なかなおり
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月20日〜09月25日
リプレイ公開日:2005年09月28日
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●オープニング
その日、珍しいことにギルドに幸満の手を引いてやって来たのは弘満ではなく、弘満より年嵩の兄の1人でした。
「申し訳ない、護衛をお願いしたいのだが‥‥」
そう言うとその20ほどの青年はギルドの受付が勧めるままに席に着き、幸満を膝に乗っけて話し始めます。
「近頃、江戸の町が少々物騒になってきたので、暫くの間弘満と幸満、それに私の上司のご子息を江戸から1日ほど行った所にある、この子達の爺やだった者の所に預けることにしたので、その護衛を頼みたい」
そこまでいうと、青年はひょいと幼い弟の頭を撫でて続けます。
「あとはこの幸が、私達兄には言えないらしいが、何やら冒険者の皆さんに頼みがあるらしいので、出来れば聞いてやって欲しいのだが‥‥」
そう言う青年に受付の青年も幸満へと目を向けると、幸満はこっくりと頷いてじたじた兄の膝から降りると、受付の青年の耳元で何やらひそひそ内緒話をしようとするのですが、良く聞き取れません。
「やれやれ、私は少し席を外そう」
苦笑気味にそう言うとその場を離れるその兄を見送ってから、幸満はくいっと首を傾げて口を開きます。
「ゆき、お兄ちゃんと、道場で一緒のたかお兄ちゃんになかなおり‥‥」
「えっと、たかお兄ちゃんって、その、一緒に爺やさんの所に行く?」
「うん、お兄ちゃんよりちょっと小さいんだって。だから、おけいこするところで、たかお兄ちゃんとお兄ちゃんはなかよしだったのに、けんかしちゃったの」
ぐすぐすと目に涙を溜めながら言う幸満。
つっかえつっかえ話す幸満から事情を聞いたところ、たかと言う少年は一人っ子のため、弘満が道場に来るようになってから、兄のように懐いて、道場へと連れてきていた幸満を弟のように可愛がってくれてたそうです。
ですがつい先日、些細なことから口論となり、それでなくても何かと幸満の事ばかり気にかけている弘満に、幸満なんて、と言ってしまったために普段は大人しい弘満も怒ってしまったそう。
「だから、おくってもらったら、かえるまでに、お兄ちゃんたち、なかなおり‥‥」
「だ、大丈夫だから、きっと仲直りできるように、護衛の人達にもお願いしておくから、ね?」
ひっくひっくと泣き出す幸満におろおろと手拭いで涙を拭いながら宥める受付の青年は、まさしく必死といった様子でそう約束するのでした。
●リプレイ本文
●道中
「弘満殿・幸満殿、またご一緒させてもらうよ、よろしくな」
「幸満、弘満久方ぶり」
菊川響(ea0639)が声をかけると、白河千里(ea0012)も2人の少年に挟まれておろおろしていた幸満に気が付いて、歩み寄ってそう声をかけます。
「‥‥お久し振りです」
ぺこりと頭を下げる弘満に笑いながら頷いて、傍らも、むっとむくれた様子の十を過ぎたばかりという様子の少年へ向き直って口を開く菊川。
「高由殿は初めましてだな、よろしく頼むな」
「私は志士の白河千里、宜しくな」
むくれたままでいた高由ですが、白河がにこやかに差し出す手に気圧されたかのように思わずその手を握るとぶんぶん振られる手に吃驚したような顔になります。
様子としては、弘満と高由が微妙な距離を保ってるため、その間にいる幸満が所在なさげにしているという様子。
それを横目に見て、九十九嵐童(ea3220)は氷川玲(ea2988)に小声で何やら話しかけているよう。
「‥‥喧嘩屋が喧嘩の仲裁か‥‥世も末というか何というか‥‥」
「‥‥うるせーな‥‥」
ほんのちょっぴりは自覚があるのか、じとっとした目で嵐童を見る氷川に小さく笑うと、緋邑嵐天丸から受け取った江戸の菓子の詰め合わせを手に子供達へと歩み寄る嵐童。
そこにはいつのまにやら3人の少年に混じって二言三言挨拶をしている凪里麟太朗(ea2406)もいます。
てくてくと爺やの村へと向かって歩き出す一行。
幸満と麟太朗は嵐童に貰った菓子を思い思いに頬張りながら。
弘満は歩きながらぱくつくという経験がないのかちらちらと周りの様子を見ながら。
そして高由は、直ぐ隣を歩いている白河に半分割ってむうとむくれた顔のままずいと差し出したりしています。
「俺達も頑張るけどね、兄上殿達を一番良く知ってるのは幸満殿だから、頼りにしてるよ?」
菊川が愛馬ふたえごに乗っけていた幸満にそう言うと、きょとんとしたように首を傾げる幸満。
「‥‥何とか仲直りできるようにやってはみるが‥‥多分俺達の言葉なんかより君の言葉の方があの2人には響くような気がするぞ? 『喧嘩している2人は見たくない!』って‥‥」
「まぁ、何をするってわけじゃなく、二人の事を大好きならそれでいいんだ」
嵐童がお菓子のお代わりを幸満に渡しつつ言うのに、菊川も笑ってそう言うと幸満はこっくりと頷きます。
「うん、ゆき、お兄ちゃんもたかお兄ちゃんもだいすき」
その言葉に、菊川は幸満の頭をわしわしと撫でるのでした。
「僕の場合上の者の気持ちは少々わかりかねるんですけれども‥‥幸満君と同じ末子ですから幸満君の気持ちは多少わかりますが」
休憩中、瀬戸喪(ea0443)が水筒の水を幸満に注いで渡しながら呟くのに、きょとんとした様子で見上げる幸満。
弘満と高由は麟太朗が提案した模擬試合でかなり激しくわいわいやっていて、始めは布竹刀の握り方などを丙鞆雅(ea7918)に教わって素振りを始めたりした幸満ですが、ちょっと危ないと言うことになって見学に回ったよう。
そのうち気が付けば喪と菊川に挟まれてちょこんと座りつつ2人のお兄ちゃんを応援したりしています。
「生憎と、私は負けるつもりはないぞ!」
「くぅっ!」
まだまだ経験の差が出ている高由が悔しそうに唇を噛みつつ振りまわす竹刀を受け流してそう言う麟太朗。
その直ぐ近くでは、先程から氷川に鬱込んでは受けられ軽くあしらわれて、ぜーはーいいだした弘満が。
「参った‥‥」
麟太朗と共にへとへとになるまで打ち合っていた高由がそう言って竹刀を抱えて座り込むと、麟太朗も息を乱しつつ笑ってから弘満の方へと目を向けます。
「どうした? もうへばったのか? まだ終わらせんぞ、立て!」
その年にしてはそこそこ技量のある弘満と高由ではやはり差があるようで、ばてばての状態でもなお向かっていく弘満をどこか憧れとも付かない様子で見ていた高由ですが、麟太朗に見られて直ぐにぷいっとそっぽを向いてしまうのでした。
本来ならば嵐童の人遁の術が切れるまでで終わるはずの模擬試合ですが、ちょっとばかり氷川と弘満が白熱してしまっていた様子なので、予定の時が過ぎても終わらなかったのは秘密です。
●夜営
出発も少し遅かった上、思った以上に模擬試合に時間を取られたためか、村に着くより少々手前に差し掛かった頃には、既に夕闇が迫ってきていました。
「あぁ、高由、それはそっちの方に‥‥」
白河の言葉に一人っ子で跡取りとして甘やかされて育った様子の高由は、始めはどこか渋るような様子で手伝い始めますが、それを繰り返しているうちにあまり気にならなくなったようで、指示されたところへと荷を抱えててこてこと歩いていきます。
「家の者と離れて夜を過ごした事は?」
寝床を用意しつつ聞く白河に、高由は首を横に力なく振ります。
やはり家族とも離れ、弘満とは仲違いをしているために余計に心細いよう。
やがて、交代で見張りを立てて、一同は休みを取ることにしたようで、直ぐに幸満はぐっすりと寝入り、高由も白河と話しているうちにそのままこっくりと船を漕ぎ始めます。
「俺には一回り程違う可愛い義弟がいるのだがな‥‥今はお前達二人のような状態だ」
柄雅は弘満と共に薪をくべつつそう言ってちらりと高由へと目を向けます。
「喧嘩の切っ掛けなどは些細なもの。俺なりに考えた末の言葉だったが弟には届かなかった。‥‥まぁ、それもそうだな。自分にだけ判る言葉で言ったのでは、理解出来るものも出来ないだろう」
「自分にだけ分かる言葉‥‥?」
「あぁ。‥‥相手を思い遣っての言葉だったと、今では互いに判っているのだがな‥‥」
微苦笑で呟くように言われる言葉に顔を上げる弘満に、軽く身体を捻って弘満と向き直ると口を開く柄雅。
「時間とは恐ろしいぞ。刻が経つにつれ謝る事が出来なくなる。弘満は高由と仲直りしたく無いのか?」
「そ、それは‥‥だって、高由は幸のことを‥‥」
「何故、高由があんな事を言ったと思う?」
「ーっ‥‥」
言葉に詰まる弘満に目元に笑みを浮かべて息を付くと、柄雅は再び小枝を手にとって2つに折ると火の中へと投げ込みます。
「喧嘩とは往々にして互いに問題があるものだ。意地を張らず、気持ちを正直に話し合え」
「‥‥‥‥」
俯く弘満に口元に笑みを浮かべてから、柄雅は再び焚き火へと向き直るのでした。
●なかなおり
朝早くに白河に起こされた子供達は、思わずその明るく清しい朝日と朝の風にどこか表情も和らぎ、朝餉を取ると一路村へと向かって出発しました。
まだ何とも言えない距離があるものの、間にいる幸満の側には麟太朗がいて、今までの自身が体験した冒険譚を話して聞かせると、子供達はやはり少年、楽しげに話を聞いています。
直ぐに目的の村が見えてくると、ちゃっかりとせがんで氷川に肩車をして貰っていた幸満がきゃっきゃとはしゃいで笑い声を上げます。
「あぁ、坊ちゃまがた、良く来ましたのう。本当に、皆様有難うございます」
そう言って出迎える爺やに促されるままに家へと行くと、早速割り当てられる部屋、ですが‥‥気が付けば白河の提案で、子供達3人は同じ部屋で休むことに。
昼間はすっかりと旅の疲れで眠りこける子供達を他所に、心のこもったお持てなし料理の数々で一息入れる一行は、夜までの間、思い思いの時を過ごしたよう。
「幸満から聞いたぞ。来る前に弘満と喧嘩をしたんだって?」
夕方になって起きだしてきた高由が、幸満の世話を焼く弘満を見て庭へと出て行ったのに気が付いた白河は、すと隣に並んでたって口を開きます。
「‥‥幸満の世話も出来ない、弘満は幸満ばっかり‥‥」
そう言う高由の声が震えています。
「『兄弟って羨ましいよな』って‥‥素直に言っても良いのだぞ」
そう白河が言う言葉に、ぐっと堪えていた物があふれ出したか、堰を切ったように泣き出す高由。
「人の気持ちは言わねば理解され難い‥‥察して貰うは余程だ。もっと素直に甘えても良い‥‥」
そう言って白河は、高由が泣きやむまでゆっくりと側にいて待っているのでした。
「何にせよ全部我慢することもないと思うんです。うちなんかみんなやりたい放題ですから。それこそ本音全部さらけ出せるようになってこそ兄弟なのではないでしょうか」
弘満にそう言うのは喪。
幸満を着替えさせて何故か幸満が懐いた強面の氷川にに預けた後、小さく息を付いてお茶を啜っていました。
「本音を、さらけ出す‥‥」
「それに上の兄弟が争っていると下としては寂しいものですから。そういった状況が下の子にどういう影響があるか考えてみてくださいね」
喪に言われて氷川と嵐童に遊んで貰っている幸満と、白河と何やら話している様子の高由に目を向ける弘満。
暫くして、目を泣き腫らした高由が白河に背を押されて歩み寄るのを見ると、喪は弘満の側を離れ、2人が話す様子を離れたところから見守っているのでした。
●一緒の思い出
そして、夕食が済んで夜になってから、一同は白河の絵双六を前に集合していました。
「幸満は一人で無理かな? 高由と二人一組でどうだ?幸満に手順を教えてやってくれ」
「うん、分かった。ほら、幸満おいで」
そう言って呼ぶ高由に、それまで菊川の膝の上でご満悦だった幸満がこっくり頷いて高由の元へと歩み寄ります。
「あー丙殿と九十九殿‥‥」
いそいそと双六の準備を終えた白河が、にっこりと何かを言いたげな表情で手を差し出すと、とぼけた表情を浮かべる柄雅と手の中に隠す前に一時的に賽子を没収される嵐童。
「何かな?」
「イカサマ賽を所持してるとの天の声。出されよ」
「ん? 手の中の物? 気のせいだぞ白河殿」
「教育上宜しくないのだ、てい」
べしっとデコピンを喰らいつつもいかさま賽は死守する柄雅ですが、まぁ、どうやら使わないで遊んだよう。
「本来は行きにやって荷物持ちを決めるつもりであったが‥‥」
子供達が思った以上に疲れなどで寝付きが良かったためか、村まで持ち越しとなった絵双六、それはもう、ありとあらゆる意味で白熱し‥‥ちゃっかりとおいしいとこ取りで喪が一番に上がってしまったり、あまりの弘満の賽子運が悪いのに流石に皆が同情したり‥‥。
その日の夜は、騒いで騒いで‥‥‥お開きになった頃にはすっかりと日付も変わって早一刻。
「父上殿や兄上殿はお忙しくて心配かけられないだろうが。武士だからって我慢ばかりじゃなく、寂しくなったら同士がいるんだから何でも話あって、な」
休む前の子供達にそう菊川は声をかけます。
「俺達は少ししか一緒にいられないが、三人なら、一人がしんどい時に二人で心配できる。
むろん、必要とあれば俺達も力になるけどな」
そう言う菊川に、互いに目を赤くして照れたように笑ったり頷く弘満と高由。
そして、その真ん中で、眠たそうに目を擦りながらも、嬉しそうに幸満は2人を見上げているのでした。