旬の食材〜霜月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月29日〜12月04日

リプレイ公開日:2005年12月09日

●オープニング

 その日、商人は珍しく中年の通い番頭を連れてギルドへとやってくると、眉を寄せてこう切り出しました。
「実はですね、今回炊き出しを行おうかと思いまして‥‥」
 そう切り出す商人は、きょとんとするギルドの受付に、あぁ、と頷いて再び口を開く商人。
「ほら、火付けがあったでしょう、あれの大工さんとか焼け出されてあちこちで雨露凌いでる人相手に、炊き出ししようかなーと思いつきまして」
「お、思いつきなんですか!? もっとこう、戦略的な何かとか人としてどうこうとか、いろいろあるでしょう!?」
「でですね、過去にお薬代に困っていた猟師さんがいまして、大負けに負けて4割にして売ったことがありまして、それのお礼にと‥‥」
「‥‥無視ですか‥‥」
 なんだかがっくりとする受付の青年に商人が説明するには、それ以来、山で獲れた物を欠かさずに持ってくる猟師さんと、その親御さんにお返しにお薬を渡すということを続けて交流があったそうです。
「で、彼がですね、牡丹肉と紅葉肉をこう、どんと下さった事になったのでこれを使って皆さんと食べようと思ったのですが、なんというか、こう、それを貰う約束をした帰り道に、こう昔の荘吉を思い起こすような焼け出された子供とか見かけまして‥‥」
 住む場所が戻れば江戸の人たちは思った以上に立ち直りが早いですから、と言って笑う商人。
 商人はその炊き出しの料理を作ってくれて、なおかつその料理を一緒に楽しんで貰える人に来て貰いたいんですよ、と笑います。
「ただ、紅葉に牡丹はあれという人もいるでしょうから、このうちの番頭に頼みまして手配させましたのが‥‥」
「はい、手配させていただきまして鱈を少々‥‥」
「これだけあれば何とか出来ないかなと思うんですが」
「まぁ、薬食いを嫌う人もいるかも知れませんからねぇ」
 商人と番頭の言葉に頷く受付の青年。
「ですので、まぁ、ほら、この時期あちこち居候してて肩身が狭い思いをしている子供達に食べさせてあげたいかなーっと言うのと、あとは良い仕事をして貰う為に大工さん達に力をつけて貰いたいかなとか‥‥」
「そう考えてらしたんですね?」
「何となくそう思っただけです」
「‥‥‥‥」
 なんだか寂しそうな顔をしつつ、受付の青年は依頼をまとめるのでした。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4321 白井 蓮葉(30歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0943 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(28歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

レイル・セレイン(ea9938

●リプレイ本文

●大仕事な買い出し
「しかし、凄い事になったな‥‥」
 龍深城我斬(ea0031)は、大八車に詰まれた荷物の山を見てしみじみ呟きました。
 買出し組みに出てきたのは我斬と山本建一(ea3891)、それに商人に大八車を借りていくつかの店で安い皿や箸を大量に買い込んでいるケイン・クロード(eb0062)の3人。
『これだけ買うのですから、少しお願いできませんか?』『ここで買ったこと、宣伝しておきますよ』『出来るだけたくさん欲しいのです』などなど、店主にとって見れば天から振って沸いたようなお話。
 しかも忙しい最中に御代を受け取りに回らなくていいといえば、一にも二にもなく無く二つ返事で負けてくれた店の亭主ですが、ある意味鮮やかとも思えるその交渉に我斬も山本も驚いた様子。
「しかし‥‥あの店これで暫くは商売も何もないのでお伊勢さんに行くか湯につかりに行くか、などと言いながら喜んでいましたね」
 野菜の包まれている風呂敷包みを抱えながら山本は言うと、山と詰まれた荷を見て、あとで届けさせるとなった残りの在庫を思い出しているよう。
「あの店のご亭主が良い人で良かったですね」
 そう良いながら慎重に大八車を引くケインは、2人に残りの食材の買出しを頼むと、下ごしらえに必要なものは揃っているはず、と御店へ戻っていきます。
「さて‥‥あと握り飯に必要なものを考えると、乾物屋に行く必要があるな」
「魚は直接届けてもらうことになったからいいとして、あとは海苔におかかとかですしね」
 我斬と山本は、買うものを互いに確認しながら買出しを続けるのでした。
「まだまだ世の中捨てたもんじゃないのだ。焼け出された子供達のために炊き出しをしてくれる御仁がいるのだ〜」
「は? このご時勢にそんなことするヤツぁよっぽどの馬鹿かい?」
 焼け出されて橋下の場所を奪い合ったり、肩身が狭い思いをしながら暮らしているらしい人たちはそう言う風に笑うのですが、玄間北斗(eb2905)はそんな言葉にもほわっとした様子のままに首を振ります。
「そんなこと無いのだ。困ったときはお互い様なんだって言ってたのだ〜」
 玄間の言葉に目を瞬かせて、噛みついていたおかみさんは子供達の方へとちらりと目を向けますが首を振ります。
「おこもさんになるつもりはないよ。施しを受けなくったって‥‥」
「施しじゃないのだ、これから復興を頑張っている大工さん達もお誘いに行くのだ〜みんなみんな頑張って欲しいからの炊き出しなのだ」
 そういうと、『周りにそう言う子がいたら声を掛けてあげて欲しいのだ』と頼んで道々声をかけながら現場へと足を向ける玄間。
「あ、棟梁、棟梁。一息ついたら、比良屋さんまで皆を連れて来てくれないか、なのだ」
「お、どうかしたのかぃ? そうしてぇのは山々だが、何せ忙しくってよ」
「だからなのだ、いい仕事をしてくれる皆さんに、是非美味しい料理を振舞いたいって御仁がいるのだ」
 物好きな言うような顔をしつつも『あそこの旦那は変わり者だからなぁ』と親しみを込めて言う棟梁は必ず行くと約束すると玄間は再び次の場所へと向かうのでした。

●大童の下拵え
「御飯炊きあがりましたよー」
 炊き出しのための御飯を次から次へと炊いては釜を取り替え炊き続けるクリステル・シャルダン(eb3862)に、荘吉が近付いて声をかけます。
「御飯炊くのだったら僕代わりますよ。あっちで早くに来た子供達が集まっているので」
「あ、すみません、ではこちらの方はお願いしますね」
「はい、任せてください」
 荘吉に後を任せて比良屋の一室へと集まると、そこでは既に我斬や白井蓮葉(ea4321)が、比良屋でお風呂を借りてさっぱりして元気が出ていた様子の子供達が手を洗って待っていました。
「さてと、それじゃ‥‥」
「始めしょ」
 我斬が口を開くと蓮葉も襷がけしてそう言い。
 我斬と蓮葉が振る舞うように握り飯を作り始めると、子供達はクリステルの周りに集まって見よう見まねで塩水を手に塗り御飯を手に取りに握り始めます。
「あっつあつの白い米だぁ‥‥」
 塩水が手についた手の中の御飯に我慢できなくなった様子の子が一人ぱくり、一口口にするとほわわと幸せそうな笑みを浮かべてクリステルを見上げました。
「あらあら、今食べていて後で温かいお鍋や汁が食べられなくなっても知りませんよ?」
「父ちゃんも言ってたぞ、はらがへってはって‥‥ね、ちょっとだけ、だめ?」
 一つだけ、とつまみ食いのおねだりをする子供達に、クリステルもその様子を見ていた我斬や蓮葉もそんな様子の子供達を見て笑います。
「まぁ、少しぐらいのつまみ食いは構わんだろう」
「ねーこれなに?」
「これは美味しくて身体に良いお薬よ」
 肉とは口にせず薬食いと言うのを考えてかそう言って具材を見せる蓮葉に、きらきらとした目で子供達はその手元を見、次第に楽しくなってきたのか、いびつではありますが塩握りを作ると満足そうな笑みを浮かべているのでした。
「さて‥‥」
 軽く腕まくりをして目の前にある猪に小刀を入れるのはミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)。
 既に大振りの物も小振りの物もあらかた捌き終えて、捌いて見せてみようと思っていたのも、荘吉に『かなりどぎついと思いますよ、一般的には』と言われたため、取っておいた紅葉肉と牡丹肉も捌いてしまうことにしたようです。
「あ、ちょうど良かった、鹿、まだ残っていますか?」
 のんびりと奥から出てきたように見えた依頼人の商人ですが、その商人と共にがっしりした巨漢がにこにこと見てくるのに首を傾げるミリフィヲ。
「いやや、ちょうどそろそろ鹿刺しが美味しい頃だなと思いまして」
「あぁ、なるほど‥‥でも、上手く捌かないと臭みが残るんだよね?」
「そう聞いてますけど‥‥それにしてもこれだけあると重労働ですね〜」
 後ろで先程から肉を煮込んでいるケインにミリフィヲが聞くと、ケインも養父から教わった記憶の中から呼び覚ました知識で答え、手拭いで額の汗を拭います。
「あぁ、それに関しては、彼に頼もうかと‥‥」
 商人は笑ってから傍らの巨漢に言うと、男は姿に似合わず、にと人懐っこい笑みを浮かべてミリフィヲに歩み寄り小刀を受け取り。
「彼から頂いた食材なんですよ、この鹿も猪も。これでも一時期はお山を降りて板前修業をしてたこともあったとか」
「山肉ならば任せてくんろ」
 そう言って、彼の手によりもう一品、お品書きが増えるのでした。

●大賑わいの炊き出し
 炊き出しは、大盛況処ではない集まり具合でした、
「おお、牡丹鍋たぁ、良いね兄さん」
 上機嫌でケインと我斬相手に盛り上がって居るのは大工の一団で、何組かの大工達が集まり軽く一杯引っかけると熱々の鍋に舌鼓を打っています。
 比良屋の店先では寒かろうと、貴重品を蔵にしまって下男に料理の差し入れと共にそこを任せると、比良屋の主は思い切りよく店内処か居住空間の座敷や客間までも開放して、自らもあちらこちらへ配膳に加わって動き回ったりしています。
 むしろ配膳をしていることにより、ここの主人とは思われてないようで妙に和気藹々と裏長屋のおかみさん連中と言葉を交わしていたりする姿がしっくり来ています。
「さ、たらふく食って元気だしていこうな‥‥なに、子供が遠慮なんかするもんじゃないぞ」
「ん、‥‥い、いただきます!」
 握り飯を作りに来たような人懐っこい子達だけでなく、大火が深く傷を残した子供達も居ます。
 そんな子供達はどうしても遠慮してしまったり怯えてしまったりするのですが、言われる言葉に空腹には耐えきれなかったのか、鱈の鍋をよそってもらうとはふはふしながらがつがつと握り飯と交互に口へと運び。
 徐々に腹が満たされてくると見る見る目に涙を溜めて、泣きながら汁を描き込み始めるのに、我斬はぽんと子供の頭を撫でてやるのでした。
「あらあら、無理しないで一遍に運ばなくても平気よ」
「へいっちゃらだい!」
「偉いのだ〜一緒には以前頑張るのだ〜」
 蓮葉に元気良く答えると、お手伝いをして引け目を感じる必要もなくしてやったことにより、元気に走り回りながらきゃっきゃと笑い声を上げる子供達。
 玄間と一緒にお膳を持ってあちこちへと顔を出すと、それまで暗い顔をしながら入ってきた人達もほっとした表情で笑みを浮かべます。
「あら、これは何だね?」
「これはミートローフと言って、私の国の料理よ」
「ふぅん‥‥これはこのまま食べて平気なのかい?」
「ええ、このソース‥‥えっと、たれをしっかり付けると良いと思うわ」
 ミリフィヲの言葉に恐る恐るといったように口元に運んで、あら、と声を上げるともぐもぐと切り分けられたそれをぺろりと平らげて満足げに頷く長屋のおばさん。
「はい、使い終わったおぜんを持ってきたよ!」
「有難うございます。あら? 手に零してしまいました?」
「ご、ごめんよ、オイラつまづいちゃって‥‥」
「大変、ちゃんと言わなければ駄目ですよ。火傷してしまっているじゃありませんか」
 子供の手を取り火傷した場所を癒すクリステルに、少年は驚いた顔をし、見る見る顔を輝かせて、『すげーっ』を連発するのでした。
「はい、君達も一緒に食べよう」
 少し落ち着いてくると、一同も加わり料理を口にしては感嘆します。
 ふとケインが顔を上げると、そこには幼い兄妹がおどおどと様子を窺っていて、ケインは2人の所へと行くと促して座らせ、お椀に鹿の鍋物と猪の物とをそれぞれよそって渡してやると、兄が小さな妹に冷ましては食べさせ始めます。
「とっても美味しい‥‥お兄ちゃん、有難う」
 少年が顔を上げてそう言うと、何かを思い出したかのように見ていたケインはにこりと笑います。
 どうやら引っ込み思案な兄妹らしく、孤児になった子供達が暮らす仮小屋にも入っていけずに余程にお腹が空いていた様子の兄妹に何彼と世話を焼いてやるケインに、ひょっこりと顔を出す商人。
 そろそろ食事も終わり、他の子供達は子供達なりに逞しく戻ってにもかかわらず、一緒に行かなかったので、少し気になったのかも知れません。
「ん〜‥‥帰るところ、なさそうだねぇ‥‥」
 そう言って頭を掻く商人に、慌てて礼を言って出て行こうとする子供ですが、笑いながらしゃがみ込む商人。
「まぁ、あの子達の輪にも入れないで行くところがないんだったら、うちにいるかい?」
 吃驚した顔の兄妹ですが、それ以上にケインも驚いたよう。
「何となくね、このまま返すのもあれかなと思ってねぇ‥‥うちの荘吉よりもちっちゃいんだ、それで気兼ねするって言うんだったら、荘吉と一緒に少し御店を手伝ってくれるとありがたいですかねぇ」
 葛藤する様子の少年が、妹を見てからこっくり頷くのを見て、ケインは何か懐かしいものを見るかのように商人へと目を向けるのでした。

●そして復興の兆し
「いや、本当に美味かった美味かった」
 薬食いと言われるだけあって、元気も気力も十分になった様子の人達が笑いながら席を立つと、辺りは既に夕暮れ時。
「こうまで遣られっちゃぁ、俺たちもがんばらねぇとな!」
「おぅ、見てな、燃えた建物なんざ、俺たちがあ〜っという間に直してやらぁ!」
 そう言って元気良く出て行く最後の大工の一団を見送ると、商人は満足げに頷いて、労いの酒や茶を用意しして一同に礼を言うのでした。