新しい家族〜まねぇぴっと〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2005年10月20日

●オープニング

 20ちょい過ぎた若い男性が嬉しそうな笑顔でやって来たのは、徐々に風に冷たさが感じられるようになったとある秋の夕刻でした。
「実は、うちの屋敷にあります離れ、これをどうにか修繕して欲しく‥‥」
 そう言う男性、にこにことしながら何かを期待するかのように受付の青年を見て、青年もその視線にたじろいだように恐る恐るというように口を開きます。
「あのぅ、何でまた離れの修繕を冒険者に‥‥?」
「今、ちょうど掴まらないのですよ、良い大工が」
「はぁ‥‥それで、あの‥‥」
「何ですか?」
「‥‥‥‥離れ、何に使うために修繕‥‥」
「よくぞ聞いてくださいましたっ! 実はですね、うちの奥さんがこの度おめでたで!」
 聞かなければいけないかのようなその男性の様子に小さく聞くと、最後まで言い終わらないうちに嬉しそうな様子で力強く言う男性。
「ただまぁ、場所柄色々ありまして、ちょっと前まで屋敷の近くでわいわいと騒がしいことがありまして、森に程近く通りにほど遠い今の離れに移って落ち着いて療養したいと、こううちの奥さんが言いまして‥‥」
 ただ、元々自分たちの屋敷は冒険者に手伝って貰って大工とも段取りを決め、こっそりと改修して貰った過去があるようで、この度奥さんが所に伏せりきりの状態なのに大工さんも忙しい時期だと掴まらなく、前にお世話になった棟梁は1人でやるにはちょっと辛いものがあるので、助っ人がいればと言ったそうで、こうなればと藁にでも縋る思いでやって来たそうです。
「‥‥それにしては偉く嬉しそうと言うか何というか‥‥ところで、奥様の予定は‥‥?」
「あと一月切ったんですよ〜」
「って、後ほとんど無いじゃないですか」
「‥‥そうは言っても大工さんが掴まらなかった上に、私のお仕事もちょっと忙しくて来られなかったんですよ。‥‥‥‥何とか、お願いできませんかね?」
 流石に不安になってきたのか、男性はそう言うと受付の青年に、くれぐれも頼むというのでした。

●今回の参加者

 ea0109 湯田 鎖雷(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1822 メリル・マーナ(30歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb2168 佐伯 七海(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

夜神 十夜(ea2160

●リプレイ本文

●離れの現状
「ジャパンの家屋に触れる良い機会と思い参加したのじゃが‥‥」
 そう言ってから依頼人へとにっと笑うのはメリル・マーナ(ea1822)。
「依頼人にめでたきことがあるとはのう。不肖このメリル・マーナ、全力を尽くすのじゃ!」
「そういや、前に手を入れた本宅、あれの住み心地はどうだ? 何かあったら格安で修理に行くぞ、確か前は一部だけだったからな」
「ああ、本当に有難うございます。本宅は氷川さんに遣っていただいた居住区以外は棟梁にちびちびと直していただいて、ようやく先日完全に修復されました。本当にその節は‥‥嵐山さん共々揃っていらして下さるなんてと感謝しています〜」
 メリルと氷川玲(ea2988)の言葉にすっかりと浮かれた様子の依頼人は、何度も嬉しそうに礼を繰り返して頭を下げます。
 ここは依頼人の本宅で、修復されたと言う立派な屋敷の一室で所から身体を起こす奥さんと依頼人の前に揃って顔を出していました。
「子供が生まれるんですね、おめでとう♪」
「ええ、本当にありがとう〜♪ 今からもうそわそわしてしまって‥‥」
 嬉しそうに佐伯七海(eb2168)と話している奥さんを横目で見てから、嵐山虎彦(ea3269)
はきょろきょろと室内を少々落ち着き無く見ているよう。
「どうした、虎?」
「いやぁ、あのぼろぼろの屋敷がこーなるたぁなぁと思ってよ」
「一体どんなだったんだ?」
 氷川と嵐山の会話に、窓から離れの前で改装の為の祈祷を眺めていた湯田鎖雷(ea0109)が苦笑気味に尋ねます。
「おお、そりゃもう凄かったぞ、こう、階段が崩れ落ちてたり‥‥」
 などなど、話に花を咲かせていると祈祷も終わったようで、礼も兼ねてお持て成しをする依頼人たちに、一仕事終えた彼らと入れ替わりに離れへと足を踏み入れた一行。
「まずは腐った畳を取り払い、床を検分し、不審な箇所は取り払って修理、じゃな」
「おう、この離れは日も当たっていいところじゃねぇか」
「あ、嵐山さ‥‥」
 メリルの言葉にそのまま離れの障子を開け放とうとして、湯田がとめる暇も無くそのままがたんと倒れこんでくる障子戸の直撃を受ける嵐山。
 その横では氷川と棟梁が何事か会話を交わしつつ、軒下へとかがんんで覗き込む姿があります。
「よし、んじゃあまず最初は畳をひっぺがしてーっと‥‥」
 そう言って縁側へと足を踏み出した嵐山ですが、その重みで縁側が大きく軋み、慌ててさらに中へと足を踏み入れて廊下ごと床下へと転落する嵐山に、一瞬固まる一行。
「ひ‥‥氷川さん、大丈夫‥‥ですか?」
 身体を引いて出てくる棟梁を見て、先ほど軒下に潜ったままの氷川に心配そうな表情を浮かべて慌てて覗き込む七海は、間一髪のところでかろうじて床と嵐山から避けた氷川を、メリルと湯田に手を借りて引っ張り出します。
「虎さんよ、今のはわざとか?」
「良いから引っ張り出してくれ!」
 床に嵌った嵐山に、なにやら危険な表情の氷川があくまで顔には笑みを張り付かせたまま見下ろすのでした。

● 大仕事
「畳の余りとか、そう言うのがあったら有り難いんだが‥‥」
「おう、それなら今ちょうど状態のいいのがあるが‥‥あれか、新品じゃなきゃまずいか?」
「? いや、最悪芯さえしっかりしていれば‥‥」
 愛馬めひひひひんと普段生業で縁のある先で聞いて見ると、なにやら先達て『誰とは言えない』らしいのですがお偉い武家様の屋敷で畳の総入れ替えがあったとか。
 余りに大量に畳が出た為に徐々に再利用したりとしているようなのですが、新品といっても差支えが無いような立派な畳みも中にはあるとかで、必要ならば貰って行って良いとのこと。
「助かる、ありがとうな」
 そういって運び込む手配を済ませると湯田は屋敷へと戻って行き、それを告げると氷川も棟梁も助かると頷きました。
「どんな様子だ?」
「先ほど棟梁とメリルと話したが、骨組みも土台もしっかりしているので、壁の補修をして床を張り、畳を敷けば文句無いものにあがるだろう」
 湯田の問いに氷川はそう満足そうに言うと、嵐山ががすがすと腐った畳と床を剥がしている方へと目を向けます。
「基礎ごと剥がさぬように気をつけるのじゃぞ?」
「おう、任せておけって」
 壁の様子を調べつつ壁の土を上から塗り固めるために様子を見ていたメリルに声をかけられて、嵐山は笑いながらぽいと庭へ畳を放り出します。
「ふむ、最後に漆喰で仕上げれば問題ないようじゃな」
 そういってメリルは頷くと、外へと出て早速貰ってきてもらった藁を土へと混ぜ始めるのでした。
「よし、これをそこの廊下に張るので‥‥そうそう、そこを抑えて組み込んでくれ」
 そう指示を出しながら廊下へと張る板の調整をしているのは氷川です。
 初日に床と畳をあらかた撤去し終えたので、早速状態を見て床を張り始めたよう。
 嵐山がまだ床の張っていないところに入って板を受け取れば、基礎の上に立って板を指示どおりに嵌め込むのは湯田、そして、壁を塗るのはメリルで、七海は本宅でなにやら彫り物をしている様子。
「そろそろ休憩にするかね」
 そういって水場を借りて茶を入れる湯田に、依頼人からはお菓子の差し入れが。
「あっという間に板をあらかた張り終えたな」
「今日中に板を張ってしまえば、明日に畳を入れて内装も整えられるしな」
 そう茶を飲み、お酒を振舞われたりしながら休憩を挟んで作業再開です。
 そのまま作業は順調に進み、三日目には畳を入れることができ、最終日前には漆喰も乾くだろうとのことでした。

● 細工仕事
「さってと‥‥どうかな、こんなのは‥‥」
 そういって七海が見せるのを見て、嵐山はほうほう、と頷いて笑います。
「良いじゃねぇか、なかなか‥‥奥さんが喜びそうだねぃ」
 そう言う嵐山の手元をひょっこり覗けば、そこには力強い草木の絵を写した板があり、そこにのみを打ち込んでいた模様。
「あ、もう一つあるね。私も仏師だし、お手伝いするよ♪」
 そう言ってもう一枚の板を受け取って適格にのみを入れて行く2人。
「これ、どこに嵌めるのかな?」
「おう、風通しを良くするためにこことそこのところにちょいとな」
 ひょいと指で差しつつ指さす虎彦になるほど、と頷いてからかしかしと彫り物を進める七海は、何やら気合いが入っているようで。
「目指せ! なんとかじんごろう‥‥だったっけ?」
「はは、その意気だぁな」
 笑いながら細工を進める2人は、すっかり彫り上がった欄間を見て一息ついていると‥‥。
「みゃう〜」
 本宅の方から危なげな足取りでちょろちょろと資材が置いてある所をよじ登る小さな影に気が付いて慌てて立ち上がるとひょいとその小さな猫を抱き上げる七海。
「こら〜危ないよ?」
「ふみゃぁ〜」
 ちょこんと首を傾げる白い仔猫を抱えて資材のない場所へと行くと、休憩に入っていた3人がいて、そこでほれほれと自身の長い三つ編みを揺らしてみせるメリルになんだか張り切ってじゃれつく仔猫。
「はっ! 爪を研ぎたがるような物を作らねば!」
 はたと気が付いたように言うメリルが思わず止めたお下げにとうとばかりに飛びついてしっかりと掴まるとゴロゴロと喉を鳴らすと、先程から何やら弄っていた湯田がちちちと呼ぶと、くいっと顔を向けてとてとて歩み寄る仔猫。
「ほら、これで遊びな」
 そう言って差し出した小さな藁で作った毬に、まだまたたびに過敏に反応はしない物の、飛びついたり捕まえたまま転がったりと、ご満悦な仔猫は、それをメリルや七海にもわざわざ貰ったと報告するかのように転がして来るのでした。
「さて、休憩終了〜備え付けの家具を作んないとね」
 そう言って立ち上がる七海に、なんだか放って置かれるのが分かったのか毬に手をかけたままミーミー鳴き出す仔猫ですが、手が空いた者が交代に構ってあげるようになると、そのうち疲れて、七海お手製の赤ちゃんとお揃いの揺り籠を作って貰ってぐっすりと夢の中へと落ちていくのでした。

●祝・白猫庵落成!
 依頼最終日、依頼人が知己のお店から料理や飲み物を取り寄せてくれたので、皆で落成した離れでお祝いをするところでした。
「急造にしてはしっかり出来たな」
 満足げに頷いて寿司を摘む氷川に祝いの酒をくいっと飲み干して満足げに頷く嵐山と、依頼人と色々と言葉を交わしている湯田。
「はい、良かったら、これどうぞ」
 そう言って七海が奥さんに差し出すのは可愛らしく仕上げてある天使の置物で、ちょうど良い木材があったようなので、そこから掘り出したよう。
「まぁ、可愛いわ♪ 本当に有難う、大切にするわね」
 そう言って部屋を改めて見回し、可愛らしい揺り籠や明るい室内に嬉しそうににこにことする奥さん。
「みゃう〜★」
 先程からメリルは毬で仔猫と遊んでやりながら、棟梁にジャパンの建造物について色々と尋ね、逆に棟梁に欧州では、などと言う説明をしたりしてなかなか楽しんでいるよう。
「お、そうだ、俺もこんなのを作ってたんだっけねぃ」
 そう言って嵐山が取り出したのは、板を洒落た形に切り抜いて、『白猫庵』と堂々と書き付けたものでした。
「これは‥‥本当に頂いても?」
「おう、使って貰えると嬉しいぜ」
 そう笑う嵐山に何度も礼を言う依頼人。
「また何かあったら言ってくれよ?」
 自分の手掛けた仕事は最期まで見届けたい様子の氷川に、しっかり頷いてから、夫婦は幸せそうに笑って生まれてくる子供に思いを馳せているのでした。