぴたりと止まります。
「‥‥お見事」
「‥‥いえ、私の負けです。強いのですね、私は前線に立ってこの程度ですのに」
 やはりどちらともなく笑って、刀根は武士に奥方が心配そうにしている様子を告げて促すと、自身も流香の所へと歩み寄るのでした。
「奥方様も、実際にお武家様がお嫌いなのではなく、実際が分からない部分が怖いのですわよね?」
 大鳥春妃(eb3021)の言葉に、躊躇いがちに頷く奥方。
 男性陣や穂狼が武士と色々と話して盛り上がっている間、女性陣は女性陣でのんびりとお茶と茶菓子を頂きながら話をしています。
「ご夫婦でそのようなすれ違いは、見ていても寂しいですわ‥‥そうです、宜しければ占いなどは如何でしょうか?」
 春妃はそう言って軽く首を傾げると、逡巡の後、小さく頷いてお願いします、と頭を下げる奥方。
「‥‥こんな風に感じられましたのですが、如何でしょうか?」
 占いを終えて結果を告げると、奥方は驚いたような表情を浮かべていました。
 結局どちらも戸惑っていること、武士の嫌われているのではと言う不安など、それを聞いて改めて自分がどういう風に考えていたのかと分かったからかも知れません。
「評判が悪いとおっしゃいますが、奥方様には、何か無体を?」
「‥‥いいえ、それはもう大切にしていただいていると思います‥‥」
 改めて振り返れば余所余所しく扱われているように思えて、その実それだけ気をつかって接してくれていると思い至った様子。
「旦那様の事どう思っています? わたくしの要様は見ての通り物腰柔らかくいい人ですから好きなんですよ♪ 危険な戦いにも飛び込む危険な人なのですけど‥‥」
「お話を伺っておりまして、その、計算尽くで動かれるとか、厳しい方で、とか‥‥」
 流香に聞かれてそう答える奥方。
「わたくしは旦那様に近そうな人を知っているんですよ。堅物で融通が利きにくくて上役にもまげない人で‥‥3度ほど逢って判ったんです、彼は実はなんだかんだ役職を全うする為、嫌われ役なども演じてきていたみたいで‥‥見ている人にはわかるんですよ、わたくしは信じれる人だと。きっとだんな様も多くはないかもしれない慕われている筈です」
 流香の言葉に考え込む様子を見せる奥方。
「厳しい方というその評判から恐れていただけなのではないでしょうか?」
 そう春妃が聞くと、奥方はこっくりと頷くのでした。

●本当は優しい人
 朝、武士と菊川旭(ea9032)は中庭にて稽古を行っていました。
 まだ自身は教えられる技量はないと言うことで鍛錬に付き合う形となっていたので既に旭は全身汗にまみれ、木太刀を振るっていました。
「‥‥ふむ、今日いきなりこの数は厳しかったであろうか?」
「失礼ながら、普段はもっと厳しく指導されているものかと思えますが‥‥普段通りでは俺が嫌がるとでも?」
 武士の鍛錬自体が渾身の力を込めての素振りの為か、本来行うような素振りよりも遙かに辛く、手を止めてそう言う旭は手が震えているのを感じつつそう聞き返します。
「む‥‥それはそうだが‥‥」
「己を偽っては貴殿が好かれることにはなりますまい。厳しく当ることに、信念があったのではないのですか? それを捨ててはいくら取り繕って表面上親しくなれてもいつかは崩れると思いませんか」
「‥‥‥その通り、だな‥‥では、数は変えずに途中休憩挟み腕と足を軽く揉みほぐして状態を見つつ、最後まで終わらせることにしよう」
 負荷をかけすぎても良くはない、と微かに口元に笑みを浮かべて頷く武士。
「有難うございました」
「‥‥いや、礼を言うのはこちらかも知れぬ‥‥」
 そう言って武士は旭に『目が覚めた思いだ、忝ない』と礼を言うのでした。
「あー‥‥もう少しゆっくり宜しいので、薄く‥‥あ、お気をつけください」
 明日、江戸へ向けて帰るという日のこと、穂狼が穫ってきた魚を悪戦苦闘しながら奥方に教わりながら何とか捌いてみようとしている武士。
 会話が途切れてしまった場合の助け船、と手伝いをしていた与一も何やらその2人の様子に小さく微笑んで見守ります。
 どうやら穂狼の助言で趣味の1つでも、と色々とやってみることにしたそうで、始めは男性が台所に入るのはと慌てて押し留めていた奥方も、それに協力して、一緒にやってみようと思ったよう。
 武士も素直にどうすればいいのかを奥方に聞くし、奥方もなんだかそんな様子を見ていると怖い、厳しいという印象とは違った面を見つけたようでどことなく楽しそう。
 出来上がった料理は片方がとても綺麗に盛りつけられており、もう片方の皿はもう少し頑張りましょう、と言った様子ですが、どことなく作り終えた武士もやり遂げたような、そんな表情を浮かべていて見ていて面白く。
「じゃあ、頂きましょうか?」
 広い部屋を借りて軽く宴会と洒落込み見ると、まだ少しギクシャクした部分もあるものの、なんだか普通に仲睦まじく見える2人。
 蓮葉に酒をがんがん進められてほろ酔いで楽しそうに時折声を漏らして笑ったり、いびつな刺身にわたわたと顔を赤くしながら弁解する様子を見ると、役目柄厳しくしつつも、こちらの姿の方が持って生まれた性質なのだろうと感じられます。
 楽しい宴も終えて江戸へと戻る日。
「‥‥自分も含め、頭では分かっていても、実際はなかなか難しいものですが」
 そう呟きつつ武家夫婦を見て微笑する与一。
 今度の旅で奥方も厳しくも本当は優しいと分かった自分の夫にわだかまりもなくなったようで、時折歩く速さを調整しつつ振り向いて心配する夫にのんびりと微笑んでその後ろをゆっくりとついていきます。
 ある夫婦は幸せそうに、在る者は2人の様子を微笑ましく眺め、そんな風に江戸への短い旅路を、一行は長閑に歩いてゆくのでした。