比良屋の誤算

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:9人

冒険期間:01月23日〜01月28日

リプレイ公開日:2006年02月02日

●オープニング

 その日、あはははと困った笑顔でギルドへと比良屋の主である商人が顔を出したのは、風のない、良く晴れた冬の日のことでした。
「いやぁ‥‥本年も宜しくお願いします」
 笑いながら言う商人に頭を下げて席へと勧めると、受付の青年は軽く首を傾げます。
「今日はどういった形ですかね?」
「いえ、そのですね‥‥人手が足りなくなってしまいまして、はい」
「? もう御店の方も休みが明けて戻られたんですよね?」
「はい、それはもう‥‥そうなんですが‥‥」
 たはは、と笑いながら頭を掻く商人。
「実はですね、店の者も戻ったので、新年会をやろう、と言うことになったのですが‥‥」
 そう言って話し始める商人。
「始めは従業員で、という形だったのですが、まぁ、家族が江戸にいる者もおりますし、近隣に住んでいてすぐに来られるという者もいるため、家族も呼びたい、と言うのに歓迎したわけです」
「はぁ‥‥」
「まだ予定が固まっていなかったので、御店の都合を見て開こうという話をした、その数日後‥‥近隣の長屋のおかみさんが『新年会、楽しみにしてますよぅ』と‥‥」
「?? 働かれている方のおかみさんですよね?」
「いえ、働いている者の身内が住んでいるのではない、ご近所の長屋のおかみさんです」
「‥‥」
「‥‥」
 何となく顔を見合わせる商人と受付の青年。
「つまり?」
「はい、店の者から家族へ、家族からご近所さんへ、と口伝えで広まりまして‥‥誰でも参加可能な宴会として、ご近所様ではちょっと有名になってしまっていまして‥‥」
「はぁ‥‥」
 普通ならばそこまで気前よく、とも思われないはずの事柄でも、商人には焼け出された人達や大工さんへの炊き出しをした過去があります、あっさりそう言うものと同じと思われたよう。
「なのでですね、その、いえ、大きな宴会をするのは良いですし、ご近所様集まってなんて楽しいから良いのですが、その、宴会を開くための人手が、ちょっと‥‥」
 商人の言葉に頬を掻くと、受付の青年は手元の依頼に『宴会の為の手を募集』書き加えるのでした。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb0964 リリン・リラ(19歳・♀・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb2330 ゲオルグ・マジマ(39歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)

●サポート参加者

七神 斗織(ea3225)/ カイザード・フォーリア(ea3693)/ ジェームス・モンド(ea3731)/ 以心 伝助(ea4744)/ 沖鷹 又三郎(ea5927)/ 深螺 藤咲(ea8218)/ ルメリア・アドミナル(ea8594)/ トマス・ウェスト(ea8714)/ アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751

●リプレイ本文

●大忙しな準備
「‥‥しかし、圧巻ですなぁ‥‥」
 集まった冒険者、お手伝いに名乗りを上げ実際に来た者を数えてもなかなかの迫力でありながら、さらにはその大半外国の方ということで、商人は興味深そうに目を瞬かせて見ています。
「暫く居ない内に、この国も国際的になったんですねぇ」
 商人と並び手伝う場所を聞きに来ていた沖田光(ea0029)もしみじみといった様子で頷き、そこからは自家用箒を持ち込んで掃除をしているジェームズ・モンドや比良屋とかお馴染みで日本食の作り方をユリア・ミフィーラル(ea6337)に教えながら仕込みをしている沖鷹又三郎などが忙しく立ち働いているのが見え。
「ジャパンに来て間もないからこの国の調理に関してはまだあんまり知らないんだけど‥‥作り方さえわかっちゃえばもう大丈夫だよ、腕には自身があるから」
 そう言ってにっこりと笑うユリアは、見て教わった手順を確認しながら出しを取り味を確認して材料を確認すれば、アシュレー・ウォルサム(ea0244)はその食材自体を手に取りまじまじと見比べています。
『同じ物もあるけど‥‥やっぱりちょっと食材自体も違うようだなあ』
 母国語で話すアシュレーには光が食材について説明しているのですが‥‥。
『日本食はご飯に味噌スープを入れてお膳になります』
 正しくはお膳にご飯、味噌スープを並べて、なのですが、時折こういう間違いはあるようで、なんだか可笑しいと思いつつも指示に従い一度お膳を用意するアシュレー。
「‥‥ねこさんのごはんなのね‥‥」
 比良屋さんのお子さんでしょうか、ちっちゃな女の子がアシュレーの並べたお膳にてちてちと近づいてきて言うのに、光は慌ててアシュレーに訂正したとか。
「追加の食材、運んできましたよ」
 イリア・アドミナル(ea2564)が裏口へと馬をつけて声をかけると、そこへ深螺 藤咲やルメリア・アドミナルが準備の手を止めて荷を降ろしたりそれぞれに選り分けたりという手伝いを始めています。
 そんな中、とある一角では商人が慌てて止めているという不思議な状況が出来上がっています。
「うちは薬種問屋なので、そう言うのを出してしまうと、流石に信用問題でして‥‥」
 なにやらレヴィン・グリーン(eb0939)へ、手伝いと称してきていたトマス・ウェストが食材として提出したのは乾燥させた紅天狗茸で、多量摂取をしなければ美味ではあるとはいえ、薬種問屋の主となるとさすがにこれは許可できないよう。
「渡された物だったのですが‥‥そうですか、わかりました」
 見知っているレヴィンが事情を話してそれを商人へと渡すと、商人はほっとしたように息をついて預かるのでした。

●ちょっと大変お食事中
「はい、こっちこっち、詰めて詰めて〜」
 どんどん集まるお客を、襖を外して広い部屋にしたりとして幾つか作った宴会の席、並べられるお膳に赤身白身の刺身で紅白を彩ったお膳や、素朴ながらほこほこと暖かそうな湯気を立てている煮物などの小鉢が乗ったお膳などの前に案内しているのはリリン・リラ(eb0964)。
 台所で料理の手伝いや盛り付けなどを手伝っていたのですが、そろそろお客が御店へと詰め掛けてきたため早速案内のお手伝いです。
 部屋へと入れば、庭にもイリアがスクロールのストーンで作った机や椅子が並べられ、そちらには異国料理がいくつも並べられており、どれもほこほこと暖かな湯気を立てています。
「いらっしゃいませ、比良屋へようこそ。一年の鋭気を養う為にも、今日はゆっくりくつろいでいってください」
 光が迎えるとほっとしたようなお爺さんお婆さんが寄ってきて口を開きます。
「いんや、良かった、異人さんの言葉はわからねぇもんでなぁ」
「‥‥あ、あの、リリンさんはちゃんとこの国の言葉を話されていますが‥‥」
「ほれ爺さん、あたしゃそうじゃないかと思ってたんだよぅ」
「おめぇが異人さんの言葉はわからねえ言い出したんだろうがよ」
 そう言いながらよちよちと2つの小さな背中が奥へと入っていくのを見送り、ちょろちょろと走り回る子供達がとある一点を見てぴったり立ち止まるのに光は首を傾げると、視線の先にはゲオルグ・マジマ(eb2330)が。
 ゲオルグは先程から樽酒を運んでは、丁稚の荘吉が来客の入りや様子を見て配置を決めるのに従って酒樽を置いているので、その恰幅の良い姿が子供に従っているように見えて目立ったよう。
「えっと、済みませんが、あとはそれをそちらに置いていただければ、あとはだいたい済みましたし、お食事でもいかがですか?」
「しかし、まだ手伝うことがあるのでは?」
「あとは配膳と、お酒の暖めなおし、遅れてきた方への個別対応ですから、力仕事で頑張っていただいた方は先に休憩にするのが能率的かと」
 商人が客へ挨拶をし宴会がちょうど始まった頃、荘吉はそうゲオルグに勧めます。
 一室でお手伝いの方々に同じくお膳とお酒を荘吉が用意していたようで、配膳や料理方のお手伝い以外の沢山のお手伝いの方にもお酒や料理が振る舞われているのでした。
「お酒もらえんかのー」
「あ、こっちには酒の肴ー」
 あちこちから上がり始める声に、忙しげに動き回るマミや光、リリンは少し落ち着くまで宴会場を行ったり来たり、お代わりのお膳やお銚子の一杯のったお膳を持って忙しく台所と往き来を繰り返していますが、次第に来客たちが少し料理へと飛びつくのに落ち着くとマミなど、お客さんの所に混じってしっかりと料理を頂いているのでした。

●とっても楽しい余興中
 庭に面した座敷で、障子を開いて庭を見せるレヴィンに、不思議そうな表情で見る来客たちは、レヴィンがスクロールを取り出すと、ますます不思議そうな表情で見つめます。
「ちょっとした余興をさせていただきたいと思います」
 そう微笑するレヴィンのそばでは、新年会についてきてお菓子を貰ったりと騒いでいた子供たちが、レヴィンの持ち込んだ着ぐるみを借りてきて走り回ってはしゃいだりしていました。
「余興? 異人さん、何をやるってんで?」
隣のマミに酒をついでやりつつ聞く職人風の男に、レヴィンは微笑を浮かべて軽く首を傾げます。
「なにか、見たい光景などはありますでしょうか?」
「ん〜こう寒くっちゃいけねぇ、こう、見ていて暖かくなるようなもんがいいな」
「やっぱり、恋しいのは桜かねぇ」
 口々に声を上げるのに頷くと、スクロールを読み空に浮かび上がるのはどこまでも続いていく満開の桜。
 おお、とどよめく一同ににっこりと笑うレヴィン。
「じゃ、じゃあ、次は‥‥」
 などと、暫くは酒を飲みつつ絶景を楽しんだようでした。
「さーて、次はおいらの番だよ〜」
 そうリリンが言うと、さっと庭の木から木へと綱がぴんと張られ、しっかりととまっていることを確認して、ひらりと身軽に綱へ乗るリリン。
「リリン・リラのつなわたり〜♪」
「おお? 異国の軽業師かっ!?」
 見世物や楽しいことの大好きな江戸の人、リリンが無事に渡りきるとやんややんやの大喝采が起こり、降りてぺこりとお辞儀をしたリリンは次に商人から絵札を受け取って手に取ると適度な量をとってきり始めます。
「ちょっと厚くて使いにくいなぁ」
 そんなことを言いながらも器用にぱらぱら動く絵札に食い入るように見つめる最前列の子供たち。
 絵札をその最前列の子供に選ばせると、再び山札に戻させ、ぱららと慣れた手つきで良く切って、一番上の札を弾いて選んだ子供に引かせるリリン。
「うわーっ!? 何で、どうしてっ!?」
 大はしゃぎの子供達に、酒や茶を飲みながら見ていた大人達もおお、と歓声を上げ、大賑わいのまま、リリンの手品は終わるのでした。
「ええ、ついこの間イギリスから帰ってきたんですよ‥‥はい、話しですか、そうですね、新年会には余興がつきものといいますし、こんな話しで良ければ‥‥」
 宴も落ち着いたものとなり、既に来客はのんびりまったりとお茶などを啜りながら銘々話を始めています。
 光は冒険者の仕事などを興味深そうに聞く人たちに話をしていました。
「吸血鬼やその上位の者達との長い戦いなどは今思い出しても‥‥ええ‥‥えっ? 残してきた女性、いっ、いませんそんな人」
 冒険の話から異国の女性の話など、興味は尽きないようで、思わず突っ込まれて光は真っ赤になります。
「ジャパンでの新年会は、初めてですが、とても楽しいです」
 にこりとお茶菓子を頂きながら近い年頃の娘さん方と話しているイリア。
「ジャパンでは人同士の付き合いが、とても豊かなのですね、感動です」
「それは何処の国でも一緒じゃない? でも、こうして海の向こう側の話を聞くのは、本当に楽しいわ」
 娘さんとイリア、国は違えど感じる心は同じようなのでした。
「しかしこうしてみてもなんと剛毅な‥‥正直感服いたしました」
 商人と酒を飲みつつ話すゲオルグ。
「とはいえ、あまりこういう評判が立ってしまうと後が怖い気もしますね。私のように商売に疎い者が言うまでもなく考えておられるでしょうが、今後はこういう誤解をされないようにしなければ、後が怖そうですね」
「そうですねぇ‥‥次はもっと準備をしっかりとしてやりたいですねぇ、急遽お手伝いよりも、計画を立ててお手伝いに来て貰った方がやはり慌ただしくさせずに済みますし」
「‥‥あー‥‥『もうしない』とか『次はいつどの規模でやる』と明言するのも一手段かと」
「あ、そう言えばそうですね」
 どこかあっけらかんと言う商人に、ゲオルグはなんだか不思議な物を見るように商人を見るのでした。

●お疲れ様♪ で打ち上げ中
『みんなお疲れ様〜』
 そう言って焼き立てのミートパイを手にアシュレーが声をかけます。
「いやいや、この異国の味は何ですな、美味しいですねぇ♪」
『気に入って貰えると嬉しいな』
 身振り手振りで通訳がいるにもかかわらず伝えようとする比良屋につい釣られるように身振り手振りを加えながら、返すアシュレー。
 材料は比良屋が喜んで月道渡りの物を揃えてくれたので困ることもなかったよう。
「いや、それにしても、本当に皆さん有り難うございました、美味しいものも沢山食べられ足し満足です」
「‥‥商売もそれだけ身を入れてくださればいいのに‥‥」 
 商人の浮かれる言葉に溜息をつく丁稚の荘吉はそう言いながら、お土産としてお持ち帰り用の包みを用意している様子。
「熱々で美味しいね〜」
 レヴィンと話しながら良く味の染みた野菜の煮物を食べるリリン。
 肉が苦手のレヴィンに合わせて野菜中心で料理に手を伸ばしたリリンは思った以上に肉・魚を除いた料理が多いことに驚いたよう。
「ん〜、流石にあれだけ料理作るとちょっと腕が‥‥」
 笑いながら軽く手で腕を揉みほぐすユリア。
「みんなに楽しんで貰えて本当に良かったですね」
「復興や店のために働くためにも、息抜きも大事ということですからね。また頑張ろうと思えるように思って頂けたなら本当に良いことですね」
 イリアが微笑を浮かべて言うと、それに同意を込めて頷くマミ。
「無事に終わって良かったですね」
「本当に‥‥揉め事を起こす者達も、今日は遠慮したようですね」
 光とゲオルグが笑いながら言葉を交わす中、打ち上げの席はゆっくりと過ぎていくのでした。