菊祭り
|
■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月28日〜10月31日
リプレイ公開日:2005年11月07日
|
●オープニング
「ええっと、困って居るんです、お願いですから、その3日間だけでも良いから付き合ってくださいよ〜」
珍しく、受付の青年自身が出入りの冒険者にそう言うと、その冒険者はむすっとした様子で離れていってしまいます。
「どうしようかな‥‥ううう、もう誘ってしまった後なのに‥‥」
なにやらじたじたしているギルドの青年、溜息混じりにお財布を覗き込み少し考えているよう。
「‥‥報酬、ちょびっとでも出たら、人来るかなぁ‥‥」
そう言う受付の青年、実は菖蒲が見頃の時期に文を送ってくれた女性とお付き合いを始めたのは良いのですがい、今まで忙しさからゆっくり話も出来ず終い。
何とか漕ぎ着けた休みに、ちょうど恒例の菊の市が立つ時期というので彼女を誘ったらしいのですが‥‥。
「なんでまた、そこで照れて冒険者達と行くから貴女もどうですか? なんて聞き方するかな、このこの男は」
「仕方ないじゃないか、っていうか君も来てくれよ〜」
「お生憎様、わたしゃその時期は既に仕事が入ってて居ないの、江戸には」
「そんな殺生な‥‥」
そう言って頭を抱えつつ、男は書き途中の物へとすらすら筆を走らせます。
『菊の市に遊びに行くのに、一緒に行ってくれる方募集中。
なお、僅かですが報酬と、必要経費としてお茶数杯とお菓子数皿程度でしたらお出しします』
「これで、誰か来てくれると良いなぁ‥‥」
張り出してから、青年はうろうろと落ちつかな気に休憩用の小部屋で歩き回っていたのでした。
●リプレイ本文
●菊祭り
「皆で楽しく、菊見をしたいですね」
娘さんと受付の青年に全く悪びれもせずに挟まれて歩いていた大宗院鳴(ea1569)は、本当に楽しそうな笑顔でそう言いました。
菊が道の両側に並ぶ様は圧巻ですが、やはりそれを見に来たお祭好きの人々もなかなかのもの。
「わたくし昨年も菊見に来たんですよ。今年も楽しい菊見ができればいいですね」
「江戸の秋と言えば菊ですからねぇ」
そう頷く青年とにこにことその様子を眺めている若い娘さん。
「我が姉は華道を志す方故、菊には馴染みであろうが‥‥某は漠然と美しいとしか言葉に出来ぬ」
「お姉様がいらっしゃるのですか?」
鑪純直(ea7179)が道々にある菊の花を眺めて言うと、娘さんは軽く首を傾げてそう声をかけます。
「奥手も最初の内はまだ女性の方も可愛い人で終わる人もいるが、いざという時にしっかりした所を見せないと愛想をつかされるから気をつけるといい‥‥」
「あ、愛想を尽かされる‥‥が、がむばります‥‥」
「まぁ、こんな事を言ってたら馬に蹴られてしまうな」
微笑を浮かべながらそう言う時永貴由(ea2702)に、むむ、と困ったように眉を寄せる青年。
「結構、賑やかなんですね」
冬里沙胡(ea5988)がそう言って祭りの人混みを歩くと、ハロウ・ウィン(ea8535)も頷いてブロッサム・イーター(eb3348)がついてきているかを振り返り確認しています。
いつの間にか神楽聖歌(ea5062)はブロッサムに離れることを告げて1人菊を見に行ってしまったよう。
「それにしても、私はジャパンには8月に来たばかりでそれほど詳しいわけではないのですが‥‥本当に沢山の種類があるようですね」
「ほんと、菊って色んな種類があるんだよね。隅々まで見て回りたいなあ‥‥」
ぱたぱたとハロウの後ろにくっついて辺りを眺めているブロッサムはそう言うと、ハロウも感心するかのようにきょろきょろといくつもの菊の花に目移りがするよう。
「ふむ、そこでだ、こう、小物を贈るなどをしてみては‥‥」
「な、なるほど‥‥」
「歩きながら食べるのはお行儀が悪いと母に言われているのですが‥‥このお団子、本当に美味しいですね」
いつの間にか娘さんと青年の立ち位置が入れ替わり、純直と青年が話す横で相変わらず娘さんと青年の間に居ても買って貰ったお団子の包みを抱えてもぐもぐと食べ進める鳴。
「菊をこうしてみるというのもなかなか良いな‥‥」
「すっごいですねー、あの菊! 綺麗!」
「‥‥」
微笑を浮かべつつ菊を眺める貴由にぱっと顔を輝かせて大輪の花に歓声を上げる沙胡、そして、それを嬉しそうに眺める娘さんと、思い思いが道を行きながら楽しんでいるようなのでした。
●茶と花と菓子と
「皆さん、こちらですよ」
淡い藍色の紬を身に付けた琴宮茜(ea2722)がそう明るい声をかけて通りかかった一行を呼び止めると、鳴も覚えがあったお店のようで、まぁ、と言いながら娘さんと青年を引っ張ってその店の方へと進んでいきます。
「何もおかまいも出来ませんが、どうぞゆっくりしていって下さい」
人の良さそうな老夫婦がそう言って中の座敷へと通せば、そこはゆったりとして落ち着いた場所で、庭を隔てて直ぐそこに菊の花ので作られた山があり、既に菓子などが用意されています。
「今お食事を持ちましょうねぇ」
小柄でどこか愛らしい様子の老婆がそう言ってお膳を運んでくれば、それを茜が手伝い、老夫婦は実に嬉しそうな様子で働いています。
「ところで、この白と黄色のものはなんでしょう?」
「これは菊の花のおひたしですよ」
ブロッサムがそう尋ねると、茜がお膳の用意をしながら答えます。
昼食が終わり、休憩しつつ縁側から菊をのんびりと眺めるのは沙胡と純直。
沙胡は茜が入れてくれたお茶に菊をかたどった菓子を、純直は団子に甘酒を傍らに置いています。
「このお茶、美味しいですね」
「有難うございます」
沙胡の言葉に嬉しそうに笑いながらお茶を点てる茜に、ブロッサムは興味深げにその様子を眺め。
「な、なんだかこうしてお茶を点てて貰うと‥‥その、勿体ないかなと‥‥」
「やっぱり、綺麗な菊を見ながらの食は進みますね」
御抹茶を戴くのに少し緊張気味の受付の青年と、凄い勢いで茶菓子を平らげていく鳴。
娘さんはハロウと話しつつ、ハロウが買い込んでいた白い小菊の鉢を覗き込んでいます。
「菊って良い匂いのする花なんだね」
「そうですね。紅葉を見に行くよりも、こうして可愛らしい菊の花を見ている方が好まれるのは分かる気がしますね」
「ほんとだよね」
そう言ってハロウと娘さんは顔を見合わせてくすっと笑いあいます。
「それにしても夫婦で菊見なんて、素敵ですよね。あっ、そうですわ、わたくしが僭越ながら、お二人の子宝のために祈祷させていただきますね」
ちょうどその時、お菓子を食べるのに一段落した鳴が言うのに、お茶を吹きそうになって噎せる青年に、真っ赤になって硬直する娘さん。
「ちょ、ちょっとまって‥‥」
慌てて誤解やら色々と修正しようと試みる青年ですが、鳴にはどうやら聞こえてなかったようなのでした。
●繋がれた手
程良い頃合いになって、一同は再び店を出てお祭を見て歩きます。
「あそこのお饅頭買いに行ってこよ♪」
そう言いながらハロウは鳴を食べ物で釣って一同の輪から離れます。
「あら? 皆さんはどちらへ?」
「ん〜僕たちはぐれちゃったみたいだね。後でさっきのお店で合流すればいいんじゃないかな?」
お饅頭の入った袋を抱えて不思議そうに言う鳴に、ハロウはそう誤魔化しつつちらりと徐々に周りから人が離れていく受付の青年と娘さんを見送るのでした。
「ダメですよ〜、傍を離れちゃ」
「え、あ、あぁ、済みません」
人混みにうっかりと離れそうになった青年へ沙胡が言うと、慌てて戻る青年。
「この人混み故はぐれぬ様に‥‥某も幼少の頃にいった祭りにて1人はぐれてしまったことがあるが‥‥その後家人が見つけに来た後はその者と手を繋ぎ屋敷へと戻った覚えがある」
うむ、戸頷いて言う純直の言葉に頷く青年は、娘さんと並んで会話を交わしつつ歩き出します。
純直に男女の歩幅は違うと指摘されたのを思い出してか娘さんに合わせてゆったりと歩く青年を見て、すっといつの間にか2人を残して離れたところから温かく見守る一同。
「あ、あれ、皆さん‥‥?」
「居なくなってしまいましたね‥‥」
「どうしましょう?」
そう会話を交わすのを聞きながらも2人の目に付かないようにしながら後を付けると、いったん戻りますか、と言いかけてから軽く首を振って、娘さんへと手を差し出す青年。
「折角ですから‥‥後であのお店で皆さんと合流すればいいですしね」
青年の言葉に真っ赤になりながらもおずおずと手を握る娘さん。
ゆっくり歩き出す2人は、それに絡もうとした若い職人風の男が純直と貴由の連係で強制排除されたことにも気が付かずに祭りの人混みへと消えていくのでした。
●それぞれの夕暮れ時
「綺麗な簪ですね」
貴由が祭りで買ってきた装飾を眺めながら、娘さんは明るい声を上げました。
夕刻、それそれがばらばらと茶屋に集まり合流しています。
「楽しかったね〜」
「ええ、どの菊も綺麗でしたし」
「某も、職人たちから聞いた話はためになった」
ハロウと沙胡が祭りであったことを話していると、純直もあの後じっくりとっぷりと聞いた菊の話を思い出してかそう言います。
「さてと、青年ごちそうさま。私はそろそろお暇させて貰おう」
そう言って立ち上がる貴由の手には菊の花束と酒の徳利が下がっています。
「今日は有難うございました」
そう声をかける青年に笑みを返すと出て行く貴由。
「今日は本当に楽しかったです」
「そう言ってくれると‥‥」
娘さんがそう言うのに、青年は本当に嬉しそうに笑います。
「来年も楽しい菊見ができればいいですね」
鬼も笑いそうな来年のこと。
それでも青年と娘さんは鳴の言葉に笑って頷くのでした。
賑やかに一同は食事に菊にと思い思いの時間を過ごしたよう。
そして、1人先に帰った貴由が向かった先は、綾藤という船宿です。
「あぁ、女将‥‥あの方はまだこちらに?」
「ええ、どうぞお上がり下さいましねぇ」
「いや、いきなり尋ねてきた故、失礼では‥‥」
女将に案内されて上がると、とある一室に声をかけ、入るようにと低い落ち着いた声が答えます。
「おお、時永‥‥よう来たな」
銀煙管を燻らせて何やらじっと手紙を読み耽っていた様子の長谷川平蔵は顔を上げると、見知った顔に柔和な笑みを浮かべて招き入れます。
「お邪魔をしてしまったのでなければ良いのですが‥‥」
「なぁに、構わぬ。部下の仏頂面を見るのと違ってな、おめぇさんみたいな美人が尋ねてくるのぁ歓迎よ」
そう冗談めかして軽口を言う平蔵は、まぁ座れ、と貴由に勧めます。
「実は本日、菊の祭りを‥‥」
「おお、そんな時期だったなぁ‥‥今年もゆっくり菊は見れなんだが‥‥」
そう言って貴由の手にある花束に笑みを浮かべる平蔵。
「宜しければお慰めになればと思いまして」
そう言いながら部屋に置いてある一輪挿しを手に取りいったん部屋を出てから、菊を生けて戻ってくる貴由。
「こういう菊見も良いやもしれぬな‥‥時永、当然つきおうてくれるな?」
そう言って笑いながら、女将の持ってきた杯を貴由へと持たせ、酒を注ぐ平蔵。
2人はその後暫く、月明かりの中、生けられた菊を愛でながら酒を酌み交わすのでした。