火事後の泥棒
|
■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月16日〜12月21日
リプレイ公開日:2005年12月25日
|
●オープニング
「あ、あのっ‥‥」
おどおどとした様子でギルドの前を行ったり来たりしていたその少女、難波屋のおきたは、意を決したように入ってくると、顔を見たことのある人間を見かけてほっとしたように近付いて口を開きます。
「その、あの‥‥護衛を雇いたくて‥‥」
「あれれ? おきたちゃん? ってことは難波屋の護衛?」
受付の青年が聞く言葉に首を振るおきた。
「いえ、その、私の護衛、なんです‥‥」
「‥‥‥‥何かあったの?」
受付の青年が少し緊張した面持ちで聞くと、おきたは声を潜めて言います。
「実は‥‥私がお店のお使いでとある御武家様のお宅へと手土産を持ってご挨拶に行ったのですが、その時‥‥」
郊外の人気のないところは近頃では物騒だからと、気を付け、出来るだけ人で賑わう道を通っていたらしいのですが、その道から目的の屋敷に行くためには、一カ所だけ人気のない道を行くことになるそう。
行きには特に気が付かなかったのですが、お茶も頂き談笑した後で帰り道にふと、焼け跡を見かけて先の大火を思い眉を潜めたときのことでした。
その焼け跡から何か箱を抱えて出て行ったのは、何とも風体のよからぬ目つきも悪い浪人風の男。
「その燃えたお家はお年寄りの御武家様が隠居して暮らしていたそうで、近々復旧してそのご隠居様が戻られる可能性が高いという話を聞いたばかりだったので可笑しいなと思ったのですが‥‥」
物凄まじい形相で近付く男に咄嗟に駆け出し参拝道へと出たので一安心と思いつつも、そこからお駄賃を遣って人を出し、兄に迎えに来て貰ったそうなのですが。
「兄もちょっと傾いている居るとはいえ、一応、大工さんの修行もしていたので、この時期どうしても付ききりで居て貰うわけにもいきませんし、それにこのままでもどうにもならないので‥‥」
と言うのも、どうにもその日から常に誰かに見張られているような気がし、それはおきたの兄も気が付いているそう。
「なので、その、冒険者の方々に、護衛と共に何とか助けて貰えないかと思いまして‥‥」
そう言うと、おきたは不安そうな目を受付の青年へと向けるのでした。
●リプレイ本文
●再会、そしてお仕事
「おきたさん、おっひさー☆」
「おきたちゃんやっほ〜☆」
「ユニさん!」
ユニ・マリンブルー(ea0277)の姿に見知った者が居ることにほっとしたような笑みを浮かべて駆け寄ると、ミネア・ウェルロッド(ea4591)と顔を合わせて自己紹介。
「初めまして、えっと‥‥」
「ミネアだよ、よろしく♪ おきたちゃんとは初めて会うけど、頑張って護衛するからまかせてね☆」
「はい、よろしくお願いしますね、ミネアさん」
場所は難波屋の一室、お見せの主人や女将さんには既に話をしてあったようで、お茶にお菓子にと振舞われつつ詳しい話を聞くことに。
「じゃあ、そこのご隠居さんは屋敷が焼けたあとにはまだ一度も戻ってないのだ?」
「ええ、そう聞きました。あのあたりに近づくのは暫くよせと兄に止められたので確かめに行ってないんです」
玄間北斗(eb2905)が聞く言葉に頷きながら答えるおきた。
「実際にそのあたりを張っていて何かあっては大変だからね、正しい判断だと思うな」
改めて通りかかった様子や男たちが盗んで行った物の、見た範囲での詳しい内容を聞いてケイン・クロード(eb0062)は腕組みをしたままそう言い、音無藤丸(ea7755)も早まらず良かったです、とおきたへ告げます。
「やっぱり、何か大切で特別な物を盗んだのでしょうか?」
「そうじゃなかったら、おきたさんをわざわざ付け狙って口封じをしようなんて思わないんじゃない?」
きゃはは、と笑いながらあっさり言う彼岸ころり(ea5388)に、おきたは青ざめますが、ミネアが愛犬クロワッサンと共に『大丈夫だよ☆』と覗き込むのを見て、こくんと頷くのでした。
「ちょっと顔を上げるのだ〜顎をもう少しだけ引いて‥‥」
「うう、ちょっと苦しいよ〜」
玄間に言われて言われたとおりに顎を引いて刷毛が顔に近付くのにぎゅっと目を瞑るミネア。
「え? これって礼装用の着物だったの?」
「ええ、少しだけ立派すぎますね」
そう言いながらユニの名の意味を教わって青の着物を捜し、淡群青の着物を取り出すとユニへと渡しながら言うおきたは、なんだかちょっと楽しそう。
「ミネアさんには私の昔の着物になってしまって申し訳ないのですけど‥‥」
そう言いながら桜色の着物を取り出してくるおきたは、簪を取り出してユニとミネアの髪にちょんと刺すと、最後の一本を、着付けを眺めながら話を聞いていたころりへ渡すのでした。
●一体、何を盗まれた?
「へぇ、じゃあ、ご隠居のおとーさん形見のなのだ?」
「あぁ、あの蔵にはそのような物を沢山入れておったのでの、子供の頭ほどの箱‥‥焼け跡はまだ危ないから近付くなと言われて居ってな、蔵までが崩れているとは思わなんでなぁ」
そう言って、思いがけなかったことらしく眉を寄せる武家のご隠居は、玄間に火事にあったときの状況などを話し始めます。
「なに、儂らの家までは火は届かん、と言われておったのにの、突如裏手の方から火が上がって‥‥火の粉は思いがけず遠くへと飛ぶものとは聞いておったが、今にして思えば、不審であったの」
「おきたちゃんが盗人を目撃して狙われているのだ。捕らえるにもそれが盗品だと証明する必要があるのだ」
「何と、そのようなことになっておるとは‥‥」
「心当たりの品があれば教えて欲しいのだ」
「むむ‥‥頑張って思い出してみよう、思い出したら難波屋へと使いに伝えさせよう」
「たのむのだ〜」
礼を言ってご隠居の世話になっている寺から退出する玄間の後ろ姿を見送ると、ご隠居は必死で何かを思い出すかのように頭を捻りながら、蔵にあったものを思い出して布へと書き出し始めるのでした。
「そうですか、盗品としては流れては来てませんか‥‥」
質へと幾つか回ってはこの所在を確かめていた藤丸は、ここでも覚えがないと伝えられてから、フト口を開く質屋の主人に顔を上げます。
「中身が分かりませんから、中の物が流れてきているかどうかは分かりかねますが‥‥ですが、そのようにしっかりとした箱でしたら、錠前がかかっているのではないでしょうか?」
「錠前?」
「はい、そのよう物をお持ちの御武家様でしたら、錠の下りる箱であっても可笑しくはありませんし、中身が大切な物であれば、無下に箱も壊せますまい」
「錠前などをあけられる、細工師の方に聞いた方が?」
「もしくは、鍵を取りに戻るかも知れないですねぇ」
「と言うことは、盗んだような後ろ暗い物だったら、伝手でもない限りは盗みに戻るということですね」
質の主人と話していて結論を導き出すと、藤丸は頷くのでした。
●火事後の泥棒は‥‥
ケインは難波屋の一角で、いつの間にか常連さん方に囲まれて、途方に暮れていました。
「美味しいお茶が飲めて、その上とても可愛らしい看板娘さんが居るって聞いたもので」
その一言で、あっという間に入れ込み座敷の他の常連さん方の警戒は解けたようですが、これはこれで、難波屋の良さとは何たるかからはじまり、珍しい異人のお客と言うことであれだこれだと故郷のことを聞かれたり。
「すみませんね、悪い人達じゃないんですよ」
笑いながらおきたがお茶とお菓子を出して言うのに、分かっているとばかりに笑って頷くケイン。
「いや、前に見かけたときから、可愛いなぁと‥‥また会えて嬉しいなぁ」
此方はユニ相手に骨抜きになっている様子の常連客のひとり。
「ユニちゃんもてもて♪」
そして、それを面白そうに眺めつつ、参拝で通りかかったお爺さんお婆さんを表の縁台に釘付けにしているミネアと、いつも以上に繁盛する姿が見られる難波屋。
「それにしても‥‥なーんか、こういうコトしてるボクの方が不審だけどねぇ」
そんな平和な難波屋から離れて3軒ほどの店で蕎麦を啜りながらじっととある一点を見ているころりは、ぼそりと自嘲気味に呟きつつ、向かいの酒場に窓から見える男を見張っていました。
「昨日今日と、つけ回していた様子なのはあいつだけだし?」
帰りもだったら確定だな〜、等と言いつつ窺っているころりの視界に、何やら連んでいるらしき浪人男が窓からちらりと顔を見せると、立ち上がり、やがて店の表に出てきたのを見て、ころりは一瞬迷うも勘定を卓へと置いて後を尾け始めます。
「あれ、ここって‥‥」
一瞬怪訝そうな顔をするころりは、藤丸が質の主人から聞き込んだ『錠前の鍵を探しているかも』という言葉を思い出して頷きます。
「それにしても、盛大に焼けたんだなぁ、ここ」
不自然なくらい燃えたそれは、大火の影響と言うよりは、家へ火を付けた挙げ句に蔵を壊し――むしろ蔵は後から力づくで壊されたのでは、そんな不自然さを見て取るころり。
薄暗くなってきて、悪態をつきながら燃え後から姿を現して帰っていくのは浪人3人。
それをころりは薄く笑いつつ後を付けてゆくのでした。
「大事な煙管なのだ?」
「ええ、なんでも家紋の入った、それはもうたいそう立派な品で、他にも煙草を楽しむための道具が一揃いとか‥‥」
難波屋にお使いに来た寺の小坊主が裏口でご隠居の手紙を渡しながら言う言葉に、玄間は首を傾げます。
「なんでも、昔ごたごたがあって勘当された弟さんの縁者だったら、それを奪ってって言うのは考えられると言ってましたね、ご隠居さん」
お菓子を貰ってにこにこしながらいう小坊主の言葉を聞いてちらりと2階から向かいの酒場を窺えば、ちらりと窓から見える男はまだそこにいます。
「ん、助かったのだ、気を付けて帰るのだ〜」
裏から小坊主を帰したのと同じ頃、ころりは首尾良く浪人達のねぐらを見つけ、急ぎ戻ってきたのでした。
「おきたちゃん、大丈夫だからね」
おきたと手を繋ぎつつ見上げてにこにこ笑うミネアと、反対側を大人しく歩くクロワッサンににっこりと笑いつつもぎゅっとミネアの手を握るおきた。
少し離れてユニとケインが、おきたと、尾けて回る浪人とを目を離さないようについていく中で、ミネアがぐいとおきたを引っ張って材木置き場へと引っ込み、それに合わせて急ぎ足で駆け込む浪人。
「おじちゃん残念だったね♪」
ミネアの言葉と共に、すぐに駆けつけるケインとダーツを構えるユニ。
「同じ剣士として、か弱い女性を脅かす、ていうのは許せないからね」
ケインの構えにじりじりと後退る浪人ですが、ミネアとケインの二人に挟まれ、逃走を図ったところに足へと打ち込まれたユニのダーツで転倒し、後は袋叩きにされるのでした。
そして、それから少し経って‥‥浪人達のねぐらの側にころりと藤丸、玄間の姿があります。
「中にはおきたさんを追っかけ回してた浪人は戻ってこないから4人だけど‥‥中心の男と後2人、これ以外はたいしたことなさそうだけどね〜」
ころりが言うのを聞きつつ裏から藤丸が、表からはころりと玄間が踏み込み、酒を飲んだくれていた浪人達は刀を持って抵抗するのですが‥‥。
「さ、きりきり焼け跡から持ち出した箱の在処について、話してもらおっかな〜」
「しっ‥‥知らねぇっ」
「ふーん、じゃあその指と引き換えでも黙ってられるかな♪」
捕まえるときについた刀の血に唇を寄せ、すっと目が細められ浮かべられる微笑にその場の空気がさっと冷え込んだようで、その言葉を身をもって味わった浪人の言葉によって、がっしりとした重い箱は、根城にしていた家の近くにある神社の軒下から見つけられるのでした。
●次は一緒に‥‥
「いや、確かに確かに、これですの、大切な物で、これを持って行かれたら正当な跡取りはこちらだ等と、ややこしいことになっていたでしょうからの」
そう言って何度も礼を言うのは武家のご隠居です。
一行は難波屋で食事を頂きつつご隠居やおきたと話していました。
「暫くは怖い気がするでしょうが安心して良いですよ」
頼まれたのは人を仲介してだったようで、仲介した人間は既に姿を消していたそうですが、浪人達は牢屋へと送られ、事情を説明しながらおきたへと微笑を浮かべて話す藤丸。
「本当に有難うございました、これで安心して外を歩けます。でも‥‥」
「どうしたの?」
おきたが言葉を途切れさせるのに不思議そうに首を傾げるユニ。
「なんだか、皆さんが帰ってしまうのが寂しいなと思いまして」
笑いながら頷くユニとミネアに、おきたは軽く首を傾げると口を開きます。
「そうですね、また機会があったら、次は一緒にあちこち出かけてみたいですね」
そう言って笑うと、おきたは改めて一行へと頭を下げて礼を言うのでした。