難波屋の憂鬱

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2005年10月10日

●オープニング

 その日、ギルドの受付では、受付の青年が午前中の忙しさが過ぎ去ったためか、へろへろしながら依頼の束を纏めているところでした。
「あの、依頼お願いしても宜しいですか?」
 そう言う女性の声が頭上より振ってきて、慌てて身体を起こす受付は、そこで困ったように眉を寄せている若い娘さんに首を傾げて見入ります。
「あ、あの、何か?」
「え、もしかして‥‥おきたちゃん?」
「私のこと、ご存じなんですか?」
 驚いたように言う娘さん、難波屋のおきたはくいっと軽く首を傾げてそう聞くと、受付の青年はこくこく頷きます。
「そりゃ‥‥私にも恋人が出来るまではおきたちゃんの浮世絵買ってた口だから‥‥」
 難波屋のおきたとは、浮世絵の美人画で最近よく描かれる少女で、歳は16で、水茶屋の看板娘をしています。
 水茶屋というのはお茶を飲むことの出来る御茶屋で、葉を扱うのは茶屋と言われるのが一般的。
 まぁ、その水茶屋の中では場所によっては逢い引きに使われることもあったようですが、おきたは看板娘で明るく客あしらいも良い、本当にお茶や料理を運ぶのがお仕事の娘さんです。
「えっと、それで、どうしたの? 深刻そうな顔をしてギルドに来るなんて」
「それなんですけど、ちょっと、お店に来るお客さん達のことでお願いがありまして‥‥私、難波屋主の使いでお邪魔させて貰ってるんです」
 そう言うと、おきたは困った顔で事情を話し始めました。
「最近、何故か知りませんが、他所からいらしたお客様が多くて‥‥それはよいのですが、ちょっと、怖い感じのお客さんが増えて、うちの常連さんと揉め事が‥‥」
 どうやら江戸に色々な人間がここしばらく集まってきていて、その者達が店の雰囲気を壊す、大騒ぎを起こす、乱暴を働く、など。
「私も、お客さんを取っているのだろうと‥‥助けてくださった常連の御武家様が、帰り道、数人がかりで斬りつけられ、たいしたことはなかったとはおっしゃるのですが、怪我をされてしまって‥‥」
 そう言って俯くおきた。
「それは‥‥何とも酷い話、ですね‥‥」
「ですので、お願いします、少しの間で良いんです! あの方々は暫くすれば江戸から帰られると思うんです。ですから、少しの間だけで良いんです、うちのお店とお客さんを守っていただけないでしょうか?」
 釣られて何やら深刻な表情になって頷く受付の青年に、おきたは、必死の様子で頼み込むのでした。

●今回の参加者

 ea0277 ユニ・マリンブルー(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1822 メリル・マーナ(30歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8921 ルイ・アンキセス(49歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb1802 法条 靜志郎(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3393 将門 司(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●気さくな娘と常連客
「むぅ、やっぱりジャパンにもいたんだ、こういう人」
 呆れたと言うより既に苦笑気味にそう言うのは、ユニ・マリンブルー(ea0277)。
 一行は難波屋に有る奥の座敷でお茶とお菓子を頂きつつ対策を話し合っていました。
 おきたもちょうど休憩に入り、一同改めて自己紹介などを挨拶を交わし、お店からと賄いという形で食事が出てきます。
「へぇ、京の味付けは薄味なんですねぇ‥‥とっても美味しいです♪」
 一緒に話していたおきたは、将門司(eb3393)が作る賄いのお吸い物の味が気に入ったようでそうにこにことしながら言います。
 江戸は職人達が集まってきて作り上げた街だけあり、京に比べて塩の強い食事が多いため、江戸で生まれ育ったおきたにとっては新鮮だったよう。
「そうじゃ、超殿、件の武家へと一筆お願いいたしたいのだが。、『難波屋への営業妨害』だけでは、番所に突き出してもすぐに出てきそうじゃからのう‥‥」
「分かった、直ぐに用意しよう」
 メリル・マーナ(ea1822)の言葉に頷き、座敷にある硯箱を引き寄せると、超美人(ea2831)はおきたが差し出す布へとさらさらと筆を走らせて手紙を書き付けると、それが乾くのを待ってきちんと折り、包みます。
「うむ、では行ってくるのじゃ」
 そう言って手紙を仕舞って出かけていくメリルを見送ると、早速それぞれは担当する場所へと散るのでした。
「はい、これで良いですよ」
 手伝いをしながら護衛をするというユニに、なんだか楽しげに真新しい様子の着物を長持から取り出して着付けるおきたは、そう言ってきゅっと帯を最後に引っ張って形を整えて満足げです。
「今特に異国からいらしたお客様が多い時期のようですから、臨時で言葉の分かる異国の方に手伝って貰うことになった、と言うふれこみですので、よろしくお願いしますね」
 流石に護衛というと物々しい上に、警戒されれば懲らしめる事もできないと言うことで、お店の方でも説明を前もって考えておいたようで、口裏合わせというような形になります。
「おきたちゃん、そちらのお嬢ちゃんは?」
「はい、ここのところ異国のお客様がいらっしゃるので、臨時で通訳や、お料理を運ぶののお手伝いに来て貰って居るんですよ〜」
 難波屋は水茶屋。
 中には贔屓の女性と離れに、等というお客もいるのですが、そう言う人は始めから奥の客用座敷へと真っ直ぐ上がります。
 店表の縁台や入って直ぐの席に陣取る常連は、当然ここで出されるお茶やお菓子、そしてにこにこと立ち働くおきたが目当ての客なので、ユニに対して失礼ととれるような視線を向けることもなく、それはもう昔から働いている娘さんを相手にしているが如く。
 そして、客として入れ込みの辺りでごく当たり前に茶を飲み食事をするルイ・アンキセス(ea8921)や、時折表を見て回ったりする法条靜志郎(eb1802)にも直ぐに気軽に話しかけてきます。
 まぁ、ちょっとあだっぽい様子の美人に鼻の舌を伸ばす者もいるようですが、根本が気の良い人達のよう。
「へぇ、じゃあゆにちゃんはちょっとの間、いぎりすからジャパンに来て居るんだ。帰っちゃうなんて残念だなぁ」
 職人風の男がどこか幸せそうに運んでこられたお団子を頬張りつつそう言うと、同じように感じたらしいおきたが、冗談ぽくこのままここにいればいいのに、なんて言ったりするのでした。

●行きすぎたやんちゃ
 ルイはすっかり子持ちな常連客達と打ち解けて、何やら話している様子。
「子供はともかく、かかあはなぁ‥‥貰う前間では可愛い女だったのが、貰った途端に‥‥はぁ‥‥子供は幾つになっても可愛いもんだが」
「貰った途端にとは‥‥」
「ああは言っているけど、惚気なんですよ〜」
「まぁ、亭主は上手くかかあの手の上で踊らされているうちが平和で良いって事よ」
「あ、おきた君、おかわり」
 いつの間にかすっかり馴染んで、本気で食事を取りつつ家族についての会話に花が咲いているよう。
「ん〜‥‥評判の看板ムスメさんからの依頼だからな、こいつはひとつ、いいトコ見せたい所だね」
 など、ちょっと小さく呟いてみる法条は、ちらっと入口付近が騒がしくなり影が過ぎるのに気が付き湯飲みを持つ手を止めます。
 直ぐに表で縁台が蹴倒される音と共にぬっと入ってくるのは、風体の宜しくない大柄な男とそれに付き従ってくる2名。
「出迎えにも出んのかこの店はっ!!」
 そう怒鳴りつける男に他の店の女達はびくっとしたように奥の方へと逃げ、それまで料理を奥で作っていた将門も顔を出します。
「ほっ‥‥他のお客様の迷惑になりますからやめてください!」
 おきたが言うのにどっかりと席に腰を下ろして睨め付ける男。
「俺たちも客だ‥‥とっとと酒を持ってきやがれ!」
「あんたら、静かにしてくんないかな?」
「品性を疑われるような真似は止せ」
 おきたに怒鳴りつける男に注意する法条に穏やかな口調ながらもきっぱりと諫めるルイですが、手を出してこないと高を括ってか男達は酒と喚きちらし。
 おきたは店の者からお銚子の載った盆を受け取り男達の前に置いてさっと離れようとしますと、ふんと鼻を鳴らしてぐいとおきたの腕を掴みます。
「絵にまで描かれる看板娘だか知らないが、お高く止まってんじゃねぇ!」
「ちょっ、離してくださいっ!」
「って、ちょーっと待った!」
 振り解こうともがくおきたを掴んでいるその腕に掴み掛かり、法条の思わぬ行動に一瞬おきたを離してしまい、法条の頬を思い切り殴りつける大柄な男。
「こんの若造がっ!」
 そう言って踏み込もうとした大柄な男とその取り巻きですが、咄嗟に身体を滑りこませたルイがみぞおちに一撃打ち込み、それによって崩れ落ちる男。
「気分が悪くなられたようだ」
「きっ‥‥きさま‥‥」
「そんな物騒な物振り回してたら危ないよ!」
「狼藉者は懲らしめてやらねばな」
 刀を抜きかける取り巻きにはユニのダーツが打ち込まれ、もう一人も美人が日本刀の柄でどんとつくことによって無様にひっくり返り、倒れ込んだ大柄な男を引き摺って這々の体で逃げ帰る男達。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫。これくらい‥‥なんてこたぁ無いっすよ」
 そう言って笑い法条に、僅かに切れた口の端へと手拭いを当てながら、おきたは涙目でほっと息を付くのでした。
 その頃、メリルは立派な門構えの武家の屋敷で、食事を頂きつつ屋敷の主を待っていました。
「異国の客人とか‥‥登城しておりましてな、遅くなって申し訳ござらん」
 そう言って入るのはまだ若く、20代半ばの、なかなか体躯の良い侍です。
「まずはこれを読んで貰いたいのじゃ」
「拝見仕ろう」
 そう言って受け取ったその侍は手紙を広げて暫く読んでいましたが、やがてそれを元通りに畳み、メリルへと目を戻します。
「なるほど‥‥多勢に無勢とはいえ、それがしの醜態を晒すことと相成りましょうが‥‥」
「そこを曲げて、頼むのじゃ。あのような戯けとしか言いようがない者でも、あの程度ならば番所に突き出してもすぐに出て来て意味があるまい」
「左様‥‥‥」
 そう言って暫く考え込む様子を見せた武家は、側にあった筆を執ると何やら紙に書き付けて、それをきちんと折り、包むと、メリルへと差し出します。
「では、その者達を捕らえた暁には、これを添えて突き出されるが良かろう。それで足りなくば、それがしも証言いたす。それで宜しいか?」
「うむ、かたじけないのじゃ」
 そう言って頷くと、メリルは武家の文を受け取って、屋敷を退出するのでした。

●闇討ち・返り討ち
 既に辺りがとっぷりと暗くなった頃、ルイは1人、難波屋を出て帰宅を始めます。
 とは言っても、少し離れたところから一同も形だけでも隠れながら後を着いてきているのですが。
 と、ルイの帰り道を、途中からひたひたと後を付ける男が少しずつ増えていきます。
 どうやら昼間の男達が、水茶屋あたりから居住区へと戻る道にそれぞれ潜み、出て来るのを待っていたよう。
「‥‥‥」
 と、ちょうど通りへと抜ける小道を抜けたところで、あの大柄な男がやはり2人の男を脇に従えて姿を現します。
「良くも恥ぃかかせてくれやがったな‥‥」
 そう言って睨め付ける男は手には長い棒を持っていて、後ろから付けてきた男達も姿を現すと、ルイを囲むようにして一斉に刀を抜き放ちました。
「なっ、なんだっ!?」
 いきなり踏み込んで斬り掛かろうとした男が派手に転倒したことにより、ルイを囲んでいた男が振り返ると、メリルがちょうど何かを放った後の姿で止まり、抜刀した美人に木刀と木剣を手にずいと迫りながら踏み込む将門が視界へと飛び込んできます。
「ええ加減にしときなはれ!」
 木剣での打ち込みに間一髪で避ける男ですが、間髪入れずに打ち込まれる木刀はかわしきれず、呻いて膝をつきます。
「きええぇっ!」
 刀で喉元を突いてくる浪人の一撃を、すと身体をずらして避けると問答無用でその刀を打ち砕くのは美人。
「力の差は歴然だ。おとなしく観念しろ!」
 そして、今1人はひゅと言う短い音と共に腕へと走る鋭い痛みに刀を取り落とし、青ざめた顔で音のした方を見極めようとしています。
「当ったりー☆」
 いつもならば小娘にと憤慨していたであろう男は、激痛の走るその手と、刀を拾って拾って踏み込んでも届かない距離に観念したのかも知れません。
「多少のやんちゃは許容範囲だったがな‥‥お前達の狼藉ぶりはそれを大きく超えていたのでな‥‥」
「この‥‥」
 引きつった顔ながら突き入れてくる男の棒ですが、それを刀で受けると、ルイは問答無用で力一杯男を峰で殴り倒します。
「今後、狼藉を働けば‥‥峰打ちでは済まさん」
 その言葉を、意識を手放していた男が耳にすることはなかったのでした。

●「お待ちしています」
「いや、ええ修行になりましたわ」
 そう言って難波屋の料理人と言葉を交わすのは将門。
「その後変わり無さそうだな。時間の許す限りまた邪魔しに来るからな」
 そう言っておきたに笑って言う美人に、おきたも嬉しそうににっこりと笑いながら礼を言います。
「ジャパンのお茶ってイギリスのとは随分味違うけどこれはこれで落ち着くんだよね♪」
 そう言って飲み終わった湯飲みをおいておきたに笑いかけるユニと、いつのまにやら常連とすっかり打ち解けていたルイが二言三言言葉を交わしている姿も見られます。
「さて、そろそろ行くかな‥‥」
 そう言って席を立つ法条に、にこりと笑ってお礼を述べるおきた。
「次は‥‥仕事抜きで来てもいいかな?」
 そうおきたに微笑して言う法条に、一瞬きょとんとしたおきたですが‥‥。
「はい! お待ちしています!」
 直ぐに僅かに頬を染めながら嬉しそうにおきたは笑って頷くのでした。