【船宿綾藤・新装開店】中庭でお祭を

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:易しい

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2005年09月14日

●オープニング

「と言うことで、私、うちのお店でお祭りもどきをするんですが、そのためのお手伝いをしてくれる人が若干名必要なんですよねぇ‥‥」
 そう言って受付の青年を見るお藤。
 この、船宿綾藤の女将・お藤は先程はやたらと物憂い様子だったのですが、受付の青年と話しているうちに打って変わって楽しそうに話をし始めていました。
「まぁ、そんなに混み合わないんだったらあれなんですけどねぇ‥‥それでも、通常のお客様は通常のお客様でやはり来ていただいていますので、従業員を全てお祭りの方へと駆り出すわけにはいきませんでしょう?」
「‥‥そりゃまぁ‥‥それは不味いと思いますよ、流石にお店としても」
「でしょう? ですので、料理人は一括でお客様に出すのと同じ料理を作って小分けにして貰うこととして、いらしたお客様のお相手をしてくださる人をと、こう思いましてねぇ」
 そう言うお藤の言葉に頷く受付の青年。
「あとは、こういうお祭りや、安価で飲み食いできる場所には、結構酷いお客様も現れたりするもので、それに対しての護衛も含んで、お仕事をお願いしたいのですけれど‥‥」
「護衛兼、お祭りもどきの店員さん募集、で良いんですか?」
「はい、是非それでお願いしますよ」
 そう言うと、お藤はにこりと笑ってお願いをするのでした。

●今回の参加者

 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8535 ハロウ・ウィン(14歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●宣伝!
「お祭りかぁ‥‥こっちの国でこういうのって初めてだからドキドキだね。ん〜、楽しみ〜♪」
 ミリート・アーティア(ea6226)は楽しげにそう言うと、きょろきょろと一同を見合わして‥‥軽く小首を傾げます。
「あれ? 神田さんはどうしたんだろう?」
 ミリートはそうは言いつつも直ぐに来るだろうと思ったのか早速腕まくりをして、女将であるお藤に襷がけをして貰います。
「お手伝い、お手伝いっと。人数少ないけど、それでもガンバだよ♪」
「僕はまずお祭りもどきを船宿綾藤で催しているって、宣伝しようと思うんだ。出来るだけ多くの人に知ってもらった方が良いからね」
 そう言うと、お藤と何やら宣伝用の文面を相談し始めるのはハロウ・ウィン(ea8535)。
「ついでにその旨を書いた布を用意できるか?」
 そう言って大きい布を引っ張り出してきたのは聰暁竜(eb2413)。
「こんな具合でようございますか?」
 なかなかに達筆のお藤、堂々とした宣伝文句を書くと、暁竜は頷いて立ち上がり部屋を出て行くのでした。
「‥‥という事で綾藤さんでお祭りがあるのですよ」
 馴染みの店で馴染みの呑み仲間達を前に今回の依頼をどことなく嬉しそうな様子で語るのは神田雄司(ea6476)。
「みんなで飲んで食べて楽しむという粋な計らいですよ。さすがですねえ、綾藤さんは」
 上機嫌な様子の神田に突っ込み処満載とでも言いたい様子の仲間達ですが、とりあえずは良いなぁ、とか凄いなぁとか相づちを打っています。
 なにぶん、綾藤は料理の評判も良ければお店の女将も看板娘のお燕もそこそこ名前が知れていますが、飲み屋でこうして集まっている彼等にしてみればちょっと普段は手が届きにくいお値段。
 とは言え綾藤は良心的とも言われる値段ですし、伝手が有れば大分色々と計らってくれるとのことですし、興味がないわけではなさそう。
「あっ、神田さん、こんな所にいたんですか?」
 不意に上がった声で顔を上げると、ハロウがなにやら布を抱えてお店へと入ってきたところです。
「済みません、これ、ここに貼らせて貰っても良いですか?」
 ハロウはそう言って許可を取ってぺたりと壁に綾藤のお祭宣伝の布を貼り付けて、神田を引っ張って出て行きます。どうやら手分けして宣伝のようです。
「ということで皆さんも来て下さいよ〜」
 そう言いながら神田とハロウは店を後にするのでした。
「わぁ、凄い、垂れ幕だ〜♪」
 宿の前へと出てきて振り返ったミリートは、先程暁竜が持て出て行った布が屋根から下げられているのを見て驚いたように声を上げます。
 恐らく暁竜が手早く掲げたのでしょうそれは、とても一目を惹く良い宣伝になりそうです。
 さて、宣伝に歌おうかと発声練習を始めるミリートですが、そこにやって来た美琴と目があってにっこりと笑います。
「道行く方々、どうか少々お時間を♪ 本日料亭綾藤は〜暑気払いのお祭りにてございます♪」
 そう竪琴を鳴らして歌い出す美琴に驚いたような表情で見るミリート。
 美琴の呼び込みの声が終わると、ミリートはにこにこ笑って美琴を見ます。
 ミリートが何をしようというのかが分かると、美琴も直ぐに微笑んで頷き。
 美琴の竪琴に合わせてミリートはのびのびと歌い出すのでした。

●楽しいお祭
 ハロウはお藤を見かけると、ふと持ってきた鮮やかな色合いの朝顔の鉢を幾つか、お藤に見せて首を傾げます。
「お藤さん、この朝顔とこれなんだけど、飾っても良いかな?」
「あら、綺麗な朝顔じゃないですか。‥‥この冬瓜、不思議な形していますねぇ?」
「うん、僕が作ったの♪」
「勿論ですよ、なんだか可愛らしいじゃありませんか」
 にこにこして頷くお藤に、嬉しそうな顔で早速飾りに行くハロウ。
「ささ、この酒をどうぞ。灘から到着した酒ですよ」
 愛想良くお客に接しているのは神田。
 時折飴細工をしていた、お客として参加の僧兵嵐山についでとばかりに差し入れたりしているようで、なかなかお客と一緒に楽しんでいるように見受けられます。
 祭りの中で、暁竜がお藤と話して急遽作った団扇を取り掛かる人に配って中へと誘い、中ではお客として雇われていたはずの冒険者達までもが大騒ぎで空飛ぶ異国の箒に子供を乗せたり蕎麦の屋台を出したりと賑やかにやっているのが見えます。
「はい、お客さん、ご注文のお料理ですよ〜♪」
 混み合った客の合間を縫ってお膳を運んできたミリートに、上機嫌で酒を交わす浪人2人が顔を上げて笑いながら頷きます。
「あ、お酒注ぎましょうか?」
「お、悪いねぇ、やっぱり女性に注いで貰う酒は格別だなぁ、なぁ?」
「おぉ、何かこう、酒の味が変わったかのような気がするよな」
 などと言ったやり取りが繰り広げられている奥では、何やら名物男が簡易土俵を用意して、何事かを企んでいる様子も見えます。
「あぁ、お疲れ様です。こちらで少し休まれません?」
 暁竜が一通り団扇を配り終えて戻ってきたのに気が付いたお藤が微笑を浮かべつつ招くのに歩み寄り縁側に腰を下ろすと、すかさず出される酒杯に、暁竜は目を向けます。
「先程からずっと働き通しですからねぇ、少し付き合ってくださいません?」
 酒を飲むのに理由付けまで考えて言うお藤に微苦笑とも付かないほど、僅かに口を歪めると、暁竜は杯を受け取るのでした。

●気合いを入れろ!
 あいつら来ないなぁ、などと考えながらちびちび料理を摘みつつ働いていた神田は、太会に入る門を潜った少々厳つい、そしてとても見覚えのある集団を見つけて笑みを浮かべつつ歩み寄ろうとして、そこに名物男が現れたのに気が付き軽く首を傾げます。
 どうやら愛犬太助君と共に怪しい浪人達と見て捕獲しに行ってしまったよう。
「あ、あぁ、そちらの人達は違うんです、私のお友達で〜」
 慌てて止めに入る神田。
「あれ? 何だ、そうなのか、悪いな間違えて」
 そう言いながら笑って歩き去る名物男を見送って何を言われたかを聞くと、危うく根性入れの相撲大会に強制参加させられるところだった、などと言いながら神田の案内について空いている席へと向かいます。
「さて、じゃあ何から持ってきましょうかねぇ?」
「おおっ、ほんとにこの値段でこんなのが食べられるのか!?」
「じゃ、じゃあちょっと贅沢にこれを‥‥」
 お品書きを見て思った以上に良い食いつきにちょっと嬉しく思いつつ料理人に頼んだ物と酒を用意して貰い運んでいくと、ちょっぴり羨ましげに呑み仲間達を見る神田。
「あら、神田さんのお友達ですか? でしたら、ご一緒したらいかがです?」
 お酒のお代わりを運んでいた様子のお燕が通りかかって言うのに悪いと形ばかりは断る神田ですが、『ずっと頑張っていらっしゃったのですから女将さんも許してくれますよ』と言っておつまみと新しいお酒を差し入れて立ち去るお燕を見送ると、神田はしばし友人達と酒を楽しんだ様子でした。
「あのね、あのね、みんなちゃんと代金とかの約束を守ってるの。勿論、子供もね。なのに、大人のおじちゃんたちが守らないのはおかしいよね?」
「な、何だと、この餓鬼っ!」
 うわずった声でそうミリートに怒鳴りつけるのは、当たり前のように破格値の飲み代を踏み倒そうとする、いかにも小悪党と言った様子の破落戸達。
「ね、お願い、あの人達の武器を‥‥」
 プラントコントロールを使って、飾り付けてあった朝顔にお願いをすると、激昂した男がさっと抜いた匕首を後ろからひょいと奪い取る朝顔。
「なっ!?」
 そんな朝顔に吃驚したように見た破落戸は、ぎろりと鋭い視線を投げかける暁竜に気が付いて狼狽した様子ですが、そちらに気を取られていたためかがっしりと捕まえに来た鷲尾と嵐山に気が付かなかったよう。
 さっくりと捕獲されて簡易土俵の上で力士を生業としている嵐山に泣いて許しを請う姿はなんだかちょっと憐れで、開放されて暁竜が外へと連れて行くのにも大人しく付いてきて、入り繰りの戸を潜ると這々の体で逃げ帰ったのでした。

●そして行く夏
「ん〜、冷たくてとっても美味し♪」
「本当だね、甘くて美味しいや」
 夜も更けてきて、段々と静かになっていくお祭の中庭。
 一同は行く夏を惜しみつつ思い思い菓子や料理、お茶や酒を頂いて静かに過ごしていました。
 その中で、料理人に良く冷やした白玉と桃を和えた菓子を振る舞われて、その冷たさ、ほんのりとした甘さにミリートとハロウは楽しげに食べながら、お祭の話をしては楽しそうに笑っています。
「でも、本当に楽しかったね〜」
「うん、あんまり悪い人達とかもいなくて良かったよね」
 縁側に腰を降ろしてそう言うと、2人はまたにっこりと笑って白玉を救って食べるのでした。
「夜もすっかりと秋っぽくなりましたねえ」
 こちらは年長組。
 中庭に面した座敷で酒と肴を前に月を眺めながらいるのは神田と暁竜、それに料理を運んできてからそこでのんびりと休憩を始めたお燕の3人。
「お二人は今日のお祭どうでしたか? こういう事って初めてしたので女将さんとも皆さんにも楽しんで貰えたらよいのだけど、なんて話してたんですけど‥‥」
「お酒の料理も美味しくて、お祭も賑やかで楽しかったですよ」
「‥‥悪くなかった」
 お湯のみをおいて軽く首を傾げて聞くお燕に神田はにこにことそう言い、暁竜も酒杯を手にそう答えます。
 それを聞いて嬉しそうに笑うお燕。
 窓からはもう一つの座敷でお藤が他の冒険者達を相手にお祭について何やらあーだこーだと話しているのが見え、それを心底楽しんでいるのが分かると、暁竜は微かに口元に笑みを浮かべてから、杯をぐっと飲み干すのでした。