旬の食材〜神無月〜
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月01日〜11月06日
リプレイ公開日:2005年11月12日
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●オープニング
その日、商人と丁稚の少年が揃ってギルドへとやって来たとき、商人はもう嬉しくて仕方が無いという様子を見せ、荘吉はわずかにため息交じりの様子でした。
「いやぁ、実はですね、知人の漁師が秋鰯がここのところ豊漁だからと、好きなだけ持って行けと言ってくれましてね〜」
そう言う表情は晴れやかで、これ異常ないほど嬉しそうです。
対照的に、荘吉のほうはといいますと‥‥。
「とりあえず、後は思った以上に仕入れ過ぎてしまった松茸がありまして‥‥」
少々米神に手を当てながらのところが、なにやら荘吉が思うところを感じている様子を良く物語っています。
「‥‥旦那様、ほんっとうにわざとじゃないんでしょうね、あの十の値の発注間違い!?」
「嫌じゃないかい、荘吉‥‥そんなに人を疑っていても良い事ありませんよ? あればあるだけ売るのが商人でしょうに」
「主に売るのは僕や店の者なんですが‥‥」
じと目で商人を見る荘吉を見つつ、ふと受付の青年が首を傾げてから、恐る恐る口を開きました。
「じゅ‥‥十の位仕入れが間違えたって‥‥もしかして、10本や20本余分に?」
「一箱大振りの最高級品が3本入っていると考えて、その二倍ほど余分に頼んだと考えてください‥‥」
「‥‥は?」
「ええ、もうこの旦那様、信じられないことに例年仕入れより余分に40箱も追加で頼んだんですよ!?」
「はいぃっ!?」
もともと天然最高級品の松茸なぞどれほど出回ることかという感じなのですが、いろんな伝手がこんな恍けた商人にもあるようで、荘吉は溜息をついて受付の青年を見ます。
「何もあんなに‥‥」
「忘れてはいませんか、荘吉‥‥私たちは卸しで買えるんですよ?」
「‥‥ということで、追加分を裁いても、かなりの数余裕があるんですよね、旦那様の言葉を借りると」
すでに受付の青年の頭の中を松茸料理が駆け巡っていましたり、商人は鰯と松茸に夢を膨らませているよう。
「あああ、色々と楽しみじゃないですか、荘吉」
「‥‥松茸も嫌いじゃないけど、おつけはシメジのほうが美味しいもん‥‥」
なんだか精神的疲労が抜けやらぬ荘吉を尻目に、商人は受付の青年の手をがっちり掴んで口を開きます。
「うむ、なんだったら君も食事の時には遊びにいらしてはどうですか? それが良い、そうしましょう!」
「あ、あの、それで、依頼というのは‥‥」
「あぁ、言ってなかったですか? 鰯と松茸を調理して一緒に楽しんでくれる人をお願いしますよ〜」
浮かれ気分の商人に釣られるように色々と想像を膨らませつつ、受付の青年もどこか夢見心地の顔で頷くのでした。
●リプレイ本文
●嬉、楽しい買出し
「マツタケですか、昔京都でいただきましたが土瓶蒸しはおいしかったですね」
「どびんむし?」
てくてくと買い物に向かいながら山本建一(ea3891)が言うのに、聖神刀鈴(eb3686)が好奇心一杯の目で山本を見ながら聞きます。
二人は食材の買出しを頼まれて市を回り、いくつかのお店を覗いている最中でした。
「土瓶蒸しというのはこういった陶器の器に松茸やはもなどが入っていて‥‥」
「今回はそれも食べられるでしょうかー?」
手で軽くそのものを再現して見せながら言う山本に、聞いているだけで食べたくなった様子の鈴はほわっとした表情で頭の中に思い描くよう。
「そうですね、作ってもらえるといいですね」
鈴の様子に微笑を浮かべて山本はそう頷きました。
「滅多に食べられない松茸に、旬の秋鰯‥‥下手な酒を用意したのでは杜氏の名折れだな」
自身の立場からも料理に負けない、それでいて料理によくあった酒を選ぼうと色々と味を見たりしながら考えていた阿武隈森(ea2657)は、ふと手元の杯に目を落とすとそれをじっくりと眺めてなにやら考え込みます。
「酒と料理に合ったこいつも必要だな」
そう言っていくつか選んだ酒を選り分けて荷として驢馬に積むと、ふらりと足を向けたのは様々な酒器を扱う店。
「ふむ‥‥」
ゆったりと見て回れば高価な品から二束三文の叩き売りまで様々な品が並び、その幾つかを店主に言って並べさせて一つ一つじっくりと品定めをします。
「主人、この徳利‥‥これのぐい呑みなどはあるか?」
「はいはい、こちらですか? もう少しこちらなど‥‥」
「いや、これが良い」
そう言ってその徳利を改めて手にとって眺める阿武隈は、その徳利を幾つかと、ぐい呑み、お猪口を幾つか買い込んでその店を後にするのでした。
●下拵えもまた楽し
「松茸の下ごしらえは‥‥ぬれ布きんとかで拭き取って‥‥」
そう言いながら箱を開けて中から松茸を取り出すのは龍深城我斬(ea0031)。
「良い松茸は香りが強く、笠があまり開いていない‥‥軸は短くて太いですし、弾力も申し分無いようですわね‥‥」
布巾をぬるま湯で浸してしっかりと絞りながら、潤美夏(ea8214)は我斬が取り出した松茸に総評かを下します。
「それにしても、あのぼんやりとした商人が意外と、こんなに良い物を仕入れているというのも‥‥やはり食べ物だからかしら?」
なにげにさっくりと斬り捨て発言をしつつ松茸を拭う美夏は、先程からくるくる忙しそうに立ち働く荘吉を手招きします。
「何ですか?」
「あなたも料理を覚えた方が良いかと思って」
「いえ、僕基本的な料理は‥‥」
「まず下拵えから仕込むわよ」
問答無用に美夏に捕獲されてしっかりと仕込みを覚えさせられる荘吉。
と、そこへカイ・ローン(ea3054)が大きな鍋を抱えて入ってきて、さてとと呟いて水を汲んできます。
「このごろ寒し鍋を作ろうかと思ってな。鍋は一人では余り美味しく感じないから丁度良いしな」
そう言って松茸を一つ手にとって軽く首を傾げます。
「こちらを試して良いのならば入れるのだが、やはり椎茸の方が無難か?」
「良いんじゃないですかね、キノコ鍋なんて実に美味しそうだな〜」
カイが言う言葉に笑ってケイン・クロード(eb0062)は包丁を手に鰯の鱗を刮ぎ取り、慣れた手つきで頭を落として腹に包丁を通します。
ちょうど穫れたての鰯が届いたようで、活きの良さにくわえ大振り小振りと色々あるので、やることは沢山ありそう。
「お料理は好きなんですけれど、腕がありませんから‥‥でも、これだけ新鮮だとお刺身など良いかもしれませんね」
籠にいっぱいの鰯を見ながら言う琴宮茜(ea2722)に、もちろん、と次の魚へと手を伸ばすケイン。
「とと、米はどれぐらい必要だったか‥‥松茸御飯用だけか?」
「あ、鰯の方でもつかいます〜」
我斬が米を取りに倉へと足を向けようとするのに済みませんがついでに、と頼むケイン。
下拵えの間も、一同はなんだかんだと楽しげにお品書きを考えているようなのでした。
●楽しい仕上げ
「わ、いい匂い〜♪」
買い物が全て済んでひょっこりと顔を出した鈴は歓声を上げると、何やら気になるお釜の蓋へと手を伸ばして、慌てた様子の荘吉に止められます。
「え〜女の子はちょこっと良い匂いがきになるんです、そう言うお年頃なんです〜」
「あわわ、まだ開けちゃ駄目なんですよ、美味しく出来上がらなかったら、女の子も悲しいですよね?」
「あぁ、味見がしてみたいんだったら、こっちに有るよ」
「ほんとですかー」
ケインが油の具合を確認しようとからりと揚げたての松茸の天麩羅を勧めると、鈴はぱらりと塩を振ったその天麩羅をはふはふと口にして嬉しそうににっこり。
「はう〜美味しいのですー♪」
なんだか幸せそうな様子の鈴の目の前では、カイが真面目な顔をして匙で汁を掬って鍋の味を確認し、頷くと野菜を入れて蓋をします。
「お鍋もおいしそう〜‥‥ところで、これは何ですかー?」
ふと気になった様子の鈴は首を傾げてそれを見ると、ちょうど手が空いて荘吉の入れたお茶で一息ついていた美夏が顔を上げます。
「それは土瓶蒸しですわ。他の物の出来上がりに合わせて、これから仕上げを始めるところです」
「ふぅん‥‥で、あちらのおっきい人は何をしてるですか?」
そう言って鈴が見る視線の先では、阿武隈が大きな体を縮こませて、お燗の支度をしているところでした。
●極上の秋の楽しみ
「さて‥‥では、お食事を始めましょう♪」
部屋へと運び込まれた料理の数々ににんまりと笑いながら口を開いたのは商人。
「お、お呼ばれしてしまっています‥‥」
反対に小さくなって座っているのは、お仕事を終えてやって来たギルドの受付をしている青年。
「こりゃすげえ。どいつもこいつも美味そうだ!」
阿武隈がそう声を上げると、料理を作ったそれぞれが満足げな表情を浮かべ、阿武隈は杯を手に取りにやりと笑い。
「んじゃま、旦那の発注間違いに乾杯、っと」
それぞれお茶やお酒が行き渡り、食事開始と共にあちこちの蓋が取られ、食欲を誘う香りが部屋中に広がります。
「はぁ、やはりこの時期は幸せですなぁ‥‥」
しみじみ頷く商人の側で、鰯の桑焼きに舌鼓を打つのは我斬。
「美味いものに美味い酒‥‥たまらんねえ」
「それにしても、本当に良い物ですねぇ、この爽やかな喉越しといい、この趣有る器といい‥‥」
感心するように頷く商人の横では、鰯御飯を手に荘吉が、にっこり笑いながらお椀を渡すケインに不思議そうな表情を浮かべています。
「なんだか疲れてるみたいだし、いつもお世話になってるからね。今日は沢山食べて、荘吉君も楽しんでね」
「はぁ‥‥これ、僕の?」
「うん」
お茶碗を置いてお椀を受け取り蓋を取ると、しめじのお味噌汁が入っているのにぱっと顔を輝かせる荘吉。
「わ、しめじのおみおつけ、僕大好きなんです、有難うございます!」
嬉しそうにお味噌汁を口にする荘吉は、なんだかんだ言ってまだまだ子供なのでした。
因みに、その隣で秋の味覚を胆のすしていた美夏、今回はうんちくは置いて置いて楽しむのに専念したようです。
「これは鰯、ですか?」
そう首を傾げるのは茜。
ちょうど鰯のつみれが入ったお味噌汁が入ったお椀を手にしています。
「あぁ、周りに聞きながらだが、俺が作ってみた」
「そうなのですか、とても美味しいですよ」
にこり笑ってそう言う茜に、作った甲斐があったのか我斬もぐいのみを手ににっと笑い返し。
「まぁ、ちょろっと舐めるだけでもな」
「ん‥‥あ、おいしい」
「ほう、荘吉はいける口だな」
ちょっぴり阿武隈が荘吉を酒の道へと引き込みかけている横では、カイと受付の青年が鍋を取り分けた皿を手に何やら真面目な顔をして話しているよう。
「最近欧州のほうから冒険者が多く来るね。ただでさえ仕事にあぶれているのに生活がなりゆくかな」
「ん〜‥‥でも、近頃は何やらあちこちできな臭い動きがあったり、大変そうですけどねぇ、上は」
「江戸で九尾が暗躍し始めているというし渡りに船というべきか」
「改めて考えると物騒な商売かも知れないですね〜うちらは」
「まったくだな」
そんな2人の会話を眺めていた山本は、隣に座ってひょっこり何やら覗き込んでくる様子の鈴に軽く首を傾げます。
「これがどびんむしって言うですよねー? やっぱり美味しいですか?」
「ええ、美味しいですよ、あなたも食べられてはどうですか?」
「食べ方、よくわかんないんですー」
「あぁ、この猪口に汁を注いで‥‥松茸とか、中の具は蓋にとっていただくんですよ」
鈴の前で実戦してみせる山本に、見よう見まねで中身を取って口へ運んだ鈴は、口へと入れてやはり幸せそうににっこりと笑うのでした。
●秋から冬へ
「ふぅ、すっかり満足ですねぇ‥‥」
お酒でほろ酔いになった商人が言うと、各々はお酒や阿武隈が買ってきた柿、それにお茶などを戴きつつ一息入れていました。
「御飯有りますけど、おじや行きますかー?」
「お、いいねぇ」
「さっぱりと楽しめそうですわね。わたくしもいただきますわ」
「あ、じゃあ私も貰おうかな」
まだ余裕がある人達が鍋の前に集まる中、お持ち帰りを包んでいるケインがふと障子を開けて外を見ると、すっかりと冷え込んできた様子に冬を感じるよう。
「はは、月道経由で故郷に送れれば良かったんですけれど‥‥」
「シフールさんに頼んでも無理ですかねぇ?」
ケインの言葉に首を傾げながら言う商人。
自身は馬借に異を頼むことが多いためかその辺りがよく分からないよう。
「どうなんでしょうかね?」
そう会話を交わしながら、寒い冬を見せる障子を閉じると賑やかにお鍋の前に集まる一同の方へと、ケインは歩み寄るのでした。