欺瞞

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:02月18日〜02月23日

リプレイ公開日:2006年02月28日

●オープニング

 その日、雪も消え暖かな日差しの昼下がり、一人の男がギルドへとやって来ました。
「はい、妻を力ずくで連れ去られ‥‥なんとしても取り返したいのでございます」
 そう言って手拭いで目元を覆う男に、受付の青年は依頼書へと筆を走らせながら促します。
「大火以来、わたくしも妻も物騒になったからと、それはもう常に共に出かけるなどと安全を期しておりましたのですが‥‥それをあの武家が妻に横恋慕いたしまして、はい」
 そう言うと、再び目元を押さえる依頼人。
 依頼人の話では、妻がなにやら願掛けをしていて、共にお参りへと行った帰り、人通りの絶えた林道で突然覆面の男達に取り囲まれ、妻は連れ去られ、自身は痛めつけられたと話します。
「はい、それで私も必死に妻を捜しますと、なんと、前々から妻に言い寄っていた武家の奥方として、捕らえられて軟禁されているではありませんか」
 耐えられないとばかりに唇を震わせる依頼人に、受付の青年も考える様子を見せながら頷きます。
「あなたの奥さんを取り返す為に、力をというわけですか?」
「はい、わたくしはもう、全てを捨てて妻を連れて何処まででも逃げようと思います。なので、妻を連れ出すまでを手伝って欲しいと、はい」
 依頼人の言葉を書き付ける受付の青年は、一瞬依頼人の目が笑ったような気がしたのを気が付かない振りをして顔を上げます。
「注意すべき事などは?」
「妻は脅されて恐ろしい思いをしていることでしょう、ですので、逃げだそうとしてもきっとその恐ろしさから抵抗するかも知れません。そのため、強引にでも連れ出さなければなると思われますので、そこの所だけ‥‥」
「わかりました、ではそのように依頼を出しておきましょう」
 受付の青年の言葉にへこへこ頭を下げて出て行く依頼人を見送ると、受付の青年は最後に依頼人についての不審なところを付け、依頼書に目を落とします。
「依頼は依頼だけど‥‥なんだか気に入らないな」
 そう呟くと、青年は依頼書を纏めて立ち上がるのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3809 山浦 とき和(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

湯田 鎖雷(ea0109)/ 刀根 要(ea2473)/ グラス・ライン(ea2480)/ 柳 花蓮(eb0084)/ ラーフ・レムレス(eb0371)/ 湯田 直躬(eb1807

●リプレイ本文

●不審な依頼人
「だから何度も言っているでしょうがっ! 妻はあの武家の老人に付き纏われていたんだっ! あんたたち、依頼を受けたらそれを遂行するのが仕事でしょう!?」
 幾度目かの質問の後に怒り出す依頼人、激昂して喚く様は依頼に来たときとは打って変わったもので、また、ウォル・レヴィン(ea3827)の補助に来ていた柳 花蓮が依頼人に触れ考えを読もうすれば、ひたすら『あの女は俺の物だ』という思考と、何で冒険者は言うことを聞かないのだという苛立ちが伝わってきます。
「何度も重ねて聞いて申し訳ないが、奥方を助け出す為にも俺たちは少しでも情報が欲しいんだ」
 言われてむっとした表情で睨むと依頼人は勝手にしろ、とばかりに背を向けて座り込みます。
「遅れて済まないな」
 フェネック・ローキドール(ea1605)が湯田鎖雷に付き添われ入ってくると、テレパシーで話しかけるのにぎょっとし、ジャパン語がまだ不自由だからと伝えると怒ったように部屋を出て行きぴしゃりと戸を閉め出て行くのでした。
「言っちゃぁ悪いが‥‥あ、あたしが言ったって言わないでおくれよ?」
 そう声を潜めるのは依頼人の住む茶屋近くで団子屋をしていたおかみさん。
 おかみさんから話を聞くのはエルリック・キスリング(ea2037)とユリア・ミフィーラル(ea6337)で、先程から依頼人の素性、素行などを調べていると、皆係わり合いになりたくないのか、おかみさんがようやく口を開いた形となります。
「あの男、薄気味悪くてみんな嫌がっているんだよ。それについ先日嫌がる女の人を‥‥良いところの武家の奥様だろうね、その人の頬を張って連れ込んでねぇ‥‥」
 直ぐにその亭主らしい老武士が乗り込んできて、その女性は事なきを得たらしい、と話すおかみさんに、エルリックは礼を言うと考える様子を見せます。
「でも、あたし思うんだけど‥‥」
「どうした?」
 軽く首を傾げて言うユリアに顔を上げるエルリック。
「あのおばさんの言う、連れ込まれた女の人って言うのが、武家の奥さんなんじゃないかなって」
「あぁ‥‥それに依頼人に身内は居ないような口ぶりだったしな」
 そうそう、とユリアが頷くのに目を見合わせる2人。
「‥‥やっぱり、受付サンの嫌な予感が当たってたみたいだね」
 ユリアが言い、2人は仲間と合流するべくその場を離れるのでした。

●その屋敷
「あぁ、その着物の女性なら見たけど‥‥」
 ウォルが聞くのに、駕籠かきたちが煙管を燻らせながら参拝道の石垣に寄っかかって答えます。
「本当? 青みがかった着物で‥‥」
「あの武家の奥方さんだろ? お供の女1人付けて、良くここいらで見かけてたよ、亭主のじー様と一緒の時もちらほらあったな」
 山浦とき和(ea3809)が話に聞いていた女性の事を言うと、頷く駕籠かき達。
「前のご亭主が流行病でなくなってから、良くここにお参りに来ていて、嫁入りしてから暫くやんでいたんだが、ご隠居さん理解合ったからなぁ」
「嫁入りして、理解のあるご隠居さん‥‥」
「祝言挙げたとかそう言うことは?」
 ウォルが駕籠かきの言葉にとき和を見れば、勢い込んで駕籠かきに聞くとき和。
「あぁ、近くの高級料亭で、互いに再婚だし年が年だからってひっそりと身内だけで祝ったらしいけどなぁ」
「間違いねぇよ、俺の友人が花嫁さん乗せてあのお屋敷に行ったんだからよ。駕籠かきにまでおぜぜを包んで、紅白饅頭まで貰って、俺も饅頭分けて貰ったからようっく覚えてるよ」
 駕籠かきの言葉に頷く2人。
「ここ数日お屋敷の中がぴりぴりしてるって、門番の爺さんがぼやいてたから、なんか調べてるってなら巻き込まれねぇよう気ぃつけな、別嬪さん」
「ん、有り難うねぇ」
 礼を言って休憩中の駕籠かき達から離れると、ウォルは一時仲間の元へ、とき和は役所へと向かって歩き出すのでした。
 その武家の屋敷は立派なもので、門番から出入りの家臣たちも節度を守り、ところの評判もいい家でした。
「娘さん、何かお困りかね?」
 小鳥遊美琴(ea0392)が通りかかりにふと塀へと目を向けると、門番らしい老人がにこにこと話しかけてきます。
「いえ、少し道に迷ってしまいまして‥‥」
「そいつは大変だ、あれだったらこの爺さんが場所を教えてあげようかね」
 怪しまれてはと咄嗟に言った言葉に老人はそう言い、なぜか話の流れでお茶を頂くことになる美琴。
「大丈夫なんですか?」
「なぁに、ちょっと前までは儂に何人孫が増えようと全く問題はなかったんでさぁ」
 そう言って茶菓子をだし、自身は煙管を燻らせながら言うと、近頃ご隠居の奥方を付け狙う変な男の所為で、すっかり奥方が怯えてこもってしまったためぴりぴりしてしまったが、と何処か寂しそうに言う門番の老人。
「奥様は何で自分が付け狙われるかもわからないし、たいそう気味悪がってなぁ」
 溜息混じりに言う老人。
 ちょうど、美琴が門番と話している頃、フェネックが屋敷の側の茶屋から、奥方が射るであろうと言われる場所から、奥方へと語りかけるのと、取り乱したような反応がありますが、非礼を詫びてゆっくり宥めて話すと徐々に落ち着かれたよう。
『この屋敷の旦那様へと後妻で入りましてから、本当に旦那様にも皆様にも良くして頂いて‥‥それを見知らぬ男が執拗に付き纏始め‥‥』
 そう嘆く奥方にきっと何とかしましょう、と約束してフェネックがその場を離れ、やがて一行が集まり情報を確認をはじめます。
「奉行所では近頃は治安も乱れ良く拐かしや強盗など兇悪事件が頻発しているそうですが‥‥未遂事件に関しては、あまり‥‥ただ、誰とは明かして貰えませんでしたが、武家の奥方を拐かそうとし、下女に怪我をさせた男を取り逃がしたというのが、例の林道であったそうですね」
 ステラ・シアフィールド(ea9191)が言うと、頷いて口を開く城戸烽火(ea5601)。
「参拝道近くの林道で問題が起きたって言うのがそれですね。あたしが聞いたところ、ご隠居に世話になっている方が多いので、言うのを憚っていたそうで‥‥奥方様もその時のことを言われればそれは良い気分がしませんからね」
「何度伺っても、林道でどのように連れ去られたのかは詳しく話せても、聞くたびに添い遂げるきっかけとなったことなどが曖昧で細部が食い違っていたのも、自身が連れ去ろうとしたからと言うことですね」
 溜息混じりに言うステラに、美琴も実家である商家からご隠居が供を連れて買い物に来たときに、戻ってきていた奥方を見初め、どちらも穏やかな気性でそれは幸せそうだったそうだと話します。
 それを聞き、どこか不穏な笑顔を浮かべたとき和はすっくと立ち上がり出かけていくのでした。

●本当の亭主は
「‥‥と、言うことで、実は貴方が人攫いだという容疑が掛けられているんですが、その依頼人嘘臭いんで、直接来たという訳です」
「‥‥人攫い‥‥わしが?」
 武家屋敷、正面から尋ねてきたとき和は、単刀直入真っ正面からそう言うと、あまりのことにその人品卑しからぬ武家のご隠居は目を瞬かせ、あんぐりと口を開けました。
「すりゃ、大変な嫌疑がかけられたもの、奥が無礼な男に付き纏われ、助け出すのを優先し取り逃がして以来、まぁ、嫌な心持ちはしていたのですがの」
 そんな話になっているとは、とあっけにとられた様子の武家に口を開くエルリック。
「真偽を確かめたところ、どうにもこれは、と思いまして、先程ギルドに依頼を取り下げて貰い、こうして尋ねて来た次第です」
「ほう、では、儂にどうせよと?」
「一度、きちんと3人であって話して頂きたいと‥‥不安はあるでしょうが、我々がきちんと護衛いたします」
「儂は出向くのはやぶさかではないが‥‥奥がな、酷く怯えているでな」
 そう言い奥方を気遣うご隠居に、ウィルは軽く首を傾げて口を開きました。
「じゃあ、奥方に伝えて貰いたいと言うことを聞いて、城戸に姿を変えて貰って伝えるって言うのは?」
「知っている人にだったら見破られてしまうのだけど」
 そう言いながら相談するも、どうも付き纏われはしたものの、連れ込まれそうになったとき以外の接触はほとんど無かったとのことで、そちらの方向で行くことに決めた一行。
 当然と言いますか、話し合いは平行と言うよりは依頼人の暴走を誰も遮れない形となり‥‥。
「なっ、何でだ、畜生っ!? ぎゃ‥‥ぎゃぁぁぁあぁっ!!」
 奥方に関わる恐怖の映像をユリアから送り込まれ悶絶の後絶叫する依頼人は、その間に呼ばれた奉行所の者に引き渡されたとか。
「反省すれば、まだ慰めようもあったんですがね‥‥」
 呆れた様子で見送るエルリックに、ああいう男は嫌いだととき和姐さんはかりかり怒るのでした。

●穏やかな日々が来ることを
「はぁ、その、皆さんには偉くご迷惑をおかけして‥‥」
 そう言う受付の青年は、武家のご隠居から奥方に付き纏う男を何とかして貰ったとしてそっくり依頼料を出し、くれぐれもと礼の手紙を送って来たそう。
 そして、その武家の家では改め尋ねてきたとき和姐さんが、ご隠居と、少し痩せ窶れてはいますが随分と穏やかな表情を浮かべるようになった奥方に会いに来ていました。
「本当にお世話になってしまい‥‥これで漸く再び外を歩けるのかと思うと感謝の言葉もありません」
 そう言って頭を下げる奥方に、穏やかな顔でその奥方を見ているご隠居。
「末永くお幸せに♪ 愛って良いよねえ‥‥愛って素晴らし!」
「は、ははは‥‥これは何というか、照れますな」
 そう言って顔を僅かに赤らめて笑うご隠居と、その傍らで静かに微笑を浮かべる奥方を見て、とき和は思わず袂で目頭を押さえるのでした。