道場での攻略戦

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:9人

冒険期間:02月14日〜02月19日

リプレイ公開日:2006年02月24日

●オープニング

「これは挑戦なのですっ! 恥辱なのです、完全攻略なのですっ!!」
 興奮気味に言う12、3歳の少女がギルドの受付の青年の胸倉を掴んで揺す振った時、青年は数年前に他界した祖父母が美しい川の向こう側で手招きしていたのを見たと証言していました。
 その少女と鼻筋が通ったすらりとした若侍が怒りで顔を真っ赤にしてギルドを尋ねたのは、まるで二人の怒りに呼応してか、時期にしては妙に生暖かい冬のお昼時でした。
「‥‥え、ええっと‥‥で、何があったんですか?」
「何を聞いていたのですか! 悠長なことは言っていられません! 留守中に勝手に盗まれた師の刀を取り返すのです! なんとしても! いかような手を使っても! 完膚なきまでにっ!」
 蘇生してまだ青い顔をしたままよろよろお茶を出して聞く受付の青年に、ばんと卓を叩いて主張する若侍を見て、影響されているなぁと思いながらも宥めすかして話を聞いてみると、確かに怒る気持ちは分からないでもないような話のよう。
 どうやら道場主である少女の父親と有力な弟子が他国へと出かけている間に、留守を預かった末弟子の若侍と少女が物騒だからと共に買出しに出かけていた間に、道場の戸を打ち壊して中を漁り、道場の練習用の木立を片っ端から折り、あちこち壊し、挙句にきちんと収められていた道場主の刀を土産と称して持ち去ったそうなのです。
「その様子は、どうして?」
「近所のお百姓さんを一人、無理やり脅しつけてつれてきて、一部始終を見せた挙句に伝えておけと‥‥思い返しても頭にきますーっ!」
 どうやらその男達、別の界隈のとある道場に集まる浪人たちらしく、それこそ娘が生まれる前だかの逆恨みで徒党を組み、今頃になってやってきたそう。
「それもそのお百姓さんから?」
「こんなものを送りつけてきたのです、ついさっき、えぇもう、子供にお駄賃握らせて届けさせたんでなければ、無事に帰しませんでしたものを‥‥」
 怒りとは恐ろしい、つくづくそう思いながら依頼書に書き付ける受付の青年。
「で、その手紙にはなんと?」
「読みます?」
「‥‥そうですね、できれば」
 頷いて手紙を受け取る受付の青年は、開いてみてその頭の悪そうな寄れた文字に眉を寄せながら何とか読み上げます。
『恐れをなして隠れたか臆病者め
きさまの刀はたいそう良さそうだな、
貴様などにはもったいない、これは今から俺が刀だ
俺の刀が欲しくば我が師の道場まで取りに来い、どうせそんな勇気はないだろうがな
どんな手を使おうと、返り討ちにしてやる
さまぁみろ』
 読み終わって手紙を閉じると、ゆっくりと息を吐いて虚ろに笑う受付の青年。
「‥‥なんというか‥‥頭の悪い手紙ですね‥‥」
「どんな手を使おうと、と言っているのです、ご期待に沿わねばいくら礼儀知らずといえど失礼に当たりますよね?」
 目の笑っていない若侍に気圧されて頷く受付の青年は改めて依頼書に目を落とします。
「つまり、刀を取り返すために、相手の道場に乗り込む?」
「甘いですわ‥‥うちの道場は修繕が必要になりました。彼らに打ち壊されたのですし、証人もいます。そして、この手紙によって、彼らが刀を盗んで行ったのもはっきりしています」
「つまり‥‥?」
「この際、相手方の道場、完膚なきまでに攻略しなければ気が済まないと思いませんか?」
 同意を求められても困る、そんな様子で視線を彷徨わせる受付の青年ですが、頷きます。
「まぁ、火付けは大罪ですので火だけは無しの方向で、敵道場の壊滅、お手伝い願えませんか?」
 きっぱりと言い切る若侍に、どこか躊躇の気持ちを抱えつつ、受付の青年は依頼書へと眼を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9916 結城 夕貴(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3258 狗 芳鈴(23歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3866 稲神 恵太郎(43歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3867 アシュレイ・カーティス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb3933 シターレ・オレアリス(66歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3982 秋沢 信乃(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カイ・ミスト(ea1911)/ 七神 斗織(ea3225)/ ジェイド・グリーン(ea9616)/ ケイン・クロード(eb0062)/ 香椎 梓(eb3243)/ 御法川 沙雪華(eb3387)/ ディアドラ・シュウェリーン(eb3536)/ 真音 樹希(eb4016)/ レヴィアス・カイザーリング(eb4554

●リプレイ本文

●敵地視察
「気概は悪くないわね‥‥そうそう。お嬢さん、お侍さん、奪われた刀の特徴を細かく憶えているかしら?」
「ええっと、作りは鎬造り‥‥?」
 光月羽澄(ea2806)が娘さんにそう聞けば、遥か昔に聞いた言葉を思い出そうとでも言うかのように眉を寄せ若侍を見上げ、若侍はここぞとばかりににと笑みを浮かべます。
「鎬造、庵棟、小切先で反りが高く、腰に踏ん張りがあります。鍛えはよく練れて板目が詰まり、刃文は中直刃で小丁子‥‥」
「ええと‥‥形だけ簡単に模せないかしら? あと、実際に刀を見たとき見極める方法とか」
「形ですか? ええ、大刀で昔の実用一点張りといった刀ですから‥‥見た目、直ぐに気がつかなければいいのですよね?」
 そう言うと、羽澄と若侍は一緒に竹光作りについて相談を巡らせるようです。
「うむ、潔い仕事だの‥‥しかし、逆恨みの元とは何なんじゃ?」
「私が生まれる前まだ父が独身の頃、闇討ちしてきて返り討ちにしたことがあるみたいなんです」
 シターレ・オレアリス(eb3933)が言うと、思い出しながら言う娘さんの話では、返り討ちに遭ってそれっきり、酒の席で思い出すまで忘れ去られていたぐらいのことなのですが、やられた方はずっと覚えていたよう。
「話によれば、相手は根性曲がりの悪いやつっ、遠慮も容赦も情けも無用だーっ!」
「そ、そうですよね、容赦なしでがっちり懲らしめるんですーっ!」
「きちんと3日目には徹底的に懲らしめてやるから、少し落ち着いたほうがいい」
 いつの間にかどんどん自己加熱していく狗芳鈴(eb3258)に、む、と同じ勢いで徐々に気勢を上げていく娘さんを見て、アシュレイ・カーティス(eb3867)が苦笑交じりに宥めると、そこに補助の皆さんからの情報を聞きつつお茶をしていた秋沢信乃(eb3982)が腰を上げます。
「では、件の道場を見に行ってみることとしようか」
 そのころ、結城夕貴(ea9916)は道場の入り口で浪人の一人と談笑していました。
「良かったぁ、買って貰えなかったら帰れなかったんです〜」
 どこか甘えたような口調で言う夕貴は縹色の着物に茜色の帯を締め、軽く被った手拭の下から小首を傾げてにこにことその浪人へと言い、浪人はといえば鼻の下を伸ばしながらいくつか傷薬を買い込んで話を引き伸ばしているよう。
 その間にしっかりと道場内を見て覚えこむ夕貴。
 外では九竜鋼斗(ea2127)と稲神恵太郎(eb3866)が補助の方々から聞いた情報を参考に道場の周りを窺っています。
 そこへ信乃が合流すると二言三言言葉を交わす3人。
 直ぐに頷いて稲神が道場へとゆっくりと足を進め、玄関へとぬっと姿を現すと、その体躯に夕貴を相手にしていた浪人が一瞬言葉を失いぽかんと見上げます。
 どうやら一番下っ端な浪人らしきその男に体験入門をと告げると、気圧されたように頷いて夕貴に別れを告げて奥へと入れる下っ端浪人。
「ふむ、入門希望とな‥‥良い心がけだ」
 奥の見所で踏ん反り返って座る総髪の50程の男性が慇懃に頷けば、とりあえず体験でというのに許可を貰うも、酒を飲んでだらだらとする浪人たちを前に軽く眉を上げます。
「井野、相手をしてやれ」
 言われて面倒そうに立ち上がる男は、見れば浪人たちの中では腕が一番立ちそうな男で、直接当たれば危険そうな相手と見、怪我をしないことだけに専念し手合わせを終える稲神。
「さて‥‥なかなかの手合いと見たが‥‥いつから来られる」
「‥‥もう少し考えてから入門するかどうか決める」
「まぁ、良かろう」
 そう言い頷く道場主らしき男は、少々残念そうな表情を浮かべ、どうやら稲神が手として使えるのではと期待をかけていたのが見て取れます。
「気が向けば、いつでも来るが良い」
 そういい見送る総髪の男に軽く頷いて道場を出ると、稲神は辺りに道場のことを聞き込んでいた九竜や信乃と合流し、依頼主の道場へと戻るのでした。

●正面突入
「とっつげきーっ!」
 その言葉と共に芳鈴が道場の戸を蹴り倒したとき、浪人たちは一瞬何が起きたのかさっぱり分からない表情で、手に持っていた酒盃を取り落としました。
「なっ‥‥!?」
「頼もう!」
 寸瞬遅くに手元の刀を引き寄せてがたがたと立ち上がる浪人たちの耳に裏口の方からも弱った扉が叩き壊され突入したシターレの声が聞こえ動揺が走ります。
「鬼道衆・捌番、『抜刀孤狼』九竜鋼斗‥‥参る!」
 高らかと名乗りを上げる九竜に体勢を立て直そうと下がった浪人たち、振り返ればそこにシターレと共にいる稲神に気がつく男達。
「あっ、てめぇはっ!」
「さて‥‥どんな手を使ってもといったのです、覚悟完了してますよねー!?」
 見れば娘さんがきっと睨み付けながら言って、行けとばかりに若侍をけしかけていたりもします。
「己のした事は必ず己に返って来る事、とくと思い知れ!」
「ちっ、返り討ちにしてやらぁっ!」
 たちまち起こる剣戟、その背後でひっそりと行われていることがありました。
「‥‥刃文が確か‥‥良し、これね‥‥」
 そう言ってそっと布袋から刀を抜きだし見比べれば、若侍の話から用意した竹光は、見た目だけならば、遠目から見れば違うと分からないような、特徴を良く捕らえたもので、羽澄は布袋に包み直し、竹光の入った布袋と交換します。
 先程降りた天井裏の穴を見、そこへと跳躍にて上がり身軽な様子で入り込むと板を戻し、羽澄は外へ、裏口の側で呼び子笛で合図を送るのでした。

●問答無用
「はっ」
 辛うじて避ける浪人のすぐ横を抉るかのように床に突き立てられる大剣に、何が起きたのか一瞬分からなかった浪人は、その剣の主、アシュレイがあえて外し打ち込んだのに気が付かないまま、すっと血の気を引かせて見上げます。
「くっ‥‥」
 豪快に振り上げられ降ろされるその重い剣筋に一歩また一歩、掠めるようにギリギリでかわす浪人は、足を取られ倒れ込んだ真上を過ぎる剣が派手な音を立て道場の壁に穴を開け、振り上げられるのに目を見開いて剣を突き出し。
 顔の前で断ちきられた刀を見て、その男はズルズルと白目を剥いて倒れ込むのでした。
 その側でふわりと宙に浮いた浪人の身体を力強く床に叩き付けたのは信乃。
 斬り掛かった男の刀を十手で受けると瞬時に寄り身体で浮かせた相手は面白いように宙を舞います。
 倒れ伏した男を押さえつつ信乃が周りを確認すれば、下っ端浪人に後ろから回り込んで危険な箇所を強襲したのか悶絶している男にげしげしと追い打ちをかけている様が見え。 その眼前を横切るのは、手数で攻める稲神をかわしつつ逃げる浪人の姿。
「うぬっ、逃さぬ!」
 飛び退ろうとする男へと入れられる強烈な蹴りに、数度続けて避けていた男もかわしきれず、一瞬受けようかと逡巡したが為に受け切れもせずに直撃を受けて崩れ落ちる男。
「くっ、な、何故だっ!?」
 一方、こちらはシターレやり合う1人。
 確実に彼の剣はシターレを捉えているにも拘わらず、一向に効いている様子がないのに怯えにも似た様子を見せています。
 見ればどの一撃も上手く逸らされ、大した傷は負わせるに至っていないよう。
「ふむ、では、儂もそろそろいこうかの」
「なっ‥‥この爺ぃっ!?」
 ふと聞こえた声にだんと強く踏み出されたその男の渾身の一撃、それを待っていたかのようにシターレから繰り出された連撃に、ゆっくりと崩れ落ちる男。
「少し頭を冷やすのじゃな」
 さっぱりと意識を手放した男へとゆったりを息を吐いてシターレは言うのでした。
「奥技ネコ真っ二つ! 秘剣ネコ即斬! 返し刃ネコ竜閃! ネコ断つこの刃、受けてみろーッ!」
 どこかからか士道不覚悟とでも言われそうな奥義、秘技の数々を繰り出して縦横無尽に相手を翻弄する夕貴に、鞘に収めたその刀を持ち悠然と向き合っている九竜、そしてその2人に対するは浪人3名。
 特に腕の立つ1人と九竜は互いの力量を読み合い、踏み出す間合いを計っている様子で、対照的に夕貴の剣は相手を翻弄する一振り一振りで、確実に相手の体力を削っていきます。
 夕貴のが刃を返し、1人を力で倒れ伏せると、もう一人は強敵に対峙する九竜を後ろから狙おうとし、それに気が付いた夕貴が咄嗟に小柄を引き抜いてその男の刀をはたき落し。
 それと九竜と浪人、両者が動くのは、ほぼ同時でした。
 下段より繰り出される一撃を半歩下がり身体を反らせると、九竜は下げた右足を大きく踏み出し一閃。
 ばったりと浪人が倒れ、辛うじて気を失っていない者達はがっくりと膝をつくのでした。

●完全制圧
「悪評高い己の身、顧みる機会を与えよう」
 そう言った信乃に1人がひょいと髷を切られて蒼白になる浪人たち。
 現在進行形で壁が打ち破られ、戸が破られるのを声もなく眺めています。
 そんな中でもどうしても木太刀を折るのに気が引けている様子の若侍と、折られた木太刀とここにある木太刀の状態本数を合わせて幾つか抱え始める娘さん。
「う゛ーっっっ」
 それが気に入らないとばかりにもぞもぞ暴れようとした浪人には芳鈴が唸って威嚇をし、有無も言わさぬ迫力に大人しくなる浪人達。
「ふむ、補填に使う金になりそうな家具はあそこの桐の小箱ぐらいか‥‥」
 先程から道場内を壊す際に色々と考えていた様子のアシュレイは、なかなか高価そうな桐の手文庫を取り上げれば、中を見て入っているお金に気が付き娘さんを呼んで損害の程度から必要な分を相談し始め。
「ふむ、お前さん方がやったんじゃ、その分お前さん方が償うのは当然のことよの」
 そう言って刀を取り上げて若侍に大まかな値段を弾き出させ、足りない分を手文庫から貰っていくと、浪人達を引き立てる信乃。
 次の日も徹底した仕返しを済ませると一行はのんびり依頼主達の道場でお茶とお菓子を頂きつつ、浪人達が橋の上で晒されて笑いものになっていた様や、相手側の道場主が帰って来たときあんぐり口を開けつつも門弟達の遣ったことの所為で歌えでもせずに泣き寝入りし、道場を畳むことにしたらしいという話を聞いたりしています。
「自業自得です。完全制圧だったのです♪」
「いやはや‥‥恨み、復讐、人の業とは本当に怖いなぁ」
 明日からは道場不幸のために大工さんと打ち合わせです、という娘さんの発言を聞きながら、他人事のように夕貴はお茶を啜ってのほほんと呟くのでした。