【凶賊盗賊改方】護送

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:13人

冒険期間:01月26日〜01月31日

リプレイ公開日:2006年02月04日

●オープニング

 巷では焼け出された人々の中でも一部が盗賊と化しているという話もある、冷え込みの厳しいとある夜、ギルドもそろそろ閉じようという刻限でした。
「済まぬが、急ぎ頼みたいことがある」
 そう言って入ってきたのは、凶賊盗賊改方の筆頭与力、津村武兵衛です。
 凶賊盗賊改方とは、相次ぐ凶悪な事件への対策として、月替わりで事件を担当する町方と違い、継続して探索を続ける、昨年後期に発足された盗賊追捕を主目的とした組織。
 旗本・長谷川平蔵と配下の御先手組からなる盗賊・凶賊に対する特殊な組織です。
 それでもこのご時勢、改方の長谷川平蔵以下、事務方勘定方も含めても継続して捜査を続けるにはどうしても手が足りず、冒険者の手を借りることが有ります。
 一部では特に改方に親しく協力している者が冒険者や市井にいるとか。
「これは津村さん、どうぞこちらに」
 受付の青年が席を進め茶を出すと、武兵衛は頷いて腰を下ろし、お茶を一口啜ってから緩やかに笑みを浮かべました。
「済まぬな、このような刻限に‥‥」
「いえ、でもどうしたんですか?」
「うむ‥‥実は新年早々起きた押し込み事件だが‥‥」
「あぁ、あの下男と店主夫婦が殺されて、金蔵が一つ破られていてという、痛ましい事件ですね」
「うむ、あれの一味が街道を逃げたところを追い、宿場役人の手も借り捕らえたのだが‥‥」
「捕まったのですか? それは良かった‥‥」
「うむ、この度は伊勢がようやってくれた、それに尽きるのだが‥‥」
 そう言うも溜息をつく武兵衛。
「だが、捕らえ伊勢がその場で厳しく取り調べたところ、思いの外規模の大きい盗賊と分かってな‥‥江戸へと護送するのに、宿場役人の手を借りるわけにも行かず、また、今現在改方では新たに追っている盗賊へ手を裂いているため‥‥」
「護送の為の護衛まで手が足りない、ということですか?」
「その盗賊の頭は抑えたが、なにぶん伊勢のほかにあちらにいるのは改方の同心2人、それ以外は護送用の駕籠かきのみしか用意できてないよう。そこで申し訳ないのだが、人手を借りたい」
 武兵衛はそこまで言ってから微かに困ったような笑みを浮かべます。
「唯一の救いといえば、奪還の為に来るであろう者どもは、数はいるも腕がそこまで立つようではなし。峠越えさえ気をつければ、との報告を受けている」
 くれぐれも頼むという武兵衛に頷いて、受付の青年は手元の依頼表へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3104 アリスティド・ヌーベルリュンヌ(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8794 水鳥 八雲(26歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9679 イツキ・ロードナイト(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb0983 片東沖 苺雅(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

サリトリア・エリシオン(ea0479)/ カファール・ナイトレイド(ea0509)/ レジーナ・フォースター(ea2708)/ 嵐山 虎彦(ea3269)/ 結城 鷹臣(ea3762)/ 逢莉笛 鈴那(ea6065)/ 野乃宮 霞月(ea6388)/ リズ・アンキセス(ea8763)/ ミュール・マードリック(ea9285)/ 柳 花蓮(eb0084)/ ルピナス・シンラ(eb0996)/ 新羅 誠輔(eb1002)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

●偵察
「これは‥‥」
 そう小さく言葉を漏らしたのは逢莉笛舞(ea6780)。
 舞と時永貴由(ea2702)は襲撃を受けるであろうと言われていた峠の地理や周囲の罠などを調べに先行し、保土ヶ谷の宿を抜ければ、前もって補助の者達から聞いてはいたものの、その思った以上の人通りに言葉を失います。
「ちょうど峠の頂上にある茶店は繁盛してほどほどに人はいる、挙げ句道沿いに松の木立‥‥」
 貴由が眉を潜めるのももっともなこと、松の木立に湯治や物見遊山の行き帰りで茶屋に常に幾人か居る人たち、それで居て、宿ではないため入れ替わり立ち替わり人が動き、怪しい者を特定するのが酷く難しい土地柄です。
「しかし‥‥このような場所ならば、逆に罠は仕掛けず、遊山の客を装い待ち受けられることはあっても、坂の上から何かを転がされるという心配はなさそうだな」
「茶屋の二階で峠に京側から来る者が居ないかとばかり、じっと見ている奴が居るな‥‥」
 旅の者を装い出されている縁台に腰を下ろして逢莉笛鈴那が工夫して持ちが良いようにと作って持たせてくれた餅を分け合って食べながら、峠の様子を何気ない風を装い見れば、舞の言うように二階の障子を開けて酒を飲みつつ京の方角をちらちら見ている男が。
「恐らく一味の者達は戸塚当たりでばらけて連絡を取り合っているのだろうな」
「それで、護送の者達が通れば戸塚か藤沢辺りで確認し次第、あの茶屋の二階を借りて居るであろう者達に伝わり、この辺りで潜み‥‥」
 貴由と舞は確認し合い頷くと、さらなる偵察のために先へ先へと旅を急ぐのでした。

●宿の夜
「では、恐らくレーラ殿のこの地図とヌーベルリュンヌ殿の補佐の者が調べた限りでは‥‥」
 それは既に伊勢と合流し、帰りの行程に入った後のことでした。
 宿屋の一角に交互に同心が張っている中、今回の件を任されている伊勢と一行は一室に集まり、レーラ・ガブリエーレ(ea6982)の補佐・嵐山虎彦作の地図に、舞の補佐である神哭月凛の手に入れてきた地図、また柳花蓮やリズ・アンキセスの確認してきた情報を元に様々な考え得る自体を想定し、写しの紙に筆を入れる伊勢。
「来るときには大事を取って、後発の僕たちは保土ヶ谷宿で休憩して、それらしい人たちが居ないか見てみたけど‥‥」
 イツキ・ロードナイト(ea9679)がサリトリア・エリシオンが野乃宮霞月に聞きながら作った弁当を口にしながら辺りの様子を窺ったときのことを思い出しているようですが、活気のある宿のため、怪しい者が居ても分かり辛かったでしょうし、実際の所、待ち構えていたり街道を注視している人間は思い出せない様子。
「その代わり、戸塚では3人程、男が京寄りの宿場入り口に待ち構えている様子があったな」
 アリスティド・ヌーベルリュンヌ(ea3104)がカファール・ナイトレイドと結城鷹臣から聞いた隠れやすそうな場所、盗賊残党の動向について指で地図上を指し示しながら言うのに考える様子を見せる伊勢。
「うまくいけば賊をおびき出せるんだろうけど‥‥」
「人通りを考えると少々難しいな」
 イツキが考える様子を見せて言うと、舞が偵察から感じたことを告げ、伊勢と貴由は道を通るとき、どの辺りが死角となるか、地図を前に話し合っています。
「こうなると死角を頭に入れつつ、不意を打たれないように最大限の注意は必要としますが、実際に襲撃を受け、それを迎え撃つ形が最善でしょうね」
「偵察は別として、こちらからわざわざ守りを薄くする必要はないものね」
 片東沖苺雅(eb0983)の言葉に頷くゼラ・アンキセス(ea8922)。
「気をつけることは矢! 遠くから打たれたら対処できないじゃん」
「とりあえず私は峠の前までは籠の後ろについて警戒するつもりですが、その辺りは隠密の得意な方々と先行して対応しましょう」
 盗賊の頭に付いている同心達へと酒と食事の差し入れに行っていた水鳥八雲(ea8794)が部屋へと入ってくると、レーラに向かってそう言い。
「あ、伊勢さんも何かご入り用ならお申し付け下さいね」
 商売人としての本分も忘れない様子の八雲に頷く伊勢。
「丁寧に護送しましょう。逃がさず、自害もさせず。江戸で余罪をキリキリと吐いて貰って、刑場に送りましょう」
 行動指針を纏め、各々の部屋へと引き取る際、ゼラは厳しい表情でそう口にするのでした。

●峠の駆け引き
「‥‥っ! 数が多いな‥‥」
 先行した舞・貴由・八雲は松の木立に潜む者達を確認して、改めて数の多さに顔色を変えます。
「ただ、弓を先に潰せたのは大きいだろう」
 3人が今居るのは峠の茶店の一軒で、もう片方の店には一味の者はいないようで、こちらも2階を借りている者達のことを手短に伝えると中へと迎え入れてくれたので存外に事は上手く進んだよう。
 彼女らの前には気を失い縛り上げられた3人の男が。
「ここからだと、幾つか影になって見えない場所もありますが‥‥ほとんどが見渡せますね」
 八雲が言うと、坂の向こうの方に見えてくる護送の一同の姿。
 既にどの辺りに彼らが潜んでいるかは伝えてあるため、十二分に警戒をしてやって来ている為か、上から見ているだけでもそれぞれが攻め倦ねているようですが、ざっと見積もっても一行の倍の人数。
「では、私は通りの向こうへと‥‥」
「わかった、私たちはこちら側の木立側から行こう」
 舞が通りの向こう側へと指し示して言うと、貴由も八雲へ行って立ち上がります。
 彼女らが他に気が付かれないよう注意をしながらも少しずつ人数を減らしていることに、盗賊一味達はまだ気が付いていないのでした。
 急勾配の坂を上り、そろそろ頂上が見えると言う頃、異変に気が付いたレーラとゼラ。
 ゼラは咄嗟に呼子笛でよそへと意識を向けていた仲間へと警告を発し、それとほぼ同時に木立からわらわらと現れた男達、一行の数とほぼ同数にそれぞれが獲物に手をかけ迎え撃ちます。
「悪いけどせっかく捕まえた下手人、逃がすわけには行かないんだ!」
 矢を放ち突っ込んでくる一人の男の足を射抜けば、戦闘に怯える愛馬からひらりと降りた片東沖は正面から来る敵に先陣を切って接すると、その紫に光る刀の峰で男を叩き伏せ。
「決して貴方達に首領は渡しません!」
 片東沖は更に闇雲に短刀を振り回して襲いかかる男に言い放ち、短刀を払いのけます。
 後ろから付いてきていたらしい男達は伊勢がゼラの支援で十手に炎を纏わせ迎え撃つ中、脇から来る者にはゼラの作り出した灰人形がわらわらと群がっては足止めをしています。
「罪もない人たちを‥‥絶対に許せない!」
 同心の一人へと迫った男にさっと手に一握り持った灰を投げつけるゼラ。
 その灰に目を潰されて居うるうちに同心の十手でしこたま打ち据えられ転倒する男に、ゼラはぎっと鋭い目で睨み付けているのでした。
「どかんかあっ!」
 怒声を上げて匕首を突き入れてくる大柄な男の攻撃をその美しい装飾の盾で受け止めたアリスティドは低く押し殺した声で言葉を発します。
「生きるためには盗賊となるしか無かったのだろうが‥‥だからといって決して許される行為ではない」
「あぁ!?」
「否‥‥その苦しみを知っているなら尚の事、同じ苦しみを持つ者を生み出す事は許されない!」
 その言葉と共に繰り出された長いその斧が意識を奪ったことを男は知ることはなく。
「『不幸』は、免罪符にはなり得ないのだ」
 呟くように、アリスティドは言うのでした。
「くぅ、邪魔はさせないじゃんっ!」
 遅れ木立の方からぱらぱらとやってくる者達に気が付き、レーラのコアギュレイトが一人の男を固まらせ、倒れさせます。
 やがて、レーラの魔法や先行した貴由の春化の術、舞と八雲の先制により、腰を抜かした籠かき以外の被害はなく、茶屋の者達に一時捕らえた者を預かって貰い同心2人を付けると、一同は峠の道を江戸へと踏み出します。
 峠より広がる景色、青く晴れ渡った空に映える富士の雄姿を目に、徐々に江戸へと戻ってきたことを実感するその時でした。
「‥‥戻ってきた、な‥‥」
 それまでずっと鹿爪らしい表情を浮かべていた伊勢の口元に、僅かに笑みが浮かぶのでした。

●改方・役宅
 その日の夜、改方へと運び入れられた籠に、一同も改方の一室に呼ばれ、賄いで悪いが、などといいながら蛤飯に大根の煮付け、しじみ汁に酒付きの膳を用意して報告を聞くのは改方長官長谷川平蔵と筆頭与力の津村武兵衛。
「残党までもあらかた捕らえたとのこと、大儀であった。まぁ、今日は役宅内でゆっくりと休むが良い」
「盗賊達の処断は‥‥」
「今夜中に吐くだけの泥は吐かせ、明日には品川の刑場へと引き出す手はずとなっておる」
 そう言う武兵衛に、俺が今から犯した所業の数々を必ず引きずり出す、とすと目を細め言う平蔵。
「何にせよ、良くやってくれた、護送で疲れておろう、ゆっくりと、休めよ」
 そう言うと、平蔵は微笑を浮かべてから部屋を後にするのでした。
 次の日、当初よりさらに2件の押し込みを街道沿いで行っていた罪状が上乗せされた状態で、盗賊の頭、以下取り調べの中で特に残虐と判断された者部下15名が処刑されました。
 その最後を、貴由は見届けにやって来ていました。
 その中で、頭は既に常軌を逸した酷薄な笑みを浮かべたままの最期を遂げたそうで、刑場の見物人の中の身内を失った者達が涙を流しながら恨みは晴らされたのだと抱き合い言う様を見て、貴由は改めて凶賊達を捕らえる事の意義を見いだしたようなのでした。