血の叫び
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 16 C
参加人数:8人
サポート参加人数:9人
冒険期間:02月21日〜02月27日
リプレイ公開日:2006年03月02日
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●オープニング
その日、ギルドに血の臭いを濃く纏った一羽の鷹が飛び込んできたのは、早朝、ギルドの人間が表を掃き清めていた時のことでした。
「うわ、お前、怪我して‥‥」
眉を寄せて言いかける受付の青年は、手当ての出来る者を呼びに行かせて見れば、その鷹の足にはあちこち血に染まった布と、小さな袋がしっかりと結び付けられています。
「手紙‥‥?」
開いてみると、そこには急いで書いたような細い文字と、簡単な地図らしき物が書き込まれています。
「え‥‥『助けてくれ』‥‥助けてくれって‥‥この布に鷹‥‥それに、この名前は‥‥」
慌てたように鷹の手当を任せて奥へと駆け込むと、取り出した一枚の依頼書とその依頼完遂の連絡が書かれた手紙を確認して絶句する青年。
「‥‥確か遅くとも今日には戻ってくるはずだった‥‥皆、殺されたって‥‥」
その依頼は山賊退治で期間が半月程の大きな依頼で、それも彼らは完璧に山賊を殲滅し、帰途へと付く直前に連絡が入れられていた上にそんなに遅くなっているわけでもなく、ゆっくりと戻ってきているのだろうと気楽に待っていたようなものでした。
そこそこ実力も付いてきて、先が楽しみな者達が集まっていたこともあり、受付の青年も彼らが駆け出しの頃から見ていたため、手紙が与えた衝撃は計り知れません。
『助けてくれ、皆、殺された。
私たちは帰りの道を快調に戻っていた。
その途中で野宿と思ったとき、小さな村に行き着いた。
私たちはそこで一晩宿を求め、非常に親切に受け入れて貰った。
私はこの鷹に餌をやりに、散歩も兼ねて森へと出てきていた。
戻ったら、血の海だった。
私たちの貸し与えられた小屋の中の至る所がだ。
彼らは村ぐるみで私たちを‥‥
私はすぐに森へと逃れたが、荷を持ってくることも出来ず、
また森のあちこち彼らがうろついているためその地帯から抜け出せない。
どうか、助けてくれ』
そう書かれた手紙からは必死な様子が読んで取れ、一緒にくくりつけられていた袋を開けるとそこには報酬が入っています。
「大変だ、急いで人を集めて救出しないと‥‥」
そう言うと、受付の青年は急いで依頼書の準備をするのでした。
●リプレイ本文
●村へ
「この鷹ちゃん、痛かったという事と、ご主人様の所に早く戻りたいばっかりですわ」
ユナ・クランティ(eb2898)がテレパシーの巻物を閉じて言うと、補助の手を借り力を温存したりしつつ進む一行。
「以前、ギルドの報告書で、似たような村の記事を見たことあるわ。それはデビルに村人が操られていたのだけれど」
「金欲しさの行為か、それとも彼らが請け負った依頼に関係あるのか‥‥ま、もともと奥地の村は内向的な所が多い‥‥そこに触れた可能性が濃厚か‥‥?」
イシュルーナ・エステルハージ(eb3483)が眉を寄せて言うと雷秦公迦陵(eb3273)も考え込む様子を見せ。
「そうでなくても『落ち武者狩り』や『旅人狩り』を裏の生業にしている村かもしれません」
そうなったら血眼で捜しているでしょうね、と付け足すアルテマ・ノース(eb3242)の言葉に、自然と進める歩が早くなる一行。
一日目の夜、体力の温存ため、街道沿いの宿を取る一行は、行程の半分以上は越えたものの、思ったほど早くに進んでいないことに焦りを覚えつつ改めて班分けを確認します。
「もう少し行くと、街道から森へと分け入らなければいけない距離位置につきます‥‥」
「救助に向かうのはわしとお前さん、それにイシュルーナ嬢ちゃんじゃな?」
桐生和臣(eb2756)が言うとルーロ・ルロロ(ea7504)が念を押すように確認し、それに頷く桐生とイシュルーナ。
「救助班の合図まではわれわれで相手の注意を引いておかねばならない訳だな」
アシュレイ・カーティス(eb3867)が言うとアレーナ・オレアリス(eb3532)も頷きます。
「非がどちらにあるのかは分からない。けれど、助けよう、聖母の白薔薇として‥‥」
「しかし‥‥鬼さんこちらっ‥‥てか‥‥まさかこの歳で命懸けの鬼ごっことは‥‥笑えるんだか泣けるんだか」
アレーネが小さく呟くと、雷秦公が苦笑混じりに言うのでした。
そして、二日目の夕刻、森の中を進めばそろそろ地図の地点と言うところで、籠の中で鷹がばたばたと興奮気味に動き回り、遠目からその村を確認することになるのでした。
●救助活動開始
夜間ちらちら見えた明かりが探索を続けている事を意味し、危険すぎるため少し離れ休息を取った一行、早朝から二手に分かれ探索と救助に別れて動き始めました。
「しかし‥‥何処におるのかのぅ‥‥」
何処に村人がいるか、ある程度をブレスセンサーで感知し避けて進んではいるものの、興奮気味な鷹に、人目を避けて行う探索はなかなかに苦労するものがあります。
「‥‥陰陽師さん、無事だと良いんだけど‥‥」
心配そうに呟くイシュルーナに頷く桐生、ルーロは再びスクロールを取り出して辺りの確認をし、近くに向かいつつある村人の固まりを感知して出来るだけ静かにその進路からそれて息を潜める3人。
「余程のことがない限り、行き違いになることもないでしょうし、とにかく村の周辺をぐるっと回るしかないですね」
きょろきょろと辺りを見渡す村人達に肝を冷やすも、そのまま離れていくのを確認して、桐生は小さく囁くと、注意深く辺りを窺いながらゆっくりと歩き出すのでした。
早朝から救助に向かう3人と危機迫っている陰陽師のために囮として村人達を引きつけべく行動を始めた一行。
それとは別に森へと紛れいち早く村へと近づいた者がいます。
雷秦公は陽動班が村人達が接触したかで動きがあったのを確認してから村へと足を向けます。
村を見渡せばそれはどちらかというと馬が繋がれているのが多く、作物も作ってはいますが、普通の村とかなり様子が違います。
「一体何なんだ、この村は‥‥」
そう呟く雷秦公は、厩舎側に藁が積み上げられているのを見ると、池の側に積み上げ火を付け素早く森へと身を隠すのでした。
●迫りくる危機
「きりがないぞっ!」
そう声を上げ相手を斬り倒せない事に焦りを感じ始めたかのように声を上げるのはアシュレイ。
雷秦公が村に攪乱のために向かってから既にだいぶ時間が経っています。
数名が集まり手には鋭い鎌や鋤、中には斧などを持って襲い来る村人達、一組と接触してから、恐ろしいことに瞬く間に森のあちこちから合流し、時には矢を射られ徐々に『相手を殺さないように』という制限からじりじりと引き始める一行。
「この者達、人を殺し慣れている!」
全てがそうではないにしろ鋭く斬り付け襲い来るその様子は既に幾人もが同じようにして血を流し、それが届いていないところから恐らくは果てたであろう事が伺え、一撃を避け眉を寄せ声を上げるアレーナ。
「っ‥‥次から次へ‥‥このままでは囲まれますっ!」
「っ! させませんわっ!」
繰り返し稲妻を放ち数を減らしているアルテマが荒い息をついて言えば、素早く近付き斧を振りかぶる大柄の男を瞬時に氷の棺に閉じこめるユナ。
「まだですのっ!?」
しかしこちらも息切れ気味に群がる村人達を睨み付け声を上げます。
期待していた可愛らしい女の子処か、老若男女問わずに襲い来る彼等に余裕もなく、まさしく数の暴力に撤退と見せかけるのとは違った様でじりじりと押されていく冒険者達。
「くっ!」
最前面に立ち盾で何とか持ちこたえているアシュレイに射られる矢が腕を掠め、小さく声を漏らし微かに口元を笑みに歪ませつつも通常と違う冷たい汗が頬を伝います。
村人達のすぐ後ろで、木の上から何かがどさりと落ちる音がし、アシュレイが目を懲らせば駆けつけてきた雷秦公の姿が確認でき、目の前にいる男を日本刀の峰で打ち倒し。
見れば群がる村人達のうち、少しずつ村の異変に気が付いた様子の者がばらばらと駆け戻り始め、アシュレイは漸く口元に笑みを浮かべるのでした。
「む‥‥こちらの方にそれらしき奴がおるのじゃ‥‥」
そう言ってゆっくりと進んでいくルーロにイシュルーナが続き、最後を桐生が警戒しつつ進みます。
「‥‥‥ぅ‥‥‥」
微かに聞こえる声に草むらを覗き込めば、べったりと草に血が付き、その奥に転がる紺の装束を身に付けた男の姿が。
「大丈夫?」
歩み寄りそっと声をかけつつ男を起こすイシュルーナは、食ったりと倒れている男の腕に刺さる矢や額に付着する血に顔を歪めます。
「‥‥大丈夫、まだ、生きてる‥‥でも、この傷じゃ、私‥‥」
「とりあえず口が開くなら大丈夫じゃ、それよりも‥‥」
イシュルーナにルーロが言うのを遮るように桐生が口を開きます。
「何人かがこちらへ向かって来ます、もっと村より離れなければ‥‥」
言うより早くがっと突き出される鎌を持つ手に、刀でそれを受け流し打ち倒すと陰陽師を抱えるのに手を貸し急ぎ足で進む桐生。
「こっちっ!」
イシュルーナが促すと、そこにある大きな岩の影、丁度見にくいところに小さな洞穴があり転がり込む3人。
「零さんようゆっくりとな‥‥」
慎重に矢を抜き傷口を押さえるとルーロの薬で少しずつ傷が塞がり小さく咳き込む陰陽師。
「これなら私でも‥‥」
そう言ってイシュルーナがリカバーを唱えると血もおさまりうっすらと目を開ける陰陽師に、3人ともにほっと息を付きます。
「‥‥あなた方はギルドから頼まれた‥‥?」
「そうじゃ、じゃが詳しい話をしている暇はない、このロープを」
「この場から急いで離れるために、ひとまず凍らせて運ぶの」
戸惑うように3人を見る陰陽師ですが息を緩く吐いて頷き、次の瞬間ルーロのスクロールにより一瞬にして氷に封じられると、箒を取り出し頷く3人。
「では、先に行ってるぞ」
「僕たちもすぐに追いつきます。‥‥街道で」
それを確認し、急ぎ出立する桐生とイシュルーナを見送ると、氷の固まりをしっかりと繋いだ箒に跨り、ルーロは浮かび上がるのでした。
●逃走の果て
街道で合流した一行は、何とか付近の宿場に着き漸く息を付いていました。
あの後、ルーロの連絡を受けた一同は雷秦公をしんがりに撤退をし、程良いところで微塵隠れによって完全に村人を巻いた雷秦公が最後に合流し宿へと入りました。
「あと少し遅れたら間に合わなかったってところか」
報告を受けてそう呟くアシュレイ。
「身体は何とかなったけど、疲労が激しいようだな‥‥」
「何にせよ、後は無事に江戸へ戻ればだな」
頷くと各自が泥のように眠り込み、朝、万全の支度を調えて江戸へと出立する一同。
宿場で馬を借りて乗りつつ戻る陰陽師、話してみても禁忌に触れたなどの様子はなく村の様子も普通の村と大分違った事を確認しつつ江戸へと戻れば、ギルドに言付けてあった補助の者達の報告を受け取ります。
「山賊がそこに住み着いたという話はないということ、後は‥‥そこには元々土着の神を祀っていた村が過去にあったが、大分前から人が住まなくなり廃村になっているはずだそうです」
受け取った手紙を読む桐生、一同は奉行所へと報告をする方針に決め、依頼人を彼の住む長屋まで送ります。
「本当に有難うございます、私も少し休んだら役人へと報告しに行くことにします」
そう言って、自身の貯め込んでいた物から、使わせることとなった高価な消耗品を渡し、彼は死んだように部屋へと戻って倒れ込むのでした。
報告を受けた奉行所と上との話し合いの結果、そこに凶賊盗賊改方へと事件が移されるのは、それから暫く経ってからなのでした。