親戚がいっぱい

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月21日〜07月26日

リプレイ公開日:2004年08月01日

●オープニング

 腕を布でつって、怒りの形相でギルドへとやって来たのは、壮年の男性でした。顔のあちこちには痣があります。
「聞いて下されっ、わしはもう腹が立って腹が立って‥‥」
 そう怒りながら言う男性。所々に見える傷痕は真新しく、痛々しい様子です。
「とにかく、酷いのです。わしはつい先日に母を亡くしましてな。それで、母の残した物、家や財産もそうですな、それを受け継ぐことになったのです。母は独りで住むのが気楽と言っていたので、こまめに様子を見に行くという形で、1人で別邸で暮らしていたのですが、寄る年波には勝てず‥‥」
 そう言うと、親が偲ばれたのか少し勢いを無くし肩を落とす男性。男性は少し辛そうに息を吐きます。
「母はともかく、うちにはわしの一家の他には跡を継ぐ子もおらず、親類縁者もおりません。がっ!」
 そこまで言って再び怒りがこみ上げてきたのか、肩を震わせ思わず卓をどんっと叩いて、痛そうに腕を無事な腕で抱えるように抱きます。
「ですが、母の葬式の仕度を、と思いましたら突然見知らぬ男が上がり込んできましてな、その男の連れた用心棒らしき男に斬りつけられ‥‥」
 そう言うと、男は腕や自分の身体に目を向けます。
「それというのも、上がり込んだ男は自分が母の子だと言いだし、斬りつけた用心棒達も母の親戚だと‥‥そんな馬鹿げた話があるでしょうかな? それを突っぱねたらこの有様。そうして屋敷を乗っ取っておいて、母の財産を使って豪遊しているようで」
 どうやら、他に身寄りなどの確認が出来ない老人とみて目をつけられていたようで、男性も危うく命を落とすところだったとか。
「わしは良い、こんな物は治りますからな。しかし、母は通夜の一つも出してやることが出来ず‥‥もう見られた状態ではないでしょう。それがわしには非常に腹立たしい。金や屋敷など、母の物が無くとも何とでもなるし、母をきちんと供養するのであれば、多少は目を瞑るつもりだったのですが、これだけはどうしても許せん」
 そう言うと、男性は額を擦りつけんばかりに頭を下げました。
「どうか、あのような不届きな輩に、世の中という物をよおく叩き込んでいただきたい」

●今回の参加者

 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0574 天 涼春(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea1665 スタニスラフ・プツィーツィン(22歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea2497 丙 荊姫(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3829 跳 夏岳(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3865 虎杖 薔薇雄(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3899 馬場 奈津(70歳・♀・志士・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

●事前準備
 その日、その屋敷には3人の男達が潜入しました。時間をおいて、確実に人数や配置を抑える為、念を入れてのようです。
 闇目幻十郎(ea0548)が最初に忍び込みます。塀を越えて侵入するのは思ったより簡単です。自称親戚達が酒に溺れているというのもあるかもしれません。そっと床下を回り上にいる人間の様子を確認して戻ります。
 スタニスラフ・プツィーツィン(ea1665)は天井裏から、実際の戦力を確認する為に各部屋を覗き込みます。最後に忍び込んだのは九十九嵐童(ea3220)。侵入経路など、念の為、他の者が忍び込み易いところを重点的に調べたようです。
 戻ってきて戦力を確認したところ、浪人者が4、5人。その辺のごろつきはもう少し多く、入れ替わりを考えても10人前後です、浪人の中でそれなりに腕が立ちそうなのは2人ぐらいです。また、それなりに広い屋敷なので、思った以上に潜伏先は有りそうです。
 彼らは主に広い居間を占拠して酒盛りを続けているようで、依頼人の母親の遺体は母親の部屋から動かされていません。
 以上のことを踏まえて作戦を相談している横で、馬場奈津(ea3899)は、依頼人と顔を付き合わせて、ぶつぶつと何かを練習しているようです。
 嵐童は、遺体の扱いを知ると、眉を顰めて呟きます。
「‥‥魔物の牙より人の悪心の方が怖いかもな‥‥」
 潜入の為に必要な酒など、依頼人が懇意にしている酒屋の人間に協力を依頼して、準備は万端。作戦実行を待つのみとなりました。

●美女と坊主!?
 蒸し暑くなってきた夕暮れ時、ひょこひょこと下っ端の男が屋敷から出てきます。重たげな財布を上機嫌で握って、買い出しへと出て行く様子です。その後ろを、すっと音もなく幻十郎がついて行き、曲がり角を曲がった瞬間に小さな呻き声が上がりました。
 それを確認して、跳夏岳(ea3829)が合図を送り、頃合いを見計らって、協力し荷物を運ぶ酒屋の人間を引き連れ、人遁の術でお色気美女に扮した丙荊姫(ea2497)と、天涼春(ea0574)が屋敷へと向かいます。
「おぉ、買い出しに言った奴はどうしたお嬢ちゃん。それと‥‥なんだ、この坊主は?」
「お店で酔っぱらってひっくり返っているわ」
「御身内に不幸があったと伺い参った」
 それぞれが答えるのに胡散臭そうにじろじろと涼春を見る2人の下っ端。
「どうするよ、やっかいなことになんなきゃ良いんだが」
「でもあの婆の死体、ほっぽっとくのも‥‥金取りに行くたびにあれ見るんだぜ? 俺らは」
「まぁ、飲んでる旦那方にこれぐらいでお伺い立てるってのも、怒鳴りつけられそうだし、坊主1人で何が出来るってものあるし、良いんじゃねぇのか?」
 ひそひそと話す2人。どうやら結論は出たようです。尊大な態度で老母の部屋の位置を言って、一行を通す下っ端。真っ直ぐに酒盛りをしているという居間へと向かうと、引き留められる荊姫と、そこに留まる涼春を除いて、酒屋の人間は心配そうに2人を見ながら帰っていきます。
 一応と供養することを勧める涼春ですが、酌を荊姫にさせながら、浪人者達は取り合いません。
「供養したけりゃ勝手にやンな。俺らはあんな婆がどうなろうと、知った事じゃねぇんだよ」
「亡き母上殿はそなたの行いをずっと見ておられる。故人の恩を軽んじる行いを続けると、天からの報いを受ける事になろうぞ」
 涼春の言葉を笑って聞き流す浪人者達。馬鹿にして楽しんでいるようで、幾つか聞き逃せないような暴言を吐きながらも、上機嫌で酒を呷ります。
 中の様子がそのようになっている頃、それぞれが配置へと散っていました。
 幻十郎は床下、スタニスラフは居間にほど近い庭の隅、嵐童は厠の付近の植え込みへと隠れ、奈津は宴会場の真上へと潜んでいます。夏岳は入口付近で借りてきた綱を準備しながら、騒ぎが起きて入口にいる下っ端が席を立つのを待っていました。

●熱くて寒い夜
 屋敷にほど近い茶店で、きらきらと派手に輝く人間が、既に店じまいの準備が整ってからも暫く、お茶を飲んで時間を潰していました。
 虎杖薔薇雄(ea3865)です。
 頃合いを見て、薔薇雄は立ち上がると髪を掻き上げて代金を払って茶店を出て屋敷へと向かいます。
「ふっ‥‥茶店を出る姿も美しい。あぁ、店の人間も私を熱い視線で見送っている」
 茶店の人間の冷たい視線を受けながら、薔薇雄は屋敷へと向かいます。
 既に2、3人の男達が厠へと向かって戻ってこないことに、どこか訝しがりながらも、酒を手放さずにいる男達。既に日はとっぷりと暮れ、行灯の薄暗い灯りの中で、手つきや様子も酔って可笑しくなりつつあります。
「大分熱くなって参りました。夜風で涼みましょう」
 荊姫がそう言って障子を開けるのが合図となりました。
「お、おい、なんだあれは‥‥」
 開けていない障子越しに何かがゆらゆらと揺れていました。それを見て、涼春は気づかれぬように行灯の灯りを落とします。
 ぼうっ、と浮かび上がったのは障子越しに見ても、人魂としか思えません。さあっと酔いが覚めたかのように顔色を変える男達。
『わぁ〜しぃ〜の身体ぁ〜、返せェェ〜』
 地の底から響いてくるような恨めしい声が、部屋いっぱいに響き渡ります。
「なっ、なんだっ!?」
『この屋敷から‥‥出ていけぇ〜っ!!』
 再び響く声に男達の中に動揺が走ります。悲鳴を上げて立ち上がる者、部屋の隅でうずくまってしまう者‥‥その中で、腕が立つらしいと見られる浪人2人は、どこから声が聞こえるのかと焦った様子で部屋を見渡しています。
「おい、中の様子がおかしかねぇか?」
「騒がしいよな‥‥ちょっと見てこようぜ、どうせ誰もきやしねぇ」
 持ち場を離れる2人。そこへ丁度、薔薇雄が屋敷へと着いて眺めています。その横で、いそいそと綱を張る夏岳。薔薇雄は門をくぐって玄関へと足を進めると誰か来るのを待機して待つようです。
「ふっ、何をしても美しいね、私は‥‥」
 誰も聞いていないところで、薔薇雄は満足そうに髪を掻き上げました。
 漸く行灯に灯りを入れると言うことを思い立った男達ですが、月明かりの中で行灯を探すのと恐怖心では、恐怖心の方が勝ったようで、襖を開け障子を開け、てんでバラバラに逃げ出します。
 混乱する様子にスタニスラフはそっと庭へと降りると声色で、母親の声を真似して誘き寄せようとします。声に気が付いた腕の立つ浪人ともう1人が、追いかけてくるのに、玄関の方へと誘導しながら玄関へと向かいます。
 そこには、金髪をたなびかせ悦に入った様子の薔薇雄が待ち構えていました。近づく浪人に刀を峰打ちにする為に持ち直すと斬り結びます。やがて、鈍い音と共に崩れ落ちる浪人を縛り上げると、その服をいそいそと斬り刻みますが、その姿を見て軽く眉を上げます。
「‥‥やはり美しくないな。まぁ君たちのようなものはそのくらいがお似合いだね。まぁせめてもの情けだ、そのお粗末なものだけは隠せるようにしてあげよう」
 薔薇雄はそう言うと人には言えないような所へさっくりと薔薇を刺して、ふっとばかりに髪を掻き上げます。有る意味、そのまま放置された方が傷は浅かったかもしれません。
 そんな薔薇雄と浪人の様子に玄関へと逃げ出す男も、暗がりでよく見えなかった綱へと引っかかり、豪快に転倒して転げ出ます。
「ここから外には出さないぞ〜」
 低い声を出してもどこか可愛らしい様子で夏岳がそう言うと、転がりでた男を掴んで屋敷へと投げ込み、男は恐怖心と投げられた衝撃で目を回しています。
 大混戦となった庭では、幻十郎が潜んでいた床下から出てくると、逃げ出そうとする手近な男へと手裏剣を打ち込み、昏倒させます。嵐童もスタンアタックを使いバタバタと男達を倒していきます。
 幻十郎と嵐童が加わったことにより、ほぼ一方的に自称親戚達は倒され、縛り上げて確認すると、事前に調べた数とほぼ一致します。
「‥‥迅速、かつ正確に、ってな‥‥」
 嵐童はどこか満足げにそう呟きます。
「御仏の前で己の行いを省み、悔い改めよ。そして遺族に償えよ」
 涼春の言葉に、意識有る者達は力無く頷いたのでした。

●悪いことは出来ない
 無事に屋敷を取り戻した一向に、依頼人は何度の頭を下げて礼を述べます。
 その日は、依頼人が待ち望み続けた母親の葬式の日です。とりわけ、葬儀の準備まで行って貰えた涼春には言い尽くせないほどに、感謝を込めて頭を下げます。
「皆様には感謝してもしつくせません。これで母も安心して、ゆっくりと休めることでしょう」
 そう言って、母親の眠る棺へと目を向けます。その棺の周りにはたくさん供えられた花の中に、白い薔薇と、たくさんの薔薇が混じっているようです。
「皆様のお心遣い、感謝いたします。本当に有り難うございました」
 依頼主は、改めてそう言うと、深々と頭を下げるのでした。