誤解

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:01月22日〜01月27日

リプレイ公開日:2006年01月31日

●オープニング

 その日、新年早々というのにしょんぼりとした様子のおきたがギルドへとやって来たのは、良く晴れた昼下がりのことでした。
「あの‥‥お仕事頼みたいと思いまして‥‥」
 そう受付の青年へと言うおきたは、やはりいつもと違いしょんぼりした様子。
「ど、どうしたの? おきたちゃん」
「あの、とある人に誤解を解いてもらいたいと思いまして‥‥」
 そう言うおきたに席を勧めてお茶を出すと、受付の青年は話を促します。
「実は、数日前の事なんですが‥‥」
 事の発端は年が明けて早々の昼下がり、難波屋にひとりの女性が乗り込んできたそうです。
 その女はお園と言って、おきたを名指しで呼びつけると、店先で思いつく限りの言葉でおきたを罵ったそうで、真っ当な人間ならばそれこそ男でも言わないほど汚い言葉を投げつけたそう。
「身に覚えがないのに、『あたしの男から手を引くんだね』って言われて‥‥それからその人の嫌がらせが始まったんです‥‥」
「嫌がらせ?」
 頷くおきたは、辺りに嫌な噂を流されたりは基本、帰り道にその女とがらの悪い男に捕まりそうになり逃げたことも、店に乗り込んできてひっぱたかれると言うこともあったそう。
「それで、その女の人の言う、男って‥‥?」
「年を越す少し前に二度ほど、お店に入ってきて裏口から出して欲しいと‥‥その時ぐらいしか直接会ったことはないんですが‥‥」
 どうやら前から絵姿を買って大事にしてくれる程にはおきたに好意を持っていたらしいその男性は、どうにも真面目そうな飾り職人だそうです。
「御店に迷惑がかかるからと、昨日今日とお休みしているのですが、このまま続けば‥‥」
 そう言って涙ぐむおきたは、何とかその女性の誤解を解いて、平穏ないつもの暮らしに戻れるようにして欲しいと頭を下げるのでした。

●今回の参加者

 ea0517 壬生 桜耶(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8065 天霧 那流(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ サリトリア・エリシオン(ea0479)/ 時永 貴由(ea2702)/ マグナ・アドミラル(ea4868)/ ヴァルフェル・カーネリアン(ea7141)/ セシェラム・マーガッヅ(eb2782)/ 所所楽 銀杏(eb2963)/ フィーネ・オレアリス(eb3529

●リプレイ本文

●政吾という男
「女性の執念とは、時に怖いものですね‥‥」
 そう呟く壬生桜耶(ea0517)に、出されていた茶を啜りながらイレイズ・アーレイノース(ea5934)は頷きました。
 そこは政吾の仕事場ともなっている小さな店で、客を迎える為の小さな一間と格子で仕切られた作業場の奥には幾つも手の込んだ細工の簪やらが並んでいます。
「それにしてもあなたはどういった経緯でお園さんと知り合ったのですか?」
「いや、それがちょっと前に親方にのれん分けをしていただき、こうして場所を用意していただく直前だったんですが‥‥」
 そう言う政吾は表情を曇らせ目を落として手を止めます。
 どうやら親方の所へお園が直接品を見に来たとき、あれこれ聞くお園が親方がべた褒めする政吾の品を見て、何やら興味を持ったとか。
「その時独立する事を聞いたり、その、親方がその腕で立派に稼げる、と言う言葉に反応したんじゃないかと‥‥」
 実際、親方の商品を納める御店では親方と並んで政吾の品が好まれたそうで、独立してからも贔屓にして貰えることとなっていたのですが、独立と共に、良く知らない女であるお園が我が物顔で家へ入り込み、騒ぎを起こすようになったので、暫く見合わせて欲しいと言われたそう。
「お園の奴、その後偶然を装って酒場で私の席に来まして‥‥それ以降ずっと付きまとわれています。私の所に入ってくる金はあらかた勝手に持っていって飲み食い放題、遊山に使い果たし、挙げ句先の御店にまで金を寄越せとやらかしたようで‥‥」
 仕入れの方も何とか親方に頼んで借りている形だそうで、お園さえ何とかなればすぐにでも返せるだけの腕はあるように見受けられます。
「お園にしてみたら、金になり、暴力で押さえつけられるような男が都合良いと言うことなんでしょうね‥‥」
 寂しげに言う政吾に、政吾の作った簪を手に眺めていた桜耶は僅かに首を傾げます。
「ところで‥‥ここのところどこぞの御武家に脅されていると伺っているのですが‥‥心当たりは?」
「あぁ‥‥なにやら昨年末、お園の奴が先方様の、なにやらとても大切な物を奥方様から奪い取ったらしく、その品で強請の手紙を送ったとのことで、私がやらせたと疑われまして‥‥」
 もうお終いです、と力なく政吾は項垂れるのでした。

●お園という女
「そう、政吾さんはいたって身元が確かな町人で、盗賊と言い切れなくても関わりがあるのはお園さんの方なのね」
 時永貴由が凶賊盗賊改方の筆頭与力より聞いてきた話を確認し、光月羽澄(ea2806)はお園に何かを奪われたという女頭巾の女性について手伝いに来た人たちに手を借り調べていました。
「月に一、二度は参拝に来ていたんだけど、今年に入ってからは見ていないねぇ」
 お園が起こした茶屋前での揉め事について、所所楽林檎(eb1555)も聞いて回っていると、茶屋のおかみさんが頬に手を当てて思い出すように言います。
「その時、どのような物をその女性は取られたのかわかりますか?」
 林檎が聞くと、手でおおよその大きさを表して説明するおかみさん。
「これぐらいで‥‥とっても高そうで綺麗な布に包まれた、そう、少し長細い包みで」
「‥‥懐刀‥‥小柄?」
 少しあやふやなおかみさんの言葉に言うと、たぶんそんな感じ、と答えるおかみさんに礼を言って茶屋を離れ、林檎はあちこちのお園の悪行を調べるために聞き込みを続けるのでした。
「相席しても良いかしら?」
 酒場の者が止めようとするのを無視して羽澄がお園に近づくと、小座敷でどっかりと座り崩していたお園が眉を上げてみると、返事の代わりに傲慢に顎をしゃくって見せます。
「綺麗な簪ね」
「こいつはあたしの男が作ったものさね。売ればいい金になるよ」
 羽澄の言葉に気を良くしてかそう言うお園は、既に政吾の作った品いくつか飲み代にして遊び回っているよう。
「私にもいい人がいるから他の男には興味はないが、恋の話には興味があるわ」
「ふふ、恋なんてなぁ甘いよ、男なんてのぁ女の好きに金を使わせる奴を捕まえるのが一番さ」
 表面上は微笑を浮かべて酒を飲みつつ話していた羽澄ですが、お園という女に対して、不快感は募る一方なのでした。

●危ない趣味?
「少なくともおきたさんはその政吾って人の事は何とも思ってないのよね?」
「ええ、そもそも良く知らない方ですし‥‥」
 天霧那流(ea8065)に聞かれて頷くおきたは、ベアータ・レジーネス(eb1422)の着付けと化粧の手伝いをしているところでした。
 場所は難波屋の奥の一室、冒険者達に手を借りたと伝えると、店主達も冒険者に頼んだことがあるためか好意的に迎えてくれます。
「‥‥まさかジャパンでもこのような真似をすることになるとは思いませんでした‥‥」
 そう呟くとも溜息とも付かない様子で言うベアータに、申し訳なさそうな表情でぎゅっと帯を締めるおきた。
「政吾さんはおきたさんとつき合っているわけではない、つまり、おきたさんと政吾さんそれぞれ別に好きな方、ないし付き合っている方がいる、と思いこんで貰うのが一番手っ取り早いですからね」
 真実はどうであれ、と付け足しながら言うアディアール・アド(ea8737)に、ベアータの髪を梳きながら首を傾げるおきた。
「ということは、政吾さんにベアータさん、私は‥‥?」
「そうですね、やはり依頼を受けている間、ずっと側にいる方が望ましいのではないかと‥‥」
 なんとはなしに視線がそれぞれ交錯し、一人を除いて集中する視線の先には、アディア[ルへと唯一視線を向けた那流の姿が。
「‥‥もしかして私たちって、取り返しの付かないことをしているんじゃないでしょうか‥‥」
 暫く沈黙の後、おきたはぼそりと小さく呟くのでした。
「ですから、それは誤解なのです。その女性、お園さんが勝手に行っていたことで、そのような事件があったことすら政吾さんは知らなかったのですから」
 それから数刻後、政吾の家には4人の武家の男達が押しかけてくると桜耶が政吾を庇うようにしながらそう説いているところでした。
「こちらでもその件についてお園さんの様子を探り、懐刀らしき物を先日もごろつきどもに見せびらかしていた、という話を聞いています」
 マグナ・アドミラルとフィーネ・オレアリスが裏付けを行った話をし、何とか誤解を解こうとする2人と、怯えて頭を抱える政吾。
「あれは亡き若君様の大切な懐刀っ! それを下賤な女が無頼の輩どもに‥‥貴様があのような女を野放しにしておくからっ!」
 激高し吼える1人の若侍。
「あらあら、大勢で何事? 町人虐めなんて、腰の物が泣くわよ。何か理由があるの?」
 そこへひょっこりと顔を出したのがベアータとアディアール、そして、那流です。
「恐らく貴方方の誤解だと思われますが‥‥こちらの政吾さんがお付き合いされているのはこちらの方ですし」
 そう言って女装をしたベアータをつと押し出すアディアール。
 ぱっと見は女性にも見えなくないベアータですが、その突然の展開に目を白黒させる政吾は、お園の持っている物が取り返せたのならば必ず返すという言葉に渋々と言ったようで刻限を切って戻っていく若侍達を見送るのでした。
 参拝道などをベアータに引っ張られるようにして、政吾は歩いています。
 あれからお園に新たに別の『誤解』を植え付けておきたから目を逸らそうとばかりに徘徊しているのですが、ある種お園がやらかしている悪行の数だけ、政吾へと誤解があるわけで、辺りの視線は冷ややかです。
 そうやっていて一日二日、羽澄や桜耶、林檎やイレイズ達が懐刀を回収するためにお園の身辺を探り固めていっていたときのことでした。
「ちょいと、お前」
 読み通りにベアータを睨め付けて凄むお園とごろつき3名が前に立ちはだかり悪し様に罵り始めると、それを誤解だと自分は男であり趣味に付き合って貰っただけ、と公言するベアータ。
 ごろつき達はあっさりと倒され、桜耶の言葉と林檎の調べ上げた罪状読み上げでぐうの音も出ない程に叩かれたお園は、懐刀を取り戻されてその場を逃げ出したよう。
 役人に掴まる前にとほとぼりが冷めるまでと姿を消すことにしたようなのでした。

●これにて一件落着?
 無事に武家の者達に若君の形見である懐刀を渡したところ、どうやらそれは奥方が若君の供養に出かけているときに起きた事件であることが聞けます。
 そして、肝心のおきたと政吾はといいますと‥‥。
「暫くお休みいただくことになりまして‥‥」
 茶屋の看板娘に想い人が、と噂されるのはあまり良いことではなかったよう。
 相手が女性で、憧れという感情だろう、という辺りでだいぶ緩和されていたので良いのですが、もしこれで相手が男性で噂が広まっていたら、少しのお休みではなく、ほとぼりが冷めるまでの長いお休みになっていたことでしょう。
 おきたは御店の主人と女将さんが理解者であることがある意味救いだったのかも知れません。
 そして、政吾は‥‥。
「本当に、その、ご迷惑をおかけしました‥‥」
 江戸の外れ、街道へと出る茶屋の前で、政吾は桜耶やイレイズ、那流達の見送りに頭を下げていました。
「江戸では仕事、出来なくなってしまったので、京の都で一から出直そうかと‥‥」
 窶れた様子の政吾は、それでいて、少しほっとしたような表情で旅装束に荷を背負って立ち上がります。
 おきたほど立場も確立できていなかった政吾は、ころころ変わる噂の類や身の回りの揉め事に腕は良くても仕事はなくなり、衆道の噂さえ立ってしまったことで、親方も庇いきれなかったよう。
「親方には紹介状も頂き、餞別までしっかりと頂いてしまいました‥‥何とかなるでしょう」
 そう言うと、政吾はのろのろと京都へと徒歩での旅立ちとなるのでした。