旬の食材〜長月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2005年10月11日

●オープニング

 その日、ギルドで馴染みとなっていた商人がひょっこりとやって来たのは、ちょうど昼を過ぎた当たりのことでした。
「いやぁ、実はご隠居さんのところでお庭の栗の木がもう大豊作で‥‥お裾分けを頂くことになったんですが、それだったら、なんて考えまして」
 もうとにかく幸せ、と言った表情で受付の青年を捕まえて言うその様子は、流石食べ物が絡むと違うといったところでしょうか。
「そういえば、荘吉君はどうしたんですか? こういうときに一緒で無いとは珍しいと思うのですが」
「あぁ、荘吉はご隠居さんのところで栗拾いのお手伝いですよ。最近江戸の町は慌しいですし、ご隠居の家族はご家族でちょっと遠出のお参りに言ってのんびりしてくるようですし‥‥」
 それと同時に、ただ貰うだけでは申し訳ない、などと言って、襷掛けして出かけて行ったらしい荘吉君をみて、ふとあることを思いついた商人はこうしてやってきたよう。
「なに思いついたんですか?」
「いや、郊外の大百姓にちょっと知り合いがいまして、良ければ茄子なんてどうだと言われてましたし、この時期、知り合いの漁師さんに自慢された秋刀魚も食べたいですし‥‥ね、どうでしょう?」
「ど、どうでしょうとは‥‥」
「こんなご時勢です、楽しめるときに楽しみ、食べられるときに食べる、せっかくですからご隠居さんのところに行って、みんなで秋の味覚を楽しみませんか?」
「‥‥えーっと、この場合は‥‥」
「あ、どなたか調理してもらえると嬉しいかな♪」
「‥‥‥‥」
 商人の言葉に、受付の青年はどこか沈痛な面持ちで依頼を張り出すのでした。

●今回の参加者

 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0567 本所 銕三郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0299 シャルディ・ラズネルグ(40歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3293 若葉 翔太(22歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴァルテル・スボウラス(ea2352)/ 東雲 笙(ea2635

●リプレイ本文

●楽しい? 栗拾い
 さっくりと材料の買い出しから帰り、幾つかジャパンでは珍しい品物をも仕入れてきてから戻ったレイジュ・カザミ(ea0448)は、早速庭で始まっている栗拾いに参戦する様子。
「これは、そこの籠に入れればいいのかな?」
「あ、はい、お願いします」
 そう丁稚の荘吉が言って、いくつかの籠へと目を向けますと、その籠の一つがふよふよと浮いて、思わず荘吉は目を瞬かせて見ますと、それを木の枝の下まで飛ばして、木へとなっている栗の下で止まります。
「怪我をしないように気をつけないといけませんね」
 どこかのんびりした様子でそういって、その籠を浮かしていたのはシャルディ・ラズネルグ(eb0299)
で、なんだかとっても楽しそうな様子で栗の収穫を手伝っています。
「栗拾い、とはまあ、秋らしいですわね。しかし、まあ‥‥」
 そう言ってぐるりと庭を見渡すのは潤美夏(ea8214)。
 辺り一面にばらまかれたような栗をえっちらおっちら集めている荘吉やレイジュの姿を見ながら、美夏は何故かしっかり三度笠を手にしています。
「私が栗を落としますので頑張って拾ってくださいですわね」
「へ‥‥?」
 声をかけられた荘吉はなぜかさっとシャルディの収穫する木まで慌てた様子で駆け寄り、レイジュはきょとんとしたように美夏へと目を向けて‥‥。
「っ!?」
 次の瞬間三度笠をしっかり被って木へと蹴りを入れる美夏と、降り注ぐいがの雨をまともに受けて悶絶するレイジュ。
「だ、大丈夫ですか?」
 恐る恐ると言った様子でいがに埋もれて大変な様子のレイジュに、声はかけども危ない為離れて見るシャルディと荘吉に、東雲笙の手を引いて嬉しそうにやって来て目を瞬かせる若葉翔太(eb3293)。
「あれれ、お兄ちゃん大丈夫?」
 そう心配そうにレイジュに近づいて言う若葉ですが、声をかけられよろよろと顔を上げたレイジュの上に、止めとばかりにコンと、いがが落ちてくるのでした。
「っつー‥‥」
「が、我慢してくださいね」
 そう言って先を炙った針でレイジュの指先をちくちくと慎重に刺す荘吉は、ぴょこ、と飛び出してきたいがの端っこを、これまた慎重に摘むとゆっくりと長いいがを抜いてちょいちょいお酒で消毒をしてくれます。
「それにしても大変な目にあった」
 そういって笑うレイジュに差し出されるのは程良く焼いた栗が。
「ホクホクでおいしいよ♪」
 笙に習って大きな鍋一杯に煮た栗を焼いてきたものを、手早く包帯の巻かれた指で受け取って切れ込みから鬼皮を割って中を見ると、甘い香りがほんのり漂い、口へとひょいと放り込んで、その甘さに目を細めるレイジュ。
 手当てを終えた荘吉も栗を食べてのんびりとしているシャルディと言葉を交わしながらお茶を入れて休憩にするようです。
「はい、これもどうぞ」
「? 葉っぱ‥‥」
「葉っぱが大好きと聞きましたので」
 ひときわ大きな葉っぱを見つけたらしい美夏が、そう葉っぱをレイジュへと差し出して受け取らせると、自身も栗を受け取って、のんびり休憩のお茶のよう。
 ひそかにこの国にまで、葉っぱ男の噂は広まりかけているようなのでした。

●秋刀魚と秋茄子は
「自分が生まれた季節だからかな? 秋ってなんだか心が弾むんだよね」
 なんだか楽しそうな様子で火吹き棒から顔を離すのはケイン・クロード(eb0062)。
 ケインは本所銕三郎(ea0567)が飯を炊くのが苦手と聞いて、秋刀魚と混ぜた米を炊いているところでした。
 そして、当の本所本人はと言いますと、先程からお勝手口から出た辺りで団扇を手にぱたぱた。
「秋刀魚は焼き物が一番」
 七輪で焼かれる秋刀魚が食欲をそそる匂いをあげ、ふらふらと飼われている猫が近付いて来ては、時折頂戴とばかりに足下に擦り付いておねだりをします。
「しかし済まんな、飯を炊いて貰って。あまり飯を炊くのは得意じゃないんだ」
「いやいや、構わないよ〜」
 軽く声を上げてケインに言う本所と、再び顔を上げて声を返すケイン。
 その脇ではカイ・ローン(ea3054)が鍋を前に、先程から下拵えで味を付けたり炒めたりしたものをキャベツで包み、くつくつと煮始めています。
「前回の高いチーズが余ったから、それで何か作るか」
 そう言って秋刀魚を手に取るとそれを味付けして火を通すカイは、手早く火を通した秋刀魚の腹を切って中を出し、チーズやパン粉などを和えて先程の秋刀魚へとそれを塗って炙ります。
「なんだか良いにおい〜♪」
 1日目に引き続いて栗の処置をしていた翔太がひょっこりと顔を出すとそう言ってやってくると、なんだか目を輝かせて作業に没頭している男達の背中を見ています。
「お料理が上手なお兄ちゃんって格好いいよね‥‥」
 何にせよ、美味しい御飯が上がるのが待ち遠しい様子で、翔太は暫くその光景を眺めているのでした。
「下拵えも大変ですが‥‥」
 そう言いながら醤油を元に作った出汁に漬け込まれた茄子の様子を窺うのは飛麗華(eb2545)。
 その横では美夏が茄子を満遍なく焼いていて、ちょうど少し手が空いたのか新しい茄子を洗って輪切りにし始めます。
「あとはこれは刺身にして‥‥」
「こちらは葱を‥‥後は揚げたのをこちらに漬けて煮れば宜しいですわね」
「茄子の浅漬けも準備が出来ました」
 一通りの食事の支度が出来たようで、手分けして盛り付けなどを始める料理組みの一同なのでした。

●お茶会とお菓子
「えーっと‥‥これはどちらに動かせば‥‥」
「そちらとそちらの場合、右のそこに進めますと13手後に詰みになりますね」
「せ、先生! それは無いのでは!」
 こちらはお茶会の準備を終えて、将棋をするシャルディとご隠居ですが、将棋初心者と言うことでこちらは嗜みとしているお茶の先生に助太刀を頼んだシャルディ。
 どうやら広く駒の多い盤上でゆっくりと将棋の手を説明したりしているうちに、先生の教え方がうまいのかチェスの概念で頭の中で置き換えていくシャルディの適応力が高いのか、ご隠居はどんどん追い詰められて焦り始めています。
「はい、こちらを動かすと、次にこう動いてこう動いて、でこうなると‥‥」
「‥‥チェスより駒も多くてなんだか複雑なんですね」
 むむと眉を寄せながらご隠居の進める駒を待っているとお茶菓子を運んでくるケインとカイ、それにレイジュにシャルディとお茶の先生が顔を向けます。
「先生のお茶を楽しむために、お茶菓子の勉強をしてみたんですよ」
 そう言うケインの言葉にどれと覗き込んで、出来上がった栗饅頭にこれは良いと笑って言うお茶の先生。
 一つお裾分けを頂いてから、シャルディが盤上へと目を戻すと、なにやらいつの間にやら不利な配置へと変わっていて首を傾げるシャルディ。
「ご隠居、駄目ですよ、盤を回して入れ替えては」
「い、いやいや何のことかの〜」
 とぼけるご隠居に笑いながらひょいと盤を戻すお茶の先生。
「では、そろそろお茶会を始めましょうか」
「やっぱりちょっと苦いなぁ」
 そうお茶を飲んで言うケインに、熱そうとふうふう吹いて覚ましてから飲むレイジュ、そして誰かが足を痺れさせないかと待ち構えつつお茶を頂く美夏など、大らかな雰囲気のまま進むお茶会で、ケインの作った栗饅頭がほかほかとほんのり甘くてお抹茶に良く会うのでした。

●秋の風情を楽しみながら
 お茶会が終わってほっと一息ついた頃、ようやくに料理がすべてそろって、お食事会へと突入します。
「わぁ、甘くておいしい〜♪」
 翔太がそう言ってマロンパンをぱくつくと、商人はなにやら珍しげな様子で豚ヒレとマロンのソテーを恐る恐る口に運んで、これは良いとばかりに端を次々と運びます。
「な、生のまま食べるんでしたよね」
 荘吉に端の使い方を習って秋刀魚の刺身に挑戦するシャルディは、しょうがをちょんと少し乗っけてから醤油へとつけて食べるように勧められてぱくりと思い切って一口。
「あ、思ったよりも生臭くないんですね」
「そのためのおろし生姜ですから。‥‥それにしても、このご飯美味しいですね、秋刀魚とご飯が良くあって‥‥」
「あまり工夫は無いかも知れんが、漁師の味を楽しんで貰えると良い」
 そう言う本所はもちろん焼いた秋刀魚を大根おろしたっぷり乗せて食べていたりします。
「秋茄子は嫁に食わすな、と申しますが、あれは、おいしいから嫁に食わせない、と言う意地悪な事だ
けではなく、茄子を食うと体が冷えてしまって体に悪いから、という意味もあるですわね」
「あとは、種が無いから子宝に恵まれなくなるのを、とも言うが‥‥」
「どちらにしても言い訳っぽい気もしますが。あ、一応、体を温めるものも入れていますので」
 茄子について薀蓄を語る美夏は、料理に使った葱をさしてそういいます。
「洋菓子なんてずいぶん食べてないからなぁ」
「英国では実家のホテルで調理をやっていてね‥‥どうかな?」
「‥‥ほう、異国の菓子も良いものですね。お茶によく合いそうです」
 お茶の先生とケインが、レイジュの作った食後用の菓子に目を細めると、なんだか少し照れたように笑って頭をかくレイジュ。
 食事会もにぎやかに進み、いつの間にか縁側に腰を下ろして色づいた庭の木々と、庭の片隅に詰まれた枯葉を眺めつつ、料理を楽しんでいるのはシャルディと麗華。
 シャルディは栗御飯に秋刀魚のチーズ焼きを、そして、麗華はカイのワイン煮と秋刀魚御飯を手にのんびりとしているようで、なんだかとっても幸せそう。
 「秋の味覚、美味しいですね」
 「本当に。ジャパンの料理も、そしてジャパンでイギリスの料理も楽しめるなんて、面白いですねぇ」
 そうのんびりと話す二人。
 こうして、のんびりゆっくりと、秋の日は暮れてゆくのでした。