旬の食材〜葉月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月05日〜09月10日

リプレイ公開日:2005年09月14日

●オープニング

「おや? どうなすったんですか?」
 ギルド受付の青年が顔を上げてその2人を迎え入れたのは、まだ完全には暑さの収まらない、とある昼下がりのことでした。
「あー‥‥‥冒険者さんを一通りお借り頂きたく‥‥」
「‥‥旦那様、一通りって言うととんでもない数になりそうなんですが‥‥」
 すっかり顔馴染みになった商人はどこか遠くを見るような目で言うと、それにいつもの切れが無い丁稚の少年が、これもまた白目がちでそう突っ込みを入れています。
「‥‥本当に、どうなすったんですか、お二人とも‥‥」
 冷や汗混じりに聞くと茶を出して事情を聞く受付の青年。
「実は、なにやらとっても偉そうな御武家様の接待を頼まれまして‥‥」
「ほぅ、接待‥‥で、どちらに頼まれたんですか?」
「あぁ、色々とお世話になっております与力の方で、津村武兵衛様という方が、長谷川何某とか言われた編み笠に着流しの御仁を連れていらっしゃいまして‥‥」
 額を手拭いで拭いながら思い出してかつっかえつつ言う商人に、丁稚の少年も頷きます。
『ちと良い物が手に入りそうなので、それを使って‥‥出来れば冒険者の方々に、江戸であった事件などを話の種に接待していただきたいと‥‥』
 そう言われては頼まれたら嫌と言う気がない商人、二つ返事で受けてしまったので大変。
「あと、何やら接待なさるお侍さんについては『詮索無用で頼む』だそうで‥‥」
「はぁ、なんだか大変ですねぇ‥‥で、今回の食材は?」
「太刀魚と地鶏を用意していただけるそうで‥‥あとは必要な物は揃えますし‥‥」
 そう言うと、商人と丁稚の少年は、何とか手を貸してください、と頭を下げるのでした

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2657 阿武隈 森(46歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5299 シィリス・アステア(25歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●準備と料理
「いつも通りの接待に恥じる所はないよな? だったら接待するのが誰だろうと変わらないよ。楽しんでいってもらおう。と、同時に自分も楽しまないと。宴に楽しんでない人がいると寂しいだろ?」
 とっても緊張気味の商人と荘吉にそう言うのは菊川響(ea0639)。
「それは、そうですけど、なんだかこう、立派そうな御武家様だったもので‥‥」
「‥‥詮索無用って事らしいですけど、長谷川何某って、もしかして‥‥」
 商人が照れたように笑うのに、荘吉はその名前に聞き覚えがあるのかまだ少し強張った表情で首を傾げます。
「まぁ、任せてくれればいいよ」
「‥‥そうですね、宜しくお願いいたします」
 ぺこりと頭を下げる荘吉に笑いながら菊川は頷くのでした。
「分かってたさ。講談一つで飲み食いできる依頼なんだから、料理人が少ないのはさ」
 カイ・ローン(ea3054)はそう言いながら太刀魚を手に取っていました。
「偉いお武家様の接待か〜。うん、頑張って満足してもらえる料理を作らないと」
 カイの隣ではどこか楽しげに良いながら地鶏を解体したものを大きな笊の上にのっけて厨房へと戻ってくるケイン・クロード(eb0062)の姿もあります。
「料理の腕はどちらかと言うと素人同然だが‥‥」
 良いのか? とばかりに良いながら御飯を炊くのは阿武隈森(ea2657)。
 卵やら買い出し組に頼んで手に入れてきた珍しい食材の数々を前にしながら、阿武隈の言葉に軽く首を振ってカイは口を開くと、太刀魚に包丁を入れます。
「冒険者に料理人も頼むということは普通の和食ではないものということかな?」
「まぁ、商人さんと荘吉君自体が料理人に頼むよりも冒険者の人と楽しく食事をっていうのが多いからじゃないのかな?」
 そんな風に話しているところに、荘吉が現れると、阿武隈に手を借りたいとお願いをしているよう。
「あぁ、これはおまえ1人じゃ運べないな」
 阿武隈が勝手口を出ると、そこにはどんと酒樽が幾つか運ばれて来たところで、思わず笑いながら阿武隈は言うのでした。
「律吏、食事の席だ‥‥髪を結い上げた方が良いであろう?」
「千里か、ん、なんだ?」
 白河千里(ea0012)が掃除の鬼と化して雑巾がけをしているところを、部屋の準備に色々と手をかけている天螺月律吏(ea0085)が通りかかるのを見つけて何かを差し出します。
「使え」
「‥‥あぁ、ありがとう。‥‥‥‥これでおかしくないか?」
 受け取った銀色の物を使って髪を結い上げて止めると、そう言って感想を求める律吏に何やらガックリというか、湯気が出そうな様子の白河。
「‥‥さっぱりして良いと‥‥思うぞ」
 それだけ言って井戸へと出て行く白河の様子にとくに気が付かないように、何やら律吏はご満悦で部屋の準備に戻るのでした。

●客人の名は
「大変失礼だが、お名前を伺っても宜しいか?」
「それは‥‥」
 武家を座敷に迎え入れると、菊川は武兵衛が連れてきた長谷川何某にそう問いかけていました。
 座敷には料理を運び込む間に陣取った阿武隈・菊川・律吏が既に陣取っており、シィリス・アステア(ea5299)も笛を手に控えています。
 客をもてなす上座には武家と、その傍らに控えるのは津村武兵衛与力。
「まぁ俺は田舎者で、周りに姓なしの者の方が多い環境で育った影響が大きいんだけど‥‥何々家の方として話してるんじゃなく、その方と話しをしたい」
 そう言うと、ちょっと頬を掻く菊川。
「明かせないのなら今思いついた名前で構わないから、貴殿を表す名前をお呼びしたいとそう思う」
「しかし、詮索無用と‥‥」
「良い、津村」
 それまで黙ってのんびりと話を聞いていた様子の長谷川が低い落ち着いた声で言うと、武兵衛は口を噤んで頷きます。
「失礼仕った。某は長谷川平蔵宣以。此度よりとある任を受け江戸市中を回る事となった。そこでな‥‥」
 そう言うと平蔵はにやりと笑って傍らにいる武兵衛にちらりと目を向けてから菊川の方に軽く身体を乗り出すようにして、笑いを含んだ声で口を開きます。
「どうにも、この津村は冒険者がいたく気に入っているようでなぁ‥‥それならば俺も会うて話を聞いてみたいと、こう思ったのよ」
 そう言うと白河やケイン、カイが料理を運び込んできて並べられると平蔵はその香りに目を細め白河達が下がって待機しようとするのに笑いながらかまわないとばかりに声をかけます。
「そうかたっくるしくちゃいけねぇ、皆で美味い物を喰いながらゆるりと話そうじゃねぇか」
 そう笑って平蔵は、武兵衛に手の杯へと酒を注がれつつ、一同にも食事を促すのでした。

●宴と話
「ふむぅ、こいつは良い‥‥」
「これは胸肉の脂肪を取り除いてから、細かく切ります。牛蒡を短く、太めのささがきにして‥‥」
「なるほど、これは女房殿に話して1つ、今度作って貰うこととしようか」
 ケインが料理を説明すれば、いたく気に入ったようで、酒も進むが食事も進む。
 シィリスが先程まで笛を演奏して耳を頼ませていたのですが、共に食事を取りながら話を聞こうではないかと誘い、皆の話を楽しげに聞いているよう。
「津村、これは異国の料理らしいぞ?」
「げ、月道渡りの料理‥‥」
 何やらどぎまぎした様子で既に食べて舌鼓を打つ平蔵から勧められた武兵衛が、月道渡りの品物として高値の付いていた粉チーズを満遍なくまぶして焼き上げた太刀魚の切り身に恐る恐るといったように箸を延ばしてみたりと賑やかに食事は進んでいきます。
「江戸での冒険譚‥‥面白い所だと、依頼人がカワウソってのもあったな。しかも古来から伝わる『数競闘(すけいとう)』という競技に参加したりして」
「川獺の依頼ですけいとう?」
 焼き鳥の串を手にしながら言う律吏に、こちらもまた手羽先を摘みながらの平蔵。
「先月の荘吉殿からの依頼の時に買ったレモンなんて、他所じゃあんまり使わない物のようだったし、柑橘類繋がりで、去年ギルドにいた親父さんにみかん風呂いれてもらったっけ‥‥」
 律吏が川獺の話をしてみれば珍しいことと目を細め、菊川は懐かしげに逆に励まされることが多いと言えば、物事とは全てそう言うものであろうな、と自身も色々なことに思いをはせたか思いのほか真摯に耳を傾けています。
「『依頼』というものを通して様々な人々と触れ合うことは学ぶことも多く、自分の未熟さを知る良い機会ともいえるだろう。未熟と言えば‥‥死人を操る敵と遭遇したこともあったな。結局、真相は闇のまま、そしてとある人物が命を落とし‥‥いや、これは酒の席には似合わぬ話だな」
「己の未熟を痛感するのは幾つになっても同じ事。それを心に刻み、縛られず、糧にしてこそであろう? 改めて考えさせられる良い話と思うがのう」
 律吏の言葉にしみじみと言う平蔵。ふと傍らにいる白河へと目を向ける律吏。
「そうだ千里も何か語ってはくれぬか?」
「律吏から話を振られたので私も‥‥。私は食べ物が絡んだ仕事を好む傾向にあり、茸、幻の酒、野外鍋、鰤、蛸‥‥冬と春に茶席、幼子の節句を祝った事も有りました」
「ほう、ギルドの依頼というのは、思いのほか多岐にわたるようだな」
 太刀魚の刺身を箸で摘みつつも、意外と思ったようでそう言う平蔵に、白河は続けます。
「四季折々、多彩な食・文化に恵まれた土地ならではの仕事を通じ、触れ合う人々に心癒される事多数。仲間との意思疎通等‥‥変化に飛んだ世界ですよ」
 そう話していた白河は、ふと目元をゆるめて思い出すように付け足します。
「種族を超えた出会いも有りましてね‥‥河童の子が冒険者になろうと頑張る姿はなかなかに感動的ですよ」
 平蔵が頷いて笑うと、そこへ阿武隈が白い熱々の飯に三つ葉と鶏肉、それに卵を混ぜて火を通したそれをかけて持ってくると、平蔵は受け取って一口口にして笑みを浮かべます。
「あー‥‥とりあえず俺の好物を作ったワケだが、本当にこんなんで良かったか?」
「あぁ、この白い熱い飯に相まって、これは旨い」
 などなど、お持てなし用に用意された料理は次々と消費されていきます。
「さて。んじゃ俺もお相伴に預からせてもらうとするか」
 そう言ってどっかりと腰を下ろす阿武隈に笑って杯を差しだす平蔵。
 それを当たり前のように受けて注がれた酒をぐっと飲み干すと、これまたその飲みっぷりに平蔵も低く笑って自身の杯を手酌で満たします。
「僭越ながら、笛を演奏させて頂きたいと‥‥」
 賑やかに江戸の話をしていた声も次第に途切れ、それぞれに時間を過ごし始めた頃、シィリスはそう平蔵に声をかけ、平蔵もそれを忝ない、と言って軽く頭を下げます。
 そろそろ潰れる者が出てきてそれを介護する者が席を立ったり、まるで旧知の仲であったかのように酒を交わしつつ和やかな時を過ごす者がいたり。
 シィリスの静かな笛の音と共に、夜は更けていくのでした。

●お持てなしの感想は?
「いやいや、すっかり世話になって済まんな」
 すっかりと夜を明かしてしまった一同は、全く酒の影響を受けていない様子の平蔵と武兵衛を見送りに立っていました。
「非常に楽しかった。またこの様な機会が取れると良い」
 そこまでいって、まだ何やら緊張した様子の荘吉の頭をくしゃりと撫でると笑いながら平蔵は津村を従えて店を出て行きます。
「では、またな」
 そう言ってにやりと笑って振り返るとゆっくりと戻っていく平蔵を見送ると、一同は改めて、お持ち帰り用の料理などを始めてみたり。
 幸い材料はまだたっぷりあります。
「ほら、お前さん方も、昨夜はあまり食事も喉を通らなかっただろう」
 そう言って阿武隈に2人用の料理を出されると安心したためかほっとした表情で、帰っていった2人のことを話ながら嬉しそうににこにこと食事をする商人と荘吉。
 ちょっぴり緊張のお持てなしの席は、少し寝不足の状態で幕を閉じたのでした。