●リプレイ本文
●舞台は整った!
「おいおい、去年のあの一件はやりすぎたとはいえひねくれすぎだろう、親父!」
「親父、去年の事をいまだ根に持っていやがってたかよ。全く、困ったものだ」
氷川玲(ea2988)が苦笑混じりに言うのとほぼ同時に口を開く鷲尾天斗(ea2445)。
ここは親父の小屋の前にある縁台、掴み取りと釣りののどちらをするかという話をしている時の事でした。
「‥‥鷲尾、お前もか‥‥?」
「何だ、玲もやってたのか?」
「‥‥お前ら‥‥」
わなわなぷるぷると震えつつそんな2人を見ている親父の顔色はなんだか青黒くて、ちょっと健康に悪そう。
「あの時の金魚は全て子供に売り飛ばしてその日の酒代に消えたんだよなぁ」
大概酷い鷲尾にうがーっと吠える親父。
「まあ、自分で蒔いた種だし勝負は受ける。俺は誰の挑戦でも受ける!」
吠えている親父に、びしっと氷川はそう宣言している横で、何やら怪しい笑みを浮かべる男が1人。
「ククク‥‥」
低い声で不気味に笑う夜十字信人(ea3094)は、何やらふらぁりと立ち上がって親父を見ます。
「真正面から冒険者に挑戦するとはな、中々の気骨の親父よ‥‥よかろう、剣客、夜十字信人、正々堂々、真っ向からお相手いたす」
じゃきん、とクレイモアを抜き放つ夜十字をがっしりと掴むとこらこらとばかりにカイ・ローン(ea3054)が止めていたりします。
「‥‥なに? 魚? 釣り? 掴み取り? 新手の妖怪の名前か?」
素で聞いている様子の夜十字は、その挑戦がまさか掴み取りや釣りとは思わなかったらしくきょとんとした様子。
「‥‥いや、まあ、良いよ。何でも良いよ。それが任なら果たすだけだ。果たすだけだからそんな刺すような目で見るなよ」
なんだかすごすごとクレイモアをしまいつつ、カイのお手伝いに来ていた所所楽石榴から説明を受けつつ、石榴の持ってきていたおにぎりをぱくついて腹ごしらえ。
「本職と冒険者の名にかけて金魚屋のオヤジの挑戦、負けるわけにはいかねぇぜ!」
唯一女性の参加者、鷹波穂狼(ea4141)がばんと背後に炎を背負って親父に言うと、親父もかかってきやがれ、と無駄に燃えています。
「『のるまん』から故郷に戻ったばかりだし、のんびり過ごしたかったが‥‥まあ、これも一興か」
燃えている人々とは対照的に鑪純直(ea7179)は一角でやはりおにぎりを頬張り茶を飲みつつ眺めています、まるで他人事のように。
「あ? 我が輩もちょっと暇つぶしに糸をたらしに来たのだ〜」
「ここは『釣り堀』と認識して良いのだな? 素手での掴み取り希望者が多そうなので某は太公望の物真似を」
トマス・ウェスト(ea8714)も釣りを希望のようでそう言うと、純直は軽く首を傾げてそう言いました。
●のんびり、闇の中で釣り
釣りの回を先に始める事に決まった一行、掴み取りの面子はの時間が来るまで様子見をです。
「喧嘩釣りもまた楽しかろうが、今回は童心に帰りたい‥‥」
そう言う若人・純直は、諫早似鳥が餌になりそうな物を詰めた壷を渡してくれており、それを使ってのんびりと釣り糸を垂らします。
釣りには純直の他に『丁度祭りに行く所だったし、面白そうだから参加させてもらおうかな』と軽い気持ちで参加したカイ、それに『フグが釣れてしまったら、我が輩の毒物コレクションが増えてしまうね〜』と少し不吉な事を口走っているドクターの姿が。
「依頼人の様子からとんでもないものがありそうだな。なら、生け簀に入らずにすむ釣りで参加するか‥‥」
そう言い貸し出し中の釣り竿を手に闇の中で釣り糸を垂らしたカイが、最初の当たりを感じました。
「くっ、なかなかの重量‥‥っ!?」
一瞬、引き上げたと思った巨大な物体は、釣り竿がその重みに耐えきれなかったようでなかなか派手な音を立てて折れた竿ごと沈んでいきますが‥‥それは確かにたぐり寄せて微かにしか判別つかなかった物の、円形の板に足のついた卓袱台。
「‥‥ぉぃ‥‥」
何でそんな物がとでも言げな様子のカイでしたが、直ぐに親父を呼んで替えの竿を借りて再び釣りへ。
カイはやがてそろそろ元気がなくなりかけていた海老と手拭いを釣り上げるのでした。
闇の中意識を集中させて居た純直は、お手製の小鳥の羽と木材の端くれで作った羽虫の疑似餌の手伝って、順調な様子。
くいと引く得物と慎重に駆け引きを行い、次々と魚を釣り上げていました。
と、魚の引きとは違う、何かが引っかかったような手応えに引き上げてそれを手に取ると、油紙に包まれた何やら箱のような物が。
「‥‥掛け軸‥‥?」
箱の様子からそう判断をつけて首を傾げる純直。もっとも暗いので確信は持てない様子でした。
そして、更に離れたところで1人釣り糸を垂らしていたドクター。
魚もどちらかというと普通の物ではないかと思うような物ばかりだったので少々残念そうな様子だったのですが‥‥。
「お、なかなか良いものが釣れた‥‥」
言いかけたドクターが引き寄せた得物を触ってみるみる顔を青くさせます‥‥暗闇で見えませんが。
「Oh〜! デビルフィッシュ!」
釣り上げた物に絡みついていた様子の蛸が、その叫びと共にドクターに襲いかかります。
見る見る墨で黒く染まるドクター。
昏倒して運び出された真っ黒なドクターの上には、くねくねと暴れるたこと、そのたこが絡みついていた面が乗っけられているのでした。
●激突、闇の中で勝負!
「魚掴むのは初めてだが女の体と心は掴んだ事はある、ならばやってやれない事はない‥‥・野郎のナニを掴まず、自分のナニも掴まれないようにせねば」
いきなり大人な発言満載の伊達正和(ea0489)は、ていっと暗闇の中生け簀に手を突っ込んでごそごそと生け簀の中を漁り始めます。
釣り組の1人がさっさと医務の人達の方へと運び出されたのを横目に始まった掴み取り組は、どうやら初っぱなから白熱しているようです。
「ふむ、これは何入ってそうだ、とりあえず懐に‥‥この感じ。来るっ、鷲尾かぁっ!!」
なにかと交信したかのようにばっと飛び退りつつ掴んだ物を当てずっぽうに投げつける伊達。それを投げた先には氷川の姿が。
「なんか飛んできたああああああああああああああああ!?」
絶叫と共に口へと飛び込んだ物を何とはなしにぱくり、もぎゅもぎゅごきゃべしゃ‥‥ごっくん。
「鷲尾てめぇかああああああああああああああ!」
「まだ何もしてねぇぞっ!?」
でろりと溶けた、何やら甘い味わいの異国菓子が口いっぱいに広がった氷川、飲み込むと同時にがっしり掴んだうねうねとした生き物を、声のした方、微かに判別した人影へと投げつけます。
がいん、と思ったより投げつけると固くて痛かった物を受けて頭を押さえる鷲尾。
「暗くされた小屋の中‥‥女の子が居ればイヤーンとかがあるのだが‥‥よりにもよって鷹波だけで後は野郎とは‥‥しかも全面的に色々と俺らしい‥‥」
そう言う鷲尾、負けじと水へと手を突っ込んでごそごそしているうちに何かを掴んだよう、それにオーラパワーをかけるとほのかに輝く鷲尾の手元‥‥。
「そこだっ!!」
これ倖とばかりに光るところへ一同集中狙い。
「む!? そこだ!! チェェェェェェストォ!!」
魚相手にやる気と言うより殺る気満々で素早く手を繰り出し‥‥それが飛んでいくのは伊達の後頭部。
「やりやがったなっ! 鷲尾!」
「だから俺じゃねーっ!?」
既に掴み取りはどこへやら。
「くっ! こいつぁ大きな鯉が‥‥おら、穫ったぜぇっ!」
そんな中、頑張ってお魚捕獲を続けているのは穂狼。穂狼は天馬巧哉の助言も有ってかなかなか良さそうな魚の溜まっている場所を最初から当たりをつけて行っているので穂狼の籠はすっかり大漁旗が上がりそうな勢い。
と、そんな穂狼も‥‥。
「お?」
「がはっ!」
「すまねぇなっ! 誰か殴った気もするが暗いからしょうがねぇよな!」
派手な水音共にすっ飛ぶ夜十字は、がぼがぼと藻掻きつつ何か棒のような物を掴んで必死に起きあがります、懐や袖口に魚や鰻がうじゃうじゃと入り込んでくるので掴み穫るよりは大漁だったかも知れません。
「くっ、少なくとも喰らった物で親父の入れた物は分かった‥‥」
なんだか満身創痍の鷲尾が手当たり次第に魚籠に生き物らしき物を突っ込んでいくも、ふと頭上を何かが飛んでいったような‥‥。
ばきっ‥‥みし‥‥べりべりべり!!
伊達の掴んで投げた物が小屋に致命的な被害を与えたようで、大音響で響く小屋内、段々と薄明かりが入ってきたかと思うと、四方に分解して倒壊する建物。
なんだか生け簀は無事でしたが、呆然としていて釣り組の人達と違って避ける気も起きなかった親父に壁が直撃した以外は、奇跡的に何の被害も出なかった様子なのでした。
●親父の背中
「去年はすまんかったが、ちゃんと普通の人も楽しめる事をやった方が良いんじゃないか? ‥‥自分の為にも」
一応そう言って慰めつつ説得する玲の手には何故か狸の人形と丸々肥えた鰻が。どうやら友人の店に行って捌いて貰う気満々で、腰に付けておいた魚籠にも魚の尾びれがびちびち見えています。
「って、親父なにぼーぜんとしてるんだよ」
ある意味ずたぼろの様子の鷲尾がそう声をかけると傍らの愛犬・太助を見て吃驚。
「って、太助君!! なに誇らしげにものすごいもの咥えてやがりますか!!」
小さな刀をくわえて誇らしげな太助君がある意味店主へのトドメだったよう。
「ちくしょー、次はっ! 次は絶対負けねぇからなっ!」
勝利条件が何やら分からないのですが、そう言って泣きながら駆け去る親父の背中が、ちょっぴり寂しく。
何はともあれ、一行は怪しげな物品と、彼等のお腹を満たしてくれそうな美味しそうなもの達と共に、そんな親父を見送るのでした。